Alternative 9
午前の勉強を終え昼食後の昼休み。
部屋に戻り昨日借りてまだ手をつけてなかった本を読もうと本を手に取り開こうとすると。
「ねぇ、アル昨日の続き一緒に見ようよ」
そうフェルが腕の裾をくいくいっと引っ張り声を掛ける。
「昨日の続き?」
「うん」
そう黒いDVDディスクのケースを見せる。
「一人で見なかったの?」
「こういうのは一緒に見るから楽しいんだよ」
「だけど僕も…」
そう手に持つ本をチラッとの目配りすると
「駄目?」
と少し悲しげに問う。
確かに昨日は一緒に見る事にしていたし寝落ちしてしまった申し訳なさもあるが
その顔は反則だよ…。
彼女のその顔での誘いを断る事はよっぽどの事がなければ恐らく誰も出来ないと思う。
「分かった一緒に見るよ」
「やったぁ」
と先程の顔はどこにと嬉しそうな顔になり準備をしだす。
「そう言えばアルは昨日の映像の内容を見てどう思った?」
昨日見た映像の題材は『駆け落ち』という身内から許されていない愛。
そういえばやはり映像であったとしても人の顔は見れないままだったな。
内容はとある騎士の名家の長男として生まれた青年。彼は技術の知識を身につけさせられたがその代わりに愛情というものを知らないでいた。
その為、彼は結婚もただの人生にある通過点であり興味などなく、親が周りから縁談の申し込みを受けながら数ある中のものを選別している事も放置していた。
ある日幾つかの名家を集めた合同会が行われた。その時に名家と繋がりを持ちたい家のもの達が手伝いとして来る。
そして彼の手伝いとして付いたのは同い年くらいの一人の女性であり、手伝いとしてきたにしては無愛想なもので、どこか彼と似ているところがあった。というのも彼にはそんな自覚など無かったが。
だが、そんな彼女お日々を過ごすにつれ何処か気が合うところがあり何時しかこれが運命の出会いと互いに感じるようになる。
それを何となく察した親達はそれを反対するのだが、彼は無視し続け彼女と結婚をしようとする。
だが、そのまま繋がりを持たせるなんて許すはずもなく彼の身内たちはどうにかして彼女を事故に見せかけた暗殺しようとするのだが、失敗し長男はそれを境に家族を家族と見れず彼女と駆け落ちする事とした。
領土から少し離れた廃村近くの湖の近くに拠点を築き、持っていたお金や身につけていた狩猟能力で生活を続けていたのだが、名家故にすぐに捜索隊が結成され見つかってしまう。
主人公である彼は既に家族を見限っているために彼女と離れ離れにさせられるくらいなら自死をする覚悟ができていた。
名家の者達としては既に諦め彼らの繋がりを許すしか無かった。
それは家を継ぐはずの長男が駆け落ちを行い、それを許さず自死したなど恥でしかない。
それを避ける為には二人の繋がりを許すしかなかった。
そうして二人は愛でたく結ばれたという感じで、その後も色々とあるが、大体の内容と言えばそのくらいだろう。
ただ単に安直に答えるとしたら初めて見た演劇としてはそれなりに楽しく見れた。
だが彼女が求めているのはそんな答えではないだろう。
内容に対しての感想となると…どう言えばいいか。
「まぁ、僕としては主人公が手伝いとして来た彼女との日々を送ることで知らないでいた愛を知り、周囲からの反対を押し切って自分を貫くと言う所はいいなと思ったかな」
「まぁそれは私もそうかな。二人ともが互いに信頼し合って駆け落ち後も分担してしっかりと生活出来ていたところも良かったし何よりも無愛想同士だった二人に、柔らかな感情が出てきてたのもいいよね。それに…」
そこからフェルの気に入ったところを次々と話していく。不思議な事にそれらは自身の意見ととても合う所があり、もしかすると自分も彼女並に演劇が好きなのかも知れないと思いつつあった。
だけど一点だけ気になることがあるとすれば
「どうしたの?なにか気になることあった?」
僕に何か違和感を感じたようでフェルが問いかける。
意外と鋭いなこの子は。
「いや、全体的にいいんだけど…何故か分からないけど駆け落ちって事に少しだけモヤっとするところがあって」
「ふ〜ん。君も誰かとそういう事がしてみたいのかな?」
「そういう相手がまず居ないよ。それに物語の人達みたいに縛られている訳じゃないと思うし」
「も〜夢がないなぁ。もしもの話だよ」
「もしもって…それでも誰と駆け落ちするの」
「例えば私とか?」
「え?」
「ん?」
虚をつかれたその答えに呆然と彼女を見る。彼女のその顔はまるで冗談ではないような顔だった。
…まさかフェルってそういう事なのか…?
そう考えているとフェルの顔がニヤっと形を変える。
「あはは、本気にしちゃった?冗談だよ冗談」
「冗談って…」
「別に私じゃなくてもこれから色んな人と出会うだろうからね。自分が思う素敵な人とそうすればいいよ」
「そんな駆け落ちを前提とした恋は少し嫌になりそうだよ…」
「それもそうだね。まぁいいや次見よ。次のは私のとても、一番にお気に入りのやつなんだ。じゃあ、はい」
と片耳のイヤホンを差し出す。一応病院の施設の為音漏れをしないためにイヤホンを使わないといけないのだが、一つのイヤホンを一緒に使うとなると少しだけドキッとしてしまう。フェルは気にしていないようだけど。
そうわくわくとしながら再生ボタンを押す。
お気に入りという事は何度も見ている奴なのだろうか?それを僕と一緒に見るというのは…。もしかすると彼女は自分の好きな物を誰かと、共有したい人が欲しかったのだろうか。
ここには他に自分達と近い年頃の子はいないようだし、職員の人達は常に忙しそうにしているから、共有出来そうな相手は居ないだろう。
僕自身、演劇が好きなのか楽しめているし、彼女のそれに付き合うのは悪い気はしないから、とことん付き合う事にしよう。
本を読むのなんて何時だって出来だろうから。




