体育祭~個人種目編 その2~
「もうすぐ昼休憩だが、その前に凛の競技があるな」
「アイツ、何の競技だっけ?」
「走り高跳びだ。中学の頃、少しやっていたらしい」
「……応援……行くー」
「勿論ボクも行くよ。仲間の応援に行くのは紳士の努めだしね」
「紳士ってそんな風に死んだり生き返るもんでもないと思うがな、啓」
不死者とでもジャンル括りしておいた方がいいんじゃないか、お前?
「紳士はそうかもね。けどボクは変態紳士にして場を盛り上げる人気者!これぐらいしないとね!」
「場を盛り下げる、の間違いだろう。貴様は。……時間が惜しい。行こう」
他にも応援に行くクラスメートを数人連れ、会場へと向かう。……そういや小更浜と轟、どうしたかな?
――……。
「ん……んぅ……あれぇ、ここは……?」
いつの間にか意識を失っていた私は、真っ白いカーテンで囲まれた、真っ白なベッドで目が覚めた。
シャッ
「あら。気がついたのね」
「佐敷先生……ってことはここ、保健室?」
「そうよ。あなた、彼に運ばれてきたけど……何があったか、覚えてる?」
保険医の佐敷先生の指す先には、ベッドの隣の椅子で腕を組んで眠ってる轟くん。……轟くん?
「……あ」
そうだ。私、ハードル走でこけちゃって。……で、何故か轟くんがお姫様抱っこ……を……。
「…………」
「ふふ。思い出したみたいね。いやー、青春っていいわね」
「ちゃ、茶化さないでください~。……うぅ~」
轟くんめ~……!心配してくれたのは嬉しい、けど……恥ずかしいじゃんか……。
「もう少ししたらお昼休みだし、それまでゆっくりしてなさい」
「……はい、そうします」
凛ちゃんには悪いけど、もう少し休んでよう。代わりにエールいっぱい送るからっ。心の中で。
「さて、私はちょっと巡回してくるわね」
「えっ?」
「サボってる生徒がいないかどうか確認するのも、私の役目なの」
「そ、そうなんですか。……」
「あー、そうそう」
少し小狡そうに笑いながら、佐敷先生が私に告げる。
「今、他に誰もいないし、グラウンドで競技してるからこっちの校舎には殆ど誰もこないから実質二人きりで、保健室っていう魅惑的なワードがあるけど……なにもしないようにね?」
「しませんよー!!」
「あははっ!」
私をからかえて満足なのか、楽しげに走り去っていく佐敷先生。……。
「……轟くん、起きてるでしょ?」
「……何故分かった?」
ジト目で轟くんを見て問いかけると、閉じられた瞳と口が開いて、答えが返ってきた。
「さっきまで船漕いでたのに、今姿勢が一定になってたから」
「……よく見てるな」
「だっていつも、授業中とかそうだもん。先生に呼ばれそうな日は姿勢が真っ直ぐでハキハキ答えて、呼ばれそうにない日は船漕いで、いざ当てられるとしどろもどろで。前にいるから見やすいし」
「……そんなに我の事を注視していたのか?」
「へっ……?い、いやいや!そ、そんなんじゃないよ!?あの、前にいるから目につきやすいだけでそんな、そんな……!」
「……そうか」
あれ?なんか残念そう。……そういえば。
「そういう轟くんこそ、私の方よく見てない?」
「んっ!?い、いやそんなことはないぞ」
「えー。絶対そうだって!だってよく目が合うもん!」
「きっ、気のせいだ気のせい」
「えー……そっかー……」
……意識してくれてるのかと思ったけど、気のせいか……残念。
「……小更浜」
「うん?」
「その……すまなかった。緊急時とはいえ、競技中に」
「いやいや!私こそゴメンね、心配かけちゃって。……運んでくれて、ありがとね。ちょっとあの運び方は恥ずかしかったけど」
「ん、そうなのか?桐生に女子を運ぶ際には、と教わっていたのだが」
「後で美穂ちゃんに告げ口しとこう。本当はそんな事しちゃダメだよ?」
「そっ、そうなのか?すまな――」
「まあ……嬉しかったから、いいけど、さ。今回は」
……なんで微妙にツンデレチックなんだろう、私。
「……そう、か。うん、分かった。……次から気を付ける」
「……」
「……」
き、気まずい。……ゆっくり、なんて言われたけどもう戻ろうかな。雰囲気が辛すぎる……!
「わっ、私そろそろ戻……」
「わっ、我もう戻……」
まさかのピッタリなタイミングで動き出した私達。お互いに踏み出した位置も悪くて、
「きゃっ!」
「うぉっ?」
ドサドサッと倒れ込む私達。
「いた……くない?……~~っ!!?」
轟くんが咄嗟に庇ってくれていた。……お陰で痛くはない、けど……!!
「だ……大丈夫か、小更は……!?」
轟くんを覆い被せるような形で私が四つん這いの体制になっていた。
『――二人っきりの保健室』
ダメダメ!!何を考えてるの由衣!!私は清く正しい交際をしたいの!!こんな淫らなのじゃなくて!!
「こ、小更浜……退いて、くれるか?動けん」
「う、うんっ。ごめんね!……って、アレ?」
足が動かない……なんで?まるで誰かに押さえられてるみた――
「……」
「……」
足の方を見ると、立ち去ったはずの佐敷先生。
「……見ないからっ」
「違っ……!そういうのじゃないですからぁー!!」
私の真っ赤っ赤な声が静かな保健室を揺らした。
――……。
「盛り上がってるな」
「お、武田」
そろそろ毘釈天の番か、と思いグラクンドに向かうと、鳴神達がいた。
「む、どこにいたのだ武田?」
「ちょっと寝てた」
「こら。ちゃんと応援しないか」
「してたさ。夢の中で」
「……後で小早川先生に告発するとしよう」
「午後はちゃんと応援すっからやめて」
あのモードの小早川はめんどくさい。マジで。
「…………」
「む?……そうだな。応援に集中せねばな」
錦田の目線に答えを返す紫紅美。息ピッタリだな。
「お……おぉ……今のは中々……いいラインで」
「美穂、頼む」
「任されたなのだ」
「ギャアァーー!!……あ、柔らか……い……ガクッ」
……コレはコレで息ピッタリ、なのか?
「お、毘釈天の番だ」
クラスの応援が白熱する中、毘釈天が飛ぶ。
「……クリア!」
歓声が上がる。今回の走り高跳び、経験者が集まってるのもあってか、クリアラインのレベルが高い。
このまま上手く進むといいが……。
「……クリア!!」
ふぅ、と安堵の溜め息が漏れる。飛び越えられなかったら脱落のこの競技。残った参加者は三人となっていた。
「凛、凄いな。危なげなく跳んでる」
紫紅美が感心するように言う。実際凄い。残りの二人も実力者なのに危ないところが何ヵ所かあった。が、毘釈天はそれがなかった。しかし……、
「……それがプレッシャーにならないといいが」
何周目か分からない順番が回ってきた。毘釈天は三番手。前の二人は既にクリアしている。
「っ!」
走りだし、大きく外に弧を描き、踏み切る。
「っ!」
間一髪。危なげなくクリアしていた毘釈天がバーに足を触れかけた。かなり際どかったが、幸いにもクリアの判定。
「あ、危なかったのだ……」
「武田、もしかして毘釈天のやつ」
「ああ。疲労とプレッシャーだな。次は危ないかもしれん」
「……武田、声をかけてやらぬか?キミの応援ならば、あるいは」
「いや、逆効果だろ。変に力むと思う。俺への対抗心で」
「……そうか。……どうしたら」
「見守るしかないだろ」
ハタ、と毘釈天と目が合う。数秒見合った後、ほぼ同時に視線を外した。
「――次、毘釈天」
「はいっ!」
名前を呼ばれ、立ち上がる。呼吸を整え、スタートラインに立つ。バーが高く見える。
先に跳んだ二人は苦しくもこのバーに破れ去り、私の挑戦を待っている状態。
跳べれば勝利。跳べなかった場合は全員再挑戦。……私の足の疲れから考えて、次の再挑戦で跳ぶのは難しそう。つまり、事実上の最終挑戦。
「……」
緊張で少し足が震える。クラスメートが見つめる中、少しで済んでいるのは武田が私を見てこう言っていたから。
「肩の力、抜けよ」
「……ふっ」
読唇術使えるって言ってたっけ、私?……ま、いいや。
「……」
足に力を込める。振る腕に力を込める。……肩の力は抜く。
最後の跳躍に向かい、走り出した。
――……。
「おめでとうなのだ、凛!」
跳躍を終えてみんなの所に行くと、賛美の嵐が飛んできた。……ちょっと照れくさいな。
「かっこよかったぞ、毘釈天」
「……!」
「うんうん。惚れ惚れする跳躍だったよ。足のラインなんか、もう……っ!」
最後のは無視しよう。
「おう、お疲れさん」
「武田。……ありがとね」
「気にすんな」
「む?何かしたのか、武田?」
「ちょっとな」
「むぅ?」
美穂が首を傾げるけど、ふふっ。なんとなく、黙っていたい気分。
この応援のお返し、午後にしっかり返さないとねっ。




