03 ニール
「さて、今日は依頼を受けに行くよ」
せっかく王都にきているのだから依頼の1つも受けないとね。
「迷宮でランク上げをするのかと思っていたのだけれど……」
「もちろん迷宮にも行くけど、まずはお互いのことをよく知るためにも、1つ依頼を受けておこう」
そして、あわよくば絡まれよう!
「我は構わんぞ、どんな依頼でも我にかかればネズミを捻り潰す様なものだしな」
「オーケー、アレッサはネズミ関係の依頼を希望っと」
「い、いや我はネズミがあまり得意では……」
「冗談はさておき、冒険者ギルドへレッツゴー!」
◇
宿を出て冒険者ギルドに着いた。
「さあ、楽しい冒険の始まりだ!」
「どうしてそんなにテンションが高いのかしら?」
「うむ、我には分かるぞ。血沸き肉躍るというやつだな」
全然違う……。
「私も冒険が楽しみです!」
ほんとマノンはいい子だ。
ギルドに入るとまず視線が来るが無視したふりをする。
さあ、今日は騎士もいないし、騎士の鎧も着ていないぞ。いつでも絡みにきてもいいのだからな!
依頼の貼ってある掲示板を見ているふりをしつつ、空間把握で周りを監視する。
「あ、あの? どうしたのですか?」
どうした? 何の事だろ?
「ん? マノン、どういうこと?」
「ギルドに入って急に雰囲気が変わりましたから。まるでドラゴンの近くにいるような圧迫感がありました……」
ドラゴン? そんな圧迫感があるわけないのに。
周りを見ると、屈強な冒険者達が目を合わせないように逸らす。
アレッサもブルブル震えている。
「どうせつまらない事を考えて失敗しただけよ」
委員長はいつもの呆れ目だ。
「何か凄い寒気が襲ってきたのだが……きっとこのギルドには恐ろしい魔物がいるに違いないぞ」
アレッサが周りを警戒しながら僕の裾を握っている。
誰が魔物だ! おかしいな、そんなつもりはなかったのだけど、何が悪かったのだろうか?
「それでいい依頼は見つかったかしら?」
「依頼? 何のこと?」
「あなたはここにいったい何をしにきたのかしら……」
あーそう言えば依頼を受けるって名目でギルドにきたんだった。
でもなんでもいいよね。掲示板を見て、Eランクの依頼を探す。
「ところでトーカとカレンはどのランクなのですか?」
依頼とか登録してから一度も依頼を受けていないからランクも何もないよね……。
「Eランクだよ」
「「「「E--ーー!?」」」」
周りの冒険者達が声を合わせて叫んでる。盗み聞きとは行儀が悪いな。
依頼受けてないんだから上がるわけないし。
「お2人ともですか? てっきりC以上あるのかと思ってました!」
そうかな? そんなにムキムキしてないけどね。
「冒険者ギルドに登録後すぐ商業ギルドに登録して商売に力を入れていたからね、もちろん迷宮にも潜ったことはあるけど」
「商売!? 意外です!」
「ふふーん、これでもかなり儲けてたんだよ、もう辞めたけど」
「どうして辞めたのですか?」
「必要なお金は十分稼いだからね、あとは一緒に商売していた人と離れてしまったからね」
お、この会話の流れっていいんじゃないかな。「そんな奴が冒険者なんて認めねぇ!」とか言ってくる人が出てくるんじゃないかな?
周りをチラチラ見るが目を逸らされる。
……何故だ。
「で? 見つけたの?」
おっと危ない、忘れてた。あ、これなんか良いんじゃないかな。
貼ってあった依頼書を取り委員長に持っていく。
「これはどう?」
「薬草採取? 意外と普通ね」
「やっぱり冒険者の最初の依頼と言えば薬草採取でしょ!」
「薬草採取でしたらやったことがあるので私もできます!」
「否! 冒険者の最初の依頼は魔物退治だ! ここでオークを倒して一気に名を上げるのだ!」
「はぁ? オークぐらいで名前が上がる訳ないでしょ」
委員長が最初の守護者部屋で瞬殺していたやつじゃないか。
「え? いや、上がる……はず?」
「ほら、適当なこと言ってないで、受付に行くよ」
「え? でも……オーク……ぐらい?」
アレッサが不思議そうな顔をしているが、引っ張って連れて行く。
受付嬢に依頼書を渡す。
「この依頼を受けたいのですが」
「こちらでしたら常時依頼ですので、事後報告で結構ですよ。納品時に予定数あれば依頼成功と言うことになりますので、予定数の2倍の量があれば2件分、3倍あれば3件分となります」
では10倍取れば10件分になるわけだ。薬草30本で1件と言うことは、1200本で全員が10件分となるわけだね。
「なるほど、多めに取ればいいんだね」
「王都ともなると住人が多いのでどうしても薬草が不足することになりますので、他の依頼のついでにでも取ってきて頂けるとありがたいので常時依頼となっております。ですのでランクが上がった際もついでに取ってきて頂けると嬉しいです」
まだランク上がってないんだけど……。
「わ、分かった、考えておくよ」
ギルドを出ると、王都の入口に向かって歩き始める。
◇
王都を出てから30分ほど東に歩いた先に大きな森がある。そこに目的の薬草があるそうだ。もちろん魔物も生息しており、薬草取りとはいえ危険を伴うことも十分ある。
「わぁ森です!」
マノンが弓を片手にはしゃいでいる。
「ほぅ、この森の中から邪悪な気配を感じるな、どれ我が倒してくれようか!」
アレッサの首根っこを掴む。こういうのは委員長の役目だと思う。
「じゃあ手分けして探すわよ。私とマノン、初宮さんとアレッサね」
「はい!」
「え!?」
「ふふふ、我に任せるがいい」
「ちなみに負けたほうの班は夕食1品抜きね」
「負けないです!」
「負けた……」
「ん? 我が力の前に敗北などないわ」
だって、アレッサってもともと貴族のお嬢様だし、薬草を採取なんてしたことないでしょ……。
「仕方ない、僕が頑張るか……」
どのみちランクを上げるために薬草をそれなりに取らないといけないからね。
「アレッサ、行くよ」
アレッサの首根っこを掴んで連れて行く。
「少し中に行こうか、外側はたぶん取られていそうだし」
「いいだろう、我の採取の素晴らしさを見せてやろう」
なんだよ、採取の素晴らしさって……。
「この辺りにしよう、さっさと集めるよ!」
「ちょ、ちょっと待とうか。だ、だいぶ奥まで入ったきたようだけど大丈夫だろうか?」
これぐらい入れば薬草もかなり生えているはず。
「大丈夫。ほら、ここに生えてる!」
よく見たらかなり生えてる場所だ。これなら委員長達にも勝てるかもね。
「い、いや、薬草のことじゃなくて……」
何を言っているんだろ? 薬草じゃなければ迷子?
「大丈夫、終わらない森なんてないんだから!」
真っ直ぐ歩けばそのうち出られる。
「意味がわからんぞ!」
「ほら、口を動かしてないで手を動かす!」
「こんなことならもっと簡単な依頼を推すべきだった……」
薬草採取より簡単な依頼って街中の依頼しかないけどね。
アレッサを見ると、意外と1本1本綺麗に抜いている。黙って作業している姿はまさしくお嬢様なのに……。
薬草採取していると、茂みがガサガサと音をたてる。
「ひぃっ」
出てきたのはニードルラビット、定番の角ウサギである。
ん? ひぃ? 声の出所を見るとアレッサが頭を抱えて丸くなり震えている。
「アレッサはウサギが苦手なのか?」
「ウサギ?」
顔を上げ、ニードルラビットを見ると立ち上がる。
「矮小な者の分際で、我が前に立とうというのか! いいだろう、我が杖の錆びにしてくれるわ!」
アレッサは杖を上段に構える。
杖の錆び? 杖で殴るの? 魔法で戦わないの?
ニードルラビットが逃げだしたと思いきや、助走をつけてアレッサに飛び掛った。アレッサは驚いて後ろに下がり足を引っ掛け尻餅をつく。
「きゃっ!」
尻餅をついた結果上手く避けることに成功したアレッサが立ち上がり、ニードルラビットに杖を「えい!」と振り下ろすがあっさりかわされる。
またもニードルラビットが助走をつけてアレッサに飛び掛ると、アレッサが頭を押さえ屈んで避ける。衝撃がこないので頭を押さえながらニードルラビットを探している。その間にニードルラビットが助走をつけて跳んでくるが、アレッサも悲鳴を上げながらギリギリで転がってかわす。
意外といい勝負。
「アレッサ、手伝おうか?」
アレッサが僕の言葉を聞いて嬉しそうな顔をする。
「ほぅ、我だけで十分だが「じゃあ頑張ってー」ち、違うの、お願い手伝って……」
応援すると捨てられた猫みたいな顔をして懇願してくる。
後衛だし、仕方ないか。
「じゃあ僕が前で抑えるから、後ろから魔法を撃ってね」
「わ、分かったわ」
時々、素のアレッサに変わるよね。
アレッサの前に立ち、ニードルラビットが跳んでくると首を捕まえて投げる。
「来たれ! 我望むは、終末の炎! かの魔物を撃ち滅ぼせ! ファイヤーボール!」
ん? ファイヤーボールの呪文ってあんなのだったかな?
走ってきたニードルラビットに見事に命中した。
意外だ、てっきり外すと思っていたのに。
「ふん、つまらん相手だったな!」
ニードルラビットが立ち上がると、逃げていった。
「じ、慈悲をくれてやったわ!」
さっきは「撃ち滅ぼせ!」って言ってなかったか?
「ほら、さっさと薬草を集めるよ」
しゃがんで少し暗い雰囲気で薬草を集める。
「う、うむ」
倒せなかったのがよほどショックだったみたいだね。
「勝ったんだからそれでいいんだよ、むやみに殺す必要なんてないし」
「そうだな、だが次は倒してみせる! 首を洗って待っているがいい、ニードルラビット、いやニールよ!」
アレッサが立ってニードルラビットの逃げた先を指差す。あと名前を付けるな!
「ほら、さっさと手を動かす」
「うむ」
◇
夕方になり委員長達と合流する。やはり委員長達のほうが多いようだ。
「そ、それは!?」
アレッサがマノンの手にしたものを指差す。マノンの手には焦げたニードルラビットを持っている。
「あ、これは薬草を採取していたときに見つけて狩りました! 何故か焦げてましたが」
マノンが首を横に傾げる。
……なんて不幸なニードルラビット、まさか逃げた先が委員長達のところとは。
そして同じく不幸なアレッサ……、どうせなら知らないところで倒されたら良かったのに。
アレッサの肩に手を置き慰める。
「どんまい!」
「ニーールーーーーー!」
アレッサの叫びがこだました。
何故かアレッサがおち担当になっていく。
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