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第五話 お茶会

イマさんの部屋は、私の部屋よりずっと多くの物で覆われていた。見た事もないような物体。変な丸いオブジェ?みたいな物だったり、観葉植物のような物だったり色々だ。


「みんな私が笑顔じゃないのを見ると心配してくれるのよ」


イマさんはそう言いつつため息をつく。でも私はこれを見て、少し羨ましくも思った。


イマさんは私を座らせてから奥に入っていき……間もなく二人分の紅茶を持ってきた。


「口に合うかはわからないけど、形式上ね」


「ありがとうございます」


「いいのよ、どうせここではいくらでも手に入る物なのだし。──さて、貴女がここに来た経緯を、詳しく教えてくれるかしら?」


「いや……私もよく分かってなくて……あったことといえば、下校中に何かが私の頭上に落ちてきたことくらいです。だから最初、ここが死後の世界か何かだと思ったんですけど…この感じは違いますよね……」


「そうね。《シラルトン》は寧ろ逆、死から最も遠い場所にある世界だと、私は解釈してるわ」


「最も遠い……?」


「どちらにせよ私と貴女ではここまでの経緯は根本的に違うのでしょうね……私からも色々、知ってる情報を教えてあげましょう。でも私が話せるのはそうね……儀式と《シラルトン》の存在理念程度かしら」


「お、お願いします」


私が戸惑いながらそう言うと、イマさんは紅茶を一口飲んで、数拍開けた後に再び口を開いた。


「まずは存在理念の方から話しましょう。そもそもの話、この世界の中心になっているのは誰かは分かるわよね?」


「イヴ、ですか?」


「ええ。本人から聞いた話ではあるけど……彼女はこの世界の神の一人なの。具体的には、『幸福』を司る神」


「神…!?そんなものがいるはずが……」


そこまで言って口が止まる。見たばかりじゃないか、あの魔法を。


「残念ながらいるのよ。──『幸福』の神によって創られた楽園……「苦しみも悲しみも感じない」、これを実現するための世界こそがここ、《シラルトン》なのよ」


「あっ、そう言えばミライちゃ……友達もそう言っていました」


「そうね。私の友達も同じだったわ。きっとこれこそが《シラルトン》の定義なのでしょうね。だからイヴから私たちに求められているのはたった一つだけ、「幸せになる事」なのよ」


その話を聞いて、なんだか私たちは似た物同士なんだなと感じた。《シラルトン》に積極的な友達がいて、意図せずここに来た。なら私も時間が経てばイマさんのようになるのだろうか?


「次は儀式についてね。これはあまり役に立たない情報だけど……一応伝えておくわ」


そう言うと、もう一度さっきと同じように紅茶を手に取った。


「儀式は満月の日の昼間に行うわ。必要なのは三つ、水を入れた透明な容器、《シラルトン》に行きたいという強い気持ち、そして──儀式の参加者の体の一部よ」


「それは、つまり腕とか、耳とか、そう言う事ですか?」


「多分それでもいけるはずだけど、私の場合は髪の毛一束で十分だったわ。やり方も単純で、切った体の一部を近くの日向において、《シラルトン》に行きたいという強い気持ちを持ちながら容器を持ち上げて、目を閉じながら中の水に光を反射させる。反射光が体を照らしている中、気付けば《シラルトン》に行ける。ね、簡単でしょう?」


「そうですね…確かに誰でもできそうです……でもだとしたら、なんでわざわざこんな儀式をしなければならないんでしょう」


「これは私の推測でしかないのだけれど……きっとイヴは《シラルトン》に入る人物を選んでいるのよ。現に私は一緒に儀式を行った友達をここで見ていないわ。儀式をやったところで来れる人と来れない人がいるのだと思うわ。────そして、だからこそ疑問なの。なぜ貴女はその儀式無しでここに来れたのか」


「そんなのわかりません…!私はただ《シラルトン》の名前を知っていただけなんです」


「そうね……もし抵抗がないのなら、今度イヴに直接聞いてみるといいわ。彼女は隠し事をしたいわけじゃないし、きっと知っている事ならなんでも教えてくれるでしょうね」


「そう、ですか……」


「気持ちはわかるわ。私もイヴは不思議というか……現実離れすぎてあまり好きじゃないの。まずはこの世界に慣れてからの方がいいでしょうね」


確かに、知らない物や魔法なんて物を見せられて、凄くショックだった記憶がある。何だか今でも夢を見ているような心地……ふわふわとした感覚でちょっと気持ち良いような悪いような……そんな気がする。


「そうね……明日、一緒に街を見に行かない?言葉が分かるようになれば、多少見方は変わると思うの」


「いいんですか?」


「ええ。話していたら少し親近感が湧いてきちゃってね」


イマさんはそう言ってフッと笑ってくれた。とは言ってもそれはただ少し口角を上げるだけのものだったが、その笑みには何か特別な物を感じた。


「これはただの興味だから答えなくても良いのだけど、ここに来るまで、どんな生活をしていたの?」


「普通の学生生活してたと思います。多分」


「その普通を知りたいのよ。私と貴女で、同じ世界から来たとは限らないしね」


「え?それってどう言う事ですか?」


「ん?あら、そういえばまだ伝えてなかったわね。イヴは複数の世界から《シラルトン》に人を招待しているの。私のいた世界は「‘,%?;」って言うのだけれど……その感じからして聞き取れなかったのね」


「すみません…」


「いやいや、これは私が敢えて私の世界の発音にしただけで貴女は悪くないわ。それに、聞き取れないのはつまり、やっぱり私と貴女の故郷は全く違ったって事よ」


「……もう、頭が痛くなりそうです……」


「慣れるしかないわね。人っていうのは案外、適応さえしてしまえばどこでも生きられるもの。疲れただろうし、今日はもう終わりにしましょう」


イマさんはそう言って立ち上がり、扉を開けてくれた。自室に戻ってからは、特に何もせず、ただ、疲れてもないはずなのにすぐに眠りについた。


窓の外、真っ暗になった街の上空で一筋の流れ星が現れて、そして消えた。

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