20 また遭遇
レンツェを慌てて出発した僕達は、一路ホローニへ向かった。
「ん、んー」
気絶していたマノンが目を覚ましたようだ。
「おはようマノン、よく眠れた?」
「おはようございます、何か変な夢を見ていたような……」
領主の館の夢かな? きっと現実だから、黙っておいたほうがいいよね。
「そんなことより今はホローニに向かっているところだよ」
「ホローニ! 美食の街ですね!」
「そのとおり。肉、パスタ、そしてチーズが美味しい街だよ」
「早く行きましょう!」
だいぶテンションが上がってきたね。
「明日の夜までには着く予定だよ、キャラバンと違ってうちの馬車は荷物が少なくて早いからね」
馬車を買って良かった。襲われたら自分達で対処しないといけないけどね……。
「馬車そのものの重さと、私達の重さだけだから、馬としては楽なんじゃないかしら」
「後は御者の腕次第かな」
2人の視線がアレッサに向く。
「ふむ、任せておきたまえ」
自信満々に返答するアレッサ。
「この分だと早く着きそうだね」
「そうよね、さすがに今度は盗賊も出ないでしょうし」
あれ? これってメイド服の時と同じパターンだよね。もしかして委員長も着たいのかも……。
「じゃあもしも盗賊が出たら、委員長は執事服ね」
メイド服でもいいけど、せっかくあるから使わないとね。
「さすがにまた出るようなことはないわよ……」
僕も出ないと思っていたけど出たんだよ。
「前方に10数名の集団が別の馬車を襲っているように見える! どうする?」
ほらきた。僕も御者席まで来て確認する。アレッサの言うとおり馬車を盗賊が襲っているようだ。既に数名、倒れているのが見える。
おそらく商人の馬車だろう。見てしまったものを、このまま素通りするのも気持ちが悪い。
「アレッサは馬車を止まらせて前方警戒、マノンは前方以外の警戒を頼む! そして委員長は2人の指揮を!」
「任された!」
「はい!」
「わ、分かったわ!」
僕は馬車から飛び出すと、前方の馬車まで全力で疾走する。そして手近な盗賊から順に槍の石突で突いていく。
「メイドだと!?」
「くそっ! メイドごとき何とかしろ!」
盗賊達は僕が急に現れたことで、混乱している。メイド服を着ているものだから、よけい意味が分からず混乱しているのかもしれない。
「お前ら、撤退だ!」
盗賊のリーダーらしき女が撤退するよう叫んだので、数名の盗賊達が背を向けて、逃げようと走り出す。
「サンダーランス!」
盗賊達の足を狙い魔法で攻撃し、動けなくすると、リーダーらしき女に近づいていく。
「てめぇ! その顔覚えたからな!」
意外と若く、20代前半ぐらいの年齢だと思う。ついでだし、領主が逃がした盗賊のボスか確認しておくか。
「あんたがこの盗賊達のボス?」
「あー? みりゃ分かるだろ!」
まるで怒った猫みたいだ。シャーってしている感じ。
「じゃあ領主の娘を攫った盗賊だったりする?」
「はぁ? それはうちじゃねえよ! あいつらのせいで、こっちもとばっちりを受けたんだよ!」
やっぱり別の人か。この人は、あの規模の盗賊団のボスって感じがしないもんね。
「そう、なら僕にはどうでもいいかな」
「どうでもいいだと!」
「じゃあね」
盗賊のリーダーを置いて、襲われた馬車に近づいていく。
商人らしき太った人が、僕に気がつくと近づいてくる。
「この度はお助け頂き、まことにありがとうございます」
深々と頭を下げてくる。
「いえ、こちらも通り道だったものでついでですよ。そちらは無事でしたか?」
「冒険者が数名、怪我を負いましたが、幸い死者は出なかったようです」
全員無事だったんだ。いい冒険者を雇っていたのかな、それともただ盗賊が弱かっただけか……。
「そう、盗賊はそちらの好きにしてください。こちらは先を急ぎますので、では」
さーて、戻って委員長のお着替えタイムといきますか。
「はい、ありがとうございました」
僕達の馬車に戻ろうとすると、向こうから近づいてきている。委員長達も何事もなかったようだね。
馬車が側に来たので飛び乗る。
「ありがとう、馬車には盗賊は来なかったようだね」
「問題なかったわ、思っていたよりも小規模だったみたいよね」
小規模なのに護衛のいる馬車を襲うとか、あの盗賊のリーダーはなに考えていたんだろ?普通は自分達より弱い相手を狙うものなのにね。
「トーカ、カレン、盗賊の1人が逃げています!」
おや? まだ無事な人がいたのか?
見るとあの盗賊のリーダーが1人で逃げている。足にサンダーランスを撃ったのに、あれだけ走れるのは凄いな、光魔法が使えたのかな?
「1人なら何もできないだろうし、放っておけばいいよ」
でも、ああいう人はしぶとそうだね。
「分かりました!」
そんなことよりも、僕達にはやらないといけないことがあるからね。
インベントリから執事服を取り出す。それを見た委員長の顔が引きつる。
「さあ委員長、楽しいお着替えの時間ですよ……」
執事服を持ち、委員長ににじり寄る。
「わ、私は着るとは言っていないわよ」
「往生際が悪いと、無理やり脱がすけど、それでもいい?」
拒否権はないですよー。
「着るわ……、自分で着るから……」
委員長に執事服を渡すと1つため息をつき、嫌々着替え始める。
「盗賊が出ないなんて言わなきゃ良かったわ……」
この辺りは盗賊と遭遇率が異常に多いよね。明日もまた出てきても驚かないよ。
委員長の着替えが終わるとお披露目タイム。人のコスプレを見るのは楽しいよね。
委員長が、執事服を着て恥ずかしそうにしている。
「ど、どうかしら……」
「おおー、凄く似合ってるよ」
「はい、お似合いです!」
「む、我も見てみたいのだが……」
これならメイド服姿も見てみたいな。
「じゃあ日替わりでメイド服っていうのはどう?」
「なにが“じゃあ”なのよ! メイド服なんて着ないわよ」
何故メイド服は駄目なんだ? 似合いそうなのに……。あ、もしかして男装が好きなのかも。
「男装か、男装用は何かあったかな?」
「いつ男装の話をしたのよ! メイド服は着ないって言ったのよ!」
「メイド服に何か嫌な思い出でもあるの?」
まさか、メイド喫茶で働いてて、店長にセクハラを受けていたとか!?
「ひらひらしているから蛇腹剣を振り回すと、引っかかりそうで困るのよ」
まさかの理由!? 戦うことに全力を注ぎ込みすぎじゃないかな……。
まあでも、執事服で蛇腹剣を振り回す姿はちょっとファンタジーっぽくていいかも。
「ありです!」
「なにがよ!?」
「じゃあ委員長もスフランに入るまでは、基本その姿でね」
「私もしばらくはこの姿なのね……」
「でもこうなると、私かアレッサが貴族様に見られそうですね!」
メイドと執事がいると当然近くに貴族がいてもおかしくないもんね。
たぶんイメージ的にアレッサのほうが貴族に見られそう。
「アレッサにドレスでも着せたら完璧だね」
お嬢様、執事、メイド、小間使いのパーティー。
「マノンがドレスでもいいんじゃないかしら」
マノンのドレス姿も見てみたいけど……。
「マノンは貴族っぽく見られると緊張しそうな気がするから」
「そ、そうです! 私にはドレスなんて無理です!」
「その点アレッサは気にしないだろうし、自然だからね」
「我はこの姿が気に入っているのだがな」
黒いローブを見せてくる。
「じゃあ主人はいないと思われるかな?」
「どのみちあなたがリーダーだもの、問題ないわ」
しばらくは他の人達から変なパーティーだと思われるのだろうね……。
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