7 曙と東雲
はらりはらり、と。
銀杏の黄葉が舞い下りる。
順番でも決まっているのか、いちまい、また、いちまいと、同時に黄葉が舞い散る事はなく。
はらりはらり。
はらりはらり。
はら、り、はらと。
その空間だけ時間の流れが遅くなっているのでは錯覚してしまうほどに、とても緩やかに黄葉が舞い下りる。
「おい」
「ん~~~」
「邪魔なんだが」
「お構いなく~~~」
「………」
東雲の私邸にて。
文机の前に正座になって今回の報告書及び始末書を手書きで作成していた東雲。背にもたれて来る曙の腑抜けた返事に対し額に血管が浮かぶも、問答無用で離れさせようとはしなかった。
理由は二つ。
一つは、今回の字龍捕縛に際し、新たに出現した半人半魔への対応で、東雲が弱体化しては蝙蝠に変化してしまうという失態を犯し曙に迷惑をかけてしまったので、あまり無下にはできなかった。
もう一つは、
「彼女の手紙は本当に白紙だったのか?」
「ん~~~」
「半人半魔の。いや。彼の字龍への憎しみを断つために嘘を言ったのではないか?」
「………白紙だったよ。白紙でも、文字が書かれていなくても、十二分に字龍は満足していた。文字を喰らう魔物なのにね。文字が書かれていなくても彼女の想いを確かに字龍は喰らった………そうだね。僕はその事実を彼に伝えなかった。彼は彼女の想いを微塵もくれてやりたくなかっただろうから、その事実を伏せた。わざわざ火に油を注ぐ必要はないってね」
「………彼女は彼の求婚を受けるつもりだったのだろうか。もしかしたら」
「さあ。どうだろうね。彼女が死んでしまった以上………いや。うん。死神である僕なら彼女の想いを聞く事はできる。彼女の想いを、彼に届ける事はできる。だけど。僕の仕事はもう終わった。彼を然るべき場所に送り届けた。もう、僕が彼にも彼女にも関わる事はない。僕は死神だ。死者を然るべき場所に送り届けるだけの存在。まあ。人手不足だからってしょっちゅう魔物の捕縛にも駆り出されるけどね」
「………」
東雲は曙と話しながらも綴っていた報告書と始末書を書き終えると、それらを文机の引き出しに仕舞い、別の引き出しから白紙を取り出しては文机の上に置き、三つ折りにしては掴んだそれを手だけ動かして曙へと差し出した。
ちょうど曙の顔の前に差し出される形になった三つ折りの白紙を両手で掴んでは広げた曙。なにこれと東雲に尋ねた。
「やる」
「………白紙なんだけど」
「手紙だ」
「文字が見えないんだけど」
「心を清らかにしたら読める」
「………」
ずりずりずりと。
東雲の背中に沿って頭を畳につけるまでずり落として仰向けになった曙。両手を伸ばして白紙の手紙の注視したのち、両手に白紙の手紙を持ったままやおらうつ伏せになると、身体を曲げて正座の姿勢になり、その状態で東雲の横に移動した。
「迷惑をかけてごめんなさいっていう謝罪文と、お詫びに松茸定食を奢りますよっていう誘い文に見える」
「………そう見えるんならそう書いているんだろう」
「………でも、日時が書いてない」
「書き忘れた。今日の午後七時だ」
「………デザートにさつまいもパフェもいいかな?」
「ああ」
「じゃあ。午後七時にまた来るね」
「ああ」
「東雲ちゃん。あのさ。毎回毎回、全力で挑んでいたら死んでしまうよ。前も言ったと思うけど」
「迷惑をかけた。すまなかった」
「………早く眷属を見つけて、一緒に働いてもらいなよ」
立とうとする曙の腕を強く掴んで引き留めたいという衝動を必死に堪えた東雲。運命の相手はおまえだと、眷属にしたいのはおまえだけだとの叫び声は腹の中だけで反響させた。
(吸血鬼に吸血されたものは、例外なく吸血鬼になる。こいつは死神で、死神として生きていきたいと思っている。前回。初対面でそう言われた。私は、曙の生き方を捻じ曲げたくない。誰が。捻じ曲げるものか。これが、私の………愛し方だ)
(占いの神に尋ねてみようかな。東雲ちゃんの運命の相手。うん。死なれたら。うん。寂しいからね。よし。早速今から行こう)
「え? 僕が東雲ちゃんの運命の相手なの? え? 吸血鬼の運命の相手って人間じゃないの? ええ~~~。まじかあ~~~。え? しかも、東雲ちゃんは僕が運命の相手だって気付いているの? はあ。なるほど。僕が眷属になるのが嫌だから、吸血しないのか。まいったなあ」
「………おい」
「え? なに。占いの神」
「そなた。吸血鬼に吸血されたら吸血鬼になるのだぞ。つまり、死神ではなくなるという事だがその事に対してはどう思っておるのだ?」
「ええ~~~。いや。考えた事なかったからなあ。うん………どうしようか」
「我に問いかけられても知らぬ」
「だよねえ。うん………うん。とりあえず。眷属の件は置いておいて。東雲ちゃんが魔物の捕縛に行く時は同行しよう。同行して東雲ちゃんの補佐をして、決めていく」
「ああ。とりあえずそれでいいんじゃないか」
「うん。ありがとう。占いの神」
天界の占いの神の雲島にて。
手を振っては運雲に乗って去って行く曙を見送った占いの神。曙と東雲がどうなるのか、時の神に尋ねてみようと思ったのであった。
(我が占えばよいが。占いは外れる時もある。だが、時の神ならば未来がどうなるか分かる。我は曙と東雲がどうなるのか。気になる。気になるぞっ!!!)
(2026.11.4)




