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第四話 心地良い世界

「……ここになる」


「あ、ありがとうございま──ありがとう」


「いや、俺の前でもいちいち敬語を外す必要はない。付けたいなら付ければいい」


「あ、はい」


「……隣人とは仲良くすると良い。俺はもう行く。楽しんで」


門番の人はそれだけ言うとそそくさとこの場を後にして、城の一角、扉の前に一人取り残された。少し戸惑いながらも扉を開けて、中に入ってみると──普通の部屋だったので少し安心した。


部屋には最低限の家具──ベッドとクローゼットくらいしか置いていなかったが、ちょうど良い広さで、生活するのにとても合っていると感じた。


(……やる事もないし、少しは休んでもいい、よね?)


靴を脱ぎ捨て、ベッドに倒れ込む。柔らかくて温かいベッドで、とても安心する。眩しくてふと窓の外を見ると、太陽の色が少し変な事に気付いた。いつもの白一色だけでなく、他の色んな色が散りばめられていて、ステンドグラス越しの景色のようだ。


(そっか、あれは太陽じゃないんだ。だってここは別の世界だから……)


カラフルと言っても、目が痛くなるようなチカチカとしたものではない。ただほんのり、それでいて大胆に、私の視界を彩ってくれる、そんな幻想が広がる。


(……心地良い)


何だかそう思うと、ふっと力が抜けてしまって、そのまま動けなくなってしまった。日頃の疲れが出たのだろうか?暖かな日差しと、人々の暖かさが心地良くて、警戒の二文字を忘れるほどに、私は幸せだった。














──────────


「お父さん、はやく起きないかなー」


「…………カコ、お父さんは、もう遠くへ行っちゃったのよ……」


「?ここにいるよ?」


「そう、だけど、そうじゃないのよ……」


白い箱の中、お父さんが寝てる。家族のために誰よりも苦労して働いていて、毎日苦しそうな顔をしていたけど、やっとゆっくり眠れるようになったんだ。


「……お母さんも、みんなも、何で泣いてるの?」


「……もう、お父さんは帰ってこないからよ」


「?」


3歳の頃、お父さんの葬式に出席したその時まで、「死ぬ」を知らなかった。そのせいで、その時の私は、なぜ周りのみんなが涙を流しているのかわからなかったから、勝手な解釈で一人納得した。


(!そっか、みんなお父さんがゆっくり休めるようになって喜んでるんだ!)


私はそう思って、お父さんのそばに駆け寄ってその箱を覗いた。


幸せそうな顔をしていた。


それが嬉しくって、私も自然と笑みが溢れる。


「やめなさい!不謹慎でしょ!」


お母さんは私をきつい口調で叱って、私を元の席に連れ戻した。ここで、初めてみんなが悲しくて涙を流している事に気付いた。


「……何でみんな、悲しんでるの?あんなに気持ちよさそうに寝てるのに」


「……お父さんは、もう目覚めないの」


「………!わかった!じゃあわたしが神様に祈ってあげる!「お父さんが目覚めますように」──」


パチン!


ここまで言ったところで、私は生まれて初めて母に叩かれた。


「神なんて、この世にはいないのよ!お父さんは「死んだ」の!もう、もう……帰ってこないのよ……もう動かないの……笑ったり、話したり、もう…これからは………」


後で「死ぬ」を知って、私はみんなより数時間遅れて泣いた。そしてその後、必死に祈った。お願いします、どうかお父さんを生き返らせてください、何でもしますから……って。


結果は想像通り。世界は私一人の意思で決まるものじゃない。「お願い」と願ったところで変わるようなものじゃない。だって神はこの世にはいないから。人がそうやって、色々な妄想に耽るのは、そうで合って欲しいと願っているだけからで、そんなものが世界を変えるなんて、当たり前すぎて考えるだけ無駄だった。


──────────













「……ん…」


気が抜けていたせいか、いつの間にか眠っていたらしい。


「……夢、じゃない」


ベッドから立ち上がって部屋を見回すと、入り口の近くに手紙と服が置いてあった。


『目覚めたかな?

服を置いておいたから着替えると良いよ。

この世界に来て、まだ心配事も多いだろうから少し散歩に出てみると良いかも。

きっとみんな笑顔で出迎えてくれるよ。


あ、でも放送が流れたらみんなお店を閉じちゃうから帰って来てね!


                イヴ』


「……行ってみようかな」


太陽の位置は4時くらい……その放送がいつかはわからないけど、少しくらい時間はあるだろう。


そう思って、置いてあった服に着替えてみる。──白くて、ところどころリボンの装飾のついているワンピースだった。どうやら帽子もセットになっているらしい。


(ちゃんと着れてるかな……)


慣れていない服装に少し苦戦しながらも、何とか形にしてから部屋を出た。



「「あ……」」


偶然タイミングが合ったのか、私は部屋を出てすぐ、私の隣の部屋の扉に手をかける女性と目があった。


女性は私より背が高くて、とても鋭い目つきをしていた。でもそれよりも、私は彼女が笑顔でない事に驚いた。ここに来て出会った人はみんな、幸せの限りを尽くしていて笑顔以外の表情を見せていなかった。多分今この世界で笑っていないのは、私と彼女だけだろうとも思う。


先に話しかけて来たのは女性の方だった。


「……もしかして、「新入り」の子?」


「「新入り」……はい。今日さっき、ここに来ました」


「そう……私はイマ。貴女と同じ、他の世界から来たの」


「そうなんですか?」


「ええ。友達に誘われて、変な儀式をやらされて、その途中ふと気付いた頃にはもうここにいたわ」


「儀式…?」


「ええ。貴女もやったでしょう?ここ(シラルトン)に入るための悪趣味な儀式」


「?いえ、多分やろうとはしてましたけど、まだやってません」


私がそう言うと、イマさんの顔が少し曇る。


「……少しちゃんと話さない?もう今日は終わりだし」


「いいですけど、終わりって何ですか?」


「それは──」


『ぴーんぽーんぱーんぽーん!みんなー!お疲れ様でしたー!!今日はゆっくり休んで、楽しい夢でも見ちゃいましょー!』


音が大きすぎる放送が、けたたましく城内に響いて、咄嗟に耳を塞ぐ──も、音量は特に変わらなかった。これも魔法なのだろうか?よく聞けばこれもイヴの声である事に気付いた。


「……これも含めて説明してあげるわ。最低でも貴女よりかはこの世界のことを知っている」


イマさんは顔を顰めながらそう言って、部屋の扉を開けた。私はイマさんの後についていく形で、部屋に招待された。

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