第5話 訓練所生活の始まり
(10月17日に改稿)
お風呂上がり事件の影響で、小夜は緋色に冷たい反応をしていた...
<まもなく終点、颪、颪です。忘れ物がないかご確認ください。本日のご利用、誠にありがとうございました>
そして列車が轟音を立てて停車した。
ぞろぞろと生徒が出てきた。
二人は切符を改札に通した。
階段の上から朝日が差し込んでおり、駅は明るい雰囲気をしていた。
「今日は実技がある!やったぁー」
想志がのびをしながら言った。
「そんなに楽しいのか?」
緋色は尋ねた。
「緋色の喧嘩中の奥様は実技がすごいのよー。おほほ」
想志はふざけてレディーのような話し方をした。
「なんだとっ!」
緋色は小夜が冷たい対応をしていることをからかわれたので、想志の腹をくすぐった。
「ぎゃぁぁぁ俺の弱点をつくなぁぁぁ」
想志はもだえた。
そんな会話をしているといつの間にか校門についた。
するとピシッ!と立っている厳しそうな女の先生が下足棟から緋色を凝視していた。
「見回りみたいな感じ?」
緋色は尋ねた。
「いや、いつもはいないぞ」
想志は言った。
怪しい予感がしながら下足棟に入り、先生の隣を通り過ぎようとしたその瞬間。
「苑緋色ね。」
いかにも冷酷そうな声で女の先生が話しかけてきた。
想志は緋色を逃がすために冗談を言った。
「人違いではありませんか?おほ」
その先生はそれを聞いて眉間にピキッ!!としわができた。
「あなたに言っているのではありません、把我想志っ!!」
先生は怪物のようにクワッ!!とキレた。
「미야내!」
想志はうろ覚えの韓国語を発した。
「謝るなら韓国語ではなく日本語で話しなさい!そして発音も少し違う!」
(正しくは미안해だ。)
先生は想志にチョップを食らわせた。
想志は退散した。
「やっと本題ね。」
先生はつけている白い手袋をはたきながら言った。
緋色は想志をずっと見ていたので想志の作ったチャンスを逃してしまった。
「苑緋色、クラスへ案内します。」
「全く、この神力持ちが把我と同じクラスだなんて本当に残念だわ。」
先生はぐちぐち言いながら廊下を歩いていった。
先生のハイヒールがコツコツと音を立てている。
「苑、あなたのクラスはGクラスよ。」
「階級別なのですか?」
「まさか!それだったらあなたはAクラスを飛び越えてαクラスね!」
少々お怒り気味で先生は答えた。
「最後に自己紹介。私の名前は片 美鶴代。今日の授業でも会うと思いますわ。それでは。」
そういって美鶴代先生はズカズカと歩いて去っていった。
(なんかこの学校の先生ってクセ強だなぁ。)
クラスに入ると緋色は早速女子の視線を集めた。
「パリコレモデルの気分ですね!」
「金曜日のループをさせるんじゃない」
緋色はそう言いながら机に荷物をおろした。
そんな彼の一挙手一投足を女子はちらちらと見ている。
結局どこに行っても同じなのかい。全く…。
緋色はそれからとりあえず女友達を一人だけでも作りたいと思っていたし、クラスの皆と仲良くしたかったので、朝の会が始まるまでに全員に交換プロフィールを配った。
朝の会が始まった。
学級委員が、
「朝の会始めよう、日直前に出て」
と呼びかけた。
一人男子が前に出た。
「萩前です。朝の会を始めます。」
<よろしくお願いします>
「今日の時間割です。」
「1時間目は座学、札の基本術について学びます。」
「2時間目は座学、術者隠蔽法について学びます。」
「3時間目は座学、効率よく陣を描いて移動するための公式を学びます。」
「昼休みを挟んで4、5、6時間目は実技です。札の準備をしておいてください。以上です。」
緋色は自分に教科書がないことに気づいた。
「質問はありませんか」
「教科書がないのですが」
緋色は聞いた。
「ちょっと待ってください。」
萩前という男子は札を取り出した。
「位特」
「飛来」
「表体」
すると机の上に教科書が現れた。
「ありがとうございます。」
緋色は感謝を伝えた。
「教科書を運ぶ係がいたはずです。手を上げてください。」
日直は真剣な眼差しで皆に聞いた。
「すいません…私です」
ある女子が手を上げた。
「先生に報告しておきます。」
「はい、申し訳ありません。」
どうやら日常茶飯事の会話らしく皆全く動揺していない。
チャイムが鳴った。
「それでは皆さん授業へ行ってください。班Aは特別教室、班Bは多目的教室3、班Cは進路室です。」
それを聞いて緋色は混乱した。
「俺ってどの班?」
想志に聞いた。
「五十音順で分かれてるはずだ。『そ』ならたぶんA班だと思う。俺は『は』だからB班で、お前とは別だな。A班の人についていって案内してもらえ。」
緋色は想志と別れ、駆け足で正面玄関まで向かった。そこに学校案内図がある。
特別教室は教室棟1の最上階にあった。
ここからだとだいぶ遠いが頑張るしかない。
周りを見回して、緋色は走り出した。
教室棟1の最上階の一つ下の階まで来た。
授業が始まるまであと30秒だ。
緋色は全速力で階段を登った。
登った先にちょうど特別教室があった。
緋色は滑り込んだ。
授業には間に合ったようだ。
そこには美鶴代先生がいた。
「苑、早く座りなさい。」
席を見渡した。
小夜がいた。
確かに『鴉丸』の『か』だから、小夜もA班か。
さて、空いてる席はと。
また見渡した。
でも空いていたのは、小夜の隣だけだった。
気まず。
でも空気椅子して恥をかくよりはマシだ。
緋色は小夜の隣に座った。
「それでは授業を始めます。」
「今日から授業に苑緋色が加わります。」
教室がざわついた。
<苑だって!>
苑というワードがなぜそんなに引っかかるのかよくわからなかったが心の奥に押し込んだ。
「皆さんお黙り!」
「苑、自己紹介を。」
「苑緋色18歳です。よろしくお願いします。」
教室は静かなままだった。
小夜が一人拍手を始めた。
すると皆がつられて拍手を始めた。
「苑、皆のことも知りたいでしょうが今は時間がないのでまた今度皆の紹介シートを配ります。それまでお待ちを。」
「それでは授業を始めます。」
「それではまず基本術の唱え方です。
一番の基本は物の色を変えるところですが、術文がわかる人はいますか。」
何人かが手を上げた。
「目我路、どうぞ。」
「はい、変色です。」
「よろしい。変色は札を物につけて唱えるのが一番の基本です。試しにやってみましょう。表体。」
先生が唱えると湯呑みと札が全員分机の上に現れた。
「札を湯呑みにちょこんとつけるだけでいいです、巻きつけることはしなくていいです。そして、頭の中でどんな色に変化させたいのか、はっきりとイメージしてください。そして唱えます、変色。」
お手本として先生が湯呑みを夏の青々とした空の色に変えた。
そして皆チャレンジを始めた。
緋色は夕方の鮮やかなオレンジを思い浮かべた。
鴉丸のおじさんに救われたときのあの空。
「変色」
すると見事にオレンジ色に湯呑みが染まった。
同じようなタイミングで教室のあちこちから歓声が上がった。
どうやら皆成功したようだ。
「皆さんうまくいきましたね。次は少しレベルアップして、湯呑みから離してやってみましょう。」
緋色はつけたって離したって変わらなそうに感じた。
「離して唱えるときには色をイメージするのに加えてもう一つイメージしなければいけないことがあります。それは何でしょうか。」
誰も手が上がらなかった、と思ったら隣の小夜が手を上げていた。
「鴉丸、どうぞ。」
「つけて行う時は札が直接イメージを湯呑みに伝えるので簡単ですが、離して行う時は神力を使って札のイメージを伝える必要があります。なので、札と湯呑みを繋げる糸のイメージもする必要があります。」
「お見事。そうです、札と湯呑みを繋げる糸のイメージを作ってみてください。そうすると離していてもうまくいきます。ではやってみて。」
緋色は今度は逆、あの時の白い空を思い浮かべた。
あの気持ち悪かった白。
そして湯呑みと札を繋げる糸を紡ぐ。
「変色」
すると見事に白になった。
みんな成功したようだ。
それからどうして札が湯呑みにイメージを伝えることができるのか、札と対象物をつなぐ糸とは何なのかなどを徹底的に叩き込まれた。
こうして1時間目の90分が終わった。
次の授業はそれぞれの教室であるらしいので、教室に戻った。
班は同じだったが、小夜は別のクラスだったと今になって気づいた。
今日の昼休みにでも仲直りできるように話しかけよう。
同じ家に住んでいるし、行きも帰りも一緒なのでずっと気まずいと困る。
教室に戻ると想志がいた。
早速緋色は本音を漏らした。
「一時限が90分もあるなんて大変すぎない!?」
「平日は高校・大学に行く人が大半だから休日で一気に叩き込まなきゃいけないからだよ。緋色もその神力を持ったなら覚悟しなきゃ。」
「そうだなぁ。」
次の授業は実質歴史の授業みたいなものだった。
先生はすごい名前で、九 杣締で、いかにもクソ真面目なんだなという感じがした。
授業はやはりクソ真面目だった。
昔、術者と術者以外の人間は積極的に交わっていたらしい。
飛鳥時代に天氏と鴉氏が陰陽師の原型となる術などを数々生み出し、それを弟子たちが進化させていき、今日の陰陽術になったらしい。
そして平安時代が陰陽師の最盛期で、貴族に付いて数々の予言をしたり、お祓いをしたりした。
だが、明治になってしばらく、明治天皇が密かに陰陽師評議会にその姿を隠すように命令し、そこで天皇の独断で術者隠蔽法が誕生したらしい。
評議会メンバーだけでなく日本の陰陽師の大半がこれに反対。
表向きでは姿を隠していた。
だが裏では西郷隆盛を動かし、隆盛が政府から抜けたように見せかけた。
そして隆盛に反乱を起こさせた。
それが世にいう西南戦争で、影では天皇と術者の戦いだったのだ。
だが術者側に何かが起こり、術者は戦いから抜けだした。
これにより政府軍が勢いを増し、西郷側は敗北してしまったのだ。
だがそれっきり術者は歴史の表舞台には出ず、駅の中に隠しホームを作ったり、屋敷を結界で隠したりして姿を隠すようになったらしい。
それから術者隠蔽法の内容を音読し、それらについて先生が解説していった。
授業の最後に術者隠蔽法の主要な10条を暗記する宿題が出され、授業が終了した。
緋色は歴史が苦手だったので頭が痛くなりながらもなんとか内容をノートに書いた。
次は2クラスと合同授業だった。
授業は陣練習場という室内の体育館らしいところで行われた。
そこには仁王立ちで肌が焼けた蘇琉 栄西という先生がいた。
「効率よく陣を描いて移動するのはとても高度な術なので演示実験だけとする。」
「だが仕組みはきちんと学んでもらう!」
すごい圧を感じた。
すると、栄西先生は札を顔の前に掲げ、長い術を唱え始めた。
すると基本陣が現れた。
休み時間の間に教科書を読んで基本陣は覚えておいたのだ。
基本陣を出すためにこんな長い術文を唱えなければいけないのか、と学んだ。
すると栄西先生は札を基本陣の上に置き、
「変幻」と唱えた。
すると複雑な陣に変化した。
「これが移動陣だ。さっき『変幻』と唱えたが、意味がわかるかな。そう、さっき出したのは基本陣ではなく変幻陣だ。非常にそっくりで見分けがつかないだろう?変幻陣がいろいろな陣に変化できることを活用して、移動陣を出すことができる。そうすれば、術文を唱える時間を短縮できるんだ。仕組みだけでも覚えておくように。」
みんな一瞬混乱したようで黙っていたがしばらくするとうなずき始めた。
そして栄西先生は実際に陣の上に乗り、生徒の後ろに移動してみせた。
「この術がこの訓練所で使えるのはこの陣練習場のみ、例外として陰陽師評議会メンバーはこの訓練所内どこでも使うことができる。私はこの仕組みが脆いと感じるが。」
どうして脆いと感じるのだろうか。
よくわからなかったが栄西先生が術の仕組みについてべらべらと話し始めたのでそちらに集中することにした。
次回は9/27 18:20更新です!
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