想い、すれ違う
やっほー!今回はボク、桐生啓がお届けするよ!ちなみに今、祝勝会が終わって、小早川先生が解散の言葉を述べてるよっ。
「というわけでお疲れ!明日明後日は振休だからしっかり休めよ!それと、来週中間テストあるからしっかりそっちもやれよ」
「……中間、テスト?」
「二週間前から知らされてたわよ」
「おい、小早川。受け持つ生徒を希望から絶望に突き落とすとは何事だ?」
「ま、まあ轟さん。落ち着いて」
「中間テストのバカヤロォォ!!」
「武田さんも落ち着いてくださいっ。お店前ですのでっ」
「いやー。石角にドヤ顔してこれまでの借りも返したし、教え子の苦悶に満ちた顔も見れたし、俺は満足だ!」
『こいつ……!!』
「じゃ、これにて解散!帰り道気をつけろよー」
陽気に笑って去っていく小早川先生。……自由だなぁ。
「じゃ美穂、帰るか」
「うむ、そうだな。では皆、お疲れ様なのだ!」
ナチュラルに美穂ちゃんを誘い帰っていく雅文。うんうん、仲が深まってるようで何より。親友として嬉しいよ。
「桐生、顔がキモいぞ」
「なんてこと言うのさ、轟くん。……はっ。もしやイケメンのボクに嫉妬?女々しい男は嫌われるZO☆」
「……凄いな、鳴神は。日々この殺意の塊と戦っているのか」
「やだなぁ。ボクに殺意はないよ。ボクにあるのはそう……ラァヴさっ」
キラーン。
「五島ー、轟ー、小更浜ー、毘釈天ー。帰ろうぜー」
「そうだな」
武田くんが仲良くなった皆を呼んで帰っていく。……ふっ。男からの放置プレイなんて嬉しくなーいぞっ。
「じゃ、寒菜ちゃん。送ってくよ」
「……」
コクン、と頷く寒菜ちゃん。最近美穂ちゃん、ボクに寒菜ちゃんを任せてくれるようになったんだよね。これも一途な愛の成せる業、かな。
「いやもう、貴様とのやり取りに嫌気が差したんだ。大丈夫、寒菜には防犯ブザーとその他高度なセキュリティグッズを持たせてる」
よっし、空耳なんて聞こえないぞー。るんたったー。
「……」
「でねー、その時雅文ってばさー」
「……。啓、なにかあった?」
「っ」
「……変な……感じする。……緊張してるような……?」
「……バレたかー。気づかれないようにしてたつもりなんだけどなー」
「……。雅文、多分気づいてた。……だから美穂誘って……先に帰ったんだと思う……」
「おぉっと雅文のクールキッドめ。そんなにまでしてボクの好感度を稼ぎたいかっ」
「……私に話せること、かな……?」
……。あー、うん。なんとかいつもの調子でって思ったけど、やっぱりマジだと無理だね、これ。
パッと思い返してみただけでも、ボクは惚れっぽい男だった。学年が変わるごとに同じクラスの女の子に一目惚れして、告白して、フラれ。
フラれても翌日にはケロッとして次の女の子へアタックして……みたいな。
誰からみても軽薄な男に見えたんだろうなーって。自分でもそう思うもん。だから今回もそんな流れかなー、なんて思ってたんだ。
二学年に上がって、最初に一目惚れしたのは美穂ちゃんだった。だって可愛いからね!何度か猛アタックして半殺しというご褒美を貰ったのは記憶に新しいよ。
フラれて満身創痍よりかは快調なボクが次にアタックしたのが寒菜ちゃんだった。第一印象はクールビューティーキュートだったね。だって物静かで表情変わらないのにちっちゃくて可愛いんだもん!そんなのアタックするかないってアタックし始めたのがキッカケだった。
ボクの猛烈なアタック。普段なら嫌がられたり離れられたりするのが関の山だった。けど、
「……?」
彼女は嫌がることも離れることもしなかった。ただ表情を変えず、本を読み続けていた。
「そんなに面白い、これ?」
「……」
彼女の視線に入るよう、持っている本の後ろ、彼女の真ん前に動いた。
「読んでるの、恋愛ものだよね。街の都会で再開した幼馴染みの物語。マンガで読んだよー」
「…………」
「ヒロインの女の子はとっても可愛かったね、うん。キャラもだけどイラストも。主人公はダメですね。完璧なイケメンすぎて殺意が沸騰した」
「……っ」
お、今表情が。
「今日はなーに読んでるのっ?」
「……」
「おっとブックカバーときたか。なるほど、腕をあげたね。けどボクはタイトルを見透かしてみせるよ。むむむ~!!」
「……」
「……。いや読めるかーい」
「ぶふっ」
「あ、今笑った」
「…………」
「ダメだよー。せっかく可愛いんだから笑わないとー」
「……」
「あっ」
席、離れちゃった。……んー。
「……」
そういえば、彼女に話しかけてるの美穂ちゃんとボクだけなような……?
「それはそうだろうな」
その理由を雅文に問いかけると、あっさりした答えが返ってきた。
「なんでさ」
「アイツ、ずっと本読んでるだろ。で、話しかけても答えない。最低限の事は紙に書いて返すけどな」
「…………」
「イジメられたりとかそーいうのは無さそうだけどさ、なんつーか関わりにくいんだよ。自分だけの世界にいたいタイプなんじゃねーか?」
「なるほど。雅文はそういうボッチ体質の人間だからそういう発想か」
「ぶちのめすぞ」
「けど、ボクはそう思わないよ。彼女は人と関わりたいと思ってる!それができない何かが彼女の心にあるのさ!」
「……その根拠は?」
「ボクの百発百中の恋愛勘!!」
「命中率ゼロじゃねぇか」
「という訳で見ててよ、雅文!ボクの巧みな話術で彼女の心を開いてみせるから!」
「オー、ガンバレー」
投げやりな雅文の応援を背に、寒菜ちゃんの席に向かおうとしたけど、
ガシッ
「席に着け」
「ふっ。石角先生といえどこの恋の炎、消せはしませんよ!!」
「席、着け」
「……ふぁーい」
くっ、じゃあ休み時間に!!
「やっほ、寒菜ちゃん♪」
「……」
「さっきはごめんね。ムリして笑わなくていいから話しかけさーせてっ」
「……」
スッ。
「うん?」
差し出された紙にこう書かれてた。『私には話しかけない方がいいよ』……。
「どして?」
「………………」
スッ。
『私、もう学校では話さないって決めてるから』
「そっかー。決めてるのかー」
「……」
「うん。じゃあ話さなくていいよ。ただ、ボクの話を聞き流してくれればいいからさっ」
「!」
「あ、それもヤって言われたら泣く泣く引き下がって別の方法考えるよ」
「……」
スッ。
『どうして?』
「………………」
スッ。
『どうして私の事、そんなに気に掛けてくれるの?』
「えっとね、可愛いのは勿論なんだけど、なんか放っておけない!」
「?」
「たとえばね、あそこに雅文って奴いるでしょ?」
コクッ。
「彼もね、放っておくと一人で校庭にある池眺めて、一日中ボケーッとしちゃうタイプなんですよ」
「……」
スッ。
『そうなの?』
「そう。そういうね、一人でボーッとしちゃう子を放っておけないんですよ、ボク。いやー、心からの優しさが迸る的な?」
「……?」
「まあ、何が言いたいかって言うと。青春を一人で過ごすのって、きっと、もったいないことだと思うんだ」
「……」
「だから、ボクのおせっかい。もしウザい、邪魔とか思ったら紙に書いてくれればすぐ離れるから。ボク」
「……」
スッ。
『それは大丈夫。でも……』
スッ。
『いいの?私、喋らないのに……』
「気にしない気にしない。あ、で次の授業ってさ――」
「…………」
――放課後――
「うはー、めっきり絞られちった。おのれイシカドンめ。追加の課題なんて絶対やんないよーだ」
「……って、あれは……」
タッタッタ。
「寒菜ちゃん、どうしたの?」
「……」
校門前に寒菜ちゃんが一人立っていた。寒菜ちゃんはやってくるボクをジッと見て、
スッ。
『待ってた』
「待ってたって……ボクを?」
コクン。
「……そっか、嬉しいな。じゃ、帰ろっか」
コクッ。
わーい、美少女と二人っきりの帰宅だー。
「でさー、その時イシカドン、あ、イシカドンっていうのは石角先生のあだ名で」
「ぷふっ」
「……うん。やっぱり寒菜ちゃん、笑うととっても可愛い」
「……」
スッ。
『そう?』
「うん。出逢った中でも一、二を争うかなー」
「…………」
「あ、そういえば寒菜ちゃんの家ってどの辺り――」
「……啓、変わってる人」
「えっ」
「!!」
聞こえてきたとってもキューティクルなボイスに驚くと、寒菜ちゃんが慌てて口元を隠していた。
「……」
「……」
「かんわいい」
「……えっ?」
「すっごい可愛い声だったよ!!今の寒菜ちゃんだよね!?」
「……変、じゃないの?」
「変どころか!これまで聞いてきたどの女の子の声よりも可愛いよ!!」
「……」
「鳥の囀りなんてレベルじゃなくて……そう、天使!天使のごとき可憐で透き通った声だよ!!」
「……あう」
「……もしかして、今まで話さなかったのって、自分の声が変だと思ってるから?」
「……」
コクン。と小さく頷いた寒菜ちゃんは口元を隠しながらこう話す。
「……昔、からかわれたの。変な声って……小学生の時」
「なんて見る目、いや聞く耳のない奴らなんだろう。いい?寒菜ちゃん?寒菜ちゃんの声は天使みたいに素晴らしい声だよ!からかった奴らが悪くて、全然寒菜ちゃんは悪くないよ!」
「……」
ポロッ。
「!?寒菜ちゃん!?」
「うっ……ひっぐ……」
泣き始める寒菜ちゃん。……えっと、えっと。抱き締め……るのはマズイよね、うん。ボクにだって倫理はあるさ。となると、
スッ。
「っ?」
「あ、ごめん!気悪くしちゃった?」
「……ううん。……ビックリしただけ。……気持ちいい」
「そ、そっか。なら良かった」
寒菜ちゃんが落ち着くまで、頭を撫でた。
――……そんな事があって、もう半年近く経つかな。勿論最初から好きって気持ちがあったし、それを基に動いてきた。でも、ふと気づいた。気づいてしまった。この好きって気持ちの大きさに。
一番最初はそれまでと同じ大きさの好きだった。Loveだった。でも、次第に大きくなった。彼女に触れて、彼女の優しさを知って、彼女の愛おしさを知って。LoveからONLY Loveに変わった。気づいたのは本当に最近。体育祭の練習で少し彼女と離れて、体育祭でまた彼女と話して。彼女の存在が、自分の中で大きくなっていた。
「……寒菜ちゃん。君に話したい事があるんだ」
「?」
「ボク……桐生啓は、
寒菜ちゃん、君が好きだ。異性として、一人の女性として」
「…………。!?!?」
「……良ければボクと、付き合ってほしい」
言えた。少し口ごもって、上擦って。それでも伝えられた、この気持ちを。
関係が崩れるかもしれない。その恐怖はもちろんある。けど――、
(言わないと、きっと後悔する……!!)
この気持ちを隠したままなんてイヤだ。心からそう思ったから。
「…………」
数秒。ボクにとっては二時間くらいとも思えたこの空白の時間。……返事に、こんなに期待と不安を感じたのは初めてだった。けれど、
「……っ!」
ダッ。
「あっ……」
彼女は何も言わず走り去ってしまった。……そっか。
「……フラれたって事、かな」
ボクもバカじゃない。もし付き合ってくれるなら寒菜ちゃんは返事をしてくれる。……それがなかった。出来なかったんだ。“拒否の返事”はボクを傷つけてしまうから。
「……やれやれ。寒菜ちゃんもボクを解ってないなぁ~。恋愛において百戦錬磨のボクだよ?これで傷つく訳ないじゃないか。……さって、新しい恋を。……」
続けられない。言葉の先を言えない、どんなに虚勢を張っても、ボクの恋は終わった。終わったんだ。
「……こんなに辛いの、初めてだなぁ……」
これが本気の恋、初恋だったのかな。なんて。
体育祭の代休、二連休。それはボクにとって一番空虚で一番苦しくて、一番――
「――――」
――っ。
「!?!?」
「……今、告白……された?……啓に」
「……ど、どうしよう~……!!」
「……はっ!」
「……逃げ、ちゃった。……啓、怒ってない、かな……?」




