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【未来日記で運命が変わる異世界物語】  作者: ねこラシ
第二章 王国が歩む道先
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第十五話 「広がる戦火」

 トウマがダイシバと剣を交えている間の出来事だった。時間は進み、日は沈んでいた。ジュラルはトウマからの頼みを聞き入れて、ミユとウリルを国外へ出すべく行動を起こしていた。


 着流しの初老の男が宮殿を走り回る。彼は使用人の中でも頂点レベルの人物。何十年もの間この国に仕え続けた彼の頭にはこの宮のマップが叩き込まれている。トウマであれば多少迷っただろうが、彼は一直線に最短ルートで辿り着いた。


 だが老体には少しキツイらしくぜぇ、ぜぇと息遣いが荒くなっていた。だが、そんな姿を主に見せる訳にはいかない。配下ともあろうものが情けない姿を露わにするほど衰えてはいない。


 「ふぅ……失礼します」


 しっかりとノックをする。すると「はぁーい」と幼く可愛らしい声が聞こえてくる。それは、中への立ち入りを許可された合図。


 ドアノブを握り、ゆっくりと押す。中に広がっているのは「The お嬢様」という家具一式がピンク色で統一された部屋、ではなくやや質素な家具たち。そして、青藤色のロングヘアーで毛先には山吹色が広がり、その上には髪色と同じ柔らかな猫耳。マリン色の大きな瞳を輝かせ、黒ローブを身にまとった小さな少女。


 「わーお、めずらしー! どうしたの!」


 「お嬢様、すぐさまここを離れますぞ。大変なことになりました」


 「もしかして、せんそーするから?」


 ミユの口から「戦争」という言葉が出たことにやや驚愕しながらもそんなことをしている暇は無いと行動を始める。


 「事情はともかく―――」


 「そーいえばトーマはどうしたのー? お迎えに来てくれるのはトーマって言ってたけど」


 「トウマ殿は」


 ここに残り戦う、と言いかけたがすぐにその言葉は引っ込んだ。理由は単純、ミユはトウマが大好きである。彼がここに残って戦うと伝えてしまえば、彼女は断固として残ると主張するだろう。それだけは何としても避けなければいけない。


 「それよりもウリル皇子はどこに?」


 「んー、そこにいるよ」


 そう言って彼女が自分の部屋奥を指さすと秋に咲くイチョウがその場に花開いたかのような髪、姉であるミユと同じく西洋の海を彷彿とさせる透けた水色の瞳。顔はまだあどけなさを残していた。ミユと同じく濡羽色のローブを纏っていた。


 「ジュラルさん、こんばんは。父から話は聞いています。早く行動を起こしましょう」


 そう言ってサッサと部屋を出る。同時にミユの手もとり部屋から出す。

 隠密行動、といえばそうである。とにかく敵に知られてはいけない。彼の役目は二人は安全な場所を連れて行くこと。あては無いが、とにかく外へと出す。


 「よろしいですかもしもの時はこの老いぼれを盾にお逃げ下さい、必ず追いつきます」


 「いえ、僕たちも―――」


 「ダメです。それが私の果たすべき責務、行って当然。フードを深く被って私の前をお歩き下さい」


 二人は言われるがままフードを被った。小走りで廊下を駆け抜ける。通路を照らす灯火の光はウリルとミユが消して歩く。闇夜に溶けてこそ黒というのは実力を発揮する。明るい場所では逆効果である。


 走り続ける中でジュラルは心配事があった。それは自らここに残り、時間を稼ぐことを選択したトウマ。


 彼は問題ないと主張し、剣舞という踊りを見せたが残念ながらそれはジュラルの懸念を和らげるものではなかった。剣舞というものを初めて見た彼にとってあれは道のものであった。


 そして何より心配なこと、それは―――


 「戦闘経験」


 たかが数日でいくつものパターンを学習し、手中に収めていれば良いのだがそこまでは流石に無理だろう。トウマの言った言葉に嘘は無い。彼の中で戦いになれた武人になったという意味は根幹から変わったという意味では無い。ただ、「技術」を身につけただけであって「経験」を積み上げて化けたのでは無い。


 「信じられませんね、この王国が無くなるなんて」


 そう語るウリルは少し遠い目をしていた。これから起こる出来事が信じられないかのように。だが、受け入れているのか喚くことは無かった。


 「うーん、でもおとーさんが言ってたし……」


 「明日から野宿ですね」


 「えぇーミユはふかふかベッドが良いなー」


 「ご飯も満足には食べられなさそうです。冒険者でもやらないと」


 「冒険者!? いいねいいね! ミユやりたいかも!」


 (肝が据わっておられる、のか? それとも幼い故に事態を把握できておられないのか……)


 廊下を右へ左へと曲がりながら、脱出を目指していると庭園が目に入ってきた。それと同時に外の状態が目に入る。


 いつもと変わらぬ黒の空、ラメのように小さく輝く星々、雲ひとつない空が広がっていた。いつもと同じであるが、今宵大きな異変が起こるのだ。異変といえばもう一つ。いつもと大きく異なる点がある。


 「お待ちを!!」


 その変事に気がついたジュラルが先を走る二人を呼び止める。その呼び掛けに反応し、二人はジュラルの元へと後退する。


 「……むぅ、大変悩ましいことになりました。外へ出るのは逆に危険かもしれませぬ」


 「どういうことですか?」


 一瞬悩むような表情を見せたジュラルは宙を指さした。顔は苦く変化し、どこか困った感じでもある。促された二人も同じように上に視線をやる。それを見た二人も何かに気がついたのか、ハッと何かを悟る。


 「今日が、一年に一度の日……?」


 「は、初めて見た……」


 昼の太陽、夜の月はそれぞれ入れ替わりで星を照らす。月は上弦、下弦があり、新月やら半月やらがある。時代によっては月の満ち欠けによって運勢を占い、吉凶を出した。


 そして、満月、新月の日には何かが起こると昔から言われてきた。この世界でもそれは同じであり、こちらの方がより信じられていた。


 「紅の光を放つ円月の日、魔に生きる者たちは血に飢える」


 「 紅魔の月(ブラッドムーン)……」


 その日の夜、月が空に輝く間は魔のエネルギーを抱える生物が化け物へと変化する。一年に一度、必ず起きる。その規則性は明かされておらず、いつやって来るのか分からない不安と恐怖に人々は何年もの間怯え続けていた。


 「帝国は……これを狙っていたのか!」


 ジュラルのその言葉が終わらないうちだった――


 ドゴォォォン!!!


 凄まじい衝撃波と耳を貫かんばかりの轟音。咄嗟にジュラルは二人を自身の体で覆う。背を丸め、猫のようにコンパクトになる。

 ここ、庭園は宮殿の大門に近い。何かがあればすぐに脱出できるが、敵の雪崩に巻き込まれる可能性は大。


 ジュラルの危険信号が真紅の光が灯る。大門が破られていた場合、真っ先に被害に遭う可能性がある。


 「()()()がまだ遠いのにー」


 「抜け道? それは何でしょうか」


 ミユの口から出た単語に馴染みのない彼は問いを投げる。トウマが急いでいたこともあり、彼は伝えそびれていたのである。

 すると、ジュラルの着流しからひょっこりと小さな顔を出したミユが語る。


 「ヘルメスが作った道のことだけど、知らない?」


 「はて……それは何処に?」


 「えぇーと、大広間? だった気がするー」


 「なるほど、ここから近いですな。では、素早く移動しましょう。今からは時間との勝負です」


 ある程度衝撃が収まった後、三人は立ち上がり駆け出した。紅魔の月(ブラッドムーン)と帝国の進行。偶然が折り重なった最悪のタイミング。そして、凄まじい爆音は戦の始まりを告げた。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆


 

 王都近辺の森で、息を潜め状況を確かめる人物が二人。一人は全てを凍らせるように冷気を放つ寸前かのように光るブルースカイ色の瞳。黒曜石のような髪の毛先には海のような青。襟の高い戦闘服に身を包み、薄い戦闘グローブを着用している。


 もう一人は対照的であり、煉獄の炎を浴びたかのように赤毛、瞳は満月のように丸く黄金の光を放っている。片方と同じく襟の高い戦闘服に身を包んでいる。襟に隠れているが、首には変わった紋様が刻まれている。片手で単眼鏡のような形を作り国都ケルガルムを覗く。


 「成功したようだ」


 「これが伝説の妙技か、初めてだけど上出来!」


 黒髪の男は片手を合わせ目を閉じた。そこにフゥーと風が吹く。その風を浴びる佇まいはまるで仏のようであった。


 「毎回それやってるけど、意味あるの?」

 

 「死にゆく者たちに向けての手向けだ。父にそう教わった」


「へぇ、俺も今度からやろうっと!」


 同じように赤毛が目を閉じ、手を合わせる。動作を真似てみるが、それが終わるのを待たずして黒髪の男はその場を立ち去る。


 「もう行くの? 俺たちの仕事は終わりでしょー」


 「そうだ、()()()の仕事はな。()()()()は残っている」


 「ほんとにやるんだ、頑張ってね!」


 その言葉を背に黒髪の男は立ち去った。一方で赤毛の男はその場に残り、国門を覗く。不思議なことにレンズが無いにも関わらず、彼の手を通して穴の先を見ると双眼鏡のようになっている。


 何事かと集まり、警戒レベルを上げる。真夜中だが兵士の数は倍になり、門の周囲を固く守備している。普通であればそのような事はない。王都に入るためにはあの門を潜る必要がある。空からの侵入は結界に阻まれ不可能である。あの門を守ることができれば国内への侵入は無いと考えたからであろう。


 「うんうん、予想通り! そこに数を集めてくれれば助かる!」


 立ち上がり、大きく背伸びをする。小高い丘の森林地帯で赤毛の男はストレッチを始める。屈伸に伸脚、関節を大きく伸ばし、大きく背中を反らす。


 「あ、書物とって来てほしいって言い忘れた! まあ、ダイシバに任せれば良いか。いや、伝える人が居ない!


 じゃあ自分で行くしかないのか……結局は俺もあそこに入らないといけないのか。さっき一緒に行けば良かったな」


 そう言い残し、その場を後にした。

 王都ケルガルムの内側からは赤炎が立ち上り、耳をすませば叫び声が聞こえる。

 

 そして空を見上げれば真紅の満月。城壁の外には血に飢えた魔物でじきに溢れる。


 だがこの後、王都からは絶えず悲鳴が響き渡り地は鮮やかな赤で染められる。王国の寿命は徐々に削られ、ゼロまですぐそこに来ていた。

 

 

 

 


 

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