10 忍者になって
スフランとの国境付近には多くの兵士や騎士達が集まり、夜営の準備をするため、忙しなく動いている。その中でも一際目立つ女性が、剣を地面に突き立ててその剣の上に手を置き立っていた。その姿は見るものを魅了し、同時に緊張させる美しさと鋭さを兼ね備えていた。剣も鎧も白一色で、まるで彼女からは一切の穢れが存在しないかのように見える。
そんな彼女の下に教会騎士の鎧を着た男が近づいていく。
「どうやらやつらはまだ聖王国内に留まっているようです。船で来たのは正解でしたね」
「そうですか、ありがとう。兵の配置は終わっていますか?」
「はい全て完了いたしました、あとはやつらの到着を待つのみです」
聖王国軍800、聖王教会から500、それと傭兵が200。合計1500の兵が国境に集まっていることになる。あまり長居をするとスフランや他の国から侵略するのではと思われるため、早期に決着をつけねばならない。すでにスフランの軍が500ほど、山脈の向こうにいるという情報も届いている。
「スフランが介入してくる前に来てくれるといいのですが……」
「我々には聖騎士のあなたがついているのです。たとえスフランが介入してきたとしても、神のご加護が我々を守ってくださるでしょう」
聖騎士……、その職業に疑問を持ってはいない。しかし、異世界から現れた彼女は神騎士の職業であるという。そんな彼女のことを聞いた時は憧れに近い感情を抱いたものです。
ですが、彼女は1度たりとも教会に現れることがなかった。それどころか冒険者になったり、商売を始めたり、さらにはこの国を出て行こうとしてると聞いた時は私の耳を疑ったほどです。
ですので今回、彼女には色々話を聞かせてもらいます。そしてもしも抵抗するようでしたら、この私ベアトリーチェが全力で叩き潰させていただきます。
覚悟していてくださいね、トーカ・ハツミヤ。
◇◇◇
「美味いな、本当に美味い。イーンチョの作る料理は最高じゃないか! こんな美味いもの食べたことない!」
夜になり夕食はバーベキューにした。マノンは焼き立てを素早く自分の皿に取り山盛りにしている。アレッサはゆっくりと優雅に食べ、委員長は食材を網の上に並べている。
「ロッタ五月蝿い、うちは委員長だけでなくアレッサもマノンも料理が上手なんだよ」
僕のことは察して欲しい。それなりに手伝ってはいるが、味付けなどは触らせてもらえない。皮むきは既にプロ級じゃないかな? ピーラー使いと呼んでほしい。
「そうか、あたしは料理がからっきし駄目だから羨ましいな」
お、僕より駄目な人だ! 僕はやればできるからね。みんなが作らせてくれないだけだよ……。
「料理なんて慣れたら簡単だよ」
なにやら視線を感じたので見ると、委員長とアレッサとマノンが目を逸らす。なぜだろ、3人が目を合わせてくれないんだけど……。
「そうか、簡単なスープぐらいなら作れるけど、本格的なのは無理なんだよな。でも意外と評判がいいんだぜ」
ロッタがてれながら人差し指で頬をかく。
……ス、スープ? イ、インスタントのやつかな? こっちにもあったんだね、売っているの見たことないけど……。
「ふ、ふーん。僕もそれなりに美味しいスープが作れるよ……」
「お! 凄いじゃないか! これだけ美味い料理ができるやつがいたら、あたしだったら料理なんて恥ずかしくて作れないや!」
……よし、話題を変えよう。このままだと、僕の精神が持たない……。
「ところでロッタはモンクなんだよね、教会に所属していなかったの?」
「あー、以前にしばらくいたんだけどな……、嫌になって抜け出してきたって訳だ。派閥だの権力だの足の引っ張り合いだの、教会も内部はかなりドロドロだったからな」
ドラマにしたらかなり視聴率とれるんじゃないかな? テレビないけど。
「それで盗賊に転職か、落差が激しすぎるな」
「しかたないだろ! この国で教会を抜けると、どこも雇ってくれないんだよ。最初は冒険者をやっていたけど依頼を失敗してな、そのまま盗賊さ」
このロッタが依頼失敗か、多少のイレギュラーが起こってもなんとかしそうなのに。
「意外、ロッタなら失敗しそうにないのに」
「その当時、新人狩りってのがいてな、そいつらに仲間がみんな殺されたんだよ。……あたしはなんとか逃げ切れたけど、ショックが大きくてな、しばらく寝込んでたって訳だ。冒険者はそれっきりだな……」
意外とヘビィーな人生を歩んでいるんだね。
「その新人狩りっていうのはどうなったの?」
「どっかにいなくなったらしい。それからもしばらく暴れていたらしいが、しばらくすると新人狩りの噂も消えていったな」
匂いがする。これはイベントの匂いだ。きっと新人狩りはまだ生きているのだろう。なら、その新人狩りを見つけて僕達が逆に狩ってやろうじゃないか。
問題は僕達は既にCランク、新人と言うにはランクがちょっと高いよね……。
「それで、その新人狩りの特徴は?」
「そいつらは元冒険者で、『快楽卿』なんて名乗ってたパーティーだ! 3人組だがBランクだけあって腕は相当だった……」
3人組の快楽卿ね、本当にふざけた名前だ。もしかするとそいつらも盗賊になっている可能性があるよね。
「そいつらが盗賊になっている可能性は?」
「もちろん調べたさ。だけど盗賊の素性なんて、自分達から喋らないと、なかなか分からないからな」
それもそうか、またどこかで冒険者をやっているかもしれないし、腕を買われて貴族の下にいるかもしれないね。
「じゃあもしその人達を見つけたら教えてあげるよ」
倒して衛兵に突き出した後だけど。
「本当か!?」
「だからアンデッドの情報を教えて」
ロッタがニヤリと笑う。
「い・や・だ」
やっぱりそうだよね……。もういっそのこと山脈全体にサンクチュアリを使ってやろうか。疲れるから絶対しないけど。
「ロッタはうちにいる間はアレッサとマノンに武術を教えてあげて、2人とも遠距離専門だから、身を守る手段がほしくてね」
アレッサはともかくマノンは才能有りそうだし、ゆくゆくは忍者になれるんじゃないかな。忍者の衣装もちゃんとあるから安心だ。
「いいぞ、つまりあの矢の仕返しができるわけだ」
あー、マノンに撃たれた恨みを持っていたのか、あれだけ何十本も矢を撃たれたら仕方ないけど。でも、本気でやってくれたほうが訓練にはちょうどいいかも。
「ほどほどにね、マノンにはナイフの技術を教えたいから上手く避けてね」
「素手じゃないのかよ!」
そんなことは言ってないけど? ロッタは素手で、アレッサは杖、マノンはナイフかな。
「怪我したら、治療は任せて!」




