第9話 陰陽師と現実の境
こんにちは、ヤサイローリングです。
今回の第9話『陰陽師と現実の境』から、第2シーズン破られた札編が始まります。
物語が急速に動き始める第2シーズンをお楽しみください。
それではどうぞ。
翌日。
緋色は鴉丸の屋敷で目を覚ました。
今日も訓練所、と言いたいところだが、今日は高校だ。
正直言って訓練所のほうが楽しい。
そんなことを思いながら広間へ降りていった。
広間に小夜はいなかった。
小夜は完全に術者として生きる選択をしており、高校には行かなかったらしい。
その代わりに火、木、金曜日に訓練所に行く生活をしている。
その生活のほうがよっぽど楽しいだろうにと緋色は思った。
だがまだ高校には想志がいるので杣締先生の課題のことについていろいろ聞いてみようと思った。
◇
昼休み。
緋色は想志と2人で中庭のベンチに座っていた。
「んんん〜!」
想志はさっき自販機で買ってきた紅茶を手に持ちながら伸びをした。
緋色はずっとスマホに釘付けになっていた。
「ひい何見てるんだ?」
「課題の覚えるやつ。メモアプリにメモしておいた。」
「あ、それ条のタイトルだけメモしたな。詳細な内容もそっくり覚えないとだぞ。」
「えー、まじかー。」
すると緋色は思い出した。
「そういえば想志って玄海大学志望だよな、なんでおんみょ...」
バシッ!
想志は緋色の頭を叩いた。
「いって!」
「本当に法律暗記中なのか!?」
「え?」
想志は緋色のスマホを取った。
しばらくスクロールすると緋色に見せつけた。
「読み上げて」
想志は言った。
「第16条 関係者以外が話の内容を聞く可能性があるときは職業名を公務員と名乗ること」
緋色は読み上げた。
「分かったか?」
「オーケー。で、想志はなんで玄海大学志望なのに公務員の勉強してるんだ?かなり名門校だけど。」
「あー。それはね、公務員への対応が厚いんだ。」
「え、なんで玄海大学が公務員に?」
「あちらの校長の名前を思い出してみろ」
「あ、玄海無葵!」
「そう、あちらの校長は玄海グループを運営、日本の大企業・社会を動かしてきたんだ。」
「へー。そんなにすごい人だったんだ。」
そんな会話をしながらその日の昼が過ぎていった。
◇
そして平日の高校生活が過ぎ、休日がやってきた。
緋色と小夜は朝食と準備を済ませて出かけた。
今日は想志と登校する約束をした。
3人でわいわい話すのが待ちきれない。
小夜は平日の訓練所で何をしたかを駅に着くまでに教えてくれた。
平日に訓練所に行くと先生がよく理解できなかったところを個別で教えてくれるらしい。
これは高校なしが術者にとって有利なのかな、と感じた。
駅に着くとすでに想志が3人分の切符を買って待ってくれていた。
3人は隠しホームへ向かった。
電車の待ち時間や移動中は、想志が緋色の、緋色は想志の平日の様子を小夜に語った。
案の定、想志は公務員事件の話をした。
小夜は話を聞いて穏やかに笑っていた。
その顔を見るとどこか恥ずかしくなって隠れたくなった。
電車が到着して、颪駅に降りた。
改札に行くまでに、ある一人の男子が緋色の方をチラチラ見ていたのが気になった。
顔を見る限り耿李ではなさそうだった。
今日はずっと座学だった。
1時間目は美鶴代先生の授業で、表体を習得、仕組みを学んだ。
2時間目は栄西先生の授業で、基本陣の仕組みと線と線の因果関係を学んだ。
次回は実際に基本陣を出すとのことで楽しみだ。
3時間目は器学とあった。
想志が言うには、「緋色が一番好きになりそう」ということだ。
どんな授業なんだよ、と思いながら教室に入ると、そこには、
琴、琴、琴、琴。
「っしゃああああああああ!」
緋色がそう言うと女子がビクッとしていた。
想志は
「せっかくのビジュアルが台無しだな」
と言ったが、そんなことは関係ない。
訓練所でも琴が弾ける。
授業が始まると、前にある扉から先生が登場した。
「皆さんこんにちは。」
<こんにちは>
「転校生がいるという話なので自己紹介しましょう。」
「玄海 実花です。無葵の娘です。よろしくお願いします。」
緋色は座りながらペコリとお辞儀した。
顔は校長先生似ではなかったので母似らしい。
「苑さん、でしたっけ?」
「はい。」
「琴を弾いたことはあって?」
「はい、高校の方では邦楽部に。」
「ならよろしいわ。」
「術において琴を弾くということはとても重要なのでございます。」
「琴の音は研究されており、陰陽師が集中力を上げるためによく使用されておりました。」
「それでは皆さん爪をはめて。」
緋色は興奮が抑えられそうになかった。
爪をはめると指が勝手に動き出す...
緋色は気づくと琴を弾いていた。
すると前の方からものすごいオーラを感じた。
演奏を止めて上を向くと...
スパァン!!
皆が驚いてしまうほどの音が出た。
先生は緋色にハリセンを食らわせたのだ。
痛すぎて声も出ない。
「まだ弾いてよいという指示は出してなくて。」
「琴の才能は素晴らしいですが謹んで下さい、容赦いたしませんよ。」
皆、恐怖に体が凍りついたようだ。
息の音さえもしない。
それから緋色はあの痛さに行動を慎むことにし、真面目に授業を受けた。
だが、先生の話はとても興味深かった。
どうやら琴の音は神力制御に良いらしい。
つまりこれは打開策になるのではないか。
だが実技のときに琴を持ってこれるかと言うと持ってこれない。
なので音を録音して流す札の技がないか後で調べようと思った。
授業が終わって教室を出ようとすると実花先生から「苑さん」と呼ばれた。
緋色は先生の元へ行った。
想志も一応付いてきた。
「何でしょうか、先生」
緋色は言った。すると実花先生は想志に目を向けて、
「把我さんには用はなくて。」
と言った。
「先に食堂に行ってる」
といって想志は去った。
想志が去ってから実花先生は口を開いた。
「今日の最初の行動はあまりよろしくありませんでしたね、苑さん」
「はい、すいません。」
あれはただの本能だからどうしようもなかった。
実花先生の力を知るまでは本能として動いていたが。
「ですが、琴の実力は素晴らしい。授業の最初に勝手に弾いたあの演奏...ぜひ雅楽クラブに入りませんこと?」
実花先生は緋色の背中を触りながら言った。
まさかの勧誘。
でも訓練所で琴が弾けるのだ。かなり魅力的な提案だ。
「ぜひ。」
「では、おそらく近くにクラブ申請書があなたの手に届くでしょうから、そのときにご記入を。以上です。」
緋色は器学教室を去った。
昼休みに入った。
今日の朝、3人で今日の食堂で食べたいものを共有していたので、すでに想志がメニューを取っていた。
「支払い待ちの紙。列に並んで、順番が来たら払えばいい。」
「オッケー」
支払い待ちの紙はかなり良い仕組みだなと思った。
列に並んで待っているともう食べ終わったのか耿李とその取り巻きが食堂を出ていった。
そして緋色に気づいたのか、こちらに向かってきた。
「力の量でふんぞり返ってろ、お似合いだぜ」
耿李は言った。
こいつの言うことなんて無視すればいい。
「こいつチキって黙ってるぞ!えぇw」
取り巻きの一人が言った。
緋色は彼らを睨んだ。
「きゃぁ、緋色くんこわーい!ハハハ!」
バン!
耿李たちは緋色の背中を叩いて立ち去った。
あいつらのことを気にしてる方がきつい。
自分のことだけを考えてればいい。
しばらくするとレジに着いた。
500円玉を出すとレジのおばちゃんに、
「すごい険悪な顔してるけどだいじょぶかぁ?」
と言われた。
そんなに険悪な顔をしていたのか?
いい加減スイッチを切り替えないと。
緋色は顔を叩いて表情筋を緩めた。
「悪いことがあったとしたら捨てるより引きずるほうがきついよぉ。その意気だよ。」
おばちゃんに励まされ、緋色はありがとうございます、と言ってレジを立ち去った。
想志と小夜は⅔は食べ終わっていた。
緋色はとにかく早く食べて、さっきの事を紛らわせようとした。
2人は事態をなんとなく察したようだ。
「耿李に会ったのか?」
想志が聞いてきた。
緋色は黙ってチンジャオロースをかき込んだ。
2人は顔を見合わせた。
「さっき耿李がここにも来たの」
小夜は言った。
「苑と関係を続けても何の得にもならないって言ってきたのさ」
想志は小夜に続いた。
しばらくして緋色は口を開いた。
「じゃあ2人はそう思うのか?」
沈黙。
「いや、そうは思わない」
想志が言った。
「理由は?」
「お前といると温かくなれるから」
「それだけ?」
「友達なんてそんなもんだろ」
「確かに?」
「そこでなんで疑問形になるんだよ」
想志は緋色の背中を撫でた。
変だけど、すごく印象に残った昼休みだった。
◇
3人で電車に乗って鴉丸の屋敷に戻ってきた緋色と小夜。
「あー、今日も楽しかったー」
そう言いながら緋色は玄関で服を脱ぎ始めた。
「ちょっ、ここでは控えてよっ!」
小夜は言った。
「ごめん、小夜」
そう言って服をまた着ようとしたその瞬間。
「あっ」
小夜が声を上げた。
「背中の素肌になにかついてる」
小夜は緋色の背中についていた何かをぺりっと剥がした。
「破れた紙?」
長方形で縦長だったらしい紙のうち1/8がしか残っていない。
「これは札じゃないかしら」
札であれば呪いなどにかけられた可能性もある。
「かなり乱暴に破られたらしいね」
破け方がすごい。
「なんでこんなものが俺の背中に?」
「濡れてよれた感じはしないから、緋色がシャワーを浴びた後の昨日の夕方から今までの間に貼られたのかな」
小夜は推測した。
「誰かに背中を触られた覚えはない?」
緋色は思い出した。
「実花先生と、耿李、想志に...」
小夜は険悪な表情になった。
「その誰かが緋色に呪いをかけたのよ!」
屋敷に重々しい空気が流れ始めた。
第2シーズン開始回はいかがだったでしょうか。
この破られた札はこの物語を動かしていく鍵の一つになります。
一語一句見逃さないように。
それではまた次回、お会いしましょう。




