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第1話 新たな陰陽師

(10月17日に改稿しました)

この世には人間の欲望、恐怖などによって生まれた妖魔、霊体などが数多く存在する。

その存在を退治し、この国の平和を守る職業が日本にははるか昔から存在した。

その職業の名は陰陽師。結界や陰陽術を用いて妖魔、霊体を退治する。

陰陽師は日本の各地におり、力を持った少年少女を鍛え、陰陽師という職業を受け継いできた。

だが、その力を利用し日本を我が物にしようとする者も歴史上に数多くいた。

そして今、日本にその危機が訪れようとしていた──。

「緋色、ハッピーバースデー!」

朝から教室に大きな声が響き渡った。

苑(その) 緋色(ひいろ)、18歳。

彼はごく普通の高校生だ。

「朝からうるさいなぁ」

緋色はそう言いながら机に荷物をおろした。

そんな彼の一挙手一投足を女子はちらちらと見ている。

「まるでパリコレモデルの気分ですね!」

友人の把我(はが)想志(そうし)は軽くからかった。

「パリコレモデルなんてまっぴらごめんだよ…」


その日の昼休み。

緋色と想志、その他もろもろは、図書室にいた。

「玄海大学の赤本借りようかな」

想志は言った。

この図書室の赤本のある棚は、なぜか高いところにある。

「ひえっ、玄海大学は一番上の段じゃん!」

想志は困ったように言った。

「あっ、なら…」

緋色は玄海大学の赤本に手を伸ばした。

緋色はつま先立ちすらせず、ひょいと赤本を取った。

「はい、想志。」

<よっ!身長183cm!>

そんなガヤを緋色は無視して、図書室を出た。

廊下では、通りすがる女子生徒の目を釘付けにした。

緋色は、はぁ、とため息をついた。

(こんな容姿じゃなかったら女子の友達もできたんだろうなぁ)


体育の授業。

今日は50m走のタイム測定だ。

「今日は体力テストの測定なので全力出して走ってくださぁ↗い」

「じゃあ男子からいくぞー、出席番号順に並べー。」

緋色は12番目だった。


順番が回ってきた。

「レディー」

「セット!」

「GO!」

緋色はスタートダッシュを決めた。

緋色のシースルーバングの前髪が後ろになびいた。

「ゴーール」

「えー、苑緋色くんは…6.54秒だね。いつも速いねー。」

緋色は涼しい顔で記録を書きに行った。


緋色は放課後に琴の練習をしていた。

彼は邦楽部の所属。

スポーツ万能なのに、放課後には運動したくないというのだ。


だが、彼は今日ずっとこの世界の異変に気づいていた。

それは、空が何も描いていないキャンバスのように真っ白だということだ。

雲も飛行機も鳥も見えないという不気味な雰囲気に朝から苛まれていた。

部室の窓から見える景色に気持ち悪さを感じてきた緋色は、今日は早めに練習を切り上げ、帰宅することにした。


緋色にとっての「早め」は、全部活動の終了時刻のことだった。

いつもは活動禁止時刻の1時間後、先生に追い出されてから下校する。

女子の視線を避けたいからだが、早く帰れば練習時間が減るのも嫌だった。


下足棟を出た緋色は、校門に想志がいることに気づいた。

彼は小走りで彼のもとへ向かった。

「よっ、想志。」

「うぉっ、ひい!あれ、なんでひいがこんな時間に下校してるんだ?」

「なんか体調悪いから早めに下校することにした」

近くにいる女子からキャーッという歓声が上がった。

「ひいがこんな時間に下校するなんて世界が滅亡するんじゃ…」

「さすがにないだろ…」

「まあ久しぶりに一緒に帰るのもありか。」


こうして二人はやっと校門から歩き出した。

後ろから女子の一団がついてきていた。

「あー、やっぱりこんな時間に下校するんじゃなかった…」

「女子の視線よりも自分の体調を気にしたほうがいいんじゃないか?」

(小声で)「あいつらの視線のせいで体調がもっと悪化しそうだよ…」

「まぁ、そりゃ問題かもしれないが…」

想志は後ろを振り返った。

「俺もあんな視線を送られてみたいよ。」

「だったら生活を交換してみたいくらいだよ…」

「してみるか?」

「いやまさか某国民的アニメDみたいな道具がないと交換できないだろ、容姿。」

「たしかにそうだわ。」


しばらく歩くと、自転車置き場についた。

「自転車はマジ文明の進化を感じるわ」

想志はそう言った。

「まだセグウェイの方が進化を感じるんじゃないか?」


その後、二人は自転車を漕いで駅前のロータリーのところまで走った。

「夕焼けがきれいだな、ひい。」

ここで緋色はハッとした。

この白い空は、周りの人には見えていない。

自分にしか見えていないのだ。

ここで緋色は強烈な頭の痛みに襲われた。

視界は真っ暗になり、孤独を感じた。

(誰か…誰か…!)


気がつくと緋色と想志は分かれ道にいた。

想志には自分の意識がおかしくなっていたようには見えていなかったようで、自然と話しかけていた。

「じゃあな、ひい。」

(そういえば想志はここで右に曲がるって言ってたな。俺は左側だからそうなるか。)

「うん、じゃあな。」

こうして二人は別れた。


しばらく自転車を走らせていると、再び頭の痛みに襲われた。

自転車を漕いでいられず、緋色は自転車を降りて、自転車を引き始めた。

それでも痛みは終わらず、意識は朦朧(もうろう)としていた。

視界は絵の具をぶちまけたように滑み、色を失っていった。

そして、一瞬視界がクリアになった。

そのとき、緋色は空が裂け、そこから黒いおぞましい物体が出てきているのを目にした。

彼は恐怖に陥り、自転車のハンドルを握っていた手の力がなくなっていき、自転車は地面に倒れた。

それとほぼ同時に緋色も地面に尻もちをつき、その物体をじっと見つめていた。

その物体は徐々に近づいてきて、自分を喰ってこようとしている気がした。

(もう…終わる…)


次の瞬間、彼は目がくらむほどの強い光を見た。その光は徐々に強くなって、緋色を包みこんだ。

(なんだ…この光は…)

徐々にその光は消えていき、景色が戻ってきた。

空は元の色に戻っており、きれいなオレンジに染まっていた。

空から目を落とすと、自分の数メートル先に人影が見えた。

警戒心を強めた。もしかしたら今日の白い空や、頭の痛みはこいつが原因かもしれない。

徐々に体は温かさを取り戻してきた。

ゆっくりと立ち上がった。

その人は自分より少し背が高いように見える。

強かった光が完全に消えた。

目の前には40歳ぐらいのおじさんが立っていた。

「よくこれまでお前の力は隠されてきたものだな。」

おじさんは言った。

「誰だ…!?」

少し間を置いて、おじさんは口を開いた。

「鴉丸(からすまる)だ。」

「鴉丸…」

「陰陽師をしている。」

おじさんは続けた。

「私のもとへ来い。お前の戻る家は危険だ。」

「危険…!?どういうことですか、よくわからないんですが。」

「詳しいことは後で話す。自転車は置いていけ。少し先に私の車がある。それに乗るぞ。」

おじさんは後ろを向いて、車のあるらしい方向へ歩いていった。

怪しいと思ったが、今日一連の出来事を思い出した。

(それなら、行ってみるか)

家族には後で連絡すればいい——

そう自分に言い聞かせて、緋色はついていった。

こうして緋色はおじさんについていった。


おじさんは車を止めた。

緋色が見たことないほどの大きな屋敷だった。

しかし我に返るとここは自分の家の隣町だ。緋色は様々な場所に精通しているのだが、こんな屋敷は見たことがない。

(おかしいな)

車の中で思案していると、おじさんは、

「早く降りろ。話を聞きたがってたんじゃないのか。」

と言って、今すぐ降りろとでも言うかのように車のドアを開けた。

ちぇっと思いつつも緋色は車を降りた。


屋敷に入って鴉丸は口を開いた。

「ここは陰陽師の屋敷だから結界で隠してる。君は見たことはこれまでないはずだ。」

(なんで俺のことを昔から知ってるような口調で話すんだ?)

緋色は不信感を覚えたが、それは一瞬で消え去った。

「お父さん!おかえり!」

部屋の戸を開け、下ろした長い髪を揺らしながら出てきたのはおじさんの娘らしき女性だ。

娘はおじさんに目を向けた後、緋色に目を移した。

二人の目がばちっとあった。

「あの…こ、この人はっ?」

娘は気が動転しているようだ。

「ああ、小夜(さよ)。色々あってな。後で説明する。」

(小夜…いい名前だな…)

「と、とは言ってもっ、急すぎます!」

彼女の顔はみるみる赤く染まっていった。

鴉丸は(こりゃあかんわ)というような表情をした。

緋色はそんな彼女にほんの少しだが魅力を感じ始めていた。


緋色は、鴉丸にシャワーを浴びたほうがいいだろうと言われ、風呂場を案内された。

どうやらこの屋敷はかなり前から建っているようだ。

柱は年季が入っている色で、床は歩くと、みしみしと音を立てた。

案内されている途中で何人かの女性と通りすがった。どうやら使用人のようだ。

緋色はこんな時代に使用人という職業で働いている人がいるのだな、と思った。


風呂場に着いた。ホテルの温泉とまではいかないがかなり大きな浴場だ。

「この浴場は源泉かけ流しだ。」

「こんなところに源泉なんてあるんですね。」

緋色は驚きを隠せなかった。

「あと、この浴場はガスを使用せず火でお湯を沸かしてる。熱い時は遠慮せず脱衣所のボタンを押してくれ。」

「わかりました。浴場内には設置しなかったんですね」

「ショートしたら困るからな。面倒をかけるかもしれないがよろしく。それでは。」

こうして鴉丸は脱衣所から出た。

緋色はやっと一段落ついたので、ふぅ、と息を漏らした。

(どうしてこんなことになったんだよ…)


緋色はシャワーを浴びて浴槽に入ろうと足をつけた。

するとものすごい熱さが体中を駆け巡った。

「あっっつ!!」

緋色は脱衣所へ駆けていき、ボタンをPushした。

<ディンローン ディンローン>

恥ずかしささえ感じるほどのかなり大きな音だ。

[今参りまーす。]

ボタンの上にあった小さなスピーカーから女性の応答する声が聞こえた。

緋色は小夜が来ないかと淡い期待をしていた。

だがのれんの隙間から見えたのは、浴場の隣の火炖き場へ入っていくおばあさんの姿だった。

残念だなと思いつつ、緋色は熱さの和らいだ浴槽へ入った。


緋色は浴槽につかっていると、家族のことを思い出した。

いつもうるさいけど本当は優しい両親。

置いてきて大丈夫だったか心配になり、緋色は足早に浴場を出た。

(あのおじさんに聞かなければ)


緋色は髪やスキンケアにはうるさい方だった。

なので、洗面所を20分ほど占領し、ヘアアイロンを当てたりと、あれこれ手入れをした。

鴉丸はこれは想定外だったようで、専用の部屋を一つ作ろうか検討を始めていた。


そのころ小夜は、布団の中にくるまってさっき起こったことにパニックになっていた。

(どうしてあんなイケメンがこの家に…!?)

小夜は興奮を抑えられなかった。

あの父のことだから婿を連れてきてやったなんて言ってきそうっ!!!

いやでももしかしたら素質のある人を連れてきたかもしれない…

いやでもそれだったらイケメンじゃなくてもいいはず!

いろんな考えが彼女の頭の中で巡っていた。

すると使用人から、

「当主様に呼ばれていますよー。」

と言われた。

たぶんあの人のことについて話すんだろう。

ただでさえ興奮が抑えられないのに!!

気持ちを抑えながら、案内された部屋へ入っていった。


「よし、全員揃ったな。」

鴉丸は言った。

「それでは本題に入る。」

「小夜、この男前は苑 緋色という人間だ。」

(苑 緋色…素敵な名前)と小夜は思った。


緋色はなんとなく挨拶をしなければならない気がした。

「苑緋色、18歳です。近くの高校に行っています。」


小夜はこの流れだと縁談かなにかかな?と察した。

「鴉丸小夜、17歳です。お父さんの娘です。」


「経緯を話そう。」

「苑緋色、お前は強い「神力」がある。」

「神力…?」

「そうだ。神力は、神に通じる神聖な力だ。その力で結界を張ったり、妖魔を退治することができる。」

「つまり、その力が俺にはあるのか」

「しかも今世紀最大の強大な力だ。その力をよく今日まで隠し通せたな。」

「まさか!俺がそんな力を持ってたらこれまでに気づくはずだ!」

「その反応だと、今日覚醒した可能性が高いな。この年で覚醒するとはかなり稀なケースだな。」

しばらく沈黙が流れた。

「では、なぜこの家にいなければならないのですか。」

鴉丸は肩をピクッとさせた。

「なぜ俺の両親を捨ててまでこの家にいなければならないんだ」

鴉丸が口を開くまでにかなりの時間が経ったように緋色は思えた。

「それは」


「危険だからだ。先程言ったように。」

「お前の強大な力はこれまで覚醒していなかったため安全だった」

「だがそれも今日までだ。覚醒に気づいた悪い陰陽師が、君をさらう可能性がある」

緋色はこれまでこういったものに無関係だったため、悪い陰陽師とはどんな陰陽師か全くわからなかった。

「悪い陰陽師…とは何だ」

「陰陽師は、絶対に禁止されているがその掟を破って妖魔を動かしたりもできるのだ。

そしてその術を使って国を転覆させようと思えばそれは容易なことなのだ。

それにお前が利用されては、国の危機だ。

私は術者でもかなり上の地位だ。それはいずれ分かってくるだろう。

そして、私がお前を引き取ることに会議で決まったんだ。

お前の両親が、お前がさらわれるときに犠牲になる可能性もある。

そこはちゃんと両親と話をつけてある。安心しろ。」


緋色はその話を聞いて、自分が日本というこの国を守るために重要な使命を託されているということが分かった。彼は決意した。

「分かりました。」

一瞬の沈黙。

「鴉丸さん、俺、いや僕を、弟子にしてください!」

緋色は深く頭を下げた。


「鴉丸さん、俺、いや僕を、弟子にしてください!」

それを聞いた瞬間、小夜は強烈な表現できない感情に襲われた。

ひええええええええええええええええええええええええええ!?

と、と、ということは、私と緋色くんが一緒に訓練したり勉強したりするってことぉ!?

さすがに縁談ではなかったけど、これから同じ屋根の下過ごすってことでしょ!?

小夜の顔は一気に赤くなってしまった。

それはどうやら緋色を直視していた父にも見えたようだ。

父は私を横目に見ながらこう言った。


「よし、受けてやる」


いや、「よし、受けてやる」じゃないでしょ!!

絶対私の心情見抜いていってるでしょ!

ぐぬうう、後で腹パン食らわせてあげようかなっ(怒)!!


「じゃあ小夜、私は見られないことが多い。緋色をよろしく頼む。」

これからは毎週日曜日に投稿します!

次回は8月30日の18時20分に第2話を公開するのでお楽しみに!

ヤサイローリングをよろしくお願いします!

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