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Crescent Quest 〜陽光ノ道標〜  作者: Soji
第二章 月下ノ選定
17/18

① 掲げられた影*


 見上げた先には、雲を突き破るように聳え立つ巨城。

 夕映王国の象徴にして、治安維持組織〈夕輝士団〉の本拠地――夕映王城天守閣だ。


「本部ってか、城じゃん。王サマも住んでんの?」

 

「まさか。女王様たちは別の御殿にお住まいなのよ」

 

「ふ~ん」


 三明は気の抜けた相槌を打ちながら、城を見上げたまま視線を巡らせる。

 剣の腕も家事能力も一流のくせに、案外こういう常識は抜けている。


(……ほんと、アンバランスよね)


 だからこそ分かる。

 ──この少年が“外”で生きてきた時間の長さが。


 

 


 重厚な正面扉を抜けた先の、玄関ホール。

 普段は素通りするその一角で、二人は足を止めた。


 壁際に設けられた巨大な掲示板。

 そこには、国家を揺るがす特級危険人物――通称“伍刃ゴジン”の手配書が並んでいる。



【指名手配:伍刃】

 * 金鋼コンゴウノ獅:元夕輝士団総団長 レオナルド・スカイライト

 * 黒金クロガネノ竜:反王制組織・鉄辰冥団アイアンクロウ幹部

 * 黄金コガネノ虎:西離地方盗賊団・銀戌牙団シルバーファング幹部

 * 白銀シロガネノ狼:西離地方盗賊団・銀戌牙団シルバーファング若頭

 * 青銅セイドウノ鮫:東燿地方海賊団・鉾丑海賊団マリンホーン船長



 三明の眠たげな目が、さらに虚ろになる。


「何っつ~か……すげぇ似顔絵だな」


 無理もない。


 あるものは、かなり残念な画伯タッチ。

 あるものは、やたら麗しい乙女の願望系イケメン。

 統一性? そんなものは最初から存在しない。


「財政難で、優秀な絵師を雇う予算がないって聞いたけど……くくっ、これは……っ」


 笑いを堪えきれず、肩が震える。

 三明は虚無の表情で、真紅の薔薇を咥えたキラッキラな銀髪貴公子(風)を見つめていた。


「その人、知ってるの?」

 

「……全然似てねぇけど」


 ぼそりと呟く三明。

 南燿地方で出会った盗賊たちのことを思い出し、陽南は声を潜める。


「“若頭”って……三明が、小さい頃に面倒見てたんだっけ?」

「あぁ。よく覚えてんな」

「良くも悪くも、今や立派に成長したってことね」

「嬉しくねぇ……」


 溜息混じりに視線を戻した三明が、動きを止める。


 一際大きく貼られた、一億映エイの賞金首。

 元総団長、レオナルド・スカイライト──その、似顔絵は。



挿絵(By みてみん)



「……金髪のジャガイモ?」

「ぶっ、あははははははは!」


 耐えきれず、陽南は腹を抱えて笑い転げる。


「なにこれ! 酷すぎ! あははは!」


 本人を知っているからこそ、可笑しくて堪らない。

 ──だが、次の瞬間。


「《爆雷降バクライコウ!》」


「……姉御っ」

 

「わっ!?」


 三明の声と同時に、陽南は反射的に跳び退いた。


 ――ズガンッ!!


 耳をつんざく轟音。

 掲示板の真正面に、雷が落ちる。


「私の前で、赤司隊長の悪口を言ったら許さないよ?」


 立ち上る煙の向こう。

 現れたのは、朱子アカネ隊の同期――稲隈真保イナクマ・マホだった。


「ちょっと真保! 危ないじゃない!」

 

「私、信じてたよ? ひぃちゃんなら避けるって」

 

「廊下で雷術使うなって言ってるの!」


 栗色のボブカットを揺らし、真保は不満げに頬を膨らませる。


「だってぇ、私に隠れて赤司隊長と“文通”してたら、ジェラシーのライトニング落としたくなるでしょ?」

 

「ただの報告書で一々殺意向けないで!?」


「っつ~かコレ、隊長サンが描いたのか……」


 三明の呆れ声に、真保がくるりと振り向く。


「というかこの子、誰?」


「空見三明。……あたしの相棒よ」

 

「……ど~も」


 紹介すれば、ぎこちなく頭を下げる三明。

 なんだか嬉しくなり、傍らの金髪をくしゃりと撫でた。


「……なんだよ」

 

「別に、なんとなくよ」

 

 迷惑そうな声だが、振り払う素振りはない。

 そんな様子を、真保が興味深そうに見ていた。


「男子にそこまで気を許してるの、珍しいね」

 

「……そう?」

 

「しかも、ひぃちゃんの好みとは真逆の子だし」


「!」


 前に武智が言っていた『年上長身イケメンが好み』という話。

 それを勝手に吹聴したのは──。

 

「……噂の出どころ、あんたか!」

 

「てへっ⭐︎」


 悪びれる様子ゼロ。

 そこそこ長い付き合いだが、彼女の小悪魔っぷりには困ったものだ。



 ◇


 

 廊下を進み、朱子隊隊長室の前で立ち止まる。


「どうぞ」


 軽くノックをすれば、穏やかな声。

 中では、隊長・康志が優雅に紅茶を嗜んでいた。


「おはようございます、大鳥さん」

 

「はぁ……おはようございます、隊長」

 

 お茶会に招かれたような穏やかさで迎えられ、思わず脱力する。

 

「おや、君は……」


 ふとカップを置いた康志が、水色の瞳を細める。


「もしかして、レオさんの息子さんですか?」


「え……知ってるんですか?」

 

「親父の元部下だってさ」


 三明が肩を竦める。


「あんた、隠し子なのよね? 全然隠してないじゃない」

 

「瑞希サンと康志サンだけだ、多分」

 

「えぇ。その代わり、親馬鹿書簡──息子愛を十枚綴にして月一で送られてきましたけどね……」


「毎度メイワクかけて、ホントスミマセン……」

 


 遠い目をする康志、そして三明。

 陽南も軽く頭痛を覚える。


(相変わらず、迷惑極まりないわね……)


 だが次の瞬間、空気が変わった。


「さて。本来は視察報告を聞く予定でしたが……変更です」


 静かな声。

 康志が、一通の書簡を差し出す。


「大鳥さん、空見君。お二人宛てに――『勅書』が届いています」


 そこに刻まれた、威厳ある筆跡。


『登城次第、女王ノ御前ヘ参上セヨ』


 ──ぞくり、と。

 陽南の背筋を、冷たいものが走った。

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