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体育祭~個人種目編 その1~

体育祭の種目は個人種目とチーム種目、そして最後にクラス全員参加のリレーとなってる。


二日間に渡って行われ、初日は個人種目、二日目はチーム種目とクラスリレーだ。


『――宣誓!我々、生徒一同は、各々が培ってきた絆と力を充分に発揮し――』


開会式。美穂が代表宣誓を行い、いよいよ始まった。最初の競技は……、


「100mリレーか。では行ってくる」


「おう、頑張れよ」


「ふふ。雅文くんに応援されては一位を取るしかないな」





『位置について、よーい』


パンッ




結果だけ言うと、美穂が参戦した100mリレーは圧勝だった。陸上部のエースやら体育会系が多く参戦していたにも関わらず。


「ふぅ、いい汗をかいた」


「お疲れ。めっちゃ速かったな」


「走るのは好きだからな。バイクだけではなく、走り込みも毎日行っているんだ」


「それでよく成績維持できるな……時間無くないか?」


「作ろうと思えば時間は作れるものだ。雅文くんも試しにやってみるか?」


「……。じゃ少しやってみようかな」


「ふふっ。了解だ」


『続きましてはー、男子ハードル走ー』


「ハードル走……確か啓だな。出るの」


「ならゆっくり休めるな。興味もないし」


「それもそうだな」


「少しは興味持とうよぉっ!!」


「成敗!!」


「ぐふぅん!!」


突如現れた泣き顔の何か……まあ、啓なんだろうが。を、一切の迷いなく正拳突きで吹っ飛ばす美穂。


「あふぅん……いい、すっごいイイ……!」


「美穂。気持ちは分かるが殴っちゃダメだ」


「無理だ……!雅文くん、キミは触覚の生えた黒いアレを放置できるか?できないだろう?それと同じだ」


「完全に害虫認定じゃないか。……まあ、分かるが」


「分かっちゃうのか~……ふふふ。でも、殴ってもらえるなら害虫も悪くないかも?ふふ、ふふふ……」


「ほら見ろ雅文くん!あの害虫あんなこと言ってるぞ!やはり奴は人類の、いや地球の敵だ!」


「女の敵、で止めてやってくれ」


「ふふ、ふふ……美穂ちゃんにかまってもらえて元気100倍だよ。今のボクならオリンピック制覇も夢じゃない!」


「…………」


とりあえず距離を置いて、ゆっくり啓から離れた。美穂も離れるなら、と快諾してくれた。


――……。


「よっ。こんな所でなーにしてんだ?」


「……。武田か。今は休憩中だ」


「今、名前思い出すの時間かかったろー?」


「……すまん」


「いーよ。名前覚えるの苦手そーだもんな」


よっこいしょ、と俺の見つけた休憩スペースに腰かける武田。


「紫紅美は?」


「美穂は今、生徒会で奔走中だ」


「こーいう時、役職に就いてると大変だよなー」


「お前はなんでここに?」


「いやー、競技が午後からなんで暇なんだ」


「なんだ、俺と同じか」


俺の競技も午後。特別見たい競技がある訳でもないから暇だ。


「さっき啓のやつ、凄かったぜ。練習ん時と段違いに速かった。なんか良いことでもあったんだろうな」


「……そうか」


もう奴は普通の人間としての人生を送れないな。


「……鳴神」


「ん?」


「紫紅美とどこまでいったんだ?」


噎せた。


「がほっ、ごほっ!!……き、急になんだ?」


「いや、夏休み開けてから急に名前呼びだからさ。進展あったのかと」


「……進展はないが、プールに行ったりはしたな」


「おー。エンジョイしてんな」


「……まあ、な」


確かに例年の夏休みではああいった経験はしなかったな。


「ま、これからも楽しんでけよ。青春は短いんだし。紫紅美と向き合って、気持ちを固めるといいさな」


「……そういうお前はどうなんだ?」


「俺?」


武田の、なんか高みからのアドバイスにムッとしたんで逆襲する。


「毘釈天とだよ。練習中、なんかいー雰囲気だったが?」


「……。いや、そーいうんじゃないぞ。なんつーかアレだ。ライバル心だ」


「ライバル心?」


「コイツには負けたくないって思いがあんだよ。多分あっちもだな」


「ほー」


ライバル心、か。なるほど。


「ま、信じる信じないは自由さ。あっちの話を聞いた訳でもないからな。ただ」


「ただ?」


「仮に俺か毘釈天のどっちかにそーいう想いが芽生えたら面倒だぞ。意地張って相手に告らせようとするだろうからな」


「自己分析できてるなら、お前にそういう気持ちが芽生えても大丈夫なんじゃないか?」


「コレばっかはな。そん時の気持ち次第さ。……話は変わるが、鳴神。お前、轟と小更浜のこと、どう思う?」


「轟が一生懸命なのは伝わるが……実らせるのは大変そうだと思ったよ」


「……ああ」


何故か武田が残念そうに俺を見る。


「紫紅美、思いきって告ったの正解だな……」


「なんでそうなった?」


「……いや、なんでも」


よっ、と言葉を濁し、その場を後にする武田。……なんなんだ?


「ったく……。……。動くか」


クラスメートの応援ぐらいしとかないと、小早川にあーだこーだ言われかねないな。そう思い直し、グラウンドに戻った。



「おい、鳴神。どこへ行っていた?」


グラウンドに戻るなり、噂をすればとやらか小早川が剣呑な顔つきで俺を一睨み。……タイミング、ミスったな。


「ちょっとトイレっす」


「そうか。さっき俺はトイレに行っていたんだが、見なかったぞ?」


「校舎の方に行ってたんで。俺が行った時、運動場の方混んでたんすよ」


「……まあいい。ほらお前も応援するぞ!」


ガシッと肩を組まれる。暑苦しい事この上ない。


「……ちゃんと応援するんで離してください。パワハラっすよ」


「いけー!そこだ抜かせー!!」


「聞いてねぇし……」


「自然と離れるまで待つが吉だぞ、鳴神よ」


メガネを直しながらテントにいた轟が声をかける。


「無理に抵抗すればする程、無駄に体力を使う。……我が実験台となったからな」


「……お前の犠牲を無駄にしないようにすっか。はぁ、面倒な」


「ちなみに今日の小早川のテンションはここ一ヶ月の中でも最も異常だと伝えておこう。なにせ、競技が終了した女子に抱き着こうとしていたからな」


「もう退職でいいんじゃねぇかな、この教師」


「もうちょい気合い入れろー!追いつかれんぞー!」


「故に、さっきから石角が警戒モードだ」


「……マジだ。ずっとこっち見てやがる」


ここ、居づらっ。


「なに暢気に会話してんだてめぇら!腹の底から応援しねぇか!」


「……付き合うぞ、鳴神。余計に面倒になる前に」


「……帰りてぇ」


しばらく小早川の求むままに応援し、小早川が競技終わりの選手にダッシュで向かったのを確認した瞬間、轟と一緒に逃げ出した。


「やれやれ。とんだ災難だったな、鳴神」


「まったくだ。お前、競技は?」


「午後からだ。お前も確か午後だったよな、鳴神」


「へー。覚えてたのか」


「なに、一緒に練習に励んだ仲間の競技くらいは把握しておかねばと思っただけだ。ちなみに、女子の一緒に練習した面々は午前中の競技だ。紫紅美と毘釈天が競技を終えている。まあ、毘釈天はもう一つあるが。どっちもぶっちぎりの一位だった」


「てことは、寒菜と小更浜はまだか」


「小更浜はちょうどこれからだな。どうせだし観に行こうか」


「轟」


「なんだ?」


「そう言いながら座って場所取りしてる辺り、始めからそのつもりだったろ」


「ちなみに小更浜はハードル走だ。練習は人一倍していたし、いい結果を出せるだろう」


「小更浜が懸命に練習してたの見てたんだな」


「……おっ。そろそろ競技が始まるようだぞ」


二連続スルーか。まあいい。


グラウンドの限りなく隅に近い所で、一定区間を設けハードルが設置されている。


6レーンの走行コースの中で、一番俺たちから見えやすい手前側のレーンに小更浜の姿。緊張しているのか、胸に手をあて、呼吸を整えている。


「位置について――」


審判が合図し、全員がクラウチングスタートの姿勢を取り、


「よーい」


パンッと空砲がした瞬間、全員が走り出す。小更浜の走り出しは悪くない。他の選手と並んでいる。が、


「……っ」


ハードルを一つ、一つと越える度に少しずつ他選手たちとの距離が離れていく。他選手が単純に速い。


「っ!!」


居てもたってもいられなくなったのか、轟がおもむろに立ち上がり、


「小更浜ー!!頑張れー!!」


文字通り腹の底から声を出し、エールを送った。


「えっ、轟くっ!?」


轟に非はない。小更浜にも非はない。惜しむらくは小更浜が轟の方を見てしまった。ただそれだけ。


思い切りハードルに体をぶつけてしまった小更浜は体勢を崩し、そのまま真正面から倒れた。


「ったたぁ……あ」


現実は無情だった。その間に他選手はゴールしていたのだから。


「っつつ……!」


立ち上がり、なんとか競技を続けようとする小更浜。だが、思いがけない事が起こった。


「へっ!?」


轟が小更浜をお姫様抱っこしていた。


「先生、小更浜を保健室に連れていきます!!」


「え、あ……」


審判の先公の反応も待たず、人一人抱えてるとは思えない速度で、轟は走り去った。


「…………」


呆然とする審判の先公。事故もそうだが、選手がこんな形でいなくなる事例は経験した事があるまい。小更浜の怪我はパッと見た感じだが殆ど無かったように思うが……まぁ。


「なんというか……しそうな気はしたよ、轟」


第一に惚れた女の心配をする。それが恋というものなんだろう。


「……寒菜もこれかららしいし、応援に行くかね」


行ったら面倒な奴と書いて啓と出会いそうだが……スルーしよう。うん。


「プログラムだと……借り物競争か」


高校で借り物競争やるとこなんて珍しいよな、と思いながら競技が行われてる場所に向かう。


「お、雅文くん。寒菜の応援に来てくれたのか?」


競技の場所に到着すると、既に美穂がいた。手には啓だったもの。


「……。おう、応援ぐらいはな」


「うむ。応援は人の力になる。雅文くんの応援ならば寒菜も喜ぶだろう」


グチャリと美穂の手から落とされる何か。ツッコむまいとしてたがムリだ。


「美穂、それは?」


「うむ?……ゴミだな」


「ゴミか」


「うむ。後で焼却炉に運んでおこう」


美穂の闇見たり。……そして、こうまで言われて蘇ってこないってことは啓も人だったんだなと知って一安心。


「クラスの何人かも来てるな。ってか、小早川は?」


「石角先生に連れられてどこかへ行ったぞ」


小早川、ざまあ!


「……由衣の姿が見当たらないな。応援に来ると言っていたのだが」


由衣……?あ、小更浜か。


「小更浜はさっきちょっと怪我してな。轟が保健室に連れていった」


「お姫様抱っこか!?」


「……。まあ、そうだったな」


「やはりそうか!傷ついた女性はお姫様抱っこが一番!轟、分かっているではないか!」


「……あー、美穂もそういうシチュエーションに憧れてる感じ?」


「うむ!一度はされてみたいものだ!……まあ怪我することはあまりないんだがな」


……ふむ。


「と、ところで話題を変えるが、轟はもしや由衣に気があるのか?」


「……かもな」


少しぼかした。この手のは本人の同意無しにペラペラ話すものじゃないだろう。仮にバレバレだったとしても。


「やはりそうか!うむ、私もそうなんだろうと思っていたのだ!いいなあ、青春だな!」


「…………」


『位置について――』


「む。始まるみたいだ」


美穂の言葉で視線をそちらに向けると同時に空砲が鳴った。


走り出しはまずまずといった所で、丁度中間くらいの順位で寒菜がお題が置かれた場所に着いた。


「…………」


置かれてる紙の中の一枚をめくり、しばらく思案する寒菜。やがて何かを思い付いて走り出し、


「はっ……はっ……雅文、美穂……来て」


俺達の所に来た。……俺達?


「構わないが、お題はなんなのだ寒菜?」


「……着いたら説明するから……早く」


「うむ。行こう、雅文くん」


断る意味もないし、連れられてゴールへ。


「一着、おめでとうございますわ。寒菜様」


「……ありがとう」


ゴール地点にいたのは係員の腕章を着けたお嬢様だった。お前、役員だったんかい。


「申し訳ありませんが、お題を確認させて頂きますわね。借り物はお二人、ということでよろしいですか?」


「よろしくねぇよ。なんで走者をカウントして俺をカウントしねぇんだよ」


「……。では、こちらのお二人。お題は……なるほど」


少し悩むお嬢様。やがて答えを出した。


「不正解ですわ!」


「……そんな……!」


少し目尻に涙を浮かべる寒菜。一瞬、うっ……と心が動いた様子のお嬢様だが、判定は覆らない。


「いくら寒菜様でも、これは見逃せませんわ」


「お題はなんだったのだ、俊華?」


「……コレでございます」


お嬢様が見せた紙には、大きくこう書かれていた。


“お似合いの二人”


「……。正解だろう!」


一瞬言葉を失った美穂だったがすぐ我に返り、強く主張した。


「いいえ、不正解ですわ!美穂様にはもっとお似合いの方がいらっしゃいますわ!」


「いないのだ!私には雅文くん以外あり得ないのだ!」


「今はそう意固地になるかもしれません。ですが、いつかきっと分かってくださるはずです。……貴女にはもっとお似合いの方が必ずいますわ!」


「ここまでの恋心、人生でもう二度も訪れない程の情熱を持っているのだ!お似合いの人など、他にはいない!」


「「ぐぐぐ……!!」」


意見が衝突し、珍しく真っ向からぶつかり合う両者。俺としては恥ずかしいことこの上ない。


「……雅文、愛されてる、ね……!」


「頼むから大声でやめてほしい、いたたまれない……!」


「なんだ、何を揉めてる?」


両者の衝突に入り込んだのはハゲの石角だった。石角、頼むから場を荒らさないでくれ頼む。


「石角先生!これはお題にそぐわないですわよね!?」


「否!雅文くんと私ほどこのお題にピッタリな者はそうはいないのだ!」


「落ち着け。なんだ、お題で揉めてるのか?ったく、どんな内容……」


紙を見た石角は、似合いもしないのに目をパチクリさせる。


で、この場の状況を凝視し、関係人物を一瞥した後、


「……これはお題通りでいいだろう」


少しため息をついて答えを出した。


「なっ……!」


「ですよね、石角先生!」


「まあ、それでいいだろ。校内公認のようなものだし。得点係に伝えておくぞ」


「…………」


口を開けたまま、固まるお嬢様。先公にまで認められてるとは思ってなかったのか、ショックは大きそうだ。


「雅文くん。校内公認だそうだぞっ。嬉しいなっ」


「……ああ」


そうか。それで最近視線が痛かった訳か。はは……。


「?何故放心状態か分からぬが……ひとまず寒菜、一位おめでとうなのだ」


「……ありがとー」


美穂に撫でられ、目を細める寒菜。その愛くるしさに男子の目が集まる。


「おい、今日の氷姫可愛くね?」


「オレは最初からそう言っているだろう。可愛いと」


「いや普段もそうなんだけどさ、二学期入ってから可愛さ増してね?紫紅美とかといる時だけどさ」


「……あの変態紳士、啓が遂に氷姫の心を溶かしたか」


「くっ、けど奴の行動力を前にしては何も言えない」


「丸々一学期の間、氷姫に当たっては砕け、当たっては砕けを何千回と繰り返したからな。俺には真似できん」


「けどな、それでサラッと恩恵を受けてる、許せない奴が一人いるんだ」


「奇遇だな、俺もだ」


「「おのれ、鳴神……!!」」


なんか、更に視線が痛くなった気がする。

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