第25話・絶対に魔王に勝って、世界を元に戻すから
魔女の子たちとの戦いは、俺たちの勝利で終わった。
四人は俺らの目の前で、最後まで仲間を想い、仲間を愛し合うように倒れた。
その顔は――四人とも、幸せそうな笑みを浮かべていた。
「……Look」
倒れてから数秒して、グリムリーパーの身体は輝き出し、光の粒子の集合体は風に乗って、はらはらとどこかへ飛んで消えていった。
最後に残ったのは、彼女がつけていた髪飾りと、心臓だけだった。
「怖いのを想像していたのですが、まん丸の赤い玉なのですね……」
俺は鍵を拾い上げた。手のひらに収まるくらいの小さな玉だった。
――この鍵の話が嘘だったら、また戻って、どうにかして魔王を殴りつけようと思っていたが……本当の話だったみたいだな。
鍵は、まだ暗い顔をした冴えない男を映していた。
「……オ、オラ、これでよかったと思う!」
突然、リアムはそう言った。
「Cause,They Look happy……ユータは、悪い奴じゃない!」
たどたどしくも、リアムはそう言ってくれた。
「僕も同意だ。仮にこれが罪に問われるなら、僕らも同罪さ。どこまでもともに罪を負ってやる」
相変わらず、頼もしいことを言ってくれるケン。
少し、胸のつっかえは取れた気がした。
マキは、眠るツリィたちに〈ヒール〉をかけている。生き返ることはないけれど、せめて傷だけは綺麗になってほしいからだそうだ。
「……ねぇ、勇者様」
そんな中、マキは言う。
「勇者様は……どう思いましたか。魔女の子のために、戦い抜いた〈プレイヤー〉たちを……」
ツリィたちの傷が消えたところで、マキはその手を止め、振り向いた。
その丸い瞳が、俺の姿をしっかりと捉えている。
「……俺は、それもひとつの選択だと思う。否定はしないし、尊重する。でも、だからって受け入れられない」
「そう……ですよね。ごめんなさいなのです! 一番辛いのは、勇者様のはずなのに」
マキは立ち上がり、ニッコリと笑って見せた。その顔には、目を擦った赤い痕があった。
――俺の背中を押しつづけてくれるマキだけど……マキだって、辛いんだよな。
思ったが、口には出さない。
「絶対に魔王に勝って、世界を元に戻すから」
代わりに、俺はそう言った。
今も眠りつづける、ツリィたちに向けて。
「ユータ、鍵はGotしたけど、これからどこに行けばいいんだ?」
リアムに言われ、気づく。確かに、手に入れたはいいが、次への道がわからない。
魔王城へはどうやって行けばいいのだろう。
「僕も魔王城への行き方はわからない。なんせ一方通行だったからな……ん?」
ケンは話している途中、何かに気づいたようで銃に手をかけた。
俺らは一斉にケンの視線の先へと注意を向ける。そこには、ひとりの人影がこちらへ歩いてきていた。
――セーラー服の少女だ。
このゲーム世界でセーラー服とは……その雰囲気のミスマッチさに、不安と恐ろしさを感じつつ、身構える。
少女の顔がはっきりとするくらい近づいたころに、少女は乾いた拍手を俺らに送った。
ある程度の近くに来て、立ち止まる。
眉ひとつ動かさない、その無表情さを異質に思う。だが、何よりも気になったのは、その左眼だった。
セイバーと同じように、片目だけが赤く光っている。
「おめでとうございます。あなたがここまで来たのは……十二回目? くらいですね」
この語調から、回数は不確かなようだが、確かなのは、少女もまた過去を持っているということだった。
「すみません。本来ならウノが鍵の受取人をするはずでしたが……なんだかへそを曲げていまして。代わりにわたくしが迎えに上がりました」
「……ウノ? それよりも、お前は誰なんだ」
「あら失礼。申し遅れました。わたくしはサノ。魔王様の側近その2です」
魔王、と聞いて、この場の空気は張り詰める。
「ちなみに、ウノは魔王様の側近その1です。もうすでに顔を合わせていると思いますよ。ほら、あの関西弁の男性です」
――やっぱり、〈プレイヤー〉じゃなかったか。
でも、ウノは『セイバー』と名乗っていたが……。
「あ、そうそう。セイバー様ご本人は、〈ユウカクガイ〉で破産しているだけですので、ご心配なさらず」
「……は、破産?」
「とにかく、姿形をお借りしただけです。セイバー様はご無事です」
それは別の意味で心配になるが……つまり、セイバー自身は〈プレイヤー〉で、今もゲーム世界で過ごしているってことか。
ウノは、実際にいるセイバーの姿を借り、〈プレイヤー〉のフリをして俺に近づいていた。本来は鍵の受取人だった……と言っていたし、俺らが鍵をキチンと入手するか、見張り役をしていたのだろう。
「ウノが余計なことをいたしました。本来なら、あなた方に手出しをすることは、予定にないのですが……あの人、少々感情的になることがあるのです」
サノは機械的に淡々と話を続けている。
サノこそ、今までで一番ゲームキャラクターらしかった。
「おっと、話が逸れました。改めまして、おめでとうございます、勇者。鍵を確認させていただきます」
俺は言われるまま、サノに鍵を渡した。サノは鍵をしばらく見つめてから、「はい、本物ですね」と言って、それを口に入れて飲み込んだ。
「無味」
驚いて、ただ口を開けている俺をよそに、サノは俺らに向けて右手を翳した。
「魔女の子すら倒させるための誘導もここまでしないとは、毎回面倒になっていきますね」
サノは今口から出てしまった小言を、咳き込みしてごまかし、別れを告げるように、翳している右手とは反対の手を小さく振った。
「お待たせしました。そして、ようこそ魔王城へ」
直後、俺らの足元に大きな穴が空いた。
「――え?」
避ける暇も、状況の把握をする暇もない。
短い悲鳴が上がる。
当然、地面が消失した今、重力に従って、俺らは吸い込まれるように地下深くへと落ちていくしかなかった。
「よっと」
サノも玄関をくぐるように穴へと落ち、その穴は塞がれた。
一瞬だけ暗くなったが、今度は足元が赤く照らされはじめた。
世界が開け、風景が広がる。
落ちた先には、マグマに囲まれた孤城があった。
「――これが、魔王城……」
説明されなくても、それが何かなんてひと目見てわかる。
いよいよ、最終局面まで来たのだと実感する。
普通ではありえない。俺らのラストステージは、ゲームの舞台裏だった。
――この中に魔王がいる。俺は、ここで決着をつけねばならない。
きっと今、城の奥では魔王が笑っていることだろう。
落ちていく中、三人と目を合わせる。
みんな、覚悟は決まっているようだ。
ここで負ければ、この世界は閉ざされる。
勝たなければ、〈プレイヤー〉は救われない。
――勝って向き合わなければ、誰も報われない。
「ついに魔王だ。気合入れてくぞ、お前ら!!」
俺は鼓舞し、三人は力強く頷く。
「エイ、エイ、オー!」と、俺らは声を合わせ、叫んだ。




