09 モンクな盗賊
「ロッタのことを囮に使おうだなんて、そんなこと思う訳ないじゃないか。僕達は共に海の魔物を倒そうと言った仲間じゃないか」
「お前……、だが仲間と言うなら馬車に乗せてくれてもいいんじゃないか? 今もそこの女から矢が飛んで来るんだが……」
それはロッタのことを微塵も仲間だと思っていないからだよ。矢はマノンが楽しければいいじゃない。
「それでアンデッドに対する対策なんだけど、どうすればいいのかな?」
いちおう効果があるかどうかは分からないけど、聞くだけは聞いておこう。あまり期待はしていないけど。
「それはスフランまで乗せてもらう条件だろうが! 今言ったらそのまま乗せずに逃げるつもりだろ!」
ちっ! 用心深いな。
「情報は欲しい、ロッタはいらない、どうすれば……」
「拷問しますか?」
お、おう、マノンも結構怖い言葉を知っているんだね。拷問というと水に顔を無理やり押し付けたり、鞭や棒で叩いたりするやつだよね。
「爪を1枚ずつ順番に剥いでいきますか?」
痛い、それ痛い、想像しただけで痛いやつだ! こっちではそういうのが定番なのかな……。
「この人でなしが!」
怒られたよ、盗賊に人でなしがって言われたよ。僕達を捕まえようとした人に言われると、なんか納得いかない……。
「マノン、ロッタの顔を狙って撃って」
「はい!」
「はい! じゃないだろ! 顔とか当たったら危ないだろうが!」
危ないとかそういうレベルではないんだけどね。マノンがかなりの至近距離で弓を撃っているのに、こちらに走りながら矢を避けるって、どれだけ反射神経と身体能力が高いんだろ。しかも避けてもバランスを崩さず走る速度も落ちない。
「意外と能力が高いんだよね」
「当然だ、鍛えているからな!」
鍛えてどうこうってレベルじゃない気がするけど。まあいいか、しばらく乗せてあげるか。
「いいよ、乗って」
「本当か! だがどうしてだ? 馬車が止まらないのは? あと矢も飛んで来るんだが……」
馬車が止まらないのは御者の委員長がこちらの状況を知らないからだけど、矢はマノンの独断だからね。
「仕方ない……、委員長、馬車の速度を少し落として!」
馬車の速度が落ちて、ゆっくり走る。マノンもそれに合わせて弓を下ろした。ちょっと残念そうな顔をしている。
速度の落ちた馬車にロッタが飛び乗ってくる。さすがに走り疲れたのか、そのまま座り込んだ。
「さて、きりきり吐いてもらおうか」
「お前は悪魔か、今喋ったら、山脈に着く前に降ろすつもりだろ」
もちろん。僕もまだ信用したわけじゃないし。
「スフランとの国境の山脈の麓に着いたら教えてやるよ」
「そう、分かった」
順調に行けば、明日の夕方頃には着くかな? それまでの我慢だね。
「教えたらさよならは、なしだからな!」
「分かってるよ、僕も乗せた以上はスフランまでちゃんと送っていくよ」
たぶんね。
「よし、決まりだ! これからしばらくの間よろしく頼む!」
ロッタが手を上げて挨拶してくる。
「僕は冬夏。このパーティー、ニューロードのリーダーをやっているよ。こっちがマノンであっちのがアレッサ。そして御者をしているのが委員長だよ」
「トーカにマノンにアレッサに……イーンチョ? 変わった名前だな」
委員長は名前じゃないけどね。でも面白いから黙っていよ。
「それでロッタはどんな武器が得意なの? 腰にナイフを下げているからナイフ使いなの?」
「あたしの武器か? あたしの武器はこいつだよ」
ロッタが右手をグーにして前に突き出す。マノンが不思議そうにそのこぶしを見る。
「何もないです!」
「走っている途中で、どこかで落としたのかもね」
「落としてない! このこぶしこそが武器なんだよ、あたしはモンクだからな!」
だからあれほどの身体能力が高かったのか。でもモンクって武闘家のイメージが強いけど、僧侶のことだよね。僧侶が盗賊をやっているの?
「でもモンクと盗賊って正反対でしょ」
「あたしは盗賊じゃなくて義賊なんだよ! 金を持っているやつらから奪って、金のないやつらにばら撒くんだよ!」
義賊……、義賊って悪い権力者から奪うものじゃないの?
「前に商人を襲っていたけど、あれは?」
「商人は金を持っているだろ!」
アウトだね。ロッタの頭を殴る。
「そのお金はその商人が働いて稼いだものでしょうが。それを奪うのはただの盗賊だよ!」
「痛っ! なんだよ、商人から金を奪わず誰から奪うんだよ!」
この馬鹿、ずっと商人を襲っていたのか……。
「悪い権力者だろ! 評判の悪い権力者を調べて、その人が本当に悪い人ならその人の家に忍び込んでお金や財宝を奪ってお金に困っている人達にばら撒くのが義賊でしょ。義賊は正義をもっていないといけないでしょ!」
「なっ、そうだったのか……、じゃああたしが今までしていた事はなんだったんだ!?」
「ただの犯罪行為だね。もしかしたら良いことをしていた人もいたかもしれないのに、その人達からお金を奪うなんて……」
ロッタがショックを受けて落ち込む。本気で何も考えずにやっていたんだね。
「ロッタ、今ならまだ間に合うよ。迷惑をかけてきた人達に謝ってくれば許してもらえるよ。あと謝りに行く前に、アンデッドの対策だけ教えて欲しいかな」
たぶん謝っただけでは許してもらえないとおもうけど、それは人によるよね。
「行くわけないだろ! 行けば絶対に衛兵に捕まるだろ! あと対策はまだ教えるか!」
ちっ! 行って捕まればいいのに。
◇◇◇
「……隊長、あいつら来ませんね」
「アルトゥーロ、だから貴様は駄目なのだ。やつらは来る! 俺の勘がそう告げている!」
はぁ、また当たらない隊長の勘が出た。となると既にこの街から出ている可能性がありますね。
「もしこの街から出ているとすれば、やはり行き先はスフランでしょうかね」
「出られるものか! この街の門は俺達が抑えているのだからな!」
でもどの街でも隠し通路はあるはず。もしもこの街の領主と面識があれば、その通路を使うことも可能でしょう。いや、この街の領主ならば、それ相応の金を支払えば使わせて貰えるかもしれない。
「もしかすると、領主に金を支払い隠し通路を通って既に外に出ているかもしれませんよ」
「…………」
固まってしまった。この街の領主の金好きは有名だから、ありうると思ったのでしょうね。
「全員集めろ! すぐにスフランに向けて出発するぞ!」
は? かもしれないとは言ったけれど、まだ街に隠れているかもしれないのですが……。
とはいえ彼女達の行き先はおそらくスフラン、帰りにばったり会う可能性もありますね。
「分かりました、すぐに集めます」
早く捕まえられるといいのですが……。
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