第六章 敗戦
坂本がそれを知ったのは、電話ではなかった。
十月十日の朝だった。研究室に来る途中、駅で買った新聞を開いた。
小さな記事だった。
「米国際貿易委員会、日本製スーパーコンピューターによる米国内産業への被害のおそれを最終認定」
坂本は立ち止まった。
NEC、四百五十四パーセント。富士通、一七三・〇八パーセント。
四月に見た数字が、そのまま残っていた。
坂本は新聞を折った。
研究室に着いても、電話は鳴らなかった。
坂本は計算を始めた。一時間経つ。二時間経つ。昼になる。
午後になって、電話が鳴った。
坂本はすぐには取らなかった。三回。四回。五回。
受話器を取った。
「ダイスケ」
「知ってる」
マイケルは黙った。
「新聞で読んだ」
「そうか」
それだけだった。
「SX-4は」坂本が聞いた。
長い沈黙があった。
「来ない」
今度は、マイケルも「まだ」をつけなかった。
「ダイスケ」
「なんだ」
「俺たちは、性能で負けたのか」
坂本は新聞を見た。そこに、計算速度の数字はなかった。
「分からない」坂本は言った。「でも、性能で決まらなかったことだけは分かる」
マイケルは、それ以上何も聞かなかった。
電話が切れた。
坂本はモニターを見た。
半分は台風の数字。半分は、マイケルの数字。
気圧。気温。湿度。風速。世界の状態が、数字になって流れている。
自然を計算する数字。
そして、制度が作った数字。
四百五十四パーセント。
同じ数字なのに、まるで違うものだった。
第六章 完




