54.プリン三獣士
――待ち合わせ当日
コロナは自分の時計など当然持っていなかった。
そのため、「○時待ち合わせね」などと言われても、どのくらい前から待っていればいいのか分からなかった。
時を知らせる鐘は1時間ごとにしか鳴らないのだ。
お金持ちと呼ばれる富裕層ならば、個人的に時を知らせる魔導具なるものを所持しているらしいのだが……。
値段的にコロナではとてもではないが手が出すことなどできない。
それゆえ神殿が知らせる刻以外には、それを知る術もない。
そもそも何時の鐘なのかも、ギルドに行かなければ――親切にも『ただいま○時』という掲示される――わからない。
寝過ごしてしまう可能性を考えたため、スキル【疲労耐性】を普段以上に活性化させ、貫徹する道を選んだのだ。
徹夜といっても、昼寝をして翌日に備えたのだが――それはこの際、どうでもいいことだろう。
およその待ち合わせ時間よりも早く着いたコロナは、まさに初デートに興奮して落ち着かないという状態だった。
それでいて、みっともないと思われるのを嫌ったため、冷静になった振りをしている。
男1人で女複数という待ち合わせなど、彼の今後の人生を通して、二度とないかもしれないシチュエーションである。
浮ついた気持ちになったとしても、それは仕方のないことだろう。
しかしレイリアは女だけなどと、一言も言っていなかった。
――しかし、彼はそのようなことを考えもしなかった。
あのような娘に男の影がちらつく……などと考えたくもなかったからである。
はたしてそれはその通りであった。
彼女が集めたメンバーは、皆同じ年頃の少女で構成されている。
それをこのときのコロナはそれを知るよしもなかった。
待つこと鐘2つ――2時間強、ついに彼の待ち人が現る。
4つの影――
まだ薄暗い――コロナは夜が明ける前から2時間も待っていた――中、コロナの方へと歩み寄る人影。
それは次第に大きくなってくる。
やがて、その姿がはっきりとしてくる。
暗く、まだ顔は分からない。
それが待ち人だとは確定しないが、4人とも女性であることは見て取れた。
ただ、それはいかにも無骨な形をしていた。
そう、完全武装である。
彼女達は武装をしてオフ会にやってきたのである。
コロナも人のことは言えないが完全武装である。
武器は用心のため、そして防具は――これが一番格好いいという理由だっただけだ。
そんなコロナの思惑――着飾った淑女――とはかけ離れた姿だったため、確信がもてなかった。
そもそも武装したレイリアを見たこともないのだから、シルエットでそれがそうだ――などといった判別はできようはずもない。
ひとまずそれをレイリアだと当たりを付け、男が混じっていないことにひと安心する。
もし、いた場合には――一戦することも辞さないつもりだったのだ。
それはコロナにとっても、彼女たちにとっても幸いだったといえる。
やがて顔が分かるまで近づいてくる。
その影がレイリアならびにオフ会の参加メンバーだということがわかった。
彼女達は、レイリアと同じ歳くらいの背丈で、皆レイリアより身体の発育はいいとはいえなかった。
コロナとしては――少し年上のお姉さん的存在に声を掛けてくれるかな……などと思っていた。
しかしその思惑は失敗に終わることとなった。
(変態)紳士の礼儀として、そのようなことはおくびにも出すわけにはいかない。
(まずは挨拶からだ)
「おはよう、いい朝だね」
まだ夜は完全には明けてはいない。
だがそんな事は関係ない。
『おはよう』という言葉以外に爽やかさを感じさせるものはないのだ。
「はい、おはようございます。コロナさん」
「「「おはようございます」」」
「みんな元気だね……。
俺はコロナ・パディーフィールド。
レイリアからは聞いているかと思うが、今日はよろしく頼むよ」
爽やかな笑顔で彼女達を出迎える。
変に格好付けたりして「フッ……」などと言うのは論外ではあるが、気障なのもあまり良い印象を与えない。
仮にそれがウケる女性は、何かしら幻想をお持ちであると、コロナは思っている。
そういうお方は流石のコロナも当然にNGだ。
「カメリア・サイモン、レイリアと同じく【イモ】になったばかりよ」
「ナンシー・イルマです。同じく【イモ】……というか全員【イモ】ね」
「カミナ・ミューゼルですわ。本日はお願いしますわ」
(それにしても年頃の女の子達が、自分を「イモ」と言うのは……こう、色々と終わってる――女を捨てている――気分を味合わせてくれる)
コロナは失礼なことを想像した。
(うん…シュールだ)
一通り挨拶を済ませた後、順に、ショート、ロング、ポニーを物色――(ゴホン)、観察することにした。
ポニーの娘は大和撫子風といったところだろうか――黒髪なところがそれっぽさを感じさせる。
弓を持っているが、別に和弓などではないし弓道という安直な答えではないだろう。
黒髪だから日本人などということではない。
そもそも黒髪黒目だってそこそこにいるのだから。
ショート――カメリアは剣を持っているが、《片刃剣》らしい。
盾も持っていないことから、両手剣なのかもしれない。
コロナの様に【投擲】を使うためかもしれない。
(サブウェッポンを使うという戦法を取っているのかもしれないな)
それをコロナが聞いてみたところ、ただ単に《盾》は性に合わないだけだった。
そのため両手でも使える武器を選んだだけであった。
ロング――ナンシーは《短剣》を使う。斥候を担当だ。
この4人は同じ集落の出身なだけで、別に常に一緒に活動しているわけではないとコロナに説明をした。
一緒に行動してもいいとは思うが、現在の階級では1人で行動しないと赤字になってやっていけないということもある。
しかし一番の理由は、意見が分かれたときは喧嘩になってしまう。
それは最適な行動を取れずに命にかかわる行為だ。
だから今回の様なケースを除いて一緒に行動する気はないらしい。
そのようなことを聞くと、聞き分けがよさそうで、大人びているレイリアもまだまだ子供ということなのだろう。
違った一面を持つレイリアに対し、コロナは興味深げに見つめた。
そしてそれが終わると、本日の詳細なプランを聞くことにした。
「それで、指定された通りに来たけど、今日はこれからどういう予定なんだ?」
「今日はですね! ここから少し離れたところにある|《渓谷森》という森に卵を採りに行くのがメインです」
「卵? 雑貨屋や食材屋にも売ってるけど……そういうのじゃないんだよね?」
卵と聞いて安直に答えたコロナだったが、他全員がそれに反応する。
「「「「あんな卵といっしょにしないでください」」」」
「お、おぅ」
若い彼女達の活力の前に思わずたじたじとなってしまうコロナ。
(獣だ、猛獣が居る!)
彼はそれに戦慄してしまう。
そんなコロナの様子に気付かない少女達は、その卵がいかに素晴らしいものか、彼に言い聞かせるように語る。
「いいですかコロナさん。コロナさんも食に拘るのですから食材にも気を付けなければいけません。
目利きはスキルではどうにもなりませんよ!」
「有象無象な卵などと一緒にしてもらってはこまるのです」
「うふふ…濃厚なあの味――病みつきですわ、じゅるり」
「ふん! どうせアンタもプリンなんか……とかいうんでしょ?
男はいつもソレよ!」
プリンの良さを一通り語っても彼女達の気分が収まらないらしい。
いつまでもぷりぷりな――プリンプリンならどんなに良かったことか――その様子に、このままでは埒があかない。
そう踏んだコロナは、少女達のご機嫌をとることにした。
「そんな卵……俺はいままで聞いたことないな。俺もプリンというか甘味は好きだからな。
その卵は本当に期待してもいいのかい?」
「ええ、それはもちろ・・そういえばそうでしたね。コロナさんはそういうことに疎いんでしたね。
ごめんなさい。早とちりして、つい否定された気分になってしまって――」
「いや、大好きなものを否定される気分は俺にも分かるよ。気にしないでくれ。
どうしても、気になるというなら、その卵で作ったプリンを俺にも分けてくれると有り難いかな」
そのように軽く和ませることに成功し、ついつい調子に乗ってしまう。
だが――――
「それとこれとは話が違いますよ」
「そうですわ」
「はん! プリン様を他人様に譲るとかねーよ」
「うん、それはありえないです。プリン専用収納道具の購入も辞さないつもり」
(どんだけ好きなんだよ、プリン。いくら劣化しない収納道具だからって、そこまでするか!?)
コロナは正気を疑った。だが考え直す。
(好物が食べたいときに食べられる――これはある種、幸福なことなのでは……)
色気より食い気を地で行く4人の姿を見ていると、浮かれていた気分もすっかり萎えてしまう。
まるで近所の子供とお兄ちゃんといった気持ちになってきてしまった。
(それにしては随分と大きい子供ってことになるんだけどな……)
「こんな所に何時までも居るのも何だから、とりあえずその卵が採れる森に向かおう」
行き先が分からないコロナは、促して先導を頼む。
ここに来て自分が望んでいるようなオフ会には、もはや無理であろう。
そもそも勘違いなのだ。
だからいかにコロナが望もうとも、元々あり得ないことなのだが……それをコロナは知るよしもない。
道中、今日の目的は卵だけだったということが分かる。
それを聞いたコロナは少しでも方向修正を加えようと画策する。
――せめて採れたての卵で、プリンやケーキを作ろうと。
最初はプリンを自分たちに作らせて、それを食べようとする意地汚い男なのかと、レイリアを除く彼女達は邪推した。
しかしレイリアが、
「コロナさんはスキル【料理】が高いですよ?」
そう仄めかすことで、他の3人もそれならば……ということで受諾した。
このときそれぞれの思惑は違っていた。
コロナは期待してものとは違うが、女の子とキャッキャウフフするチャンスは逃すつもりは無かったし、手料理も食べてみたい。
レイリアは料理好きとコロナを勘違いして、プリンも作ってみたくなったのだろうと思っていた。
カメリアは【料理】を上げていないどころか、取得すらしていなかった。だから一言で表すならば「料理人1人ゲットー」ということ。
カミナは4人の料理人――幼なじみのため、カメリアが作れないと言うことは分かっている――による4種類の味付けプリンに思いをはせ、
ナンシーに至ってはプリンがあればどうでもよかった。
想いは違うものの、ただ目的は1つだけ。
早く卵を手に入れて、プリンを食べること! ただ、それだけであった。
このようにして、コロナの初めての臨時パーティは始まったのだ。




