愛する者の
誰かが言った。
ごくまれにおまえみたいな吸血鬼が産まれるんだ。
愛する者の血以外は吸血を拒否する吸血鬼が。
ああ。
昔は愛する者が見つからなかったり、愛する者を眷属にしてしまう前に死なせてしまったり、愛する者の吸血を拒んだりしたら、その吸血鬼は代替食品だけじゃあ心身共に満足できず栄養不足で死ぬ事もあった。塵と化してどの世界からも消えてしまう事もあった。
けれど。
ああ、今はいい時代になった。
愛する者以外からも吸血できるようになったんだ。ちょいと、脳をいじくれば済むだけの話にね。
大丈夫。
脳をいじくったって安全安心に暮らせるさね。
だってのに。
おまえはどうして拒むのかねえ。
東雲。
ずっと代替食品だけで生きていくつもりかい。
そりゃあ、代替食品だけでも生きていける吸血鬼も居るがね。
やはりどこか荒んでいくんだよ。
平静さを装いながらも挙動不審になったり、部屋の片隅で怯えて蹲ったままになったり、凶暴化して他者を傷つけたり自分を傷つけたり、理性を失って自分を喰らったり。
平静さを装っているが、おまえ。
もう、限界が近いんだろう。
愛する者はもう見つけたはず。
さっさと吸血してしまえばいいものを。
どうしてどちらかを選ばないんだ。
「さあ。どうしてだろうな………どれもこれもが気に食わないからだろうか」
ビルの狭間。
百はある室外機が立ち並ぶその空間にて。
「オレも。かのジョモ。口下手デ。遠キョ離恋あいで。テガミを通シて。でシカ。自ぶんの。手でカいた。お世辞ニモ。キレイとは言えナい字で。一ショウ懸命。カイタ。手がみで。シカ。自分のオもイを。伝え。ラレナカった。プロぽーズで。すら。そのヘンジが書かレたカのジョノ手紙を。じげンは。喰いヤガった。酔っ払イウンテンで。死んでシマッタカのジョの。最期ノテガミを。サイゴの想いヲ。ユル。さ。ナい。ユルサナイ。ユルスモンカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
右半身にも漆黒の炎を浸食させては、一気に放出した漆黒の炎で曙と東雲を浸食せんとしている半人半魔。唯一人間としての部位が残っている右目からは、血の涙がしとどに溢れ出ていたのであった。
(2026.10.31)




