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僕が主人公じゃないの!?  作者: 阿兼 加門
第2章 メイドと執事と盗賊と
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28 逃げた眼鏡


 僕達が左翼の集合場所で待っているが、いつまで経っても眼鏡さんがやってこない。

 魔物もまだ来ないし、そろそろ夕食にしてもいいよね。もう夜だけど……。マノンが空腹で悲しそうな目をしているので見てて辛い。


「委員長、夕食にしよう。いつ魔物が来るか分からないし、食べられるときに食べておくよ」


 僕の言葉にマノンがいち早く反応する。待ってましたと言わんばかりだ。


「そうね、副マスターもまだ来ないようだから先に食べていましょうか」


 冒険者達から離れた場所にシートを敷き、ライトの魔法を唱える。インベントリからサンドイッチと飲み物を取り出すと、真ん中に並べていく。並べ終わるより前にマノンの手がサンドイッチを掴み、口の中に入っていってしまったが、それだけお腹が空いていたのだろう。ギルドに集まってから既に3時間以上経っているので仕方がない。


「じゃあ食べよっか」


「ええそうね」


「うむ、頂こう」


 みなマノンが食べたことはスルーだ。

 マノンの手が休むことなくサンドイッチを掴み口に運んでいる。よくあんなに早く食べられると感心するほどだ。


「美味しくて、幸せです!」


 マノンが可愛すぎる。


「それにしてもいつ魔物が来るんだろうね、夜中に来られても暗くて困るんだけど」


「そうよね、こう暗いと離れた場所への攻撃が当たらないんじゃないかしら」


「うむ、闇の住人たる我には関係ないが、他の者だと当てるのに苦労するだろうな」


 そんな設定だったかな? でも本当に当てられるのなら凄いな。アレッサは意外と命中能力が高いんだよね。


「私も当てられます! でも、昼間よりも狙うのに少し時間が掛かってしまいます!」


 さすがマノン。マノンが言うと説得力があるよね。


「ただ今回は他のパーティーもいるから……、味方に撃たれるぐらいなら、1人で戦ったほうがましなんだよね……」


「魔物の群れの中に入っていくという手もあるわね」


 遠距離攻撃が届かないところまで入っていくわけか、ありかも。



 ◇



「来ないわね……」


 食事をしてから既に7時間以上経っているが、副マスターも魔物も来ない。魔物はともかく、副マスターが来ないのはどうなっているんだろ……。

 アレッサとマノンは仮眠中だ。辺りは静かで、冒険者達も待ち疲れて大半が眠りに落ちている。


「魔物の情報も入ってこないし、もう帰ってもいい気がしてきた……」


 もうすぐ朝日が見えるんじゃないだろうか、少しずつ空が夜から朝に変わっていく様を見ながらそう思っていると、委員長が声をかけてきた。


「ねえ、あれってなにかしら?」


 遠く離れた場所に何かが見える。それに気がついたのは僕達だけでなく、他の人達も騒ぎ始める。


「まずは2人を起こそう。それから戦闘準備をしよう」


 委員長が2人を起こしている間に、双眼鏡で確認する。するとゴブリンやウルフ達の群れが見える。

 ずいぶんと遅かったようだけど、こちらにとっては都合が良かったかな。あと1時間ぐらいでこちらに来るかも。


「おはよ……」

「おはよー!」


 アレッサとマノンが起きて来た。テンションが対照的だね。


「おはよー、マノンは朝から元気だね」


 2人におにぎりを乗せたお皿を渡す。夜にご飯を炊いて、作ったやつだ。僕でもおにぎりぐらいは作れるからね。


「なにこれ……」


 2人ともおにぎりを知らないので、ぼくが手にとって食べてみる。


「こうやって食べるんだよ。(いくさ)といえばやっぱりおにぎりだからね」


「あなたってほんと、形から入るタイプよね……」


 アレッサはおずおずとおにぎりに手を伸ばすが、マノンは躊躇なくおにぎりを手に取ると迷いなく口に入れる。


「美味しいです! 中に何か入ってます!」


 シーチキンとおかかとふりかけおにぎりがある。マノンが食べたのはシーチキンだね。

 マノンが食べたのを確認して、アレッサも口に入れる。


「……うむ、悪くない味だ」


 美味しいとは言わないんだ……。アレッサのは梅干入りにしてやればよかった。


 2人の食事が終わるといよいよ慌しく兵士達が走り回っている。

 僕達も準備を終えたし、集合場所付近で待機している。そこから魔物の群れを眺めていると、ギルドの職員さんが慌ててやって来た。


「す、すいません……。副マスターのセルジオさんが捕まらなくて、急遽私が指揮を任されることになりました」


 眼鏡さん、副マスターなのに逃げたのか……。

 みな逃げたと察したのだろう。不穏な空気になっていく。

 冒険者の1人が職員に近づいていく。


「あんたにまともな指揮ができるのかよ!」


「も、もちろん精一杯やらせていただきます」


「精一杯やるのは当然だろうが! こっちは命がかかってるんだ! 責任は取れるのかって聞いてんだよ!」


「そ、それは……」


 ギルドの職員と言っても現場に出ることがないから、この雰囲気に完全に呑まれている。このままだと時間の無駄だし、介入するか……。


「はいはい、そこまで!」


「あん? メイドの姉ちゃんが何のようだ?」


「この左翼の指揮は僕がするよ! だから職員さんは下がってていいよ」


「おいおい、冗談はその格好だけに―――」


 威圧を周囲に放ち、冒険者達を押さえつける。


「僕がこの左翼のリーダーをする! 文句があるやつは僕の前に出て来い!!」


 …………。


「誰も出てこないようだね。じゃあ僕がリーダーの冬夏だ! ニューロードのリーダーでもあるのでよろしく!」


 うむ、ノリと勢いだけでリーダーとか言っちゃったけど、この後どうしよう……。

 周囲の冒険者達の顔を見ると、明らかに僕に怯えている。こんなので指揮とかできるのか?

 ……よし! このまま勢いだけで突っ切ろう! やらかしたなら、他の街に逃げればいいよね。


 さてと、戦闘の始めは遠距離攻撃ってギルマスが言ってたよね。


「まずは遠距離攻撃が得意なものはここから横1列に並んでねー!」


 どこに並ばせるのが正しいのかは知らないので、適当に並ばせてみる。アレッサやマノンも一緒に並んでる。


「その後ろに近接戦闘が得意な人が並んでくださーい!」


 ぞろぞろと並び始める。一応パーティーごとに集まっているようだ。

 ただ、2人ほど余っている人たちがいる。なんだろうこの人達?


「2人はどうしたの?」


「私達は回復要員ですので……」


 いわゆる衛生兵だね。衛生兵は一番後ろで自由にしてもらおう。


「じゃあ2人はその後ろで好きに動いて。怪我したら、この2人の下に行くように!」


 隊列はこれでいいよね。後は戦い方か。

 みんなの前に走り、正面に立つ。


「では作戦をもう一度説明する。まず魔物の接近に合わせ弓や魔法で攻撃、攻撃後は後ろに下がり、近接戦闘が得意な人達が前に出ます。後は普段どおり前衛が抑え後衛がフォローといった感じかな。魔物の数は高々2000、慌てず普段どおりに戦えば負けることはないでしょ」


 何とかリーダーっぽい感じにはなったよね。なってなかったら苦情は眼鏡さんに言ってくれ。


「こんな戦いさっさと終わらせて、副マスをぶん殴りに行くぞー!!」


「「「「おおーー!!!」」」」


 みんな眼鏡さんに怒っているんだね。

 さて、魔物の群れも後10分ほどでこちらとぶつかりそうだね。いよいよ戦いの火蓋が切って落とされる。ピリピリとした緊張感の中に、高揚感が混じってなんとも言えない気分だ。


いつもお読み頂きありがとうございます。


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