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体育祭、二日目!その2

「さあ……この一ヶ月の集大成を見せる時が来たぞ、皆」


『……』


「サー、イエッサーはどうしたぁ!!」


『さ、サー、イエッサー!!』


「よし。……今のところ、我がクラスは石角のクラスに勝っている。このまま行けば勝ちは内定だが、油断なんぞするな。各自万全の状態で」


「……」


無言でスッと手を上げる者がいた。俺と美穂だ。


「なんだ、何か重大なトラブルか?」


「クラスとしては些末だと思うのですが、実は」


「……啓が保健室に運ばれた」


「はっ?」


小早川が、何言ってるんだお前達?みたいな顔をする。ああ、俺もそう思うさ。


「何言ってるんだ、お前ら?あの桐生がそう簡単に保健室なんて運ばれる訳――」


「さっき私が桐生に罰を下していたら」


「いや待て美穂。俺もだ。……俺ら二人で啓にアイアンクローと腕を捻り上げてたら、事もあろうにあの野郎、気絶した」


「……いやいや。そんなまさか。今さらアイツがお前らの攻撃食らったくらいで。保健室?何かの冗談だろ?」


小早川にまでその認識ってある意味凄いよな、アイツ。


「残念ですが、事実です」


「……。轟、桐生の疾走は何番目だ?」


「うむ。16番目だ」


「丁度真ん中か……。鳴神、お前は何番だ?」


「何で俺の……。33番目。アンカーの直前だ」


「よし、なら問題ないな。鳴神、桐生の代走しろ」


「はぁ!?何でだよ!?」


「桐生が運ばれたのはお前のせいなんだろう?ならその責は取らなきゃならん」


「ぐっ……!」


痛いところを……!確かにアイツの自業自得とはいえ、俺に責があるのは違いない。


「待ってください!私もあのび……桐生を痛め付けていました。私にもその責はあります!」


「紫紅美、お前は我がクラスのトップランナーであり、アンカーだ。そんな奴に他の代走は頼めん」


「しっ、しかし……!!」


「美穂、いい」


「雅文くん……」


美穂を手で制し、深く深くため息をつく。


「お前は俺の為に怒ってくれただけだ。それにセンコーの言う事も一理ある。丁度俺の走順はラスト辺り。真ん中をやる分には影響は少ないさ」


「……。分かったのだ。頼んだぞ、雅文くん」


「話はまとまったな?では改めて……。各自万全に意識を研ぎ澄まし、他者の走りを意に介さず走り抜け。全力を尽くせ。――我がクラスを勝利へと導くために!!」


『おー!!』


「サー、イエッサーはどうしたぁ!!」


『さ、サー、イエッサー!!』


面倒くせぇな、この担任!!




――……。


『これより、クラス対抗リレーを始めます』


全クラスメイト参加の最終種目、リレー。各学年毎に分かれ、行う。


「よぉ、小早川。今年は随分と調子がいいな」


「……石角」


「だが、今年も俺のクラスの勝ちだ。俺のクラスには俊足が集まってるからなぁ」


「……ほざけ。今年は俺が勝つ」


「ほう。なら楽しみにしてよう。ま、そんな楽しみは来ないが……。がっはっは」


散々嫌味を言い、小早川から離れていく石角。


「……。ふ、ふふ。ふふふふふ……」


やべ、小早川壊れた。逃げよう。


「上等だ……。てめぇのその上から笑い、今すぐ地べたに叩き落としてやらぁ!!」


完っ全にキャラ崩れたな、小早川。……にしても石角のヤロー、なんでそんなに小早川煽んだ?




――……。


『これより二年生の部、学年対抗リレーを開始します』


各クラスのスタートランナーが位置につく。走順に関してのルールは原則二つ。一つは全員参加。まあ、俺らのクラスは残念ながら(棒読み)それは無理だったが。そしてもう一つは男女交互に行うこと。


「うぉっ、氷姫じゃん」


「走るの初めて見るかも……」


「……」


ウチのクラスは寒菜からのスタート。その後に武田、その他のクラスメイトと走り、小更浜、轟、女子、俺、他のクラスメイト、五島、毘釈天、俺、美穂の順だ。


何故寒菜がトップランナーに選ばれたのか、美穂が先公に尋ねたところ、安定した走りが期待できるから、との事だったが。


「……!……?……」


……大丈夫だろうか?


「寒菜さーん!」


観客からガサツな大きい声が響く。その先にはツインテを筆頭にした女子の軍団。


「大丈夫っす!!ウチらがついてるっすよー!リラックスっすー!」


「……」


突然のツインテの声に、寒菜は驚いた様子だったが、やがて、


「……」


親指でグーサインを作って、返事の代わりにした。


『カハアッッ!!』


『え……なに今の。可愛い』


「……」


観客席で一騒動あるもレースは止まる事なく、


パンッ……。


開始された。


『先に出たのは……8組だ!速い速い!あっという間に他クラスを引き離しています!』


寒菜は序盤、無理せず走っている。丁度真ん中、といった所か。レースはトラック1周、およそ400m走を一人一人走っていく。ペース配分も大事だ。


『おぉっと8組、200m過ぎて失速!代わりに抜き出たのは……4組だぁっ!』


4組って石角のとこか。……小早川、うっせぇんだろうな、今頃。どうでもいいが。


『3組も負けてない!いつでも抜ける位置についている!』


「……」


苦しそうに懸命に走る寒菜。……啓がいたらうるさかったろうな。


「……頑張れ、寒菜」




『……ここで3組抜いたぁっ!バトンタッチまでもうすぐ!』


「錦田!」


「……!!」


『第1走は3組トップ!2番手4組、3番手8組とデッドヒートで第2走へ移っていきます!』


武田へと手番が移り、快調に走っていく。……凄ぇな。ドンドン2番手突き放してる。


『これは凄い!第2走、大きく突き放し3組が引き続きトップ!!4組は大きく引き離されました!』


おぉっし!!と大きい声が上がる。……もうなにも言うまい。


その後のクラスメイト達は、正直遅くはなかった。というのが俺の感想だ。ただ相手が悪かった。


石角のクラスの4組、石角が言っていた通り速いやつが多く、結果として割と離された。8組にも少し前に抜かれ、現在3位。


「……よし!」


「小更浜!」


「任されたっ!」


クラスメイトからバトンを受け取り、走る小更浜。……おお、意外と速い。


「……ぷ、プレッシャーだ……」


そろそろ出番の為並んでいると、轟がガチガチに緊張していた。


「轟」


「な、鳴神。助けてくれ。緊張で胃が……」


「安心しろ」


轟の肩に手を置き、安心できる魔法の言葉を放ってやった。


「お前以降のメンバーは全員、お前より速い」


「悲しくなるような発言は謹んでもらえるか!?」


「待て、続きがある。……万一、お前が抜かれたりしても俺らで挽回してやる。だから安心しろ」


「……。鳴神、貴様は余分な一言をやめるべきだぞ、早急に」


やれやれ、と短くため息をつきながら、轟はすっかり肩の荷を下ろしたような表情になり、


「……では、極力足を引っ張らぬよう努力してくる」


「おう」





「はっ、はっ……轟くん!」


「うむ!」


小更浜から無事にバトンを受け走る轟。順位は上がるどころか下がっていく、が。


「頑張れー!轟くーん!!」


「……!!」


「足動かせー!!」


走り終えた、見慣れたメンツが思い思いにエールを送り、


「……っ!……っ!!」


なんとか、次に渡せた。……5位か、上々!


「お疲れ様、轟くん!」


「っ……っ……は……っ」


……さて。小更浜と轟のやり取りも気になるけど、俺も集中しねーと。


俺に回ってくるまでの最終カーブ。何とか4位に迫るペースで走り抜いてくれてる。


「はっ、はっ……鳴神く、っ!?」


呼吸が合わなかった。取れたと思ったバトンはタイミングが合わず、地面に落下した。


「ご、ごめっ――!!」


「大丈夫!」


すぐさま取り、走り出す。……大丈夫、これで負けたなんてぜってー言わせねぇ!意地でも一人くらいは抜いてやる!


前の女子の頑張りのおかげで、200m、トラック中間でなんとか一人抜いた。あと半周……って3位の奴、結構前にいんな!


「こな……っくそぉ!!」


更にエンジンをかけ、走った。……この時の俺はバトンミスの事もあり、頭が回っていなかったに違いない。後の事なんて、ちっとも考えていなかったのだから。




「――……ぜー……ぜー……」


「お疲れ様です、鳴神くん」


「凄かったわよ。まさか最後に更に一人抜くなんて」


「……じゅ、じゅんいは……?」


「今はキープしてるわ」


「そ、それよりも鳴神くん。少しでも休憩してくださいっ。もう一手番あるんですから」


「……ほへ?」


「……まさかアンタ、後の事考えないで走った、なんて事ないわよね?」


「…………。あ」


「マジか……」


毘釈天が呆れている。……やっべ、忘れてた!!


「え、ど、どうしましょう!?」


「どうしましょうって……休ませるしかないわよ」


「ぼ、ボク達に何か出来る事は……?」


「強いて言うなら、鳴神が少しでも楽になるようリードを広げるくらいね。それ以外はどうしようもないと思うわ」


「……鳴神くん。ボク、頑張ります!!」


「私も精一杯頑張るわ。1位の保証はしないけどね」


「……す、すまねぇ」


「いいのよ。やることは同じだしね」




クラスメイト達の激走により順位は縮まっていく。現在2番手、1位の4組とは100m差といったところか。


「えっと……五島くん!」


「はい!」


女子から渡されたバトンをしっかり受け取り、走り出す五島。……遅くはない、が。


「はっ、はっ……!!」


リードが縮まらない。むしろ開いていってる……。


「いいのよ、これで」


「!」


スタート準備をしてる毘釈天がそう言ってのける。


「確かにリードは縮まるどころか広がってるけど……これが最後よ。小早川先生、いい配分してるじゃない。負けたくない気持ちは本当なのね」


「……そういう、事か」


「ん。気づいたみたいね」


「はっ、はっ……毘しゃく……さん!」


「……」


何も返さず、五島からバトンを受け取る毘釈天。そのまま走り抜け、リードを縮めていく。


「スピードの強弱で相手のペースを乱す。それが小早川先生の作戦なのだな」


「美穂」


「妙だとは思ったんだ。走るペースに差がある者同士で順が回っていたからな。走ってる選手、待っている選手のペースを狂わそうとしてるんだな」


「……みたいだ」


『おぉーっと!ここで3組、4組に猛追!いつ抜いてもおかしくないスピードだ!』


「……!」


「はっ、はっ……!」


毘釈天がピッタリ4組の後ろに着いてる。……ああいうのって、ペースも乱れるし、何より精神的にくるんだよなぁ。さすが運動部。自分がやられたらイヤな事を分かってる。


「ぐっ……!」


「……」


4組の奴が少しペースを下げると、毘釈天もそれに倣う。……アイツ、4組じゃなくて良かったわ。


『さあ、最後の直線に……おっと!ここで3組、4組を大きく引き離していく!』


「はっ、はっ……!!」


……うん。ホント、敵じゃなくて良かった。


「鳴神!」


「おう!」


スタミナ、戻りきってねぇけど……まあ、やるしかねぇ!!


『ここで3組、独走!50m近くの大差をつけています!このままラストに回せるか!?』


「はぁ、はぁ……っ!!」


キッツ!!めっちゃキッツ!!やっぱ相当足にキテるわ、これ!!


「……!!」


うわ、チラッと見たけど後ろ速!!これ、最後までいけるか……!?


『4組!3組に負けじと距離を詰めていく!!3組、これは苦しいか!?』


うん、苦しい!!助けて!!


『おっと、もうすぐ近くまで4組迫っている!いつ抜いてもおかしくない位置につけている!まるでこれはさっきの3組のよう!』


「……!!」


「はぁっ、はぁっ……!!」


てめ、マジかよ……!!ここで毘釈天みたいな事する!?鬼畜か、外道なのか!?


『3組、ペースが乱されている!これは苦しいか!?』


「はっ、はぁっ……~~っ!!」


もう、何で走ってるのか分かんなく……なって……!!


「雅文くん!!」


意識さえ朦朧とする中、強く暖かい声が身体に響いた。


「もう少し、もう少しなのだ雅文くん!」


「諦めんな!」


「……!!」


「我をしごいた貴様が、この程度で倒れるな!」


「頑張れー!!」


「足あげなさい!」


「頑張ってくださーい!!」


……。……はぁ、やれやれ、だ。


「~~っ!!」


「っ!!」


『おぉっと、3組ここでスピードを上げた!!』


……まだ最後の直線にも入ってないのになぁ。当初の予定だと最後の直線でラストスパートかけるつもりだったのに、狂ったなぁ。……けど、あんな一生懸命の応援貰って全力出さないなんて、俺にはできない。


このスピードで最後までいけるかどうかなんて分からない、けど。


「……勝つんだぁぁ!!」


「っ!」


『なんと、ここで更にスピードを上げたっ!?みるみる差が開いていきます!』


「こいつ、どこにこんな……!?」


「……っ……っ!!」


足を、足を動かす!そして……!!


「雅文くん!!」


バトンを……渡す……!!


『最後のランナーへと回ります!トップは3組!少し離れて4組!』


「ひっ、ひぁっ……っ!!」


走りきり、コース上で完全にへばり、倒れた。


「まったく、倒れるなといったのに」


「まー、あんだけ全力出せばぶっ倒れるだろ」


「鳴神くん、大丈夫ですかっ!?」


「……っ……っ!!」


「走行の邪魔になる。端へ寄せよう。武田、頼む」


「俺かよ。ったく」


武田に担がれ、チームテントの方に。


「ほらほらー、お前らどけー。功労者のお通りだー」


ゆっくりと下ろされ、その場で横に。


「す……すま……な……」


「いーってことよ。ある程度落ち着いたら、水飲みな」


「……文字通りの全力を尽くしたな、我ら」


「……勝てますかね」


「……。どうやら心配はいらないみたいだぜ、五島」


「えっ?」


歓声が上がる。誰かがゴールした。そして。


『優勝は3組!鮮やかに、ラストは抜かれる事なく、栄光を勝ち取りました!!』


「……かった、のか?」


「みたい、です……」


「……っ……よ……しゃ!」


「ムリすんな、鳴神。……ああ、俺らの勝ちだ!」


チームテント、そしてグラウンドで見守ってたクラスの連中が同時に快哉を叫んだ。




――……。


「雅文くん、無事か!?」


クラスリレーが終わり、片付けが進められていく。そんな中、美穂が心配そうに駆けつけた。


「なんとか、歩けるまでには……。しばらくは湿布生活かな」


「そ、そうか。良かった……のか?」


「……美穂、おめでとう。そして、ありがとう」


「……。うむ。雅文くんもお疲れなのだ」


「~~……なんか、こーゆーの照れるな」


「ふふ。青春っぽくていいではないか」


「そーそー。アオハルだよー、雅文」


…………。


「ふんっ」


「美穂、ストップ」


割って入った啓を、美穂から距離を取るように動かす。


「ま、雅文くん。何故……?」


「いや、流石に今回は。ケガしたばっかだし、コイツ」


「おお、雅文に丁重に扱われる日が来るなんて……でもボク、そっちの気はないよ?」


「俺にもないわ、ドアホウ。……どうやら大丈夫そうだな」


「うんっ。いやー、まさか気絶するとはボクもビックリ。疲れてたのかなー?なんにせよゴメンね、美穂ちゅわぁん。愛の鞭受け止められなくて」


「~~~~!!」


「ケガしたくなかったら変わらず絶好調なその口閉じろ」


「はーい」


「ったく。……啓?」


「んー?」


「……。いや、なんでも」


「変な雅文」


「変なのはお前だ」




――……。


『――これにて、体育祭の全日程を終わります。生徒の方々は速やかに帰宅準備を――』


「うっし、帰」


帰ろうとカバンを担いだその時、後ろから掴まれた。


「おいおい。つれねぇなぁ、鳴神。せっかくのチームメイトを置いて帰るのか?」


「もう帰る時間だしな。正直、へとへとで」


「ふっ。満身創痍なのは皆も同じだぞ、鳴神。……が、まだ我らにはやる事がある」


「やる事?」


「祝勝会、です!」


「あ、俺はいいや。パー」


「スはさせぬぞ、雅文くん」


読まれた言葉の先が否定された!?


「そうだよー、鳴神くん。せっかく皆の絆が深まったんだし」


「付き合いなさい。拒否権はないわ」


「問答無用すぎんだろ。誰だ、計画したや――」


「おーし!予約取れた!!今日は俺が奢る!!好きなだけ食いまくれ野郎共!!」


『サー、イエッサー!!』


てめぇかくそ担任んん!!てめぇ、石角にドヤ顔散っ々してたろうが!!それで満足しとけや巻き込むな!!


「と、いう訳だ。雅文くん、諦めよう」


「そうだよー、雅文。抵抗すると面倒臭いことになるよー?」


「……。ああ、くそっ」


……くそっ。


「……雅文、笑ってる……」


「わ、笑ってねぇよ」


「……ふふっ」


「…………」


あー、くそっ。

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