体育祭、二日目!
「兄さん、おはようございます。珍しいですね、こんな時間まで寝てるなんて」
「……ちょっと身体がな」
体育祭二日目の今日。前日、割りと頑張ったのが祟ったのか、全身に筋肉痛が走っていた。
「普段から身体を動かさないからですよ」
「ぐうの音もでない正論だ」
「はぁ。兄さん、少し横になってください」
「お、おう」
麗の言葉に従い、うつ伏せになる。
「せーのっ!」
「~~っっ!!」
ダンダン!!と強く床を叩く。1階に響くが、そんなことを気にしてられない程の激痛が襲った。
「兄さん。近所迷惑です、よっ」
「~~~っっ!!」
先程よりも強く的確にツボに入る。もう激痛じゃない。そんなレベルを遥かに越えた痛みだった。
どのくらいの時間が経っただろうか。もはや悲鳴も絶え絶えになったタイミングでツボを押していた感覚が無くなった。
「どうです。楽になりました?」
「…………」
「兄さん、もう一回やりますよ?」
「……ま、まって……返事、できない……」
「まったく。兄さんってばマッサージ弱いんですから」
「…………。はぁ、話せ、る。……お前のが痛すぎるんだよ」
「このぐらい普通ですって。どうです?」
「……ウソみたいに良くなった」
「それは良かったです」
ニッコリ笑う麗。……気を遣わせちまったな。
「ありがとう。これで今日も頑張れそうだ」
「はい。ファイトですよ、兄さん。美穂さんのために勝利を!」
「クラスのため、な」
今日はチーム戦の球技、そしてクラス対抗のリレー。……踏ん張りどころだな。
「っし!」
気合い入れていこう。
登校し、教室ではなくクラスのテントに向かうと、
「……何があった?」
死屍累々と倒れ込む男子達。その中には轟の姿もあった。
「う……うぅ……我はもう、ダメだ。……鳴神、後は託す」
「お前の分までは頑張れんぞ。っつーかどうした?」
「ふっ、なぁに……身体の限界値を越えた、我を含む歴戦の猛者が、自身の持つ強大な力に抗えなかった。ただそれだけの、興も乗らぬ話よ」
「みんな筋肉痛なんだって」
『ちょっ!』
やって来た小更浜がなんともなしに言ってのける。
「小更浜、おはよう」
「おはよー。鳴神君は元気そうで良かった良かった」
「いや、俺も今朝はあんな感じだったよ。妹にマッサージされたおかげでなんとかな」
妹?妹にマッサージ?何その羨ましすぎる素敵ワード。やっぱ鳴神、殺っとく?みたいな怨嗟の声が聞こえてくる。……妹という単語でも反応するのか、コイツら。
「おやおや。雅文くんも今朝はグロッキーだったのかい?やれやれ情けない。もっとボクを見習いたまへよ」
「出たな、変態」
「挨拶が随分じゃあないか雅文くぅぐぅ!!?」
啓の頭が身体ごとテントの外に吹っ飛んだ。代わりに現れたのは疲れが残っていない元気な表情を見せる美穂。
「おはよう、雅文くん。いい朝だな」
「おう、おはよう。そうだな、いい朝だ」
「……。うん。この状況に慣れてきた私が怖いよ」
小更浜が若干引き気味に言うが、気にしない。気にしたら敗けだ。
「うし。みんな揃ったな!」
十数分して担任の小早川が現れた。
「せんせー。男子十数人、戦闘不能でーす」
武田が手を挙げ言うが、意に介していない小早川は続ける。
「現在、石角とのクラスの差は僅かながら勝っている。が、僅差だ。各々それを肝に銘じ、栄光を掴み取る努力を欠かさないでほしい」
僅差なのか。小早川と石角との因縁なんざ、正直どーでもいいが……やっぱ勝ちたいな。
「諸君らの持ち帰る報告が良いものであることを期待している。以上だ!」
『…………』
「サー、イエッサーはどうした!」
『……さ、サー、イエッサー……』
「よし!」
筋肉痛で喘いでいる奴らの言葉で満足したのか、小早川は体育館に向かい歩いていった。
「んじゃ、俺らも行くか」
「はい!」
「轟はどうする?」
「ふっ……我を置いて先に行けぇっ……!」
「させねぇよ?」
轟の襟をむんずと掴み、武田が無理やり引っ張っていく。
「やめろ、我を無理に動かすと惑星系が全て滅亡するぞぉ……っ!!」
「そりゃ大変だ」
「ならば離せぇぇ!!」
「……行きましょうか」
「ああ。五島は筋肉痛平気か?」
「なんとか治りましたので、大丈夫です」
「なら良かった。……美穂!」
「むぅ?」
同じチームの皆と向かおうとしてる美穂を呼び止め、
「お互い頑張ろうな!」
「……うむ!」
エールを送りながら自分も引き締める。
「……ふふっ」
「ん、どうした五島?」
「あ、いえ!なんでも!」
今更な説明になるが、この学校、一学年で九クラスある。
今回のチーム戦の競技は各学年でトップをトーナメント形式で決める。一クラスだけはシードだ。
対戦は平等なくじ引き、シードを取れれば楽だが……。
そうして着いた体育館。二階からの応援や声援が早くも飛び交う。
最初の競技はいきなりバスケ。男女それぞれ一試合ずつ半コートで行う。
「今からくじ引きだが……誰が引く?」
「我は論外だ。こういう時は大概凶を引くことで知られる男だからな」
「どこで知られてるんだ、それ」
「ぼ、ボクもちょっと……」
「よし、武田。頼んだぞ」
「いいのか、轟?」
「キミはこういう時の運を持ってる……気がする」
「俺も構わないぞ」
「お願いします!」
「うっし!任せたまへ。見事シードを引き当ててしんぜよう」
自信満々に向かっていく武田。……。
「大丈夫か、あれ?調子乗せすぎてないか、アレ?」
「自信があるくらいの方がいい。それより誰か、足の裏を押してくれないか?」
「あ、ボクやります!」
「……」
どことなくイヤな予感を感じながら、くじ引きを見守る。初っ端でクジを引いた武田は中身を見、大きく頭を抱えた後、トーナメント表を一瞥し、トボトボと戻ってきた。
「すまん……シード無理だった」
「まあそんな気はしてたよ」
「きゅ、九分の一ですから、仕方ないです」
「あと、最初の試合だ」
『……え?』
「マジでゴメン」
「武田、貴様ぁ……っ!休む暇がないではないか……!」
「相手のクラスはどこなんですか?」
「隣のクラスだな」
「うげ。てことは……」
「ああ。石角のとこだ」
声援が飛び交う中、俺達はコートに立っていた。
「負けるんじゃないぞお前達っ!いいか、死んでも勝て!」
……熱血過ぎて引く応援も背後から聞こえる。
「武田、キミには失望した……っ!」
「んなコト言われてもなぁ……」
「が、頑張りましょう!」
最初のティップオフ。身長を考え、武田がやる事に。そして、
ピーッ!
試合開始の合図が鳴った。
「っ、轟ぃ!!」
ティップオフを制したのは武田。たまたま目が合った轟にボールが渡る。
「う、あ、う……」
パスルートが完全に塞がれ、戸惑っているうちにボールが取られた。
「あっ……!」
「っ!」
幸いにも近くにいたので俺がカバーし、取り返した。反撃だ!
警戒しながらドリブルを進めていると、違和感に気づいた。
(……?なんか敵に殺意を感じる。何故だ?)
捨て身の、反則スレスレのタックルを仕掛けてくる相手チーム。違和感の正体はすぐに明らかになった。
「紫紅美ちゃんと最近、急接近している貴様を……ここで仕留める!」
「寒菜ちゃんと談笑している貴様を……ここで始末する!」
「俊華様から褒美を貰う貴様を……ここに断罪する!」
「玲奈ちゃんとイチャイチャする貴様を……ここに処刑する!」
「おもいっきり私怨にまみれてんなオイ!あといくつか誤解だ!」
『知るかぁっ!!』
私怨にまみれた奴ら。かわしてもかわしても追ってくる。……くっ。
「ん?」
俺への私怨でここまでのパワーを発揮するってことは……。
「スキありだ!」
「しまっ……!」
隙を突かれ、ボールを取られ、そのまま決められた。
「見たかぁっ!」
「…………」
大分体力を消耗した。が……、
「武田、ちょっといいか?」
「ん?」
武田にこのゲームの攻略に繋がる話をする。すると、
「……OK、それでいこう」
話が纏まり、作戦決行することに。
「……」
轟からボールを受け取り、攻め込む。
「ハッ!バカの一つ覚えか!?」
「てめぇにだけは死んでもゴールさせねぇ!!」
「……っ」
敵を引き付けた所で、武田にボールをパス。そして、
スッ
二点返した。
「くっそ!」
「次だ、次!」
敵が感情的になり、単調な攻めになる。
「っ」
「くっ、この……!」
ボールを奪い、また敵が集まる。そのタイミングで武田に渡し、
スッ
またゴールが決まる。――そう、作戦とは至極単純。俺が敵を引き付けて武田にボールを渡し、ゴールを決める。……すんごく体力使うけどな、コレ!提案しといてなんだけどもう心が折れそうだ!
「大丈夫か、鳴神?」
「ま、まだなんとか……」
「無理はすんなよ」
「お、おう……」
この作戦が功を奏し、2ー8と大差をつけた。
「……同士よ。鳴神への憎悪、一旦仕舞おう」
「ああ。恐らくこの感情、利用されている。……我らの今やるべき事は」
「鳴神のチームを下し、彼女らに我らの勇姿を見せること」
「気合いの入れ時だ。……粉骨砕身、最後まで戦おう」
『おう!!』
「……マズいな」
「ああ。敵さんのスイッチが入った」
「このまま行けばいいが……」
それからの敵の動きは大きく変わった。私怨で俺を狙うのではなく、チームプレイ、しいては勝利を掴むために冷静に動いていた。
轟や五島を通してのパスのカット、俺や武田のドリブルの阻止。そして俺らの守りの隙をついての攻め。
試合の残り時間5分。点差は10ー11に詰まっていた。
「す……っ、すまない、武田、鳴神」
「足を引っ張ってばかりで、本当にすみません!」
「何言ってんだ、チームだろ……っ。フォローしあうのがチームだ」
「鳴神くん……」
「だな。五島、センターラインとゴール前の間で休みながら守りを強めてくれ」
「轟はゴール前付近で守備に専念。少し体を休めろ。次もあるんだからな」
「点は」
「俺らで獲ってくる」
それまで以上に気合いを入れ直し、試合に没頭した。中学時代の頃のように。
武田は持ち前のフィジカルでごり押しし、点を稼ぐ。
俺は技で相手を翻弄しながら、同じく点を稼ぐ。
守りに専念した轟と五島もそれに応えるように、相手の猛攻を抑えた。
そうこうし、相手も、そしてこちらもスタミナが切れ始め、試合時間は残り30秒をきっていた。スコアは15ー18。
「くっ、あともう一押し、なんか……!」
時間がなく焦っていたそんな時、奇跡が起きた。
「あっ……!」
俺らにパスするつもりであったろう、轟が投げたボールが、俺らの頭上を越え、ゴールを揺らした。
「「ナイス!!」」
スコアは18ー18。これなら……!
「っ!」
「なっ……!」
「鳴神ぃ!!」
敵のボールをカットした武田が俺にパス。そして、
シュッ
ピッ、ピッ、ピーッ!!
ビザーブート。最後に逆転打を入れ、辛くも逆転勝利した。
「よっしゃー!!」
背後で熱血漢溢れる声がしたかと思うと、
「お前らよくやった!よーくやった!!」
「……」
その声の主、小早川がめっちゃ叩いてきた。……あーもう、疲れて何の反撃をする気も起きねぇ。
「よーし、胴上げだ!!」
はっ?
「いやアンタ、何言って」
ガシッ
「ばんざーい!!ばんざーい!!」
『ばんざーい!!ばんざーい!!』
「おいこらやめろバカ。せめて優勝した時にしやがれぇ……っ!」
しかもなんで俺だけ……っ。あーくそっ!最初から抵抗しときゃ良かった!!
「そーればんざーい!……ふふ、この雅文の雄姿(笑)をどうしようかな」
啓、てめぇは後で必ず始末してやる。絶対にだ。
「……あー、ひどい目に遭った」
「お疲れ様です、雅文くん」
もう目立つまいと端っこの方にいると、五島がやってきた。
「おう、お互いにな。次の試合までゆっくり体休めよーぜ」
「はい。……最後、かっこ良かったです。雅文くん」
「轟のプレーのお陰で波に乗ったところはあるけどな」
「でも、皆の期待を乗せて、それに応えた雅文くんは凄いと思います。本当に」
「……そういえば五島、聞こうと思って中々聞けなかった事があるんだが」
「はい、なんですか?」
「……もしかして、同じクラスになる前、どっかで会ってないか?」
「……」
俺の問いに、五島は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「……はい。その節はありがとうございました」
「……やっぱ、コンビニん時のか。不思議な縁もあるもんだ」
「ですね」
ぼんやりとコートを眺める。静かなひとときが流れていく。
「む、雅文くん。ここにいたのか」
「美穂」
「次、私達の試合なので、応援してくれると助かるのだ」
「おう。んじゃ行くか、五島」
「はいっ」
結論から言うと、美穂達のチームは圧勝だった。
運動神経のいい美穂と毘釈天、俊敏に動く小更浜、冷静に周りを見て動く寒菜。穴という穴がないのだ。
応援の効果もあったのだろうが、35ー8という大差で勝利した。
「……鳴神、轟、五島。俺達もあれぐらいの大差と余裕を持って次は勝つぞ」
「ふっ、造作もない。筋肉を蝕む奇病を退け、イメージトレーニングも完璧に済ませた我に不可能はない」
「その言葉、期待しているぞ、轟」
「うむ」
「ぼっ、僕も頑張ります!」
その後、辛くも勝利を繋げていく俺達。なんだかんだチームワークは良くなっていたようで、オフェンス・ディフェンスのタイミングや呼吸も合ってきた。……まあ、武田が言ってた大差と余裕を持っての勝利、とはなっていないが。特に轟は毎試合終了後に五島からマッサージを受ける程に余裕がない。……最終戦、決勝まで来たが、このままいけるだろうか。
一方、美穂達の方は他を寄せ付けない圧倒的な実力差で優勝していた。……ふっ。
「武田、意地でも優勝するぞ……!」
「おう……!!」
「負け、られぬ……!!」
「……みなさん、男の意地が凄いですね」
五島が苦笑いを浮かべるが、そんなもん関係ない。狙うは優勝、ただそれだけだ……!!
「では、一年生男子バスケの部、決勝を始めます」
「……」
「……」
真剣に互いのチームを見る俺らと相手チーム。……向こうも準備万端だな。
「いい緊張感だ……ヒリヒリしてくるぜ」
「だな。……美穂達に遅れを取るわけにはいかない。男として」
「……ボク、凄いチームに入っちゃったな。今更だけど」
静かに闘志を燃やす俺と武田。最初からアクセル全開で行く!
「鳴神、武田。あの9番だが」
「ん?あの周りより少しだけ背の低い相手チームの男か。どうした?」
「あっ、バカ」
轟が慌てて止めるも、時既に遅く。
「…………」
その9番の男が恐ろしい形相で武田を睨み、
「!!」
放送ではとてもお見せできない仕草を武田めがけて行った。
「……なんか、めっちゃ恨み買ったんだけど」
「彼はバスケ部期待のエースだ。が、身長にコンプレックスを抱えている為、間違っても言うな……と言おうとしたんだが」
「先に言って!?」
「言おうとしたのに先んじて言ったのは貴様だろう!……スイッチが入った彼はプレイスタイルが豹変するらしい。気を付けろ」
「どう変わるんだ?」
「……普段は勝敗に拘らない、と聞く。が、コンプレックスを突かれた彼はその者に復讐せんが為、荒いラフプレーをすると聞く」
「……」
「おい、鳴神。お前今、俺から距離を取らなかったか?」
「いや、巻き込まれたくないなと……」
「この正直者!!」
武田が叫ぶも、もう相手の逆鱗に触れてしまった事実に変わりはなく。そのまま試合が開始される。
スターターは武田とその9番の選手。……身長差がかなりあるが。
「…………」
「……あー、その、さっきは悪かった。だからフェアプレーで……」
「……ス」
「え?」
「ブッコロスブッコロスブッコロス……」
「……」
ホイッスルが鳴った。と同時に飛ぶ体制に入る両者。
「っ」
「ってぇ!!」
が、9番が武田の爪先を踏んだ。
ピッピー!!
「詰良、ファール!!」
「ちっ」
幸いにも審判が気づき、ファールの判断。こちらのボールで再スタートする事に。……露骨に舌打ちしたな、アイツ。
「色々と思うところはあると思うが、飲み込もう。幸いにも審判は久慈だ。自分にも他人にも厳しい教師だ。反則行為など見逃さないだろう」
「……」
「そう怖い顔をするな、鳴神」
「……悪い。ラフプレーは嫌いなもんで、つい」
「好む者はそうはいないだろう。……大丈夫だ、武田は。きっとなんとかするさ」
「……だといいが」
ピッピー!!
「詰良、ファール!!」
「ちっ」
「……」
ピッピー!!
「詰良、ファール!!」
「……ちっ」
「…………」
ピッピー!!
「詰良、ファール!!次はもうありませんよ!!」
「……チッ」
「…………」
詰良、だっけか?9番のやつ。が、俺を狙ってファールを仕掛けてくる。と言ってもヤバそうな時はしっかり避けてるんで、ダメージは殆ど無い。本当に強いて言うなら爪先がチョッピリきてるくらい。
「……」
「……ブッコロス」
「なぁ」
「……」
ギロッと睨んでくる9番。……やっちまったもんだなぁ、俺。けど言いたいことあるし、言っとこ。
「俺に復讐するならファールして妨害するよりも、真正面から俺を叩きのめした方がいいぞ。全力でな」
「……」
「そりゃケガして退場もイヤさ。でも何よりも、チームが負けるのはもっとイヤだ。お前もそうじゃないのか?」
「……」
「ま、選ぶのは自由さ。それに負ける気なんて更々ないし、な!!」
「っ」
「轟!こっちだ!」
「っ!」
9番のマークを外し、轟からボールを受け取る。このまま……!
「させない」
「っ!」
かわしたはずの9番が、いつの間にか追い付き俺のシュートをブロックした。
「……ちぇっ。止められたか」
「……後悔するぞ」
「何を?」
「……ボクを燃え上がらせた事を」
「へっ、望むところ!」
それから、9番のプレーは変わった。丁寧に、チーム全体に目を配りつつ、プレーは真摯。ボールから目を離さない。さっきまでの荒いラフプレーはすっかり鳴りを潜ませていた。
「……」
9番のプレーの変化を、奴のチームメイトが信じられない視線で見ている。
「やれやれ。ボクが普段通りに戻ったっていうのに。つれないチームメイトだ。……ま、自覚はあるけども」
「っ」
9番がボールを持ち、近くにいた俺がマークする。
「……珍しいんだろうな。ボクが戻るのは相手を文字通り叩きのめした後だから」
「プライド高いのも困りもんだな」
「プライドを守ってこそ、男さ」
「っ!!」
速……っ!
カコン。
「……さあ、そろそろゲームセットだ」
「くっ……!」
点差は3点。試合時間は残り……1分。
――……。
「不味いぞ、鳴神」
「分かってる。このままだと……!」
9番の動きが変わってから、流れが一気に悪くなった。それまでは押してたのに……!
「武田め、余計な事をあの9番に吹き込んだな。……そのままファールの餌食になっていればいいものを」
「そ、それはどうかと……」
「……試合時間も残り少ない。轟、ボールを俺に回してくれ」
「何か手があるのか?」
「……ちょっと賭けだが。やらないよりマシだろう」
「……ならば信じるぞ」
点差3点。下手に取りに行っても返り討ちに遭うか、良くて1点差。点差を覆すには足りない。なら……!!
「?」
ボールを受け取り、相手チームがマークをかけてくる。それに気圧されたように見える形で下がる。時間がドンドン短くなっていく。
ドリブルをしながら時間を稼ぐ。絶対に取られないように。絶対にブロックされないように距離を取りながら。
「鳴神、貴様まさか……!」
「……」
轟の言葉に無言で頷き、時間を稼ぐ。呼吸を整える。残り10……9……。
「っ!マズイ!止めろ!!」
「っ」
相手の選手が動くよりも先に、俺が動いた。
足を目一杯曲げ、勢いよく伸ばす。届くように。手はブレず、目はまっすぐ、ゴールを射る。外さないように。
放物線を描き、放たれたボールは滑らかに相手のゴールに……。
スカッ。
「……」
ピッピッピー!!
試合終了のホイッスルが鳴る。俺の渾身のシュートはゴールに当たる事なく、無情にもコートに転がった。
――……。
「整列ー、礼!」
『ありがとうございました!』
相手チームに敬意と感謝をし、コートから離れる。
「……まあ、なんだ。ドンマイ!」
「そうだ、気にする事ないぞ」
「チャレンジする勇気が大切です!」
「……はぁ。なんっで外すかなぁ」
「フォームは悪くなかったと思うがな……こればかりは仕方あるまい。現実を受け止めよう」
「そーそー。現実受け止めて……ドヤされに行こーぜ。ほら、小早川がお待ちかねだ」
武田の言う通り、そこには手招きして不釣り合いな程満面な笑顔の小早川が。……。
「超逃げたい」
「逃げても何も変わらんぞ。……ほら、行こう」
「あ、俺はけっこう頑張ったんでこれで……」
逃げようとする武田の襟を轟が掴んだ。
「逃げられる訳なかろう。貴様が一番の戦犯なのだから。……いや、最早全員が戦犯か」
「ボク達、活躍してませんでしたもんねって、ごめんなさい!!あたかも同列のように……!!」
「いやいい、事実だ。全く気にする必要はないぞ。……そら行くぞ、武田」
「イヤだぁ~!!石角のスパルタ授業コースはイヤだぁ~~!!」
「……はぁ」
これが仮にも準優勝チームの背中だろうか。
その後、約一時間程、小早川の熱血説教を喰らった挙げ句、小早川の放課後スパルタ補講が確定した。
「……はぁ」
「お疲れなのだ、雅文くん」
「……お疲れ」
「おー、美穂に寒菜か。……そっちもお疲れ。優勝おめでとう」
「うむ、ありがとうなのだ」
「……みんな、凄かった」
「雅文くん達も準優勝おめでとう。小早川先生は悔しがっていたが、充分凄いのだ」
「……最後さえ決めてりゃなあ……」
「だねー。ぷぷー。雅文ってばチョーハズーって感じぃー?」
「……」
背後から聞こえてくる声。この煽り方は奴以外にいるまいて。
「いやー。拙者、シュートが放たれた瞬間に“あ、外れる”と理解したでござるよーぷぷっ。ま、雅文の勇敢な姿(大爆笑)を写真に収めたからよしとすあぁあぁぁぁ!!」
美穂が真正面からアイアンクローを、俺は後ろから手を捻り上げた。ほぼ同時、アイコンタクト無しのタッグである、
「雅文くんの努力を笑うとは貴様、人間ではないな?虫けら……いや微生物以下の存在か?」
「い、イヤ最後の外しっぷりはむしろ笑わなきゃ失礼だって美穂ちゅわぁん。で、雅文の勇敢な姿(大爆笑)ならもうクラスの連絡網に載っけたよ。やったね☆」
「「…………」」
「あ、あぁあぁぁぁあぁぁ!!」
体育館内での競技が終わろうとする中、微生物未満の断末魔が響いた。
「ねぇ、凛ちゃん。なんで桐生くんはああやって自分を危ない目に遭わせるような事するんだろうね?」
「バカなのよ。きっと」
「そっかー。私よりおバカさんなのかー」




