勇気を出して、声を出す
午後休憩に入り、なんとなく集まるメンバーで食事をとる。俺、美穂、寒菜、武田、毘釈天とケガから戻ってきた小更浜に轟。うん、平和だ。
「んー、やっぱり体操服っていいよね。いつもと違う格好っていうのもあるけどさ、うっすらかく汗、あがってる息、ほんのり透ける下――」
悲鳴があがる。平和を乱す害虫が天罰を受けている。
「相も変わらず騒がしいな、この男は」
「まあ、桐生だしな」
「彼が黙ってたら天変地異の前触れよね」
「……桐生くんには後でお仕置きしてもらわなきゃ。美穂ちゃんに」
「?何か啓がやらかしたのか、小更浜?」
「え、あ、ううん!なんでもないよ!気にしないで鳴神くん!」
「そうか?……」
小更浜も気になるが、もう一つ気になる事がある。寒菜だ。
「…………」
さっきからオドオドしている。……何かをしようとしてるのか?
「美穂、ちょい」
「うむ?なんだ、雅文くん」
チラッと寒菜を見る。俺の視線に気づいた美穂が声をかける前に、小更浜が動いた。
「寒菜ちゃん、どうかしたの?」
「……」
「美穂と話させた方がいいわよ、由衣」
「あっ、そうだね。ごめんね、寒菜ちゃん!」
「……」
フルフルと首を横に振り、美穂に耳打ちする寒菜。
「……前から気になっていたのだが。錦田は何故、紫紅美としか話さぬのだ?」
「分かってないなぁ、轟っち」
チッチッチッとHIK(人を苛立たせる啓)が指を振り、轟に答えた。
「それはね……乙女の秘密、というやつさ」
「何故なんだ、鳴神?」
「……ふぅ」
完全に啓の答えを無視し、俺に問いかける轟。……理由、か。
「すまん。ちょっと俺も知らないんだ」
「む?そうか。意外だな。親しげだし、知っていると思っていた」
「ボクは知ってるよ!」
「親しく見えても、知らない事はあるもんさ」
「ボクは知ってるよ!」
「鳴神。コイツはどうすれば黙る?」
「息の根を止めたら、恐らく」
「やだなぁ、雅文くん。そんな事したらボクが死んじゃうじゃないKA☆」
「……身体に支障を来す程度ではダメか?」
「むしろ騒ぐから逆に悪化するな」
「あー、うん。それは騒ぐね。痛みでめっちゃ騒ぐよ、ボク」
「つまり、息の根を止めるという選択しかない訳か。酷な……」
「……あれ?いつの間にかボク、死ぬルート辿ってない?バッドエンド向かってない、ボク?」
バカは放置しよう。……この件は勝手に口外していい事じゃないしな。
「……。うむ。いいと思うぞ、私は」
「……」
「あの害虫擬きが大丈夫なら、少なくともここにいるメンバーは大丈夫だ」
「……」
コクン、と美穂に頷いて、オレ達に向き直る寒菜。
少し深呼吸。そして俺、啓と見て、
「……みんな、ありがとう」
賑やかな周りに負けない、小さな澄んだ声で、言葉を発した。
「えっ……」
小更浜と轟が小さく驚きの声をあげる。寒菜は少し緊張しているのか、わずかに早口で言葉を続けた。
「……ありがとう。私を……チームに入れてくれて。……一緒に練習してくれて、ありがとう。……一緒に、ご飯を食べてくれて、ありがとう。……いつも、話しかけてくれて、ありがとう……」
言い終わり、モジモジしながら皆の様子を窺う寒菜。
動き出したのは、小更浜だった。
「かっ……!」
「?」
「可愛いぃーーーー!!」
「ふみゃっ」
勢いよく抱きつく小更浜。目がヤバい。
「なんですかなんですか!!外見や仕草、佇まいだけじゃなく声まで可愛らしいってなんですか!卑怯ですよ!なんでこんな可愛い声今まで発さなかったんですか!いや、理由は今はいいです、とりあえずモフモフさせてくださーい!!」
「……も、もふもふ……?私、動物じゃない……」
「もはや小動物ですよ天然記念物ですよ!!あぁもう、可愛いー!」
「いい加減にしなさい」
「はうっ」
後ろから小更浜を叩く毘釈天。少しため息をついて、寒菜に言葉をかけた。
「ごめんね。可愛いものをみると興奮することもあるのよ、この子」
「……私、可愛くない……」
「そんなことないわ。十二分に可愛いわよ」
「そうだな。可愛いと思うぞ」
「うむ、武田の言う通りだ。可愛いと思うぞ。……小更浜の次に」
……轟の小声にはあえて触れまい。
「……あり、がとう」
「よく声出したな。苦手だと思ってたんだけど」
「……少し苦手。……だけど」
武田の言葉に、寒菜が暖かい声で返した。
「……みんなは、きっと……私の声、からかわない。……そう、思えるようになったから……」
「……なるほど。それが理由だったのか」
「もー、寒菜ちゃん。こんな可愛い声、褒める人はいてもからかう人なんていないよー!」
「……あう」
「そうね。可愛らしい声だから、ファンが増えちゃったりして」
「ちなみにボクは寒菜ちゃんファンクラブ会員No.1です」
「どうでもいい」
「ぶふっ!……ああ、いいパンがくっ」
美穂の裏拳が綺麗に啓に決まる。
「……良かった……ふふっ」
「寒菜。この事、まだ他の皆には言わない方がいいわよね?」
「……うん。……心の準備が……できるまで」
「OK!絶対秘密にするねっ!」
ギューッ。
「……あう。……由衣、離れて。……ご飯、食べたい……」
「あ、そっか。ごめんね」
「……後でならいいからね」
「~~っ!もう、可愛いしかでない!」
ギューッ!
「……あう」
「無限ループだな。……轟、お前それ、どんな表情だ?」
「はっ。……な、なんでもない。なんでもないぞ、我は。通常運転だとも!」
「……そうか」
深くは触れまい。
「由衣、いい加減に離れなさい」
「や~~だ~~!!もう少しこのまま~~!」
「…………あう」
抱きつかれてる寒菜は少し苦しそうだが、幸せな表情を浮かべていた。




