第4話 マインド
(10月17日に改稿)
颪陰陽訓練所の入学儀式と言える神力度数測定で大事故を起こしてしまい、保健室にいた。
すっかり夕暮れ時になってしまった。
なんて最悪な訓練所生活の始まりなんだろう。
緋色は自分を責めた。
涙を流したくなって、枕に顔を埋めた。
しばらくすると意識がぼやけてきて、緋色はそのまま眠りについた。
小夜は授業中、緋色のことが気になって仕方がなかった。
「それでは皆さん、術者以外の人間に怪しまれないようにしながら帰ってください。それでは解散。」
先生がそういって、みんな下校を始めた。
家が遠い人は寮で生活している人もいる。
けれど私は駅から少し歩けば家だから、寮には行かない。
いつもだったらそのまま颪駅で電車に乗って帰っているだろう。
今日からは緋色と一緒に帰れるはずだった。
でも緋色が倒れてしまった。
お父さんに連絡しなきゃいけないし、緋色の様子もみておきたいと思った。
小夜は保健室の戸をノックした。
「鴉丸小夜です。」
[どうぞお入り。]
小夜は緋色が寝ているベッドに駆けていった。
ベッドの周りにはカーテンがかかっている。
カーテンをそっと開けた。
緋色は起きているかと思ったが寝ていた。
どうやら泣いていたみたい。
枕にシミができている。
緋色の手はぽーんと布団の上から顔を出していた。
(緋色ったら)
緋色の手を起こさないようにそっと握った。
まだ出会ってから24時間しか経ってないのに、どうしてこんな思いに駆られるんだろう。
「早く元気になってね」
そう言って小夜は緋色の手を離して、カーテンの外に出た。
「伝達式」
小夜の手の上からふわりと式紙が現れた。
「お父さんに、終わったって連絡して。」
式紙は小夜の手から離れ、遠くへ飛んでいった。
しばらくすると、正面玄関に移動の文様が現れ、それと同時にお父さんが現れた。
到着に気づいた小夜は、お父さんのもとへ向かった。
「なんだ、緋色はどうしたんだ」
「いま寝てる。」
「まったく、安心して寝てる場合じゃないだろ…保健室へ行く」
お父さんはどかどかと歩き、保健室まで行った。
おじさんは遠慮なく緋色の寝るベッドを囲むカーテンを一気に開いた。
ジャッ!
西日が一気に緋色の目を襲った。
「うおおおっ…」
「緋色、帰るぞ。」
「ううう」
「家に帰ってから寝ろ、この大馬鹿者っ!」
鴉丸おじさんは緋色をお姫様抱っこして正面玄関の前まで歩いていった。
小夜にはその光景がとても滑稽で、大笑いした。
「笑ってる場合じゃない、ほら、小夜も文様を踏め」
こうして3人は訓練所から姿を消した。
3人は鴉丸の屋敷の3階に降り立った。
緋色は完全に目を覚ましたので、一人で2階に降りていった。
「はあ、人様に迷惑かけやがって。」
「しょうがないでしょ、まだ術一つも教わらず、力を暴走させちゃったんだから。」
「とりあえずまた仕事に戻る。」
そう言って鴉丸おじさんは姿を消した。
緋色はふらつきながらも自分の部屋へ戻った。
そして、布団に倒れ込んだ。
(あー、疲れた)
緋色はそれから次の日の朝まで目覚めることなく、寝続けた。
次の日の朝。緋色は朝日に照らされて目が覚めた。
(もう朝か…)
緋色はむくりと体を起き上がらせた。
(今日は小夜が来なかったか)
いつのまにか体は回復していた。
一階の広間までは誰の助けを借りることなくたどり着けた。
鴉丸の親父は今日はいなかった。
今日は日曜日。
今日も訓練所に通えば、明日からの平日は元の高校に通えることになっている。
そしてまた休日は訓練所。
見習い術者はそういう生活をしているらしい。
休み無しじゃないかよ…。
たぶん今日も琴が弾けないんだろうな。
10歳で琴を習い始めてから琴を一日も触らなかったのは昨日が初めてだ。
しかも昨日は楽しい訓練所ライフの始まりとはいかず、保健室で寝たきり。
なんて最悪の始まり。
浮かない顔で朝食をとりあえず口に放り込んでいたら小夜が心配してきた。
「緋色すごい顔してるけど?」
そうだよなぁ。
普段の俺が身だしなみを整えすぎているせいで、崩れるとひどく見えるんだろうな。
昨日は風呂にも入らずスキンケアも何もしていない。
ましてや今日は朝に寝癖を直していない。
ものすごい顔に見えてしまうのはしょうがないだろう。
「うん…大丈夫だ…」
小夜は絶対大丈夫じゃないでしょ、というような顔をした。
「昨日風呂入ってないから小夜の先にササッと入ってきていい?」
「いいよー。」
なんとあっさりとした快諾。
緋色は浴場へ早足で駆けていった。
訓練所に遅刻するなんてことがあれば一大事だ。
もう恥はかけられない。
ババババッと服を脱いでシャワーを浴びた。
できれば浴槽に入りたいところだが小夜に迷惑はかけられない。
シャンプー、トリートメント、ボディーソープ、洗顔を終わらせ、タオルを浴場内の棚から取り出し、体を拭き上げた。
小夜は浴場ののれんのすぐ近くにある洗面所で身を隠し、緋色が出てくるのを待った。
緋色が出てきたらすぐに駆け込もうっと。
しばらくすると緋色が出てきた。
が、想定外なことが起きた。
緋色はタオルを腰に巻いている。
そして洗面所の方向に向かってきている!
最悪の状況を考え洗面所の棚を見ると…
緋色の服…!
やばい逃げないと…っ!
しかし時すでに遅し。
緋色が洗面所の入口に立っていた。
ひいいい!
小夜は一気に顔を赤くし、それを見られたくなくて顔を手で隠した。
指の隙間から緋色の上半身をちらっと見てみた。
細マッチョだった。
意外と筋肉あるじゃん。
そういえば緋色はずっとそこに立っている。
視線を上に上げると…
すごい変なものを見つめる目で見てるっ!
「ごめんなさいっ….!!」
小夜は洗面所から脱出して脱衣所へ駆け込んだ。
(もうっ!)
小夜は緋色を強い勢いで押しのけるように隣を走り抜け、のれんの奥の扇をバタン!と閉めた。
小夜の長い黒髪が緋色の横腹にさらっと触れた。
小夜が自分のことを指の隙間からチラチラ見ていたのは自分でも分かった。
正直言ってすごくかわいい仕草だった。
でも今日も何も起こらずに訓練所まで行くんだろう。
そう思いながら緋色は服を着た。
さ、ドライヤーをしよう。
◇
小夜も風呂から上がり、準備が整ったところで、出発した。
今日は小夜は何も言わずに歩いていった。
昨日はたくさんのことを喋りながら歩いていたが、それとは大違いだ。
会話することなく駅までたどり着いた。
昨日無葵校長からQRコードはもらっていた。
「今日は俺がするよ」
小夜は緋色の隣に来て購入を見守っていた。
270円区間、大人4人と子ども6人、障害者ありっと。
[専用QRコードをお持ちですか? はいorいいえ]
はいを押して、緋色はスマホを取り出し、QRコードのスクショを開こうとしたその時。
小夜は緋色からスマホを取り上げた。
「お、ちょっ、俺がするって言っただろ」
小夜は少しスマホをいじって、緋色にスマホを返した。
すると、画面の明るさが最低レベルになっていた。
「防犯カメラに映って悪い術者にQRコードが渡ったら大変なことになるのよ」
小夜は小声で言った。
そうなのか。
いやでも「ちょっと貸して」ぐらいは言っても良かったんじゃないか?
小夜は今日の上半身裸事件の後から冷たすぎないか?
切符を無事購入し、駅員にホームまで案内してもらった。
今日は普通の生徒と同じ時刻に登校するので、隠しホームには8人ほど人がいた。
<6時48分発 快速列車 颪行きはまもなく到着いたします>
放送が流れた。
小夜はずっとスマホを眺めている。
小夜と同じようにスマホを見たら小夜に冷たく思われそうだったのでスマホは見なかった。
お互い様になるのがちょっとめんどくさい。
電車がやってきた。
想志がすでに乗っていた。
想志の最寄り駅はここのはずだが。
電車に乗るとこちらにすでに気づいていた想志が寄ってきた。
「よ、緋色」
「うん、想志。」
「なんか暗いけどどうした?」
「なんでもない」
「小夜とどうかしたのか?」
ぎく。
そうだ、想志は小夜のことを前から知っている。
そして二人で並んで待っていたからそりゃ気づくはずだ。
しばらく黙っていたら、
「そんな感じっぽいな」
と言われた。
小夜はそばにいなかった。
友達と話しているのが後ろの車両につながるドア越しに見えた。
「女子ってよくわかんね。」
本音を漏らした。
「自分の心とか意見をちゃんと持ってるのか?」
想志は急に真剣な調子で聞いてきた。
「ん、まぁ?」
何に対する意見なのか全くわからなかったがとりあえず答えた。
「それをちゃんと小夜に伝えないといけないんじゃないか。伝えないと何も始まらないぞ。」
「というと?」
「小夜の思いも理解しないと。それにはまず伝えることからだぞ」
緋色は想志が何を言っているのかよくわからなかったのでそのまま伝えた。
「よくわからん。」
あとがき
どうもこんにちは。ヤサイローリング(YR)です。
執筆当時まだ題名を決めていませんでした笑
第1話投稿時になんとなくで考えました笑
さて、この第1話から第4話では主人公緋色やヒロインの小夜、その父親鴉丸オジイが序盤に登場。
中盤にはカタブツそうだけど根は優しいらしい無葵校長などが登場します。
なんとも不思議な展開となっておりますがご了承ください。
ご協力いただいた妹とcopilotとchromebook(笑)に感謝します。
第1話の時にcopilotさんには緋色が万能すぎると言われてしまいちょっと残念でしたが、
緋色にも人間臭いところもあるし、抜けてるところとかもあるので、
そこんとこ楽しんでもらえると嬉しいです。
世の中完璧な人間いないしね。
そういえば鴉丸オジイの下の名前決めてないです。(執筆時)
多分近いうちに出すかもしれない。
これまでの4話ではこれからの話でも重要になってくるエピソードがあります。
まあ次回の始まりは目に見えていますが、次回の物語を想像しながらまた読み返してください。
次回もお楽しみに。(9/20 18:20更新)
執筆頑張ります。
ヤサイローリング
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