53.選ばれし者
――――論点がずれましたね。
まぁ、そんなわけで引率のお姉さんが居なくなってしまいました。
私と友達は【イモ】になったばかりなので、当然ギルドから許可されることはありません。
こっそり入ってしまおうにも、《ポコポーン》が居る森には必ず誰かがいて、人が全くいないなんてことはありえないのです。
毎朝生み出される卵を集めに、それなりの同業者達が徘徊しているのですから……見つからず、なんて不可能と言えるでしょう。
それで見つかって罰せられるなんて馬鹿らしいですし、他に方法があるならそちらの手を尽くすべきですからね。
今回の場合は、コロナさんを巻き込んでしまい、彼に臨時パーティのリーダーになって貰うという手段です。
コロナさんは臨時パーティができるし、そして私たちはコロナさんが一緒に来てくれれば森に入れる。という一石二鳥なのです。
何故コロナさんが臨時パーティをしてみたいのかは、いまいちよくわかりません。
おそらく今後難しい依頼の時の予行演習のつもりなのでしょう。
どんなに凄腕でもソロ狩りではできないことがあるのですからね。
もしかしたら固定パーティを作るときのメンバー探しの為に、臨時パーティするということも考えられます。
何度も依頼をこなして、自分と相性のいい人を探す。
相性などは実戦を経て感じる物だと、集落に居る両親と同じ固定パーティの人達も言っていましたし。
やっぱり凄く向上心がある人なのだと思います。
ただでさえ、ギルドに睨まれたら泣き寝入りするのが普通なのですが、あの人はそれにもめげずに未踏破ダンジョンに潜ってしまうような人なのです。
実力は保証済みですね。
実力があるならそれ相応の向上心もあってしかるべきですから、彼は十分満たしていると言えるでしょう。
優良物件などと母親なら言うでしょうね。
ちなみに踏破済みダンジョンとは違い、そこでは何が起こるかわかりません。
聞いた話によると一定期間で構造が変わってしまうというものもあるそうです。
それだけでも十二分に過酷と言えるでしょう。
それとコロナさんがギルドの規約を変更して救助率が上がった訳ですが、それも踏破済みダンジョンのみの話です。
未踏破ダンジョンではギルドは一切関与せず、全てにおいて自己責任。
当然救助隊など編成されるわけもありません。
それだけでも低階級の探索者には十分無茶なのですけど、彼の場合はソロ狩りだったというではないですか。
正気を疑うのが普通だと思います。
ですが、何のことはないと言わんばかりのその態度からして、彼は恐らく《選ばれし者》なのでしょう。
《選ばれし者》――固有能力によって現れる天職の総称。
存在強化時に増える自己能力のボーナスポイントが2という埒外の存在。
その存在は歴史の合間合間に偉業をなし、そしてダンジョンを踏破して領地持ちの独立貴族になったものもいれば、建国したものもいる。
むしろ彼ら以外でダンジョンの踏破したものなど居ない。
それ故に、ほとんどの存在は教会で英霊として祭られている。
天職《模倣勇者》の固有能力【不撓不屈】
《独裁者》の固有能力【自分本位】
《聖女》の固有能力【清らかなる光】
《戦乙女》の固有能力【畏怖させし威光】
など挙げれば数えればきりがない。
固有能力の詳細は伝わっていない。
ギルドまたは教会が秘匿しているのか、持ち主が教えなかったのかはわからないけど、一般的には知られていないことは確かです。
これら特殊な固有能力を持つことによって天職が定められる。
この中で一番有名なのは《戦乙女》。
かの英雄《レイア・リア・デューン・トリキア》が持っていたとされる天職。
ギルドにおいては殿堂入り――特別階級として《永 遠 の1 7 歳》の称号が与えられている。
『永遠の17歳』と書かれた"えたーなるせぶんてぃーん"と読む文字――ギルド内にある旗などと同じく絵にしかみえないけど――はギルドの元締めが付けたであろう称号だ。
誰にも読むことはできないから、おそらくは暗号か何かなのだろうけど……今は関係ないですね。
固有能力は数あれど、天職に影響を与えるモノは上位のモノとされている。
天職が現れずに、役にも立たないとされているような固有能力も当然あります。
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かつて【寝る子は育つ】という固有能力を持つ貴族がいた。
そもそも固有能力を持っている物は少なく、1000人に1人くらいの割合だ。
後天的に目覚める者もいるが、先天的に持っている人は他の固有能力も目覚めやすい。
だからこの貴族子女は当然期待された。
その能力は――寝ているだけで、存在強度があがっていくというものだった。
危険なことをせず、強くなれる。
そのことが分かり一族郎党で祝福をした。
だが、それは期待外れに終わった。
なぜなら普通に狩りをしている人と比べれば当然、その成長度合いは遅く、寧ろ親の手伝いをしている平民よりもその成長が遅かった。
その子女は箱入りに育てられたので、手伝いとかとんでもなく、また狩りなど論外という状況。
そして彼は死ぬまでにその存在強度は12までしか上がらなかったのです。
それは成人すらなっていない子供よりも弱いと言うことを意味していた。
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まぁ、このような微妙なものまである固有能力ですが……上位のモノはどれも格別な能力を持っているのは間違いないはずです。
そしてそんな上位の固有能力をコロナさんは持っているのでしょう。
でなければ、この若さでこの成長――レイニーちゃんに色々聞いたことだけど――はまずあり得ません。
ギルド証を見せて貰ったところ、既にD級とは言えないような存在強度です。
だいたい【ニート】から【ダウト】に昇級するとき、その存在強度は35と言われている。
それがコロナさんは72もあるのだ。
72といえば既に、【うましか】を卒業して【ピーオー】になっても十分やっていける状態です。
存在強度が低くて、【ピーオー】ではやっていけないと判断されて、昇級するのを止められやすい【うましか】なのですが、コロナさんは既にその条件を満たしているのです。
ちなみに、ギルドでの判断の上での昇級見合わせの場合はギルド貢献ポイントは何故か貯まらないみたいなんですよね。だから凄く羨ましくもあるかな。
それはさておき、そんな《選ばれし者》であるだろうコロナさんが引率してくれるなら、安全に卵を収集できるというわけです。
アマンダさん――結婚した友達のお姉さんよりも階級は低いのですが、強さ的には断然コロナさんの方が上ですからね。
「臨時パーティのメンバーは私に一任ということでいいのですか?」
「あぁ、是非そうしてくれるとありがたい」
「わかりました。任せてください。
ちなみに(依頼の)内容も私が決めていいですよね?」
「あぁ、(女の子との)オフ会なんて初めてでな。
どういうものかもいまいちよく分かっていないからな。
全部任せるというのはちょっとあれだが、……恥を忍んでレイリアに任せる」
コロナさんは最初の頃は『レイリアさん』と呼んでいたのですけど、いつの間にか『レイリア』と呼ぶようになっていた。
どうせなら年上なんだし、最初から呼び捨てならそれで良かったけど……。
慣れた後に呼び方を変えられるのは、ちょっと反応に困ってしまう。
この人、私に気があるのかな? なんてことも考えてしまうしね。
でもコロナさんに限ってはそれはないと思っている。
なぜなら、彼はレイニーちゃんに惚れているのが丸わかりだからです。
少しは私も自信あるのだけど、あれほどの美貌を誇るレイニーちゃんと比較するなんてとんでもないことだし、比較されたら女としての自信がなくなってしまう。
だけど、そんな綺麗と言っても言い尽くせないのは顔だけで、正確と家事能力は皆無でした。
王侯貴族に嫁入りするならまだしも、探索者などの奥さんになるにはちょっと……いえ、かなり問題がある様子。
しかし、コロナさんとの遣り取りから推測すると、彼女は現状ではコロナさんより遙かに強いということ。
そうなると彼女も《選ばれし者》か、存在強度200を越えている可能性があるということを意味しています。
もっともコロナさんが《選ばれし者》というのは推測の域をでないのだけど、それほどの能力を秘めているならむしろ旦那さんよりも稼げるということになる。
もちろん、夫婦ともに稼ぎに出ている固定パーティもあることにはあるけど、子供ができてしまったらそうもいって居られないし――
いけないけない……コンプレックスでも感じているのでしょうか。
思わずレイニーちゃんを否定するようなことを考えてしまいました。
まだ知り合って間もないのに、他人に結婚について心配されるなんて余計なお世話ですね。
そんなことを考えながら、コロナさんとある程度今後の予定を突き詰めた。
「それでは――……3日後辺りでどうですか?」
「ダンジョンで稼いだ資金が尽きるまでならいつでもいいよ」
やはり彼は他の【サル】とは比較になりませんね。
両親から聞いた話だと、装備の手入れと生活費などを抜かして、装備の積み立てを考え始めるのが【サル】かららしいのです。
彼の場合は既にC級の【ピーオー】までは、優に使えるような物に買い換えが終わっている。
次の装備の積み立てをするにしても、限界まで切り詰めるつもりはないらしく、ゆとりある少し贅沢な暮らしを始めているように思える。
「(こちらがそれほどプリンを長くは待てないのです)」
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ、何でもありません。それでは後日に」
そう言って私は素早く彼に別れを告げて立ち去った。
あぁ、プリンが待ち遠しい――……




