第3話 通りすがりの転生者
「はぁ……。」
陽太は大きくため息をつきながら森の中を歩いていた。
異世界に転生してからどれくらい時間が経ったのか分からない。
食料もなければ、水もない。
あるのは手に持った木槍と、照合率13%になったばかりの転生眼だけだった。
「とりあえず街を見つけないと話にならないな……。」
その時だった。
キィンッ! ガキンッ!!
金属同士がぶつかり合う音が森に響く。
「戦ってる……?」
普通なら関わらない。
異世界に来てまだ一日も経っていない自分が首を突っ込むような場面ではない。
「いやいや、面倒ごとはごめんだ。」
そう言って歩き出そうとした、その瞬間。
右目が熱を帯びた。
《転生眼 起動》
視界の先に映る魔物たちへ赤い印が浮かび上がる。
ゴブリンが五体。
その全員の胸元には赤い光。
だが——
「……あれ?」
一体だけ違った。
黒ずんだ皮膚。
赤黒い魔力をまとい、他の個体より一回り大きい。
そして弱点は胸ではなく——首の後ろ。
「なんだあいつ……。」
他のとは明らかに違う。
その瞬間、悲鳴が聞こえた。
「きゃっ!」
若い女性剣士が体勢を崩し、変異したゴブリンが一直線に飛びかかる。
隣の大男が助けようとするが間に合わない。
「……ったく。」
陽太は頭をかいた。
「見ちゃった以上、寝覚めが悪い。」
地面に落ちていた木槍を握り直し、全力で駆け出す。
「おい!」
全員の視線がこちらへ向く。
「危ない!」
誰かが叫ぶ。
しかし陽太の目には、変異ゴブリンの動きが妙にはっきり見えていた。
飛びかかる軌道。
着地点。
そして首の後ろに浮かぶ赤い光。
「そこだ!」
踏み込み、身体をひねる。
木槍が一直線に突き出された。
ズドッ!
吸い込まれるように赤い印へ命中する。
変異ゴブリンは苦しむ暇もなく動きを止め、そのまま黒い霧となって消えた。
一瞬、森が静まり返る。
「な……。」
「一撃……だと?」
冒険者たちは信じられないものを見るような目で陽太を見つめていた。
陽太自身も驚いていた。
「本当にそこが弱点だったのか……。」
転生眼のおかげとはいえ、自分でも信じられないほどあっさり倒せてしまった。
残ったゴブリンたちは仲間の死に怯え、一斉に逃げ出していく。
「助かった……。」
金髪の女性剣士が胸をなで下ろした。
隣にいた大柄な男が陽太へ近づく。
「君、何者だ?」
「いや、ただの……。」
陽太は少し考えて肩をすくめる。
「通りすがりです。」
「通りすがりであの魔物を倒したというのか?」
「運が良かっただけですよ。」
苦笑いしながら答えると、一行は顔を見合わせた。
到底、運だけには見えなかったからだ。
しばらく沈黙が流れた後、女性剣士が口を開く。
「この森を一人で歩くのは危険です。もしよろしければ、近くの街までご一緒しませんか?」
願ってもない申し出だった。
「それは助かります。」
「では、改めてよろしくお願いします。」
陽太は軽く頭を下げ、一行と共に森を歩き始める。
誰も気付いていなかった。
先ほど倒した変異ゴブリンの亡骸から、黒い魔力が空へと溶けるように消えていったことを。
そして、その黒い魔力を遠く離れた場所で見つめる”何者か”がいたことを――。
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