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敗戦技術 第四巻 超算の敗戦  作者: 八雲 海


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7/7

エピローグ 計算は続く

反ダンピング措置《そち》によって、日本製ベクトル型スーパーコンピューターがアメリカ市場に入る道は、大きく狭められた。その状態は、その後数年にわたって続いた。

 マイケルのモデルは、その後も坂本の計算時間の一部で回り続けた。

 坂本には、最後まで分からなかった。

 あの計算機が予定通り届いていたら、何が変わったのか。気候モデルが何年早く進んだのか。

 計算できなかった未来は、計算できない。

 マイケルとは、その後も年に数回、電話で話した。研究の話がほとんどだった。あの十月の電話のことは、二度と話題にしなかった。

*

 台風の進路の誤差が五キロメートルを切ったのは、計画より一年遅れた秋だった。

 坂本は、その一年の理由を誰にも話さなかった。西村は、その春に研究室を去っていた。

 坂本は引き出しを開けた。黄ばんだ切り抜きを、初めて机の上に出した。点線と実線。町の手前で離れた、二本の線。

 しばらく見てから、受話器を取った。

 番号は、指が覚えていた。

 「ダイスケ」

 「五キロを切った」

 電話の向こうで、マイケルは黙った。

 「……どの計算機で出した」

 「日本の計算機だ」

 長い間《ま》があった。

 「速かったろう」

 坂本は、窓の外を見た。

 「速かった」

*

 電話を切って、坂本はモニターに向き直った。

 気圧。気温。湿度。風速。

 坂本は、次の計算を始めた。

 数字が、降ってくる。

完


※本作はフィクションです。歴史的事実および実在の法律・機関・企業名が登場しますが、登場人物・会話・内部描写・心理描写はすべて著者の創作であり、実在の人物・団体の見解や行動を示すものではありません。



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