夜の後に
最後の音を鳴らして、物語が終わった。
その場の全員が、その音の余韻につかる。
「これにて、物語はおしまいです。
そうそう、付け加えるならば、彼らのその後を少し。
フィアナは、ポロニとの婚約を解消して、アーサーと暮らす事になりました。
アーサーは、王から褒美を賜り、フィアナと幸せに暮らす事になりました。
クリプトは、セレンと夫婦となる事になり、新婚生活を謳歌しております。
精霊の聖地では、土地を追われてきた者たちが、元の土地へと戻って行きました。
リッシュは、お世話になった座長に別れを告げ、一人で旅に出る事になりました。
彼らは、皆、闇に邪魔された分、その倍は幸せになったのです――」
そして、その旅芸人は、ふっと笑った。
「さて、満月があんなに高い。――これにて公演は終わりです」
そして、立ち上がって優雅に一礼。
「皆様、最後までお聞きいただきまして、有難うございます」
◇◆◇◇◆◇◇◆◇
彼は、次の日の朝、村の人たちに、お礼の食べ物と綺麗な織物を貰って、旅立った。
オレは、彼が旅立つときに、今まで誰も尋ねなかった質問をした。それは、当たり前の質問なのだが、何故か誰も尋ねることをしなかったのだ。
あんたの名前は?
その答えを聞いて、オレは妙に納得してしまった。あの、優雅な雰囲気と、素晴らしい歌声の理由を。
それと同時に、もう、彼と出会うことはないだろうと思った。
あの旅芸人は、オレの質問に、笑いながらこう答えたんだ。
「僕の名前? ――リッシュ。リッシュって言うんだ」