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僕が主人公じゃないの!?  作者: 阿兼 加門
第2章 メイドと執事と盗賊と
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30 寝込みを襲うおじいさん


「アレッサ! 5分だけ指揮をお願い!」


 委員長に行ってもらってもいいけど、僕もちょっとは楽しみたいからね。


「な、なんだと、我がこの左翼の指揮をするのか!?」


「うん、任せるよ。左翼の人達は戦いが上手い人が多いから安心していいよ。攻めずに守りに入れば、アレッサならちゃんとできるから自信を持って!」


 アレッサは意外と繊細だから、守るのは僕より上手そうだしね。


「……分かった、だがトーカはどうするのだ?」


「僕はちょっと陣の中央を立て直してくる。中央が負けると街が危ないからね。マノンもアレッサをフォローしてあげて」


「お任せ下さい!」


 マノンがサポートにいれば大丈夫だろう。


「今から僕はちょっと中央の援護に行って来る! その間はこのアレッサが代わりを務めるので、みなでフォローしてやってくれ!!」


「「「「おう!!!」」」」


 頼もしい返事だ。これなら安心して行ける。


「じゃあよろしくね」


 陣の中央まで一気に疾走して行く。5分で終わるといいけど……。



 ◇◇◇



 トーカが陣の中央まで走って行くのを見ながら、どうすればいいかを考える。

 トーカは5分で戻ると言っていたから、5分間守るだけでいいのだろう。


「よし! マノンは危うい人を中心にフォローしてやってくれ」


「うん、任せて!」


 カレンは問題ないでしょう。他に出すぎた人がいれば引っ込める、それでなんとかなるはずです。


 それにしてもトーカは滅茶苦茶です。いきなり左翼のリーダーをやると言っては乗っ取り、異常な大きさのエクスプロージョンは撃つ、挙句の果てには中央を助けに行くといって私に左翼を任せて行ってしまった……。


左翼だけでも大変なはずなのに、陣全体を見極め、街を守る為に行動する。まるで物語に登場する英雄の様ですわね。普段のトーカを知らなければ、憧れていたのかもしれませんね……。


 それに左翼の人達が戦い方が上手いのではなく、トーカの指揮能力の高さやフォローの上手さがこの左翼を強固な隊にしていた事を理解しているのでしょうか……。


 指揮能力ならトーカに負けるでしょうが、フォローならマノンと一緒にすれば負けないはず。しっかり勤めてトーカの帰りを待ちましょう。



 ◇◇◇



 陣の中央まで行くとオーガやケンタウロスが暴れ、ゴブリンやウルフがその混乱を活かし戦っている為、既に隊として成り立っていない。

 目についたオーガやケンタウロスを中心に倒していきつつ、ついでにゴブリンやウルフも倒していく。


「メイド?」

「メイドが助けに来てくれたぞ!」

「メイドがオーガを倒したぞ!?」


 メイドメイド五月蝿い。そんなにメイドが珍しいか?


「さっさと隊をまとめろ! ここのリーダーは何をやっている!?」


 ここまで好き放題されて、まともに指揮をする気あるのか?

 すると騎士がやって来た。


「私がこの隊の副隊長だ。隊長は早々にオーガにやられてこの様だ……」


 いきなり隊長が倒されてしまって、混乱した訳か。士気も下がりきってるし、よく逃げ出さなかったものだね。


「僕は左翼のリーダーです。ではすぐにこちらの隊を立て直してください」


「わ、分かった。だが、オーガとケンタウロスに押されていて……」


「それは僕が片付けるよ」


「た、頼む」


 離れているのは魔法で、近くにいるのは槍で倒していく。オーガとケンタウロスさえ倒せば後は何とかなるよね。アレッサには5分で戻るって言ってあるから、それが目安だね。

 陣の中央を空間把握で魔物を見つけつつ、走り回って倒していく。時折「メイド!?」と驚いているやつらがいるがもちろん無視だ。


 中央の陣に入ってきていたオーガやケンタウロスをあらかた倒すと、副隊長のところへ報告に行く。


「大体は倒しておきましたので、後は上手く指揮すればなんとかなるでしょう」


僕の願望ですけど。


「は? もう倒したのか?」


「ところで隊長はやられたと言っていましたが、生きているのですか?」


 もしも隊長が生きているなら治療すれば士気も上がるだろう。


「ああ、死んではいないが……おそらく今回の戦闘にはもう……」


 よし、ならなんとかなるかもしれない。


「今はどこに?」


「隊の後ろで治療を受けているはずだ……」


 すぐに隊の後ろへ走り、隊長を探す。テントが張られている場所があったのでそこに駆け込むと、シートの上に数人の兵士が寝かされているのが見えた。

 ここかな? 医者らしきおじいさんがいたので、話しかけてみた。


「すいません、ここに隊長っていますか?」


 僕を見て、メイド服を見て「メイド?」とぼそっと呟くと、奥を指差した。


「一番奥で寝ているぞ」


「ありがとうございます」


 一番奥で倒れている男に近づくと、かなりの出血をした様子が周りの血の痕から伺える。胴には大量の包帯が巻かれ、寝ているのか、気絶しているのか意識はない。脈を測ると生きているのが分かりホッとする。

 これならたぶん大丈夫だろう。お腹の前に左手をかざす。


「ハイヒール!」


 隊長さんの体が光り始め、しばらくすると光りがなくなった。

 たぶんこれで治っているはず。ただ失った血は戻らないけど。まだ起きないので、起こしてあげる。


「ウォーター!」


 隊長さんの顔に水をかけてやる。これで起きるはず。


「お前さん、治療士か!?」


 医者らしきおじいさんが近づいてくる。そして確認の為か、隊長さんの包帯を強引に引っ張っていく。

 隊長さんも自分の体を触られているのを感じたのか、目を覚ました。


「なんだじじい!」


「なんだとはなんじゃ!」


 目が覚めると知らないおじいさんが、裸の自分の体をまさぐっていたら、誰だって驚くだろう。BLはよそでやってほしい……。


「それで隊長さん、体の調子はどうです?」


「メイド!? メイドがどうしてこんなところに?

 あ! 戦いはどうなった! もう終わったのか!?」


「まだ戦闘中です。陣の中央はかなり酷い状態ですので、もしも戦えるのならば戻って頂きたいですね」


「よし、すぐ戻る!」


 立ち上がって、隣に置いてあった剣を取り出て行こうとする隊長さんの前に立ちふさがる。


「次にあなたが倒れれば、中央の隊は壊滅するかもしれませんよ。現にあなたが倒れた後の隊は半壊状態でしたから」


「もう負けない! 騎士の誇りに懸けて!」


 騎士の誇りね、僕にはないからよく分からないや。


「そう、じゃあ頑張って。僕は左翼でゆっくり眺めているよ」


 もちろん、眺めないけど……。


「左翼?」


 隊長さんが何を言っているんだという顔をしている。


「僕が左翼のリーダーだからね。あまりにも中央が酷いから少し手伝いに来たんだよ。でもそろそろ行くね、時間オーバーしてるし……」


 アレッサには5分って言ったのに既に過ぎてる。早く戻らないと怒られるかも。

 でもその前に。


「エリアヒール!」


 周りで寝ている人達にもヒールのお裾分け。


「それじゃあ、頑張って何とかしてね」


 隊長さんにそれだけ言うと、走って左翼に戻る。


「あー遅くなったし、怒られるかもー」



 ◇◇◇



 左翼のリーダー? メイドが?

 いや、それ以前に詠唱破棄でエリアヒールだと!?


「おい、もしかして私の治療をしたのはあのメイドなのか?」


 起きたときに体を触っていた、変態じじいに問いかける。


「ああ、ハイヒールでお前さんの怪我を瞬く間に治しおったわ」


 治療士か、それも相当の実力者なのだろう。だがなぜそんなやつがリーダーをやっているのだ?

 ……分からんが、隊に戻るのが先だな。礼も言えなかったので終わった後に言いに行くとしよう。


「ふっ、ますます負けられなくなったな」


 鎧を着ると、副隊長の下まで走って行く。走りながら隊の様子を見ると、かなりの被害が出ているのが分かる。だがそれでも予想以上に士気が高く、まとまっている。


「隊長! 無事だったんですね」


 副隊長が私を見て、近づいてくる。普段のこいつならもっと慌てていそうなものなのだが、意外と落ち着いている。この戦いに連れてきたのは正解だったようだ。


「ああ、おまえもよくここまで持ちこたえてくれたな」


 私の言葉に副隊長が顔をしかめる。


「いえ、左翼のリーダーに助けてもらったので……、自分だけではかなり危なかったです……」


 頭にメイド服の女の姿が浮かんでくる。

 どういうことだ? あいつは治療士じゃないのか?


「……それはもしや、メイドのことか?」


 副隊長が顔を上げ私を見る。


「隊長も会われたのですか? あ、そういえば隊長の居場所を聞かれたので答えました……」


 それであそこにいた訳か。まさかうちの隊まで世話になっていたとはな……。


「ところで、あいつの名前はなんと言う?」


「えっと……すいません、聞いていません……。メイドというイメージが強すぎて……」


 ……そうだな、もうメイドでいいか。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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