第2話 颪駅
(10月17日に改稿)
前回のあらすじ
現役高校生18歳のイケメン苑緋色は、陰陽師の鴉丸に強大な神力を見込まれ、緋色は鴉丸の弟子となった。鴉丸の娘である小夜と出会い、緋色は彼女への魅力を感じ始めている。
次の日の朝、緋色はスースーと小さな寝息を立てて眠っていた。
するとそこに近づく影が…
どんっ!
「ごふっ!うっ….」
緋色は寝ぼけた目をこすった。
どうやらぶつけられたのは枕のようだ。
一体誰がしたんだとさらにもう一回目をこすって視線を上げると…
そこには顔を真っ赤にしたパジャマ姿の小夜がいた。
「ひ、緋色くんっ、起きて」
緋色はそういう小夜に見惚れてしまった。
「な、何じっと見てるのよ!」
ふいっと後ろを向いてしまった小夜。
緋色は小夜に行ってほしくないという強い衝動に押され、手を無意識に伸ばした。
緋色は小夜の袖をきゅっと掴んだ。
小夜が振り向いた。
「えっ」
小夜は袖を掴む緋色の手をまじまじと見つめた。
緋色はその視線に気まずくなり、ゆっくりと手を緩め、
手をおろした。
「なんでもないよ」
沈黙が流れた。
「…そう」
小夜は部屋から出ていった。
2人は広間へ向かった。
「お二人さん、おはよう」
鴉丸が先に席についていた。
二人はさっきの出来事が頭から離れず何も言わずに席についた。
(おや、こりゃなんかあったな)
とはいえ鴉丸は言うべきことを言わなければいけないので遠慮せず口を開いた。
「緋色、今日は訓練場に行ってくれ。同年代の見習い陰陽師がたくさんいる。学べることもたくさんあるだろう。小夜、準備ができたら緋色を訓練場まで案内してくれ。緋色にとってお前が一番話しやすいだろうから教えてやれることは教えてやってくれ。」
緋色と小夜は無反応だった。
きっと先程あったなにかが原因なんだろう、ということは。
「緋色、小夜が起こしに行ったのは私が行けといったからだ。使用人は朝食の準備や洗濯で忙しい。それと小夜は朝風呂派だから風呂を沸かしたりとな。朝から驚いただろう。すまない。」
緋色は小夜を見た。
小夜もこちらを見ていたようで、目が合った。
目があった瞬間、小夜は顔を赤くして目を下にそらした。
(急すぎたかな)
反省する緋色であった。
「朝食でございます。」
使用人が朝食を持ってきた。
いつも母が朝食を作っていた。
慣れない味に家族が恋しく感じた。
両親と囲む朝食がいかに些細で幸せな時間だったのか身にしみてわかる。
緋色は黙って朝食を済ませた。
(むぅ…)
小夜はさっき起きた出来事が頭の中で何度もリプレイされていた。
私はあの出来事がずっと頭に巡ってるのになんで緋色くんは黙って朝食を食べていられるの!?
もしかしたら、(イケメンだから女子にモテる→たくさんの人に告白される→女たらし!?)
きっとそうだ!緋色くんは女使いに慣れてるんだよ!
む…だったら私以外の人にもああいう扱いをするのか…
なんか許せん。
変な人だ。
鴉丸は黙って食べる二人を全く気にせずちゃっちゃと朝食を済ませ、
「用事があるので行ってくる。」
と言って広間から出た。
緋色は小夜がシャワーを浴びている間に今日のコーデを決めていた。
小夜と並んで似合う服はどれかな?と鏡の前で吟味していた。
(これかな?いやなんか色味がちょっとダサいな。じゃあこれかな?いやこれは…)
長い時間鏡の前でコーデを決めていると、後ろからただならぬ視線を感じた。
振り返ると…そこには小夜がいた。
「あっ、ごめん」
緋色は鏡の前からサッと退いた。
小夜は黙って鏡の前に来て、ドライヤーを手に取った。
(長い髪だから時間かかりそうだな)
小夜がドライヤーをしているところをぼーっと突っ立っていたらあることに気づいた。
(自分が思うかっこいい服を着ればそれでいいのか)
緋色は気が楽になってスキップで洗面所を出ていった。
小夜はそんな緋色を、何してたんだ?という変な目で見つめていた。
緋色は自分の服を決め、着替えた。
緋色は昨日の間にできなかったことをしなければと思った。
親への連絡だ。
[俺は大丈夫だよ]
とりあえずこれを送ろうと送信ボタンを押した。
だが、[再送してください]という表示が出た。
ネットワークは5Gで良好だが、送ることができない。
何度もチャレンジするが、だめだった。
(もうこの年齢なんだ、親から離れることは誰もが経験するんだ。)
それに気づいた緋色はやっと冷静さを取り戻した。
小夜もそろそろ着替え終わりそうな時間になったので、緋色は使用人に案内してもらい、小夜の部屋へ向かった。
緋色は小夜の部屋のドアをノックした。
<こんこん>
[小夜ー。着替え終わったか?]
がちゃ。
ドアを開けると、小夜は屋敷にいるときの和装ではなく、洋服を着ていた。
小夜のギャップに、緋色はドアを開けてからじーっと小夜を見ていた。
「ちょっ、何ずっと見つめてるの!」
「ごめん、そろそろ行くか」
廊下に出てから、二人並んで玄関まで歩いていった。
手が触れそうで触れない距離感。
緋色は勇気が出ず、何事もなく玄関についてしまった。
「じゃあ、行くよ」
小夜はそう言って玄関の戸を開けた。
昨日の夕方、想志と自転車で走った駅前のロータリーまで来た。
今日は土曜日だから学校はなかったが、これからは学校にまた通えるのだろうか。
琴の練習はできるのだろうか。
だが、小夜と一緒にいると心が妙に落ち着いていられるから、いろんな心配が和らぐ。
もし駅で想志に会ったらなんて言われるだろうか。
また「世界の滅亡」とでも言うのか。
いろいろな想像をしていると切符の発券機のところに着いた。
「颪駅で降りるよ」
と小夜は言ったが、路線図を見てもそんな駅はない。
小夜は、「あっ」と口を丸にして、発券機を触り始めた。
小夜は「270円区間」「大人4人」「子ども6人」「障害者あり」を順にタップしていった。
すると、見たことのない画面が表示された。
[専用QRコードをお持ちですか? はいorいいえ]
すると小夜はスマホを取り出し、QRコードのスクショ画像を開いた。
「はい」を押した小夜はQRコードをかざした。
すると、[本当の人数を入力してください]という画面が表示され、小夜は大人2人をタップした。
5秒ほど待つと、颪駅の切符が発券された。
「なんかすごい」
と緋色は本音を漏らした。
「QRコードは訓練所でもらえるから、安心して。まあ手順も覚えなきゃいけないけど。」
切符を改札に通すと、駅員が1人、窓口から出てきた。
「ホームにご案内いたします。」
改札を抜けて、駅員しか入れない部屋の扉の前にやってきた。
「この先にホームが?」
駅員はカードをかざしてロックを解除した。
「ええ。あります。」
駅員はちらっと緋色の方を見て答えた。
部屋に入ると、プロの清掃用具らしき物がたくさん置いてあった。
特急列車の掃除に使うものです、と駅員は説明した。
そして、学校にあるような縦長の掃除用具入れで駅員は止まった。
ダイヤル錠がついていた。
ダイヤルを回して解除すると、その先には通路が続いていた。
通路を抜けるとホームがあった。
まるで地下鉄のホームのように見えるが、洞窟のような感じもする。
「3分後に列車が到着する予定です。少々お待ちください。私は失礼します。」
駅員は深くお辞儀して、その場を離れた。
緋色は試しに「あ!」と少し大きな声を出してみた。
<あ あ あ あ あ あ>
かなり響いた。
「ちょっと、急に言ったらびっくりするじゃん!」
<じゃん じゃん じゃん じゃん じゃん>
「小夜もかなり響いたね」
「んぅ、まあそうだけど…」
列車が轟音を立てながらやってきた。
列車は停車し、ドアが開いた。
二人は列車に乗った。
どうやら二人以外には乗客はいないようだ。
列車は二人を乗せて暗闇を走っていった。
二人は背もたれに身を任せ、黙って座っていた。
◇
<まもなく、颪駅、颪駅です>
甲高い音を立てて電車は停車した。
颪駅は自販機が暗闇に一つあるだけの寂しい駅だった。
「颪駅の先に駅はあるのか?」
緋色は聞いた。
「あるらしいけど、ごく一部の人しか行けないらしいわ。」
小夜でも詳しくは知らないらしい。
小夜は緋色と階段を登り始めた。
気づけば緋色は数段先を登っていた。
小夜はなぜか置いていってほしくない、という気持ちに駆られた。
頑張って緋色の1段後ろまで登っていった。
小夜は緋色の袖をちょこっと掴んだ。
緋色はがんがんと動く足を止め、振り向いた。
二人の目があった。
(嫌がられた!?)
小夜はサッと手を引いた。
二人は一瞬静止したが、再び階段を登り始めた。
階段の先には颪陰陽訓練所という立札があった。
しばらく進むと門があり、警備が立っていた。
警備は怪しい者をすぐ排除できるように札を持っていた。
「鴉丸小夜、連れの男は誰だ。」
警備は情け容赦のない表情で問いただしてきた。
「この男は苑緋色よ。」
「そっ…!苑様、お入りください。」
どうやら自分のことはかなり有名になっていたようだ。
正面玄関は門からすぐそばにあったが、それまでに生徒とたくさんすれ違った。
だが、見知らぬ顔がいることに気づいた生徒たちは、冷たい目を向けてきた。
正面玄関に入ると、話はすでに通っていたようで、事務方が待っていた。
「鴉丸様、苑様、お待ちしておりました。校長室にご案内いたします。」
次回は9月6日の18時15分に投稿します!
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