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第六話 幸せの街

よく寝たと思って朝目覚めると、程よい光が窓から入り込んでくる。昨日よりかはマシになった……?多分気のせいだろう。


起き上がって顔を洗うと、鏡越しに映る私の顔が少しだけ輝いて見える──別にナルシストって事じゃなくて、ちょっとした肌荒れとか、毎日の夜ふかしからくる目のクマだったりと、そう言うものが消えて少し綺麗になったからだ。


窓から街を見ても、そこには誰もいない。この一瞬だけを見たら廃墟だと錯覚してしまいそうだ。


食べるものがなかったため、少し抵抗はあったが昨日もらった宝石リンゴを食べることにした。


(……変な味、だけど、悪い気はしない)


味としての表現として合っているかわからないけど……透き通って、楽しくて、綺麗な味がする。宝石、と言っていたが、似ているのは見た目だけのようだ。いつの間にか二つ丸々食べ終えていて、最後のリンゴに手をかけた時に初めて満腹感を覚えた。


(着替え……昨日と同じところにまたある…………着ろってことだよね?)


昨日と柄は違えど、またワンピース。今更だけど私、ワンピースのまま寝てたんだ。


とは言ってもあまり抵抗はない。正直なところ言ってしまえば、私は服のデザイン的にはワンピースが一番好きだ。これまではあまり着る機会がなかったけれど、これからはこれが普通になるのだろうか?だとしたら少し嬉しいかもしれない。


『ぴーんぽーんぱーんぽーん!みんなー!おっはよーございまーす!!今日も一日、張り切っていきましょ〜!』


「うるさ……」


昨日聞いた放送は今日も一言一句違わずに流れた。これである程度の時間は予想できそうだなぁと思いながらもやっぱりうるさい。これだけは時間かけても慣れないかもしれない。


今日はイマさんと街を見る約束をしている。朝の放送が流れる頃に部屋に行くと言われていたが──


コンコンコン


ちょうど来たようだ。扉を開けて、イマさんと少し会話をしてから二人で部屋を出た。







城を出て五分くらい歩くと、昨日見た大通りに出た。話によると、どうやらここが《シラルトン》の中で一番繁盛する通りらしい。


行き交う人は服装も髪型も、持っているものや人種でさえ十人十色だ。でも共通してみんな幸せそうな顔をしている。友達と楽しく話したり、食べ物を食べて目を輝かせたり、新たな出会いが生まれたり──


「カコちゃん、ユメツメクサをもらってきたから一緒に食べましょう」


イマさんにそう言われて、私たちは目覚めた時と同じような裏道に少し入った場所に移動する。


「ユメツメクサはね、食べると少しの間幻を見るの。その中では、現実じゃありえない事……イヴのように魔法を使えたりできる、言うなれば自分の意思で操れる夢を見れるんだ」


「そんな事……魔法ですか」


「そうよ」


イマさんが実際にユメツメクサを口に放り込んでから目を瞑るのを見て、私も同じようにしてみる。




…………………




あれ?ここ、どこだろう。


何もない……けど、多分これが幻って事かな?なら…………


試しに頭の中に広い平原を想像してみると、瞬く間に穏やかな草原が目の前に広がる。……次に小鳥を想像してみると、今度は白を始めとした様々な色の小鳥のさえずりが聞こえて、気付けば至る所に鳥が止まっている。そのうちの一匹が私の肩に優しく止まって小さく鳴いた。


(すごい……)


次は何を作ろうか、と思って、少し考えを巡らせて──一つ妙な事を考えついた。


ここでなら、何でも好きなものをつくれる。なら私の今一番欲しいものは一つ、いや、一人だけだ。


(覚えている……あの姿、あの声、あの癖。全部全部……)


私の脳内で、そのイメージがはっきりとしてくると……


「あれ、カコちゃん?ここで何してるの?」


「…………ミライ、ちゃん……」


《シラルトン》からは帰れないんじゃないか、そんな気持ちを持つのは難しくなかった。訳も分からず知らない場所に連れて来られて、……来られたのに、そこにいつもそばに居てくれる人はいなかった。


ミライちゃんとは数日会わないなんてザラな事だったし、何なら私と幼馴染という関係なだけで、私と特別な関係があるわけではなかったけど……こんなよくわからない世界に来て、誰も知っている人がいなくて、安心できる場所なんてなかった。そんな私はいつしか、もう一度ミライちゃんに会いたいと思うようになっていたんだろう。


「どしたの?泣いちゃって……え、私何かまずい事した!?」


「ううん、してないけど、嬉しいの。久しぶりに会えたと思うと、なんだか……すごく……」


「そ、そう?そう言われるとちょっとあたしも嬉しいかも。えへへ〜」


「…………」


ミライちゃんはそう言って、私に近寄って頭を撫でにきてくれる。


「…………う」


「ん?どうしたの?」


「違う………」


「……」


「あなたはミライちゃんじゃない」


「……」


ミライの幻はそれを聞くと、少しだけ笑った。そしてゆっくりと口を開いて──



何かを言いかけたところで目が覚めた。






「目覚めたかしら」


「……はい……」


「あら、貴女…泣いているの?」


「え……」


頬に手を当てて初めて、自分が本当に泣いていた事に気付いた。


「……それが嬉し泣きである事を願うわ」


泣いても何も変わらない事は分かってるので、一度で涙を拭って切り替える。


「こんなのもあるわよ」


そう言ってイマさんは今度はシャボン玉のおもちゃのような物と液体の小瓶を取り出して、その液体をおもちゃにつけて吹くと、虹色のシャボン玉が出てくる。一つ一つが輝いていて、良く見ると中に色々な思い出を詰めたような……楽しい思い出がぱっと視界の隅から隅まで広がって、思わずその光景に見惚れてしまう。


「綺麗……」


「ね」


泡は割れると中の景色も消えるようで、楽しい時間は一瞬で終わってしまう。この後も3回同じようにシャボン玉に見惚れてから次のものを探しにいくことにした。



この後も同じ様に色々な場所に向かった。そこで体験する事は全て想像を超えるほどキラキラしていて、いつしか私には笑顔が溢れていた。


ありえない事ばっかり起きているけれど、こんな非日常が、私には居心地が良いように思えてきたのだった。

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