第二話:俺って勝ち組?
翌朝、目が覚め時計を見ると時刻はまだ午前6時だった。
カーテンを開けるとすでに太陽は顔を出していた。
昨晩のうちに必要なものを揃えていたのでこのまま家を出れる。それまでゆっくり朝御飯でも食べていよう。
洗面台で顔を洗い歯を磨き台所に向かった。
そこには制服にエプロンを着た茜の姿があった。
「あ、啓君おはよう」
「おはよう。早いな」
「目が覚めちゃったから朝御飯でも作ろうかなって。啓君のもあるから座っていて」
「お、おぅ」
俺が椅子に座ると茜は出来た料理をテーブルへと持ってきた。
「はい、おまたせ~」
テーブルにはご飯、みそ汁、焼き鮭など朝食と言ったらこれだろ、という感じの定番な料理が並んだ。
「こういう朝ごはん久々だ」
「いつもどんなの食べてたんですか?」
「朝基本的に食べないからさ」
「しっかり食べないとダメですよ」
そう言って茜はほほを膨らませた。
朝食を食べ終わり茜は片づけをして俺は制服に着替えに部屋に戻った。
着替え終わると鞄を持ち玄関に向かうとそこで茜が待っていた。
「あれ? 先行ったんじゃないのか」
「一緒に行こうかと思って。ダメかな?」
「そんなことは無いけど」
「早く行こっ」
女子と登校なんて完全青春じゃねーか。もしかして俺って勝ち組?
「啓君?」
「な、なに?」
「さっきからニコニコですね」
「が、学校が楽しみなんだよ」
あっぶねー。つい気持ちが表情に出ちまった。
15分ほど歩くと高校が見えてきた。
「学校見えてきましたね」
「受験以来だな」
学校の前の通りには同じ制服を着た学生が大勢いた。全員1年生のはずだ。確か他の学年は今日は休みでこの日登校するのは1年生と極わずかの3年生。その3年生も先に来て正門であいさつをしている。
「なんか緊張してきた~。お友達出来ますかね?」
「俺が居るだろ」
とドヤ顔で言ってみたが茜は頭に“?”を浮かべた。そういうの知らないのか?
学校に入ると昇降口の前に掲示板がありクラスが書いてあった。
「えーっと春野春野……」
「啓君のありました。1組です」
茜が指した場所を見るとそこに春野の文字が……二つ?
「って俺達同じクラスか」
「そうみたいですね~」
俺と茜は教室に向かうとすでに半数近くの生徒が居た。
黒板には各自の席の番号と名前が書いてあった。
「五十音順じゃないんだな」
「そうみたいですね」
俺は黒板に書いてある席に行くと机の右上端にテープが貼られていてそこに自分の名前が書いてあった。窓側最後尾だ。ここってアニメや漫画ではなぜか定番な場所なんだよな。茜は廊下側の先頭だった。俺の席からは一番離れている。
席に座っていると前の席の男子生徒が後ろを向き話しかけてきた。
「やっほー、1年よろしく」
「こちらこそ」
「俺は近藤隆だ。隆って呼んでくれ」
「俺は春野啓。よろしく」
「よろしくな。ところで今朝一緒に登校してきた女子は誰なんだ?」
み、見られてたー! 一緒に暮らしているなんて言えないし……
「お、親が知り合いで昔からの知り合いってところだな」
「ふーん、そうかー」
これからばれないようにしないとな……
その後生徒は全員体育館に移動して入学式が始まった。長い話しを聞くのは疲れるな。
あっという間に入学式が終わり教室に戻った。その後先生が教室に入ってきて各自自己紹介が行われた。
今日は学校についてのミーティングなどだけで午前で学校は終了。次の学校は明日だ。俺は荷物をまとめて教室を出た。茜は買い物があるとかで先に帰った。
1人で廊下を歩いていると後ろから隆が追いかけてきた。
「おーい、啓」
「ん? なんだ?」
「一緒に帰ろうぜ」
「おう、いいぜ」
俺と隆は一緒に昇降口を出た。
「啓はなに組だ?」
この“なに組”というのは通学方法である。電車組は電車通学など他にもバス組、チャリ組などある。
「俺は徒歩組だ」
「珍しいな」
全生徒の内、徒歩組は1割居るかどうかという少なさらしい。
「そうか? まぁ確かに歩いている奴もいるけど大体は電車だからな」
「この後どこか居かね?」
「別にいいけど」
「ちょっと駅前のショッピングセンターの上にあるゲーセンで太鼓のプロやりたくてさ」
「あれか、じゃぁ行くか」
太鼓のプロとはリズムに合わせて太鼓を叩くというシンプルなゲームだが結構楽しいリズムゲームだ。
あまり場所を知らない俺は隆に連れられてそのゲーセンに向かった。
学校から大体10分ほど歩きショッピングセンターに着いた。ここは昨日茜と買い物に行ったスーパーの向かいにあるショッピングセンターだった。
「ここの4階にゲーセンがあるんだぜ」
「そうだったのか。昨日向かいのスーパーには来たんだけどここには来てないな」
「早く行こうぜ」
エレベーターで4階に行くと小さなゲームコーナーがあった。
「午前中だけあって人は居ないんだな」
「やりたい放題だぜ」
「俺は見てるだけでいいや」
「そうか? じゃぁさっそく」
隆は太鼓バチを持ってやり始めた。俺はどうもこういうのは苦手なんだよな。確かに楽しいんだが疲れるんだよな。
そして3曲目が終わった。
「腕がー」
「やっぱりなると思った」
この手のゲームは激しく腕を動かすために痛くなるのだ。
「これくらいにして他の場所行かないか?」
「先に飲み物回に行こうぜ。やったら疲れちまった」
「それじゃ向かいのスーパー行くか」
「だな」
俺と隆はエレベーターで一階に下り外に出て向かいのスーパーに向かった。
スーパーの飲料コーナーで飲み物を選び始めた。
すると後ろから「啓君も来てたんですね」と呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると話しかけてきたのは茜だった。買い物ってこれかよ。確かに昨日はあまり買ってなかったし……
「啓どうした? って君は確か啓と一緒にいた」
「春野茜です。えっと、あなたは確か同じクラスの……」
「近藤隆だ。春野って啓と同じだから茜ちゃんって呼ばせてもらうぜ」
「はい」
「それで茜ちゃんは買い物?」
「はい、今晩の晩御飯を買いに来たんです」
「家族分?」
「違いますよ~。実家から出てきているので」
「一人でこの量?」
俺はその時覚った。もしかして茜は一緒に暮らしていることを言うのではないかと。阻止するべく必死に茜バツサインをだした。茜はそれに気がついたみたいだ。
「えっと、買い置きですよ」
「茜が一人でこんなに食べるわけないだろ」
「そうだよな。それにしてもいろいろ買うよな。納豆もこんなに」
「それは啓君が好きなので」
あっ……。言ってしまったーーーー!! 一瞬その場の空気が凍った。
「啓が好きなのをなんで買っているんだ?」
「えっと……」
「お、俺が買って置いてくれって頼んだんだよ。」
「そうか。まぁいいや」
あっぶねー。危うくバレるところだったぜ。
その時隆の携帯電話が鳴った。
「もしもし? うん、分かった。今行く」
話はすぐに終わり電話を切った。
「どこか行くのか?」
「親がこの近くに来ているから車で買えることになったから」
「それじゃまた明日な」
「そうだな。それじゃ俺はこれにて」
「またです」
隆は小走りで店を出て行った。
「俺たちも帰るか」
「そうですね。それじゃすぐにこれ買ってきます」
茜はカゴをレジに持っていった。俺も後から飲み物を選んでレジに並んだ。レジを通ると袋に買ったものを詰めている茜の姿があった。
「おれ持って行こうか?」
「大丈夫ですよ。啓君鞄持っているじゃないですか」
「大丈夫だって。鞄あまり入ってないし」
「それじゃお願いします」
袋を持ち店を出て家に向かった。
時刻はすでに13時になろうとしていた。
「腹減った……」
「お昼まだなんですか?」
「学校帰りにそのまま来たからな」
「早く帰って何か作りますよ。私もまだなんです」
家に帰ると俺は制服から普段着に着替えた。やっぱりこっちの方が動きやすいな。制服をハンガー掛けると部屋を出て台所に向かった。
「何作ってるんだ?」
「冷やし中華ですよ。もう売っているんですね」
「確かにそうだな」
冷やし“中華始めました”というか”冷やし中華フライングました”って感じだな。まだ4月だし。
茹でた麺を冷やしお皿に盛りつけ具を乗せていった。キュウリやハム、薄焼き卵など彩りが鮮やかだ。
「私こういうの結構盛り付けこだわっちゃうんですよね」
確かに茜の料理はすごく綺麗に盛り付けられている。このまま写真撮ればプロの料理にも見えるだろう。
「さて食べましょう」
「いただきます」
外はまだ肌寒いが部屋の中は暖房で暖かい。なので冷やし中華がより美味く感じる。俺は空腹と美味さで一気に平らげた。
「美味かったー。ごちそうさま」
「お皿片づけちゃいますね」
「よろしくー」
茜はお皿を洗い始めた。俺は椅子を降りてリビングにあるソファーに寝転んだ。まだテレビは買っていない。
「役割とか決めた方がいいと思うんだが」
「家事全般は私がやりますよ。こういうの好きなので」
「風呂掃除くらいはするよ。家事取られたら何もないからな」
「それじゃお願いします」
「あと何かルールというか決まりとかあった方がいいか? 洗濯物は別とかさ」
「洗濯物は一緒でいいですよ」
「いいのか?」
「別に気にしませんから」
まぁここで別がいいなんて言われたら正直ショック受ける。
「洗い物終わりです~。さてこのあと何しましょう?」
時刻はまだ14時前だ。どこか行くしかないよな。
「それじゃリビング用にテレビ買わないか? って高いよな」
「大丈夫ですよ。親から仕送りあるので。行くの15時でいいですか?」
「それまで部屋でテレビ売ってる場所探してみるよ」
つうか今のやりとり完全に夫婦じゃねーか! なんてことを思って部屋に入った。
部屋に戻り近くに家電量販店がどれくらいあるか調べてみることにした。
パソコンを点けてさっそく調べると大手の家電量販店がヒットしたがここから歩結構距離があった。もっと近くには専門店は無い。
「大体歩いて30分くらいか……」
自転車で行けば10分くらいだが茜は持ってきていないようだ。さてどうするか……。俺は部屋を出て茜の部屋をノックした。
そういえばこの部屋入るの初めてかもしれない。
部屋の中から「どうぞ」と声がしたので俺はドアを開けた。
「失礼しまーす」
「どうしました?」
荷物の整理の続きだろう。茜は段ボールから本などを棚に並べていた。
「テレビ売っている場所なんだけどさここから歩いて30分くらいは掛かるみたいなんだ。どうする?」
「私はそこでも構いませんよ。ちょっとしたお散歩ですね」
茜はいつも通りにポジティブな考えだった。
「もう少ししたら行くか? 早めに行った方がいいと思ってさ」
「それじゃ14時半でいいですか? もう少ししたら片付け終わるので」
「分かった。部屋にいるから終わったら呼びに来てくれ」
「分かりました」
俺は部屋を出て自分の部屋に向かった。部屋に戻っても特にやることは無い。さてどうするか……。暇つぶしに漫画でも読むかな。本棚からテキトーに一冊の漫画を取って読み始めた。漫画の半分くらい読み終わったと時、部屋をノックする音が聞こえた。もう準備できたみたいだ。俺は財布と携帯を持ってドアを開けた。
「準備できました」
「それじゃ早速行くか」
「はい」
玄関で靴を履き茜は家の鍵を閉め、家電量販店に向かった。地図を見た限り線路沿いを歩いていけば着くようだ。良く行く駅前のスーパーを越え線路沿いの道に出た。
「この通りまっすぐ行けば見えるはずだ」
「結構距離ありますね」
線路沿いの道を歩き、小さな歩道橋を越えて行くと静かな住宅地があった。
「この辺りはまだ田んぼがあるんだな」
「私の実家の方はお茶畑が多いですね」
「茶畑もあまり見ないな」
しばらく歩いていると途中で大きく線路沿いから外れてしまう分かれ道見えてきた。
「どうするか……」
「踏切が見えるのでそこを渡ります?」
「そうするか」
途中で踏切を渡り反対側の道を歩き始めた。すると風に乗っていい香りがしてきた。
「この匂いは? なんか懐かしいな」
「甘い香りがしますね」
辺りを見るとそこには大手のお菓子メーカーの工場があった。懐かしいわけだ。小さい頃誰もが食べた事あるようなお菓子を作っているメーカーだからな。
工場と線路の間の道を歩いていると遠くの方に家電量販店の看板が見えてきた。
「あれだな」
「もう少しですね」
線路沿いから外れ看板が見える方へ向かった。建物全体が見えてきた。どうやら家電量販店以外にも雑貨屋とスポーツショップが同じ建物にあるようだ。家電量販店は2階にある。店舗に入るとすぐ目の前にエスカレーターがあり上がると広い店舗があった。
「すごい広さだな……」
「そうですね」
テレビ売り場を見つけるとそこへ向かった。
「この辺りがテレビ売り場か。最近のは安いんだな」
「大きくても5万円みたいですね」
「安いなら大きいの買うか」
「でもどうやって持ち帰ります?」
「宅配してくれるみたいだからそれ頼もうか」
「宅配あるんですか~。便利ですね」
「テレビはこれでいいか?」
あまり機能を求めていないので手頃な値段のを選んだ。
「私はどれでもいいですよ。あまり詳しくないので」
「じゃぁこれにするか。すいませーん」
俺は店員さんを呼んでテレビを選び宅配サービスの紙に住所などを書きお金を払った。茜は店舗入口前の自動販売機の前で待っていた。
「おまたせ。明日の夕方には届くってさ」
「楽しみですね。この後どうしますか? まだ時間あるみたいですが」
「今何時?」
「えーっと……」
茜は携帯の時計を見た。
「15時半前ですね」
「まだ時間あるな。茜はどこか行きたい場所あるか?」
「私はすぐ隣にある雑貨屋に少し行ってみたいです」
「分かった」
家電量販店を出て店舗の駐車場を横切るとすぐそこに同じ建物の一階に雑貨屋がある。この雑貨屋は小物はもちろん服やゲーム、プラモデル、お菓子などいろいろ売っている。見た感じ女性が好きそうなものが多い。
茜は入ると目の色を変えていろいろな商品を見始めた。
「これ可愛い~。こっちも~」
こうなると女性は結構時間かかるものらしい。俺はと言うと茜に付いて一緒に商品を見て回るしかない。
「これ買おうと思うんですどっちの色がいいですか?」
「どれ?」
折りたたみ財布を二色手に取っていた。色はピンクとブラウンだ。正直俺ならブラウンだが茜はピンク好きなのかも知れない。よしここはこの色にしよう。
「俺はピンクがいいと思うけどな。似合うし」
ってなに似合うとか行っているんだ俺は! ここは普通に答えればいいのにちょっと恥ずかしいわ……。
「それじゃピンクにしますね」
「お、おう」
あれ? あまり気づいていないのか? もしかして……
茜はピンクの財布を買い俺たちは雑貨屋を出た。
「さてそろそろ帰るか」
「そうですね」
俺たちは来た道を辿って家に帰った。




