16 闇商人
馬鹿女の頭の上にある光る盾に足を乗せたまま、迷宮コアの杖をインベントリに放り込む。
「あの……、足をどけて頂けませんか?」
この光る盾を動かせばいいだけだと思うのだけど、できないのかな?
光る盾を踏むが動かない。このまま障壁で捕まえてしまおうかな……。
軍隊もすでに壊滅状態と言ってもいいし、これ以上足止めする必要もないよね。よく見ると、委員長がさらに追い討ちをかけるようにトルネードで吹き飛ばしている。
「僕達の勝利だね」
正直、数も多いから厳しいかと思っていたけど、意外となんとかなるものだね。
初めのダイヤモンドダストが効果的過ぎたよね。いままで直接的な魔法を好んで使っていたけど、数が多い場合は風や水系の広域魔法も効果的なんだね。
そろそろ撤収しよう。
「ファイヤーランス!」
上空に炎の槍を飛ばす。特に合図のやり取りはしていなかったけど、なにかしら反応があるだろう。
「あの? 聞いていますか? 足が邪魔をしていて立てないのですが……」
敵を立たせたら駄目でしょうが。
「聞こえてないかなー」
「え!? 聞こえていますよね、足をどけて下さい!」
仕方ない、足をどけようか。
馬鹿女の周りに無色透明の障壁を展開すると、足をどける。
「どけたよ」
「あ、ありがとうございます。……あれ? どうしてでしょう。何かに押さえられて立てないのですが……」
お礼を言われたよ。
「それは神の怒りに触れたからじゃないかな? きみの過ちに対する罰の一種だよ、きっと」
僕は神じゃないけどね。罰というより仕返しだったりするし。
「主がお怒りに!? 私はいったいなぜ主のお怒りをかうことになったのでしょうか……」
あ、委員長がこちらに向かって走ってくる。特に大きな怪我はしてないようで安心する。
手を振って委員長を呼ぶ。
「こっち、こっち」
周りには僕達以外誰もいないから、手を振る必要はないのだけど。
「こちらも片付いたようね。撤収するのかしら?」
委員長が馬鹿女を見ながら聞いてくる。
「うん、これ以上ここにいても仕方ないし。このままスフランに行こう」
「分かったわ、でもこれでもうこの国には戻れないわね」
委員長がちょっと寂しそうな顔をしている。
たまにこっそり戻る予定だけどね。でも、手配書みたいなのが回っていたらのんびり観光するのは難しいけど。
「そうだね、だから次からは変装する必要があるよね!」
かつらと帽子とサングラスは変装の基本だよね。
「あなたは……」
「あの……私の上でそんな話をされても困るのですが。それに、戻らなくても、この国に残ればいいじゃないですか」
残ったらストーカーに付きまとわれるじゃない。それでは観光が楽しめないし面白くない。
「じゃあ行こうか」
「そうね」
「え? 行かれるのですか? 私はどうなるのでしょうか? それと、神は私の何に対しお怒りなのでしょうか?」
僕が一定距離を離れると動けるようになるけどね。神の怒りはなんだろうね?
「神に誓えばいい。今後はメイド服を着て過ごすと、そうすれば神は許してくださるに違いない。神はメイド服が大好きなんですよ、だから僕もメイド服を着て神の騎士として、巫女として行動しているのです」
僕の適当な答えに委員長が呆れ、馬鹿女が目を開いて驚いている。
「だからトーカ・ハツミヤは戦場でもメイド服を着ていたのですね……」
本当はただの罰ゲームで着ているだけなんだよ。神の好きなコスプレなんて知らないからね。
委員長が馬鹿女を可哀そうな子を見るような目で見ている。ていうか、委員長も訂正してあげないんだね。
「そうなんだよ! だから男も女もみんなメイド服を着ないといけない! これは神の願いなのだから!!」
そんな狂った宗教は嫌だけどね。でもみんなが着てたらおかしいとは思わなくなるかも……いや、やっぱり変だ。
「分かりました! 私もみなにメイド服を着るように勧めていこうと思います」
馬鹿女が手を握り締めて、意気込む。
「そっか、安心したよ。スフランは僕達に任せて! 僕達がメイド服をスフラン中に広めてくるから」
「そのためにスフランに行こうとしていたのですね……」
「全ては神の御心のままに」
委員長後ろを向いて、肩を震わせている。ここは雰囲気が大事だから声は出さないでね。
「全ては神の御心のままに」
僕の言葉に馬鹿女が復唱する。それと同時に障壁を解除する。
「立てる! 立てました! 主が私を許して下さったようです!」
馬鹿女が立ち上がると、嬉しそうに僕の手を握ってくる。僕は少し緊張しながらもとびっきりの笑顔を馬鹿女向ける。
「神があなたに行きなさい、そして変えなさいと言っているのですよ」
「はい! 必ずやメイド服に変えて見せましょう!!」
きっとこの世界は面白い世界になるよ。
走って行く馬鹿女を見ながらそう思う。
「じゃあ僕達もさっさと逃げようか!」
「あなたはとんだ嘘吐きよね。彼女に同情するわね」
同情するなら馬鹿女よりも、彼女に振り回される周りに対してしてあげるべきだね。
「意外と浸透するかもよ。神に仕えるに相応しい服装なんて言えば、否定する材料がなければ受け入れるかも」
セーラー服も元は水兵の軍服だったものが、何故か日本の女子学生の制服になったわけだしね。
「そうなればあなたのメイド服も目立たなくなるわよね」
「つまり侵入が容易になるって訳だね」
意外といい結果になりそうかも。
「まったく、あなたって怖いわね……」
別に計算でやっている訳ではないんだよ。
「たまたまだよ」
スフランもあと少し。国境を越えたらメイド服も着ないかなあまり関係なくなるし。
「そういうことにしてあげるわ」
委員長がスフランに向けて歩き始める。僕達は逃げている立場なんだからせめて走ろうよ。
所々に落ちている武器や盾を拾いながら、歩いていく。
「武器屋でもしようかな」
「お金は十分あるでしょう、もし必要なら戦争がありそうなところで売ればいいでしょ」
委員長には闇商人の才能があるよね。迷宮のある街とかじゃないんだね……。




