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Crescent Quest 〜陽光ノ道標〜  作者: Soji
第一章 朱陽ノ出立
15/18

⑭ 陽光の道標*


 朝、陽南が目を覚ますと、天幕の中は空っぽだった。

 

(武智君まで早起きなんて、珍しいわね……)

 

「──ん〜、例えるなら……血液の流れに乗せて、指先へ集める感じ?」

 

「む、難しいな……」

 

 外から漏れ聞こえてくる声。

 三明が、武智に術の指南をしているようだ。

 

「あ、タケチ君。左利きなら、術杖も左手に──」

 

「っ、一々言われずとも分かっている!」

 

(だから食事中、肘がぶつかったのね……)

 

 彼が左利きなんて、全く気付かなかった。

 ちなみに陽南は右利きで、三明も右手で剣を扱っている。

 

「へぇ、術士も利き手って関係あるの?」

 

 天幕を出て会話に割り込むと、武智が大袈裟なほど飛び上がった。

 

「ひ、陽南さん!?」

 

「姉御、おはよ」


「おはよう、三明」

 

 挨拶を返し、気まずそうに身を縮める男へと向き直る。

 

「頑張って、武智君。上手くいけば、またあの大百足に会った時に助かるわ」

 

「よし、やってみよう」

 

 武智は掌を返したようにすんなり頷く。

 左手に持ちかえた術杖を握り締め、高く掲げる。

 

「水よ、弾けろ! 《スプラッシュショット!》」

 


挿絵(By みてみん)



 杖の先から勢いよく水が噴き出した。

 まだ威力は乏しいが、以前よりはるかに鋭い。


「お、い~感じ。あとは慣れだな」

 

「ふ、ふん。大して術力も無い奴が、偉そうに……!」

 

 いちいち癪に障る物言いは、毎度ながらカチンとくる。

 しかし三明は苛立つどころか、ふっと目を細めた。

 

「ん。おれよりよっぽど素質あるんだから……自信持てよ、タケチ君」

 

「……くっ」

 

 年下の元盗賊に翻弄される、華族の上官隊士。

 可笑しくも温かい光景に、陽南はこっそり微笑んだ。




 

 王都への帰路、何度か妖獣との戦闘があった。

 武智も必死に術を放ち、陽南達をサポートする。

 

「この辺りでは、さほど妖獣に遭遇しないはずなんだが……」


「えっ!? あたし達、結構戦ったわよね……?」

 

「いや。だいぶ少なめだろ」


 小太刀を収め、三明が淡々と言った。


「王都に来る道中、ほぼ毎日戦闘だったし」

 

 盛大に顔を引き攣らせる武智。

 そして、野蛮な元盗賊だ何だと騒ぎ出す──


「お前な……一体どんな悪路を通ってきたんだ?」

 

 と、思いきや。


「ん〜、基本は森ん中とか峡谷とか……?」


「普通は街道だろう!? 馬車くらい使え!」


「ムリ。おれ、すぐ馬車酔いするし」


「軟弱な奴め! あんなものは慣れだ、砂漠でなければ特別に乗せてやったのに……!」

 

(……武智君)

 

 召使いや元盗賊という肩書きではなく。

 ちゃんと彼を仲間として見てくれるのが、嬉しかった。


「絶対ヤダ。……あ」


 ふと三明が、砂漠の先へと目を凝らす。


「何か見えた?」

 

「距離、千ちょっと。なんか建物がある」


 やがて、燿央・南燿地方の関所が見えてくる。

 広大な砂漠地帯にも、ようやくお別れだ。


「──さて。ここからは、別々になるな」

 

 視察報告のため、陽南と三明は王都へ戻る。

 そして武智は、引き続き現地調査を行うという。


「またな、タケチ君」

 

「道中、一人で大丈夫? 気を付けてね」


「問題ないさ。砂漠でなければ馬車を呼べるからな」


(このお華族様な発言だけはムカつくけど……)


 じとりと睨む陽南に気付いているのかどうか。

 武智は優雅に微笑み、魅惑の提案を口にした。


「王都へ戻ったら、我が家の晩餐会に招待するよ」

 

「えっ本当!? 楽しみにしてるわ!」


 前言撤回、持つべきものは金持ちの友人だ。

 三明の物言いたげな視線は当然スルーした。

 

「……陽南さん。改めて聞くが、本当にいいのか?」


 豪華な食事に思いを馳せていると、不意に武智が表情を引き締める。


「その、僕としては、結婚を前提に真剣な交際をするのもやぶさかでは──」

 

「あっ大丈夫です一生そんな気にはならないんで!」

 

 食い気味にお断りすれば、武智はがっくりと肩を落とした。

 ついでに、我関せずと空を眺めている三明の肩を引き寄せる。

 

「そもそも、今はこの子の面倒見るので精一杯だから。ね?」


「はぁ?」

 

「……まぁ、空見の世話があるなら仕方ないな」

 

「おれは犬猫かよ……」

 

 三明はなんとも言えない顔で嘆息した。

 そんな彼を、武智は得意のドヤ顔で見下ろす。


「おい、空見!」

 

「?」


「お前には負けないからな、首を洗って待っていろ!」


「……何が?」


 きょとんと小首を傾げる三明。

 武智は黙って笑みを深めると、大きく手を振ってみせた。

 

 

 

 

 しばらく歩いてから、ふと三明が言った。

 

「タケチ君、なんか雰囲気変わったよな」


「そうね」


「“タマノコシ”、ホントに良かったのか?」

 

 真顔で聞かれ、思わず咽せる。

 

「そういうのは当分いいわ。今は、あんたがいれば充分だって言ったでしょ」

 

「あ〜、『手のかかる弟』ってヤツ?」

 

 以前、陽南は確かにそう言った。

 ──だが、今は。

 

「うーん……やっぱり、ちょっと違うかも」

 

「?」

 

 不思議そうな視線。

 陽南は強気な笑みを返す。

 

「弟というより“相棒”かな。あんた結構頼りになるし、一緒にいて楽しいし!」

 

「…………あいぼう」


「えっ何、だめだった?」

 

 踏み込みすぎただろうか、と不安になる。

 だが三明は小さく首を横に振り、噛み締めるように呟いた。


「いや……悪くねぇ、かな」

 

「よかった、じゃあそれで!」

 

 晴れやかな心地で、彼の隣に並ぶ。

 三明は眩しそうに、けれど穏やかに目を細める。

 

「改めてよろしくね、あたしの相棒さん?」

 

「了〜解」

 

 温かく降り注ぐ陽光の下。

 陽南は彼に微笑み返すと、共に確かな一歩を踏み出した。










 

 ──これは、

 互いを守る理由と、

 ひとつのしるべを見出した話。

 



【第一章 完】

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