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女子とプールはやっぱり緊張する

「夏だ!」



「……海だ」



「プールです!」



「ひゃっほーい!!」



女子三人が意気揚々と駆け出す。元気だな、オイ。



「熱中症にならないように気を付けろよー。……聞こえてるか、あれ?」



「フフ。多分聞こえてないのだ。でも微笑ましいではないか」



「はしゃいで後半にバテなきゃいいけどな」



なぜプールに来ているのか。それは数日前のこと。



「プールのチケット?」



「……うん。……親戚のおじさんがくれたの。……五人分。……よかったら、一緒に行かない……?」



美穂の家にて、寒菜がその話をしたのがキッカケだった。



「五人分か。私と雅文くん……それでも二人余るな」



「……啓もいるから、あと一人」



「えっ、アイツを誘うのか?」



「……新しい水着買ったから……ちょっと見せたい」



「雅文くん……!寒菜が、寒菜が……!」



「おーよしよし。気持ちは分かるが咽び泣くな」



ハテナマークを浮かべる寒菜と悲しむ美穂。啓については俺の意見を言っとくか。美穂には悪いが。



「美穂。男子一人は気まずい。気は進まんだろうが、アイツも誘おう」



「雅文くん……雅文くんまで……!」



さめざめと泣く美穂。……うん、マジですまない。俺としては男子は誰でもいいが、話しやすさで言ったら啓なんだ。すまん。



「あと一人……どうしよう?」



「ツインテでいいんじゃないか?」



「……玲奈のこと?……私はいいよ」



「ぐすっ。……ちなみになんで玲奈なのだ、雅文くん?」



「啓が暴走したときのストッパーになるからな」



「……啓、プールだと走る……の?」



「まあ実際に行ってみれば分かる。で、どうだ美穂?」



「うぅ……分かったのだー」



その後、それぞれ誘ったところ、啓は二つ返事で、ツインテは美穂と寒菜が決め手になって行くことに。



てな訳で本日、俺たち五人はプールに。男の着替えは早い。俺と啓は一足早く準備が済み、人が犇めくプール会場に着いた訳だが。



「ふふふ。あの子スタイル抜群だねぇ……。おっ、あそこの子もなかなか」



「監視員さーん」



「まあ待ちたまえ、雅文くんよ」



ガシッと肩が掴まる。ここまで力を入れられたのは初めてかもしれん。



「今、知り合いの女の子がいない今しか!この絶景を心穏やかに拝むことはできないんだよ!?なのになんでそれをぶち壊そうとするかなあ!?」



「日本の平和のため」



「……ボクは日本を脅かす程の存在なのかい?」



「変態はだいたい日本の将来を脅かすものだ」



「それだと日本はもうおしまいじゃないかー。日本の男の99%は変態だよー」



「各所に怒られかねない発言するな」



ぶつくさ文句を言う啓を放ってストレッチを始めようとすると、



「雅文くん、お待たせしたのだ!」



「さあ、目一杯はしゃぐっすよ!」



「……おー」



女子三人の艶やかな水着姿が降臨した。



「ふんっ!」



「ふっ!」



ガシッと手が掴まる。くっ、読まれてたか。



「甘いよ雅文。女の子三人の水着姿を見せまいと目潰しするのは分かってたんだからね!」



「ならばぁっ!」



「くっ……!」



もう片方の手も防がれたか……!



「……なにをしているのだ?」



「ちょっと軽い運動をな……。美穂、似合ってんな」



「そっ、そうか?」



「ああ。なんかふわふわしてんのが可愛くて美穂っぽい」



「てっ、照れるな……」



「……ちなみにそれ、オフショルビキニっていうの。……私のはチューブトップ」



「寒菜ちゃん……」



「……どう?……似合う?」



「最高です……!」



啓が鼻血を流し始めてる。早い話、寒菜の水着はこう……結構谷間が見えてるやつで……寒菜、やっぱ大きいな。



「啓、プールを血で染めるな」



「びや、だっでごれ……」



「ツインテ見て心落ち着かせろ」



「なっ、なんでウチを見させるんすか!?ってかどういう意味っすか!?」



マジマジとツインテを見る啓。たじろぐツインテ。



「……落ちついばぎゃっ!?」



「どういう意味っすかあ!!」



ツインテは普通のビキニ。何がとは言わんが小さいため、心が落ち着きやすくなる安定剤だ。等と思ってたらツインテが首に手をかけてきた。



「落ち着くってどういう意味っすかぁ?そしてなんでアイツは落ち着いたんすかぁ?」



「後者は知らん。本人に聞け。落ち着くってのは……ほら、お前のって攻めた水着でも可愛らしい水着でもなく普通にシンプルなやつだろ?普通の水着を見ることでアイツの不埒な考えが飛んで落ち着くだろうっていう」



若干首が絞まりかけながら言った俺。我ながら凄いと思った。



「……まあ、いいっす」



なんとか誤魔化せた。セーフ。



「次、怪しいこと言ったら完全に締めるっすからね」



「OKだ。気をつけよう」



「……啓、大丈夫?」



「寒菜さん、そんなの放って行くっすよ」



「え、でも……」



「そうですよー。啓さんは変態さんだから自業自得です」



「っ!!?」



「あ、麗っち。来てたんすか」



ツインテが何の驚きも無しに突然現れた妹、麗に反応する。……聞き慣れない呼称をつけて。



「麗、なんでここに?」



「兄さんがここ数日、妙にウキウキしてたので玲奈っちに聞いて来たんです。もー兄さんったら水くさいですね。誘ってくださいよ」



「すまん、チケットの関係で……てか、麗。ツインテと知り合いか?」



「ツインテって玲奈っちのことですか?はい、この間の件で意気投合しまして」



「この間の件?」



「兄さん拉致事件ですよ」



「ああ……そんなこともあったな」



「今や心の友とかいて心友っすよ!」



「なんつーか……意外だな」



「そうですか?」

「そうっすか?」



「まあ、仲が良いのは良いことだ」



こうして人の輪って思わぬ形で広がっていくんだな。



「…………」



「あ……もしかして寒菜さんですか?初めまして、兄さんがいつもお世話になってます。妹の麗です」



「…………」



「あー、麗。寒菜はな」



説明しようとしたその時、



「……初めまして。……錦田 寒菜です」



寒菜が言葉を発した。



「寒菜……」



「……私も、少しずつでいいから……変わりたい。……よろしくね、麗さん」



「……呼び捨てでいいですよ、寒菜さん!こちらこそよろしくお願いします!」



「……知らぬ間に寒菜も成長しているんだな」



「きっと、美穂のお陰なんだろうな」



「いや、雅文くんのお陰だろう」



「じゃ、どっちもってことで」



「ふふ、そうだな」



「さーて、麗っちも合流したところで……今の季節は何っすか?はい、そこの!」



「そこのって……夏だろ?」



「ノンノン。今は……夏だ!」



「合ってんじゃねぇか」



「雅文くん、恐らくノリの問題なのだ」



「ノリ間違えたら答えも不正解とは厳しいな」



「もう一回行くっすよ。今は……夏だ!」



「……海だ」



「プールです!」



「ひゃっほーい!」






――というような事があり、冒頭に至る。まあ何よりも、



「まずは柔軟体操しような。足つるぞ」



「アタシら若者にそんな物はないっす!行くっすよ、麗っち、寒菜さん!」



「はいです!」



構わず駆け出す二人。戻ってきたのは寒菜だけか。



「俺らだけでもしっかりやろうなー」



「うむ。慢心は怪我の元なのだ」



「……安全第一」



しっかり柔軟体操をし、シャワーを浴びて、まずはツインテ達が向かった流れるプールに向かう。



「……」



「……」



「がぼぼぼ!がぼぼぼ!」



なんか、流れるプールなのに流れない人がいるんだが。具体的には何故かいるお嬢様がジッとこっちを見てるんだが。とりあえず形式的に聞くか。



「なにしてんだ?ツインテと二人がかりで啓を沈めて。てか、なんでここに?」



「美穂様いるところには私も必ず居ります。努々忘れませぬよう。この方は不埒な発言をなされていたので、少々折檻を」



「あー…………」



どっちも納得した。



「美穂様。こちらは処理しておきますので、どうかお楽しみを」



「うむ。任せたぞ」



「かしこまりました」



「お任せくださいっす!」



深い闇を見た。寒菜も止めないあたり、この件には手出ししない方がいいのかもしれない。



そっと離れ、流れるプールの入口から体を慣らすためにゆっくり入る。



「うおぉ……!やっぱ冷てぇ」



「……でも気持ちいい」



「うむぅ。この水が流れていく感覚がたまらないのだ……!」



「あ、兄さん」



「おう、麗。お前はアレに参加しなかったんだな」



「アレって啓さんのことです?まあ、あのお二人で充分そうだったので良いかなと。私も楽しみたいですし」



「そういうとの割と冷静に判断するよな、お前」



「楽しみたいんですよ、兄さん……!」



「?」



寒菜に危険な目を向けていたので遮る。



「なんでちょっと警戒されてるんですか!?」



「自分の心に聞けよ」



色々と時間を食ったが、本格的にプールを楽しみ始める。



美穂は泳げないため、プール内を歩いているが、それはそれとして楽しんでいる様子で。



「まっ、雅文くん!ここ!ここから水が噴出しているのだ!」



「そりゃ流れるプールだからな」



「……流されてみたいのだ」



「やめとけ。溺れるぞ」



「だっ、誰かと一緒に流されたらどうにかなる気がするのだ……」



ジッと俺を見る美穂。……言いたいことは分かったが。



「その根拠はなんだよ」



「こ、根拠なんてないのだ!ただ……ギューッてされたいのだ!あと流されたいのだ!」



大声で言うもんだから少し離れてた麗や寒菜、そして他の客が振り返る。



「声が大きい。俺はやらないから他の奴に頼め」



「わ、ちょっ、まっ、置いてかないでほしいのだー!!」



ザブザブと先に進むと、先に進んでいた麗と寒菜が近づいてきて口々にこう言う。



「兄さん。美穂さんの望み、叶えてあげましょうよ」



「……美穂、可哀想」



「あのな、んなことしてみろ。一気に変に注目集めんだろ。知り合いでもいたらことだ」



「兄さん、言うほど知り合いいないじゃないですか」



「……変な注目は集めたくない」



「……そう、だな。雅文くんは目立つのが嫌いだものな。……すまない」



見るからにシュンとする美穂。麗と寒菜がジーッと口を尖らせ見てくる。……なんで俺が悪者の展開に。



……ああ、もう。



美穂の手をギュッと引っ張った。



「雅文くん?」



「……一度だけな」



「一度だけって?わっ!」



ザブザブと噴出口の方に美穂を連れていく。立ってるだけでも少しよろめくな。



「……手繋いでてやるから、流されるぞ」



「え……」



「3……」



今さら抵抗なんて許しません。強制的にカウントダウンを始める。突然で美穂は一瞬驚いていたが、やがて微笑み準備を始める。



「2……」



「雅文くん」



「1……」



「この手、絶対離さないぞ?」



「0!」



水中に顔を埋める。美穂が体の力を抜いたところで俺も力を抜く。



水流の強い流れが美穂を、そして俺を襲う。激しい流れの中、最後まで手を放さなかった――





「ぷはっ!……あー、楽しかったのだ!」



「そうか。そりゃ良かった」



「うむ!ザバーンと流れて体がこう、プカーとしたのだ!雅文くん、ありがとうなのだ!」



「礼ならアイツらに言え。ってアイツらはどっ!?」



まず右足に強い衝撃が襲い、背中に柔らかい感触が当たった。しかしそれを認識し終える前に、俺は水中に沈んだ。



「ぶはっ!……なんだ今の?」



「ごめーん、兄さん。大丈夫?」



「……イタかった?」



「なんだお前らか。何してたんだ?」



「寒菜さんの浮き輪に捕まって泳いでました!」



「……ました」



「さっきのはそれか。浮き輪どうしたんだ?」



「死にかけの啓さんから頂きました。寒菜さん用に買ったそうで」



「……浮き輪でプカプカ……楽しい」



「まあ寒菜って見た目少し幼いから合わなくはないよな。一部分を除いて」



「……一部分?」



「よーし美穂、泳ぐ練習するか!流れるプールだからスイスイできるぞ!」



「うむぅ?突然だな。でもいいな!よしやろう!」



「……わたしも手伝う」



意気揚々とはしゃぐ美穂と気をそらした寒菜。うし、ごまかせた!



「兄さん、今のセクハラですからね?」



……ごまかせてなかった。





「ふぅ。少し休憩なのだ」



「……わたしも。……疲れた」



「こんなにはしゃぐの久しぶりです~」



「じゃ、みんなの飲み物買ってくるよ。何がいい?」



「ありがとうなのだ、雅文くん。私はスポーツ飲料でよろしくなのだ」



「兄さん。私も美穂さんと同じで!」



「……私、カル○ス」



「おーう」



美穂たちと離れ、売店に向かう途中、流れるプールに啓がプカーと浮かんでいるのが見えたが気にしないことにした。



「ありがとうございましたー」



4本持つと嵩張るな。少し持つのに苦労しながら美穂たちの所に戻ると異変が起きていた。



「ねぇ、嬢ちゃんたちだけっしょ?だからお兄さんたちと泳ごうって」



「何度言えば分かるのだ!他の人とも来てるし、第一そんな誘いお断りなのだ!」



美穂たちが男三人に囲まれていた。理解した途端、体が動いた。



「あのー、俺のツレになんか用っすか?」



「雅文くん!」



「うわ。マジでヤローいやがったよ。っつーか冴えそうねえなあ」



……は?



「こんな冴えないヤローよりもオレたちと遊んだ方が絶対楽しいって」



「そーそー」



「……へー、そう。俺にとってはお前らの方が邪魔で有害でリサイクルさえできないゴミクズだけどな」



「……あ?」



「ま、雅文くん!?」



美穂の止める声が聞こえたが止まらない。こういう奴らが一番ムカつく。人に迷惑かけておきながらなんとも思ってないどころか、より迷惑をかけようとする奴らが。



「冴えないねぇ。俺はごく一般的に冴えてる部類だと思ってるけど?少なくともアンタら学のない低俗で下劣なヤロウよりはよっぽど。あ、ゴメン。学はあるか。義務教育あるもんな。小卒?」



ガッと胸ぐらが掴まれる。気づけばナンパ野郎三人に囲まれていた。



「てめぇ、言ってくれんじゃないの。おぉ?」



「女の前でカッコつけたかったんだろうが……逆らった相手が悪かったなあ」



「そーそー」



「ま、雅文くん!」



「来るな、美穂!俺だけで充分だ」



美穂たちは巻き込ませない。絶対に。



「雅文くん……!」



「俺だけで充分?生意気だなぁ、おぉ!?」



「逆らうにも限度があんだぜ……?」



「そーそー」



「逆らう?アンタらみたいな社会のゴミに、そんな逆らう程の権力あったんだ。てっきりアリ並の権力だと思ってたわ。あ、比喩とかじゃなくてまんまな」



「ブッ潰すッッ!!」



胸ぐらを掴んでいたナンパ野郎が拳を構える。口は災いの元、とはよく言ったもんだ。が、俺もただでやられるつもりはない。一発殴られたら殴り返そう。……まあ、三人相手に勝てるわけないが。



いつ殴られても不思議じゃないそんな状態で、



「およよ。こりゃあ美人な女の子たちだぐへへ……。さ、ローアングルで1まげぼぉっ!」



不愉快な声とバキッという音が響き、張り詰めていた空気が壊れた。



「貴様は!この、非常事態に!なにを!気味の悪い声で!気持ち悪いことを!言っているのだぁ!!」



啓が美穂から怒涛のスタンピングを喰らっていた。



「あふぅん!!……もっとください!」



「地獄で死んでこいー!!」



「ありがとうございますっっ!!」



なおも止まないスタンピング。そこに加勢が来た。



「姉御!加勢するっす!」



「私も。……あなた方も共犯で?」



ツインテとお嬢様が来た。気迫に加え、お嬢様は竹刀を構えている。……どこに持っていたかは聞くまい。



気迫に押されたか、あるいは啓の形状がどんどん変化していくのにビビったのか、



「いえ、なんでもないっす!自分たち、失礼するっす!」



「塾あるンで!」



「そーそー!」



ナンパ野郎どもは一目散に退散した。



「――っと。こんくらいでいいっすか、姉御?」



「もう一踏ん張りなのだ」



なおも踏みつけられていく啓。



「雅文様、ご無事でいてしまいましたか」



「いてしまったよ。悪かったな」



「美穂様を守ろうと立ちはだかったこと、心の上辺で感謝しております」



「あれだな。ここまで徹底されるとむしろ清々しいわ」



お嬢様の皮肉を投げ返し、形が変わっていきながら幸せそうに恍惚の表情を浮かべる啓を見る。……俺を助けに?まさかな。偶然だ、偶然。

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