Alternative 7
この施設の食堂は職員が多いいためにかなり大きく作られており、恐らく二百から三百人は軽く収まる広さがある。
食堂のシステムはバイキング形式で様々な美味しそうな料理が並んでいた。
どれも見たことの無いものばかりで、香りがとてもよく食欲がそそられるのだが、目覚めたばかりということで、僕は指定されたメニューと追加で専用に作られたものを食べることとなった。
そのメニューはと言うと。
牛乳、お湯でお米をサラサラにしたお粥、細かく溶かされた野菜と豆の入ったトマトスープ、そして小さなオムレツだった。
周りと比べると少々見劣りするが、不味くも美味しくない訳でもなく、味に関しては普通に美味しく満足出来た。お粥以外は…。まぁもう少し食べたかったところだが、体調のために我慢も必要だろう。
フェルとは言うと少食なのかパンとシチューの二つだけで、パンをちぎってシチューに浸して食べていた。
それで満足なのか?と思うも彼女のとても美味しそうに食べている様子を見れば心配の必要は全くないと思えた。
昼食を終え軽い休み時間となる。
「アルはこの後どうする?」
「どうするって?」
「私は部屋に戻る前に寄りたい場所があるんだけど、先に部屋に戻っとく?」
病室に戻ってもやることと言えば、また中庭を眺めるか布団を被り昼寝をする事だけだろう。それなら。
「寄る場所って何処行くの?」
「資料室だよ」
「資料室?」
「うん。資料室と言っても図書室のようなもので色々な本や動画ディスクが置いてある場所。貸出もされているから部屋に持って帰る事もできるよ。部屋にテレビとプレイヤーあるし」
資料室と言うからこの施設のでの仕事関係の資料かと思った。貸出もしているなら何か借りていこうかな。どうせただ部屋でぼ〜としててもつまらないし。
「なら僕も何か借りたいから着いて行くよ」
「そっか。なら行こっか」
――――――――――――――――
資料室は食堂からそう遠く無く、一室挟んだすぐ隣の場所だった。
部屋に入るなり、「私は見たいもの決まってるからアルは探検気分で見て回るといいよ。気になったものがあったら二つまでなら部屋へ持って帰れるから」と、何処かへと行ってしまった。
まぁ休み時間は一時間と限られているし、僕に付きっきりというのもこちらとしても申し訳ないし、彼女の言った通り探検気分で見て回るとしよう。
その部屋も食堂とほぼ同じぐらいの広く、ギッシリと本が敷き詰められた、天井まで伸びる高い本棚いくつも並んでいる。
他にもいくつもの机や椅子が並んでおりドリンクサーバーと充実した設備が施されている。
休憩室でもあるようで何人かのスタッフがその空間で読書や会話、仮眠などをしている。
それにしても医療スタッフはよく見るのだが、自分とフェル以外の他の患者を全く見かけないな。
患者が居ないのはどちらかと言うといいことだろうけど、これ程大きい施設なのに少ないのは少し違和感があるな。
本は手に取らずに、ただ棚の間を、本の背文字を眺めながら流れるように歩き進む。
棚ごとにジャンル分けされており、昆虫や魚、動物、星々や道具といった図鑑類。世界地図や各国の地理と歴史の本。童話や漫画に小説と、母国語以外の様々な国の言語の本がそこにあった。
僕はここを何となく知っているようだ。
しっかりとは思い出せないのだが、眺めることで断片的に少しだけ思い出せている。
特にここら辺にある童話系の本棚がに見覚えがあるような気がする。
私は童話が好きなのだろうか?まぁ一応子供だからそういうのを読んでいたのかもしれない。何となくだけどそこら辺の本の内容は何となく覚えているのが分かり、試しに幾つか手に取って軽く読むと、殆どがその通りの内容だった。
だがそれ以上に以外に思い出せることは無い。
とりあえず色々と見ようと奥の方まで進み、眺め見ているとある一冊の本が目に止まった。
その本は植物と世界の歴史の本棚のより先の方にある棚にあった。
なぜその一冊の本に目がいったのか。
その本は他の本と比べ質がいい物が使われてるのか高級感があり、細かく綺麗な装飾が施されている。
それ以外にも背文字に書かれている文字が見たことの無い文字だった。
教養がいいのかそれなりの文字の見覚えがあり六ヶ国語程度は読み書きできる感じはある。
だがその文字は現代ではあまり使われない、くさび形文字の様な特殊な文字で全く見覚えが無く、読めそうにない文字。
その不思議さ故にとても気になり、その本を手に取り開く。
何…これ…。
本を広げ見えたのは白。
何も書かれていない真っ白な白紙。だが、最初に白紙のページがある本は確かにある。
あるのだが、と次々とページを捲っていくが最後の最後まで何かが書かれているページは無かった。
中の紙は少し古い感じがするが、触れて見て周囲にあるどの紙よりも質がいいと感じる。
これだけいい物を使い装飾まで施されているのに何も書かれていないなんて…なんか勿体なくないだろうか…。それよりなぜこれで本としたのだろうか。こんなの作り終わる前に気が付きそうな事だと思うけど。
「おや、それが気になるかい?」
その声を聞いて横を見ると、フィカスが幾つかの資料ファイルを片手にもう片方の手でまたあの時と同じ小さな端末をポチポチと操作しながらこちらを見ていた。
一体何をしているのだろうと思いながら、相変わらず顔を覆う大量のハリガネムシが蠢いており、その内の一匹が何か嬉しそうなのか上機嫌にくねくねと踊っているように見える。
「とても綺麗な本だろう、それ」
「あ、ああ、うん。だけどこの本はなんで中身何も書かれてないんですか?」
「さぁね、それは私も分からないよ。適当に注文してたらその本が入ってて。何となく綺麗だからそこに置いているだけだよ」
「観賞用みたいなもんですか?」
「まぁ、そんな感じかな?」
確かにこの本は見るだけでも、不思議とそれとなく楽しめる感じがある。装飾のおかげだろうか。
「そんなに気に入ったなら、その本を譲ろうか?」
「え?」
「いや、ただここに置いて置くのも勿体ないからね。どうせなら君にどうにかして活用するのがその本からしても良いだろうし、私個人としても面白そうだからね」
「でも、大丈夫なんですか?勝手に本を譲るなんて…。ここの本は一応皆さんが借りたりするものですよね」
「いいよいいよ。ここの本は全て僕個人が購入したのと色々な友人から譲ってもらったものだからね。だから僕の所有物という事になるから誰に本を譲ろうと僕の勝手だよ」
確かに買ったものを譲るのなら何となくいいと思うけど、譲ってもらった中には贈り物としての物もあったんじゃないだろうか…特に今手に持つこの本とか。
「気にすることなんてない。元々僕以外その本を手に取ったり見たりする者なんて居なかったからね。その本は有って無かったようなモノ。だから君がそれを見つけ手に取ったのは君とその本にとって運命の出会いのようなモノ。だから受け取っておくのもいいんじゃないかな?」
確かにたまたま歩いていて目を惹き付けられ、手に取ったと言うことだが、先生の言う通りそれも運命の出会いと言える。断る必要も無いしな。
「では、有難くいただきます」
「うんうん、有効活用してくれたまえよ。そう言えば同じ部屋の子とは仲良くなれたかい?セルベラが何か嬉しそうに呟いていたのが聞こえてね」
「…たぶん仲はいい方なんでしょうか。フェルの方から話しかけてくれて笑顔も多いいし。それなりに会話もできているので」
「そうか…仲良くできているなら良かったよ」
一瞬嬉しそうにくねくねしていたハリガネムシの動きが止まるも、すぐに体を左右に揺らすように動き出す。
「では、私は仕事に戻るから君も早く病室に戻って休みなよ。色々検査を受けて疲れているだろうから」
そう言ってフィカスは幾つものファイルを抱えて何処かへと行く。
仕事中でも自身の身のことを案じてくれる事と、この素敵な本を譲ってくれた事に感謝しながらも、そんな多くの荷物なら誰かに手伝ってもらえばいいのにと思いながらその後ろ姿を見送る。
それにしても顔が見えないから表情と言ったものが分からないけど、まるでそれを教えるようにハリガネムシが動いているように見えたな。それはそれで面白い感情表現と言えるのだろうか。
「アル何か気になったの見つかった?」
「うん、とりあえずは」
「へ〜どの本?」
「今から取りに行くところだよ」
「そうなの?ならその本は何?」
「ああ、この本はさっき見てたらフィカス先生になんか譲ってもらったんだ」
「あの人から?へ〜どんなのか見せて」
そうフェルは手に持っている薄いのと少し分厚い長方形のブラスチックの二つの箱を差し出しその本を受け取り見る。
「何これ?すごい綺麗な本だけど中身何も書かれてなくない?」
「うん、有効活用してくれって言われたけど何に使えばいいんだろ」
「ふ〜ん。まぁそういうのは今すぐ決めなくていいんじゃない?そのうち書きたい事が浮かぶかもしれないから大切に持っといたら?」
「ああ、そうだね」
今すぐに何か書くとしても、どうせ大した事なんて書けるわけ無いし、それこそこの本の活用として勿体ない。記憶の事もそうだし、ゆっくりと後悔しないように書きたいことが見つかるまで置いておこう。
「そういえばフェルは何を借りたの?」
「DVDとVHS」
「DVD?VHS?」
何それ…呪文?
「ん?分からない?映像が保存された円盤とカセットテープなんだけど」
「へ〜そんなのもあるんだ」
「ああ、アルはそういうの初めてなんだね。なら一緒に見よ。きっと貴方も気にいると思うから」
「うん、その前に借りてく本を選んでくるよ」
「分かった。貸し出しの受付のところで待ってるから」
「うん」
さて何を借りようか。ここら辺の童話は読み終えているし、漫画というものに手をつけるか?ライトノベルというものもあるみたいだし…。う〜ん何を借りようかな…。どうせならタイトルとか見ずに適当に借りるのもありかもしれないな。
そう、譲ってもらった本のあった隣の本を取り、軽く中を覗き小説であることを確認しその二冊を借りることにした。




