第24話・本当に、こんなわたしといてくれて、ありがとう
「……前へ踏み出しはじめたようでよかったのです」
そんなマキのうれしそうな、優しい声が前方から聞こえた。
みんなは歩き出していて、俺だけがひとり立ち止まっているような状況だった。
――ああ。二周目の温泉宿を出たところ……だ。
マキたちは、突然立ち止まったであろう俺に気づいたのか、こちらを向いた。みんな困惑した様子で俺を見ている。
「どうした、ユータ? おなか痛くなった?」
「いや、そういうわけじゃ……」
リアムのそんな純粋な投げかけに答えようとして、俺は思い出す。
――そうだ! 早く〈ピエリス市〉へ行かないと!
俺は〈ピエリス市〉へと向かい走り出した。
突然の行動にマキたちは心配で声を上げるが、深くは追及せず、俺のあとを追いはじめていた。
――ここでモタモタしていれば、グリムリーパーが先回りしてツリィたちと会い、彼女らの首輪を解除してしまう。
俺は走りながら考える。
――いや、最悪それはいい……だが、一時的に意識を失ったツリィたちのタイミングで、グリムリーパーが実質ひとりの状態になったところを、セイバーが狙えば最悪な事態になる。
セイバーは、この世界が繰り返していることを認知しているようだった。
言葉の端々から、おそらく俺よりもこの世界を、過去の出来事も知っているようだった。
前回、セイバーは直接俺ではなく、俺の周りを攻撃して戦いの幕を下ろした。それが俺への一番の精神的攻撃になると理解してやったんだろう。
セイバーは元々〈ピエリス市〉にいるようだし……そうならば、今回真っ先に狙うのは、グリムリーパーの可能性は十分ある。
このままではグリムリーパーが、ツリィたちに何も伝えられずに、ツリィたちにとっても、望まない結末を迎えてしまう。
「お前ら! 走りながら説明するから、よく聞いてくれ!」
俺は言って、〈ピエリス市〉に着くまでに、前回の経緯を説明した。
◇
中央広場へは寄らずに、前回グリムリーパーたちがいたところへと一直線へ向かった。
果たして、そこにはいた。ツリィたちはまだしっかり立っている。魔法は解除されていない――何か話している様子だ。
魔法を解除される前に止めないと、と思い、俺は彼女らの元へ駆け寄ろうとして、ふと聞こえてきた言葉に足を止めた。
「――だからね、本当に、こんなわたしといてくれて、ありがとう」
グリムリーパーは俺の気配に気づいたようで、振り向いた。目が合うと、グリムリーパーはそっと微笑んだ。
「そんな慌てなくてもいいじゃない。わたしは、ちゃんとこの子たちと向き合ったわ」
俺は動揺が隠せなかった。
この時点では、グリムリーパーはツリィたちを生かそうと魔法を解除していたはずだ。彼女たちの声に耳も傾けず、俺と戦おうとしていた。
なのに、なぜ。
魔王から何か聞いていた? ――だが、二周目の条件しか聞いていない状態のはずだが……。
混乱している俺に、グリムリーパーは説明する。
「夢を見ていたの、あなたと二人で戦う夢……。そこでね、あなたは、もっともらしいことを言うから、なんだか感化されてしまって」
隔離された空間で戦ったとき――あのときの記憶が残っていたのか。
彼女は夢だと思っているようだが。
「夢が現実なら、きっとこれは二周目じゃない。そうよね?」
グリムリーパーは言った。俺は頷いた。
今度は、ツリィが前に出てきた。
「わたしたちは、もう戦う準備はできてるわ!」
ヨイもホースも同じようだった。三人はグリムリーパーに合わせ横一列に並び、戦闘の構えを見せつけた。
「でも……もしかしたらここに……!」
俺は周辺を見回す。俺ら以外の気配は感じない。誰もいる様子はないが、セイバーは気配を隠し、隙を見て倒そうとしているのかも……。
「安心しろユータ。邪魔するものは、ここには誰もいない」
ケンは言って隣に立った。マキもリアムも、グリムリーパーたちと向かい合う。
「……勇者様。きっとその人は、手を引いたのだと思うのです。だって、『好きにしろ』って、言っていたのでしょう?」
マキに言われて、そうかもしれないと納得する。
前回と同じように仕かけてくることはない、この今こそが、〈シロケシキノチ〉 終着点なのかもしれない。
――結局、奴はなんだったのか、何がしたかったのかわからないままだが……。
俺は気持ちを切り替え、魔女の子と向かい合う。
剣を抜き、その切っ先を魔女の子へと向けた。
――物語を、締めくくろう。
「……その心臓、取らせてもらうぞ。魔女の子さんよ」
グリムリーパーも、ようやく待ち望んでいたかのように、笑顔を浮かべた。
「取れるものなら取ってみなさい。わたしたちは、全力で勇者を殺すまでよ」
そして、魔女の子たちは口を揃えて言うのだ。
――『魔王様の仰せのままに』。




