表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/26

夏休みの災難

「ふわぁ……。もう12時か」



美穂と夏祭りに行った翌日。夏休みのダラダラが拍車をかけ、昼起床という自堕落極まりないことをしでかした。まあ特に用事もないし、後悔とか言った類いはない。



「結局、啓達とは合流できなかったが……まあ、ツインテから異常なしって連絡来てたらしいし、大丈夫だろ」



リビングに出ると、妹の麗の姿がない。アイツもダラダラしてんのかね。俺より遅く帰って来たっぽいが、なんかバタバタしてたし。



「メシ作ったら起こすとするか。サクッと食えるもんで……ピザ風トーストにでもするか」



作り方は簡単。食パンの上に細切りにしたベーコンを乗せて、適量にケチャップをかける。その上にチーズを乗せてトースターで焼けば。



「完成っと」



栄養バランスとか考えてません。若いからいいんだ、とか自分に言い聞かせる。



「おーい、麗ー。起きろー。メシできたぞー」



閉められた妹の部屋の扉越しに声をかけると、うぅん……と寝起きの声。……なんか違和感が。



その声の主は、寝起きの声を発した後、騒ぎ始めた。ここはどこ!?とか、なんで私、こんな姿に!?とか。……明らかに麗じゃないな。そして俺の聞き間違いでなければこの声は……うん。



確かめる為に、部屋の扉越しに声をかける。



「……もし違ったらすまないが、アンタもしかして……あれ?」



アイツ、名前なんだったっけ……?いかん、昨日覚えようとしてたのに忘れてしまった。



「その声……!アナタ、私をこんな姿にしてどういうつもりですか!?私、絶対に屈しませんよ!」



「おーう、すごい勘違いをしてるようだから言わせてもらう。犯人は恐らくそこで寝てるであろう我が妹だ。アンタ……お嬢様で間違いないか?」



「……。ええ。アナタがお嬢様などと呼んでいる東堂 俊華で間違いありません。……どうして私はここにいるのですか!?ここはどこですか!?」



「俺の家だ。なんでいるかはそこの妹に聞いてくれ」



「……分かりました。あと一つ、大事な質問がございます」



「なんだ?」



「一度でも……一度でもこの扉を開けましたか?」



「神に誓おう。開けていないと」



事実、それは本当である。



「念のため、携帯やパソコン、その他情報記録端末を確認致します」



「やめとけ。特に携帯は。思春期男子のフォルダ内容をお前、知らないのか?見たら破廉恥な!とか言うぞ」



「~~っっ!!こ、この変態!!」



「変態じゃねーよ。健全な男子たる者、そういうのは持つもんだ。いーからなんか服着とけ。見るに堪えない格好してんだろ?」



「ど、どうしてそれを……!アナタ、やはり覗いて!」



「よーし。数分前の自分の言葉を思い出してみようか。答えはもう目の前だ」



扉の向こうにいるお嬢様はひどい格好をしているらしいのに、今日も絶好調だ。ずっと火花が飛び散りっぱなしだ。



「んん……兄さん、なにごと……?」



扉の向こうから、舌ったらずな寝起きの声にして今回の元凶の声が聞こえた。俺とお嬢様の声がうるさかったからか。ま、これで問題解決だな。



「あれ、俊華さん?なんでこんな所に?しかもそんな格好で……じゅるり」



妹よ。見えていないが、お前が獣になりつつあるのは分かったぞ。



「じゅるりってなんですか、じゅるりって!は、早く私の服を返しなさい!」



「服?……ほう」



「な、なんですかその“服がないのか。そうか……”と言わんばかりの顔は!その野獣のような目は!」



お嬢様、無駄に演技上手いな。とりあえず止めるか。



「麗ー。どうやらお前がそこにいる奴連れてきたみたいなんだが、何か覚えてないかー?」



「……そういえば連れ帰ってきましたね」



「どうしてそのような事をしたのですか!?」



「大変可愛らしかったからです!」



「潔く開き直れば許されるとお思いですか!?」



「まあまあ俊華さん。ここだと兄さんも入ってきませんし、ゆっくりお話しましょうよ。二人っきりでゆっくり……じゅるり」



「アナタと話すようなことなんかありません!」



「まあまあ、そう言わずに……じゅるり」



そろそろ危険だな。麗には悪いが、無理やり止めよう。



「麗ー。それ以上やるなら学校でお前の奇行を言いふらすが、それでもいいかー?」



「………………」



「な、なんですかその急なトーンの落ち方は、ってなんで近づいてきてきゃっ!?」



お嬢様の短い悲鳴のあと、ゴソゴソとあまり大きくない物音がしばらく響く。物音が止んだと同時に扉が開かれ、うなだれたパジャマ姿の妹と、浴衣姿のお嬢様が現れた。



「兄さん、これでいいですか……?」



「おう。とりあえずは良しだ」



「はーい……顔洗ってきまーす」



トボトボと、おあずけを喰らった犬のように離れていく麗を見ながら、お嬢様が尋ねた。



「い、一体あれは……?」



「麗は外っ面が良くてな、外では完璧美少女なんだよ、基本。で、見栄っ張りなもんだから、自分に悪い噂が飛び交わないように必死なんだよ。だから酷だが、ちょっと脅したわけ。おかげで何もされなかったろ?」



「た、確かに。近づいて来られた時には驚きのあまり声をあげましたが、淡々と浴衣を……なんというか、生きづらいでしょうね」



「麗か?まあ、アイツがその道を選んだんだ。しゃーない」



「割と淡白ですね」



「説得したところで無意味だからな。アイツ、けっこー頑固だし。執着してほしかったか?」



「そうですね。そうであれば美穂様に、彼はシスコンの変態ですと報告できたので」



「それは残念だったな。……さて、もう用はないだろ?今のうちに帰ったらどうだ?」



「は?」



この人、何を言ってるの、と言わんばかりに俺を見るお嬢様。いやいや、アンタが何言ってんだよ。



「ここに用はないだろ?それとも朝飯でも要求するのか?」



「それはもちろん要求しますが、それではありません」



要求するんかい。ってか、他に何かあるのか?



お嬢様が自分を指差し、少し恨めしげな目つきで口を尖らせる。



「この格好で朝から動けませんよ。何か代わりの服がないと」



「別に家に帰るだけなんだから、そのまま歩きゃ……なんでもない」



この人、本気で絞めましょうかと言わんばかりな、正気を失った目で睨むお嬢様。男の俺には分からんが、女特有のプライドでもあるのか。俺だって命は惜しい。これ以上、自分の意見は貫くまい。



「麗の服でも借りたらどうだ?」



「サイズが合いそうにありません」



「あー……じゃあ朝飯食ってから麗に行かせるよ。……なんでだよっ!?」



どこから取り出したのか、お嬢様愛用の木刀が頬を掠める。俺が一体何をした。



「そうなるとアナタと二人きりでしょう。そんなのあり得ません言語道断です!」



「……まさかとは思うが、俺に買いに行けと?」



「下着だけは妹さんの借りますから普通の服でいいですから」



「……ことわ」



「アナタの妹さんのせいでこうなったんですよ!?責任取って下さい!」



「いや、それを言われると弱いんだが……」



いかんせん、知り合いに会う恐れが……朝イチで行って帰ればどうにかなるか?朝イチで知り合いに会う可能性は限りなく低いだろう。しかし……、



「俺が行くってなると、麗と二人になるが、それはいいのか?」



「アナタと二人きりになるよりは遥かにマシです!」



信用ないなー、俺。



「はぁ、分かったよ。ただ万が一知り合いに見つかって誤解が広まったらお前、フォローしてくれよ?」



「善処します」



「いや善処じゃなくて」



「善処します」



「……もういいや。それで」



コイツの分も含めたピザ風トーストを手早く作り、8時45分。9時開店の近くのデパートに間に合うように家を出た。さっきも言ったが、朝イチで知り合いに出くわす可能性は限りなく低い。まあ大丈夫だろう。



――後に、これが盛大なフラグだったと、俺は思い知る。



俺がデパートに着くのと同時くらいにデパートが開店した。よし、まずは上の服から――



「……何してんすか、アンタ?」



「っ!」



背後から不意にかけられた声に反応すると、何か天変地異でも起こったのか、赤髪ツインテがいた。



「よ、よお。おお前こそどうしたんだ。こんな朝早くに」



「服の買い足しっす。いい加減ボロくなってきたっすし、秋も近づいてきたっすからね。そっちは何用っすか?」



「ち、ちょっと食料の買い出しにな」



「こんな朝早くにご苦労っすねー。朝市ってやつっすか?」



「そ、そうそう。今日は野菜が安くてなー」



「……?なんでさっきからちょっと声が上擦ってるっすか?」



「気のせいだろ。それじゃ俺、こっちだから」



そそくさとその場を後にした。時間かけたらボロが出る。



しかし予定が狂った。こうなるとこのデパートで買い物は諦めるしかないか。ツインテ、服見るとか言ってるし。



となると、他は駅前のデパンしかないな。知り合いに会う確率は少し高くなるが、確実に知り合いがいるここよりはマシだ。







「……買い物せずに立ち去るとは、何か裏がありそうっすね。……面白そうっすし、つけるっす!」








「やっぱ朝イチとはいえ、混むよなあ」



デパンに着き中に入ると、そこには人、人、人。繁盛しているようで。



「誰かに見つかる前に行こう。服は……3階か。そういやツインテと一度、行ったなあ」



そんなことを思い出しつつ、3階へ。レディースコーナーは女性がチラホラいて、男一人で来た俺に、ものスゴイ場違い感を与える。



……早いとこ済ませよう。精神が持たん。



服を見始めた矢先、裾が何かに引っ張られた。……この感覚、まさか。



恐る恐るそっちを見やると、そこには見慣れたクラスメート、寒菜の姿。



「……何してる、の……?」



首をチョコンと可愛らしく傾げて尋ねてくる寒菜。……なんで今日に限って知り合いにこうも会うんだ。



現実逃避したくなるが、逃げる訳にも行かないから、ひきつってるであろう笑みで返す。



「ち、ちょっと妹の服をな、買いに……」



「……雅文。ウソはメッ……だよ……」



少し膨れてジト目で見上げる寒菜。……なんでバレた。



「……雅文、ウソつく時、声上擦る……」



なるほど。さいですか。……しゃーない、腹くくるか。寒菜ならバレても問題ないだろうし。



麗絡みの面倒くさい箇所ははしょり、簡単に状況説明をした。



「……俊華ちゃんが雅文の家に……?」



「ああ。ちょっと複雑な事情があってな。聞かないでくれると嬉しい」



「……ズルい」



「ズルい?」



「私……まだ雅文の家に行った事ない……」



「いや、俺は別に呼びたくて呼んだんじゃなくてな……てか、来たいのか?」



「うん……雅文もベッドの下に何か隠してるのかな、とか……知りたい」



「今度アイツに会ったらラリアット後のダイビングプレスお見舞いするわ」



着実に寒菜に変な知識が増えていこうとしてる……美穂と組んで寒菜防衛ラインを敷こうか。



「…………」



ブンブン、と首を横に振る寒菜。ああ、分かってるさ。



「寒菜が見てない時、登校中とかにやるから大丈夫」



「……ダメーッ……!」



今度は手でバツサイン。うん、話逸れそうだし、啓の処断は後回しにして。



「まあという訳で、お嬢様の服買いに来てんだ。浴衣姿で帰りたくないそうなんでな」



「……手伝う?」



「あーいや別に……」



待てよ?寒菜がいたらこのいたたまれない空間が少し和らぐのでは?



「すまん、やっぱ頼む。ここに男一人は辛いんだ」



「……男の人大変」



「そう言ってくれるのはお前と美穂だけだ、うん。……まあ適当でいいと思うが、金が発生する以上、普段着ても問題なさそーなのを」



「……雅文。……俊華のサイズ、知ってる?」



「あ……」



何してんだ、俺。サイズ知らずに買える訳ないじゃんか……。



「……妹さん、いるんだよね?……電話してみたらどう……かな?」



「それだ」



妹の電話番号を探し、かける。数秒して繋がった。



「あ、もしもし麗?ちょっと頼みたいことが」



「はい、何です?」



「そこにいるお嬢様に、サイズ聞いてくれないか?」



「……兄さん。いきなり3サイズを聞くのはどうかと」



「違う違う!服買うのに必要な情報なだけだ!」



「あー、そういうことですか。確かに知らないと買えませんよねー。……ちょっと待っててください。俊華さーん、サイズいくつですかー?」



「はぁ!?それを聞いてどうするんですか!?」



「そんなの……決まってるじゃないですか」



「おーい麗。聞き出せない雰囲気に持ってくな」



なんで俺の周りにはこうも話を脱線させる奴が多いのか。



「はーい。俊華さん、兄さんが服買うのに必要な情報だから教えて欲しいそうです」



「な、なるほど。し、しかし男性に自分のサイズを言うのは……少しためらうと言いますか」



「そうですよね。自分から言うなんて恥ずかしいですよね。……計ります?」



「代わってください。伝えますので」



麗の変態チックな発言があったとはいえ、吹っ切れたお嬢様が俺にサイズを伝える。……思ってたよりアレなんだな。何がとは言わんが。



早く戻ってくるように言われて通話が切れる。



「……サイズ、思ってたより……だったね」



「聞いて良かったわ。情報なしで買ってたら悲劇が生まれてた」



「……私より小さいんだ」



「それはいいから早いとこ選ぼう」



寒菜から時折アドバイスを貰いながら服を選び、買い物を無事に済ませた。



思ってたより高くついたな。……女性は大変だ。



「いやー寒菜、助かった。ありがとな」



「……役に立てて良かった」



「本当は寒菜の買い物にも付き合ってやりたいんだけどな……」



「大丈夫。……啓と来てるから」



「啓もいたのか!?アイツ、どこに?」



「……トイレに行くって言って……そのまま」



「またナンパでもしてんのか?」



「残念無念また来年。長丁場だっただけさ」



俺と寒菜の間にスッと入り込む形で、啓が頭に手をやるカッコつけた仕草で登場した。



「……いつからいた?」



「本当に今さっきさ~。たまたま僕を呼ぶ声が聞こえたんでね」



「幻聴が聞こえてんな。入院して帰ってくんな」



「またまた~、寂しいくせにっ。このこのっ」



IZK(怒りを増幅させてくる啓)をぶっ飛ばしていいだろうか。いいよね?



「雅文はこんな所で何してるんだい?」



「お前に言う必要はない」



「親友の僕にも話せない事情という訳かい……?」



「じゃ帰るわ。寒菜、このお礼はいつか必ず」



啓にいつまでも捕まっていると面倒な為、早々に見切りをつけて帰りの途に着いた。





「ツッコミなしなんて悲しいや……。ま、大体の事情は聞いてたんだけどね」



「……啓。盗み聞き……よくない」



「ごめんよ。僕が来たら話が進まないと思ってね。いやー……面白くなりそうだ!」



「?……面白く?」



「気にしない気にしない。さっ、服選ぶとしようよ。寒菜ちゃんが好きなやつ」



「…………うんっ」











「寒菜さんと仲睦まじげに服選び……?これはもしや浮気というやつでは!?姉御に連絡っす!」











帰宅後、お嬢様に買ってきた服を渡すと、



「雅文様、ミニスカートがお好きなんですね。……率直に言って気持ち悪いです」



等と言われ、割と深刻なダメージを受けた。



なんで……みんなして俺をミニスカート好きにしたがるんだ……!



嫌いじゃない!嫌いじゃないんだが――!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ