Alternative 10
少し乱れたノイズの音と画面の波が流れ、演劇が始まる。
DVDのディスクケースにメモのようなものが挟まれておりそれの詳細らしきものが書かれていた。
その演劇は特に新しくも古くも、有名なものではない。
2005年頃という中途半端な時に、とある小さな劇場で行われたオリジナルの演劇。
画面内の文字を見ると日本のものであることが分かる。
タイトル不明、原作不明、作者不明とさ何もかもが不明とされている謎の演劇。
話の内容としてはとある田舎に生まれた四つ子の末っ子の男が出稼ぎと称して外へと旅に出て行くところから始まる。
それはあまり期待されていない故、居心地が悪く、それなら末っ子だし外に出て世界を見て回りたいという興味本位である。そんな旅の道中の村で住み込みで働いていた途中にとある噂話を耳にする。
『迷いの森』
その迷いの森は入れば同じところをグルグルと回っているような感じがあり、引き返すとそれまで歩いた時間とは合わない時間で森の入り口に戻れるという謎の森。
その不気味さ故に村の皆は一切近づかなくなったという。
彼は興味本位で数日分の準備を行いその迷いの森の中へと入る。
何日も何日もその森の中で朝を夜を迎える日々。
食料などが少なくなってきて今日を最期にしようとして歩き夕暮れに近づき拠点の支度をしているとある違和感を持つ。
それは決まって同じところを拠点としていた気がした。
当然そこには焚き火をした痕跡などないのだが、ただ周囲の木の配置に見覚えがある。
そしてよく目立つ少し太く大きな木が気になり近づくと視界がぼんやりとし目を擦り見ると、そこには布切れのようにボロボロなローブを身に纏う一人の少女が木にもたれるように眠っていた。
恐る恐る男は少女に声をかけると目覚めるのだが、眠たげにしながら辺りを見渡し、まるで記憶喪失のように自分は愚か何も知らない子供のように様々な事を尋ねられる。
その問いは少女自身について、此処は何処なのか、そしてその君(主人公)は何者なのかと。
当然男は少女の事についてはさっぱり分から無いためそれは断り自己紹介を済ませ、何故ここに来たのかという問いが来たのでこれまでの旅の話をした。
すると少女は好奇心旺盛に聞き入りながら度々質問を問いかける。そう会話を交わしているうちに仲良くなり少女は「一緒に旅をしたい」と言う。
男も会話をしていて楽しく心配という建前のもと了承し、二人は一緒に世界を旅をする。
とそこから気になる所なのに急に砂嵐がながれる。
古いから途中が抜けているのだろうかと思いながら見ていると、フェルがディスクを取り出して片付け始める。
「え…これで終わり?」
「うん、そうだよ」
「これがフェルのお気に入りなんだ…」
「そう、そうなんだよ。とっても良かったでしょ。最初は何もパッとしない物語なのにあの謎の少女が出てきてから雰囲気がすごくて…etc」
とフェルの止まらない一人会話が始まる。
お気に入りということは彼女は恐らくこの映像を何度も見ているのだろう。
そんな同じ演劇を、それも中途半端で終わるようなものを何度も見て楽しいのかという疑問だと思うが、見た直後の自分の感想を述べるとしたら、確かにもう一度どころか何度でも見たいと思える。
それは恐らくフェルも言っていた少女の役を演じていた役者さんの演技力のお陰だろうか。演劇にあまり詳しくない俺でも分かることがあった。
彼女には人の目を奪うような不思議な魅力と、まるで見るものの理想を映し出す鏡の様で、役を見ているにつれて板の上にまるでその景色の世界そのものが浮かび見え引き込まれるのだ。
少女が現れるシーンまで彼女は板の上に見えないのだが、迷いの森の入りからしっかりとその景色がリアルに感じ見え、登場シーンである゛薄っすらと少女が現れた゛とその通り暗転などなく、背景のセット前からセットが透けて見えるように半透明に徐々に色を染め実体化して行くように彼女が現れるのが画面越しのこの肉眼でも見て取れたのだ。
それらを見ていたら確かに一体どうやってともう一度見たくなる。
途中で終わっている為か、まだ午後の勉強の時間まで時間がある。
「フェルもう一回見たいんだけど」
「え!?もう一回見る?」
と、嬉しそうにする。
「う、うん」
「分かった」と直ぐに再生の準備を終えて再びその演劇が始まり、そして見終えてある違和感にと謎に気がつく。
謎とは何度も見て飽きがこないことの謎である。
確かに二度目を見て飽きは感じないと分かる。
何故そう感じないのかというのがある違和感だ。
それは、まるで生きているのか同じ映像を見ているはずなのに何故か少女の演技が少し違うように見え、見終えるまでそんな違和感など忘れさせられるほど見入ってしまうのだ。
だから、何故か飽きを感じない。
それに途中で終わっているというのに、この演劇を見た後は何故か居心地が良い。
それは俺だけでなく彼女も同じ、いやそれ以上に上機嫌で、見た目に合わずこの演劇の感想を饒舌に話し出し、僕はすでに耳に胼胝が十数個できるくらいには聞いている。
まあ殆どが少女役した彼女のことについての感想なのだが。
そして僕は気になっていた事を彼女に尋ねることにした。
「フェルは将来、役者さんになりたいの?」
その問いを聞いて僕は直ぐに、後悔をした。
先程までこれまでもかと嬉しそうに話していた彼女の笑みがぴたりと止まったのだ。
いや、止まっただけならよかった。何もしゃべらず無表情。感じるのは怒りのような何か。
まずいことを聞いてしまったのか?だが、将来の話など普通の会話だと思うが。
そう戸惑っていると。
「ふふ」っとフェルは笑い始めた。俺は何が何だかと困惑している。
「どう?無と怒りの演技」
「演技…何かまずいこと聞いたのかと思って怖かったよ」
「なら上手くいったのかな」
そう顔を見せず手を後ろに組み背中を向けて立ちあがる。
「なれるかな役者さんに」
そう彼女は問いを投げてきた。
僕が言うのは外をあまり知らないため大げさかもしれないし、まだ幼いためハッキリとは言うことはできないだろうが、フェルはあの役者同様には顔がよくスタイルもいい。何より何故か先の演劇の少女の役は顔が微かに見えてフェルに似た顔がちらついたのだ。
それがとても合っているとも思えた。それに今見た彼女の偽りに見えない演技は本物だと感じた。
「なれるよ。フェルならきっと」
「絶対?」
「絶対」
するとフェル数歩前へ歩きくるりと回る。
「ありがとね」
そう彼女は笑顔を向け、少し嬉しそうに言った。
「そういうアルは将来何になるの?」
「僕?僕は…」
そう考えるが何も出てこない。まぁそれもそうだろう記憶喪失なのだから。
「まだ分からないよ」
「私には聞いてきたくせに」
と少し不服そうに頬を膨らませる。
怒っていてもそれとなく可愛いからなんともなぁ…。
「ごめんね。でも、まだ何がやりたいかとか本当に分からないんだ」
「じゃあ、やりたいことが見つかったら最初に私に教えてね」
「うん、分かったよ」
「絶対だからね」
そう言って小指を立てた手を突き出す。
「何?」
「アルも反対の手で出して」
「あ、ああ」
言われた通りにするとフェルは突き出した小指を絡めて
「ゆ〜びきりげんまん、う〜そついたらはりせんぼん飲〜ます。ゆびきった」
と言って指を離した。
「何これ?」
訳も分からず尋ねると
「さっきの演劇が行われた国でやってた約束事をする時にすることなんだって」
「へ〜そうなんだ…ってことは僕が最初にやりたいことをフェルに伝えないと針飲まないといけないの?」
「うん、頑張ってね」
僕は何となくそれが冗談であるというのは分かっているのだが、フェルの顔を見るにマジのようだ…。
うん、やりたいことが見つかったらすぐにフェルに言おう。
そう強く決意した。




