第5話 鑑定不能
王都アルディア。
石畳の大通りを歩きながら、陽太は辺りを見回していた。
「異世界ってすげぇな……。」
露店には見たことのない果物や魔物の肉が並び、ローブ姿の魔法使いや大剣を背負った冒険者たちが行き交っている。
「まずはギルドだな。」
リリアに教えられた場所を聞きながら歩くこと数十分。
ようやく大きな建物が見えてきた。
入口には堂々とした看板。
『冒険者ギルド』
「やっと着いた……。」
扉を開けると、中は想像以上の熱気に包まれていた。
「今日の依頼はオーク討伐だ!」
「昨日また変異種が出たらしいぞ。」
「王都周辺も物騒になったな。」
酒を飲む者、依頼書を見る者、武器を手入れする者。
まさにゲームで見た冒険者ギルドそのものだった。
(テンション上がるな……。)
陽太は受付へ向かう。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
声を掛けてきたのは、栗色の髪を肩まで伸ばした可愛らしい女性だった。
「冒険者登録をしたいんですが。」
「かしこまりました。私は受付のセリアと申します。」
笑顔で頭を下げる。
「では、こちらの魔導具へ手を置いてください。」
机の上には水晶玉のようなものが置かれていた。
「これで何が分かるんですか?」
「魔力量や適性職業などを確認できます。」
「へぇ。」
陽太は軽い気持ちで水晶へ手を乗せた。
すると淡い光が広がる。
ギルド内の冒険者たちも何となく視線を向けた。
普通なら数秒で結果が表示される。
しかし——
ピシッ。
小さな音と共に、水晶に黒い線が走った。
「え……?」
セリアが目を丸くする。
水晶には文字が浮かび上がっていた。
《鑑定不能》
ギルド内が静まり返る。
「鑑定不能だと?」
「初めて見たぞ……。」
「魔道具の故障じゃないのか?」
周囲がざわつく。
一方の陽太は首をかしげた。
「壊れてるんじゃないですか?」
「い、いえ……この魔導具は王国製で故障した例は一度も……。」
セリアも困惑している。
その時だった。
右目が熱を帯びる。
《転生眼》
照合率13%
外部からの解析を阻害しました。
(え?)
(お前が原因かよ……。)
思わず心の中でツッコミを入れる。
「申し訳ありません!」
セリアが慌てて別の水晶を持ってきた。
「こちらでも試してみます!」
結果は同じだった。
《鑑定不能》
今度は完全にギルド中が騒ぎ始める。
「珍しい体質か?」
「特殊職かもしれねぇ。」
「いや、呪われてるんじゃ……。」
好き勝手なことを言われる陽太。
「俺、何もしてないんだけど……。」
セリアは少し考えたあと、小さく微笑んだ。
「鑑定はできませんでしたが、登録自体は可能です。」
「本当ですか?」
「はい。ただし、初めてですのでランクはFからになります。」
「十分です。」
そうして陽太は冒険者カードを受け取った。
人生初の冒険者。
ゲーム好きだった自分にとって、それだけで少し嬉しかった。
「初心者の方でしたら、こちらの依頼がおすすめですよ。」
セリアが依頼書を数枚差し出す。
・薬草採取
・荷物運び
・ゴブリン討伐
「ゴブリンか……。」
昨日戦った相手だ。
今なら問題なく倒せる気がする。
「これにします。」
陽太が依頼書を手に取った——その瞬間。
ドォォォォォン!!
建物全体が揺れた。
「きゃっ!」
外から爆発音が響く。
続いて兵士の怒号が聞こえてきた。
「総員、戦闘準備!!」
「変異種だ!!」
「変異種が王都へ侵入したぞ!!」
ギルド内の空気が一変する。
酒を飲んでいた冒険者たちは立ち上がり、一斉に武器を抜いた。
「そんな……街の中に?」
セリアの顔から笑みが消える。
陽太はギルドの扉へ視線を向け、小さくため息をついた。
「依頼を受ける前から事件とか……勘弁してくれ。」
しかし、その右目はすでに熱を帯び始めていた。
まるで——
外にいる”何か”を見つけたかのように。




