第4話
「そういえば、まだ名前を聞いていませんでしたね。」
森を歩き始めてしばらくすると、金髪の女性が振り返った。
「俺は鈴木陽太です。」
「スズキ……ヨウタ?」
聞き慣れない名前だったのか、女性は少し首をかしげる。
「あ、遠い村の出身なので。」
とっさに誤魔化すと、女性は「そういうことでしたか」と納得したように笑った。
「私はリリアと申します。」
「俺はガルドだ。」
大柄な男が短く名乗る。
その後ろにはローブ姿の青年が軽く頭を下げた。
「エリオです。」
三人とも穏やかに接してくれるが、陽太は違和感を覚えていた。
(この人たち……普通の冒険者じゃない。)
歩き方に一切の無駄がない。
会話をしていても周囲への警戒を切らさず、何かあればすぐ剣を抜けるような体勢を保っている。
「冒険者って、みんなこんなに強いのか……。」
思わず呟くと、ガルドは笑った。
「多少は場数を踏んでいるだけだ。」
「へぇ……。」
陽太はそれ以上深く聞かなかった。
聞いても答えてくれない気がしたからだ。
すると突然、転生眼が反応する。
《転生眼 起動》
リリアを見る。
胸の辺りに青白い光が集まっている。
ガルドを見る。
身体中を膨大な気の流れが巡っていた。
エリオを見ると、背中から無数の魔力の糸が伸びているように見える。
「……なんだこれ。」
「どうしました?」
「いや……なんでもない。」
今まで魔物にしか反応しなかった転生眼が、人間にも何かを映し始めた。
だが、まだ照合率13%。
何を意味するのかまでは分からない。
(照合率が上がれば分かるようになるのか……?)
そんなことを考えていると、森の出口が見えてきた。
その先には大きな石造りの街が広がっていた。
高い城壁。
何十人もの兵士。
門の前には入国待ちの行列までできている。
「すげぇ……。」
ゲームでしか見たことのない異世界の街並みに、陽太は思わず声を漏らした。
「ここが王都アルディアです。」
リリアが微笑む。
「王都?」
「ええ。この国で一番大きな街ですよ。」
すると兵士がこちらを見るなり姿勢を正した。
「ご苦労様です。」
そのまま深々と頭を下げる。
陽太は首をかしげた。
(冒険者にわざわざ毎回挨拶するのか?)
一応陽太も小さくお辞儀した。
リリアは小さく頷くだけで何も言わない。
無事に街へ入ると、リリアが言った。
「ヨウタさん。この街にはしばらく滞在される予定ですか?」
「そのつもりです。」
「でしたら冒険者ギルドへ向かうと良いでしょう。身分証も発行されますし、お仕事も受けられます。」
「助かります。」
「では私たちはここで失礼します。」
三人は笑顔で手を振り、人混みの中へ消えていった。
「いい人たちだったな。」
陽太はそう呟き、ギルドへ向かって歩き始める。
⸻
その頃――。
王都の中心にそびえ立つ王城。
豪華な一室で、先ほどまでリリアと名乗っていた女性が椅子へ腰掛けていた。
「お疲れ様でした、殿下。」
ガルドが片膝をつく。
エリオも静かに頭を下げる。
リリアは先ほどまでの柔らかな雰囲気とは違い、凛とした表情で口を開いた。
「ガルド、あの青年をどう思いましたか?」
「間違いありません。」
騎士団長ガルドは即答する。
「あの変異種を、一切迷わず急所へ攻撃しました。」
「偶然ではない……そういうことですね。」
「はい。」
エリオも静かに続ける。
「魔力の流れも見えていない限り、不可能な動きでした。」
部屋に沈黙が流れる。
やがてリリア――この国の第一王女リリア・アルディアは、小さく呟いた。
「……ようやく見つけたのかもしれませんね。」
「王家が数百年探し続けた存在を。」
その言葉に、ガルドとエリオの表情が引き締まる。
「ですが、まだ確証はありません。」
「ええ。だからこそ監視を続けましょう。」
王女は窓の外を見つめ、静かに微笑んだ。
「鈴木陽太……あなたは一体、何者なのでしょう。」
その頃、当の本人は――。
「ギルドってどこだ……。」
王都の大通りで完全に道に迷っていた。
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