白き手紙
「まったく。君は理知的に見えて、その実、衝動に任せて動くよねえ。初めて君と組んだ時もそうだった。巨大な魔物だったからって、限界を超えて巨大な血の剣を創ってさ。捕縛を完了させた瞬間に、バタンキュー。まったく。万年人手不足だから応援も呼べないし。僕独りで巨大な魔物を背負って、君をお姫様抱っこして大変だったんだよ。とてもね」
ビルの狭間。
百はある室外機が立ち並ぶその空間にて。
半人半魔が放出する漆黒の炎に浸食されながらも、半人半魔の血の涙を吸血した東雲は今、曙の片手に乗るほど小さな蝙蝠の姿へと変化するばかりか、気絶もしていた。
「まあ。君のおかげで、彼に隙が生まれたわけだけど」
完全なる魔物へと変貌する間近だったが、東雲に吸血されたおかげで漆黒の炎の放出を止めさせられたばかりか、元の姿へと戻る事ができた半人半魔の魂を死神の紐で縛る事に成功した曙。抵抗する気力を喪失させた半人半魔を前にして僅かに眉尻を下げて、ごめんねと謝った。
「完全に君を人間に戻したかったけど、できなかった。それだけ君の憎しみが強かった。字龍に向けたものだけじゃない。酔っ払い運転をして彼女を殺した相手に向けたものも………彼女を殺した相手を殺しても、憎しみが消える事はなかった。君が君自身を殺しても、憎しみが消える事はなかった。消えられなかったから君は今、こうして半人半魔になってここに居る。本来ならば、彼女が居る天界に昇天できたはずなのに………いや。人を殺したから、君は彼女の居る天界には行けなかったかな」
「………」
「字龍の魂を死神の紐で縛った時に見えたよ。彼女の手紙。君の魂を縛った時に見えた彼女と同じ顔だったから間違いない」
「………」
「彼女の手紙は真っ白だった。何も書かれていなかった。その意味。君なら分かるよね?」
「………」
「彼女は直接君に会って伝えたかったんだ。君の顔を見て、プロポーズの返事をね。だけど、君に会いに行く時間はまだ取れなかった。だから真っ白な手紙だけ先に送った。君ならばきっと分かってくれると信じて。待っていてくれると信じて」
「………」
半人半魔の右半身にだけ残る半分の口は絶え間なく動くも、言葉を発する事はなかった。
呻き声すらも発する事はなかった。
しとどに溢れ出ていた血の涙も今は、一滴すら生まれる事はなく。
「今から僕は然るべき場所に君を連れて行く。彼女に二度と会えない場所に連れて行く。酔っ払い運転をして人を殺した相手は赦されるべきではない。だけど、殺されるべきでもない」
「………」
「………行こうか」
曙は片手に蝙蝠となった東雲を乗せて、片手で半人半魔の右手を掴んで、背中に死神の紐で結び付けた字龍を背負って歩き出したのであった。
(2026.11.3)




