第6話 ライバル
(10月18日に改稿)
緋色は訓練所での最初の授業を受けている。
そしてやっと昼休みに入った。
「あーづかれだー」
緋色は自分の机に突っ伏した。
「もったいないなー。ここの食堂は世界一美味しいのに。」
「まじか」
緋色は急に元気を取り戻したので想志はびっくりした。
「じゃあ行こうか。」
二人は食堂まで歩いていった。
食堂前の廊下では、まだ授業が終わって数分しか経っていなかったのに恐怖を感じるほどの長い列ができていた。
「ひえー。」
「まだこれでも早く来れたほうだ。熱いうちに食べられるぞ!やったーっ!」
15分後、やっとトレーを取ることができた。
「今月の限定メニューはチンジャオロースだから絶対に食べたほうがいいぞ!」
想志は強く勧めた。
「じゃあ俺それと米にしよ」
「それだけでいいのか?」
「米はおかわり自由だろ?たぶん」
「まあそうだけどあの列にまた並ばなきゃいけないぞ」
「げ、じゃあいくつかメニューを取ったほうがいいかぁ」
徐々に流れ始めてきたので、チンジャオロースだけでなく納豆とキムチとコーンポタージュと米を取ってレジまでやってきた。
お値段はこれだけ取って500円だった。
レジの隣にあるコーナーが目に入った。
そこにはピザやハンバーグといった超美味しそうなものが熱々の状態で置いてあった。
しかもほとんど誰も取らない。
「あの、あれ取ってもいいですか」
レジの人に聞いた。
「んじゃ証明書見してみぃ」
事態を察した想志が注意した。
「おい緋色、あれは成績優秀者コーナーだぞ。2ヶ月に一度の試験でオール95点取った人しか取れないコーナーなんだ。」
「あ、すいません。今日転校してきたので。すいません。」
「いいよぉ。」
優しいおばちゃんで良かった。
「おいおいそんなんじゃだめじゃないか、苑家のくせに」
想志の後ろから男の声がした。
その男は緋色たちを通り過ぎてレジのおばちゃんに紙を見せつけた。
「お、お、お、お、お。よし、どうぞー。」
そしてその男は成績優秀者コーナーへ向かった。
「あれが証明書だよ」
想志が小声で言った。
「まったく、苑家なのに子どもへの教育がなってない。」
そういいながらその男はハンバーグを2つも取ってレジへ戻ってきた。
「おい、会計は終わったんだろ、想志にはまだ譲ってやるがお前はもう行ってもいいんじゃないか?」
緋色は言い返す言葉が何一つなかったので空いているカウンター席へ向かった。
苑「家」?どこか引っかかるがとりあえず実技のために腹を満たさなければならないので食べ始めた。
想志もやってきて食べ始めると緋色の隣に誰かが座ってきた。
それは小夜だった。
私は今日の朝からずっと緋色に顔向けできなかった。
上半身を見てしまったので言うべき言葉が見つからなかった。
きっと嫌がられた。
きっと嫌われた。
こんな人と訓練所生活で一緒に仲良く授業なんて受けられるはずがない。
朝、列車がやってきた時、ずっと隣にいたら
「おい、なんでここにいるんだよ」
って言われそうで怖かった。
だからあえて後ろの車両に乗った。
そしたら運よく友達がいたので緋色から意識を遠ざけていられた。
でも1時間目、隣にしか空いてる席がなかった緋色が座ってきた。
緋色はどんな思いで座ったのだろうか。
それから頭にずっとその思いが張り巡らされていた。
いつもは美鶴代先生の授業で、質問のたびに手を挙げていた。
少しでも内申点を上げたい。
入学当初は成績がひどく悪く、両親からこっぴどく叱られた。
そして私の教育をめぐって両親は喧嘩になり、最終的に母が離婚、家を出ていった。
私の成績のせいでこんなことになるなんて。
そこから小夜は地道に努力を続け、成績は上位5位以内に入るほどまでになった。
母にまた戻ってきてほしい。
その思いでずっと授業を受けてきたけど、緋色のことしかその時は考えられなかった。
だから最初の質問で手を上げることはなかった。
ずっと、緋色の本心を聞きたかった。
そして食堂。
緋色の座るカウンター席の隣が空いていた。
聞きたいという衝動に駆られて、私は隣に座った。
「ねえ、緋色…」
緋色はチンジャオロースと納豆キムチご飯を交互に食べている。
でも私が声をかけた瞬間、こちらに目を向けた。
「どうした?」
再び緋色は納豆キムチご飯を手に取った。
「今日の朝のこと…ど、どう思ってる…?」
私は真剣に聞いているのに緋色はコーンポタージュを優雅に飲んでいる。
しばらく緋色はコンポタを飲んだ後、口を開いた。
「なんとも思ってないけど」
へ。
それだけだったの。
特に何も気にしてなかったの。
「そう。」
とりあえず言った。
じゃあこれまでの心配は全部無駄だったのか。
よかった。
小夜は手元のミニピザを食べ始めた。
しばらくして想志が小夜に話しかけた。
「小夜、食べ終わったら緋色も一緒に札を取りに行こう」
「いいよー、緋色もどうやって取るか分からないだろうし」
「よし、じゃあ決定!」
3人とも食べ終わった時、まだ昼休みは15分残っていた。
「札保管室は職員室の隣にあるんだ。先生に入室許可証をもらって、門番に見せれば入れるよ」
「門番?校門の?」
笑いが起こった。
「いや、流石に冗談だよ」
「ちょっと気持ち悪い門番だけど、それ以外には何もしないから。」
職員室に到着した。
「失礼します」
3人揃って言った。
一番扉に近い先生が杣締先生だった。
「札保管室入室許可証をもらえますか」
小夜が言った。
「用途は?」
「実技の授業で札を使うので取りに来ました。」
「分かりました。ちょっと待ってください。」
杣締先生は職員室の奥の方まで行き、紙を何枚か持って戻ってきた。
「これね。それじゃあ。」
「ありがとうございました。」
3人揃ってまた言った。
職員室の先にある廊下を更に先に行くと札保管室と昭和フォントで書いてある看板があった。
どうやらここらしい。
想志がノックした。
するとノックしたドアがぐにゃりと生き物のように動きはじめた。
ドアが振り向いた!?
想志がノックしたところが背中に位置するところで、ノックするとドアみたいな生き物が振り向く仕様になっている。
確かに少し気持ち悪い。太った男の顔だった。
<このわぁたしになぁんのよぉおかにゅえぇ?>
気持ち悪い声で喋り始めた。
想志は少し嫌がった顔をしながら、
「札を取りに来ました」
と言った。
<きょぉかしょぉぅをみしぇいろぉ>
想志は3人分の許可証を突き出した。
すると太った男ドアは許可証をむしゃむしゃと食べ始めた。
そしてゴギュルルという気持ち悪い飲み込む音を立てた後、
<どぉおうじょお>
といって道を開けた。
3人は札保管室に入った。
電気はついておらず、薄気味悪い感じだった。
いろいろなものにホコリが被っている。
1ヶ月前に購入されたらしい比較的新しい札が数枚残っていたので3人はそれを取って部屋を出た。
「なんでこうやって借りるシステムになっているんだ?」
緋色は尋ねた。
「札といっても色々なタイプがあるんだ。
例えば防御特化とか、戦闘特化、あとは俊敏特化とか。その中でも処理速度が速いものや遅いもの、後は効果の強弱もある。
もしお金持ちの術者の子どもが、授業で戦闘特化の最高ランクの札を持ってきたら大変なことになるだろう?
だから、訓練所側が安全なレベルの札を厳選して、保管しているんだ。
マイ札を持ってきていいのは冬の対戦だけ。もちろんそれぞれのレベルの限度があるけどね。
あとはあまりお金に余裕がない家庭でも良い札を触らせてあげたい。
そういう思いから借りるシステムになっているんだ。」
想志が答えた。
「冬の対戦って?」
緋色はさらなる疑問が浮かんだ。
「お前ほんとに鴉丸の家で過ごしてる人間か!?」
「いやほんとに金曜日に連れていかれたばっかりだし。」
小夜が割り込んだ。
「お父さんはなかなか仕事で家にいないのよ、想志。」
「あぁ、うん、分かった。で、冬の対戦っていうのは、冬にこれまで習ってきたことを実技テストするんだ。
対妖魔の対戦をしたり、対霊体とか。全部勝ち抜いた人は対人戦で戦う。
胸につけた布に攻撃できた回数で競うんだ。5回攻撃できたら自動的に終了。
小夜はこの訓練所に入ってから毎年対人戦まで勝ち抜いてる猛者なんだぞ。」
想志は自分のことのように自慢した。
「まあ今日の実技でその実力がわかるだろ。」
3人で話していたらいつの間にか運動場に着いた。
GからLクラス担当の先生が全員集まっていた。
そして生徒もチラホラと集まっていた。
3人はそれぞれのクラスの列に並んだ。
5分後、昼休みが終わって、GからLクラスの皆が集合完了した。
栄西先生が号令をした。
「気をつけ、礼!」
<よろしくお願いします>
「たるんでる!もう一回!」
<よろしくお願いします!>
「もう一回をさせるんじゃないお前ら!」
<すいませんでした!>
「まったく、謝罪は息ぴったりで…」
栄西先生は呆れたようだ。
「よし、今日の実技は対妖魔の対戦練習をする!」
歓声とざわめきが生まれた。
「対妖魔といっても授業で対戦するために弱めたものだ。安心したまえ。」
さっき歓声を上げた人は落胆の声を上げた。
「妖魔を倒す術は実に簡単だ!」
「表体!」
すると生徒一人ひとりの前にマネキンが現れた。
「自分の前にあるマネキンを取って広がれ!」
「札は自分の身にあればよい!ポッケの中でもいい、和装を着てるやつは懐に挟んでも良い!胸元に入れるのが一番効果が高いがそこまで大した差はない。」
「腕を前に伸ばして手をパーにしろ!」
生徒は指示に従って真似した。
「まずお手本を見せる!」
「展開!」
すると先生の前にあったマネキンに結界が張られた。
「さあ皆もやってみろ!」
<展開!>
すると一人ひとりのマネキンに結界が張られた。
だが緋色はうまくいかなかった。
すると隣にいた想志に、
「手をパーにしろ!」
と助言を受けた。
たしかに自分の手は手の中に炎があるような厨二病みたいなポーズをしていた。
「展開」
するとうまく結界が張れた。
どうやら栄西先生は自分を待っていたようで、緋色が張り終わるとすぐに次に移った。
「次はマネキンを一気に凝縮させて消す技だ!見てなさい。」
「滅!」
すると先生の前にあったマネキンが消失した。
「今もう展開されているから、そのまま滅しなさい!」
緋色はどうしても滅と聞くと某アイドルグループを思い出してしまったが、真面目にすることにした。
手をパーにした状態で腕を伸ばし、一気に手を握りながら、
「滅!」
といった。すると見事にマネキンが消えた。
今回は皆と合わせてできたので、栄西先生は続けた。
「だがこれはマネキンだったから簡単だったのだ!」
「妖魔を滅するときには神力を一気に札に送り込み、札が最大限の力を出さなければならないからだ!」
「弦摩 耿李、お手本を見せてみろ」
その耿李という人は前に出ていって、生徒の方を向いた。
緋色は驚いた。
耿李はさっき食堂で見た成績優秀者だった。
こんにちは、ヤサイローリングです
明らかに前書きの文字数が減ってきています笑
次回は10/04 18:20更新予定です
考察できるところも少しずつ増えているので読み返したりして楽しんでほしいです。
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追伸
十二支陰陽録短編集をなろうで公開しました。
本編で描けなかった裏側を描いています。
本編で、あれ?と思ったところが繋がるようになっていますので、気になる方はぜひ。




