Alternative 22
朝が訪れ、僕はいつものように目を覚ます。
何だかとても長くて、怖くも、優しく、心地の良い夢を見ていた様な…。何だっけ…全く思い出せない。
起き上がり周囲を見渡す。目に映るのは三つの使われていない隅に片付けられたベットや冷蔵庫達。
相変わらず、ただ一人でいるには寂しく無駄に広い部屋だな。
そう思いながら、立ち上がると急な頭痛と共に一瞬、何かがフラッシュして映った。
何だ…これ…。
よくは分からないが、それからは特に異常が無い。特には問題ないかなと思いいつも通り身支度を整える為に洗面所へと向かう。
まぁ、いいか。
いつも通り朝の検査を受け、いつも通り診察室へ向かう。
診察室には、いつも通り爽やかでかなり顔の整った、自分から見てもイケメンな男性と、容姿は綺麗なのだが、何故か好きにはなれず、少し危なげに感じる妖艶な女性がそこにいる。
「やぁ、退院が明日となっているんだが。調子はどうだい?アル君」
「あまり気になることじゃないですが、歩いているとたまに軽い頭痛がするくらいかな。と言ってもあまり痛くないし、一瞬くらいなんですけど」
「ふむ、と言っても脳波の検査を見るに特に異常はないんだがね…。今のところは問題ないと言いたいところだが、また頭痛が起きて痛いようだったら、近くにいる職員に声をかけてくれないかな。直ぐに駆けつけるから」
「はい、分かりました」
「それ以外特になかったら、昨日言った通り体調に気を使って自由に過ごしてくれたまえ」
「はい。ありがとうございました」
「ああ、お大事に」
病室に戻りベットに横に天井を眺める。
「僕ってこういう自由な時間の時、いつも何してたっけ」
暇を持て余し、側にある引き出しを漁る。
その中にあるのは一冊の綺麗な本と三つの紐で纏められた紙の束。
「確か…この本は資料室で眺めてた時に先生から譲ってもらったもので、この三つの紙の束は…」
なかなか思い出せず、ペラペラと捲りながら流し読みをして、ようやく思い出す。
「そう、物語の本が読むのが好きで、自分も将来、物語をかける作家になりたいと思って書いたものだ」
なら、やる事は決まったと、筆を手に取り紙を広げるのだが。
「やっぱり、今日はいいや」
と筆を置いて、これまで書いたその束を手に取り横になってそれを読み返すことにした。
我ながら、酷いなと思いつつも、読み進めていくうちに、確かに成長しているなと言うのがわかり、微笑みながら読み終えて、次は何をしようか…。
そう悩みながらゴロゴロと寝返りを打っていると、枕の下に硬い何かを感じた。
枕を手に取り下を見るが何も無いが、手で触れると確かに何かがある。
シーツと敷布団の間に手を突っ込み、中にあるそれを取り出す。
そこにあったのは三つの緑色のネックレスと一冊のノートだった。
その二つは見覚えがある物なのだが、このネックレスは…。そう頭を傾げながらも、今はいいやとより見覚えのあるそのノートを手に取り開く。
見覚えはあるのだが、中身は全く覚えていない。
もしかすると、このネックレスについて書かれてるのかもしれないと思ったからだ。
「何だ…これは…」
開かれたノートに書かれたものは、乱雑に描き殴られた解読不可能な埋め尽くす文字と、その文字を読ませまいと塗り潰すように引かれた乱線の数々だった。
すると今朝は感じた頭痛が鳴り響き、ぼやけた何かがフラッシュバックするように見えた。
今のは…。
次々とノートのページを進めていくのだが、どのページも最初のページ同様に何が書かれているのか分からないぐちゃぐちゃの何かが埋め尽くされているだけ。だが、このぐちゃぐちゃの乱線に何か既視感や意味を感じられる。何かが理解できたわけではないが、それでもそう思えるだけいいことなのだろう。
そう、眺め続けていると途中で、真っ新な綺麗なページとなっていた。
これ以上は特にはなさそうだな。
そう、最後まで捲り終えノートを閉じると、乱れたノイズのような映像が脳に流れる。
それは病室の扉を開けて廊下へと出ていく映像だ。いや、映像というより自分の視点の記憶だろうか。
その通りに廊下へと出て右左と見渡すと、再び記憶が流れる。それはまるでついて来てと、導いているように思える。
その記憶の通りに進んで行くと、資料室に辿り着いた。
導きはただ、ひたすらに周囲の本棚に目移りすることなく進むのだが、何か思い出せるのではないかと本棚を眺める。
確かに見覚えがあり、何とか内容をしっかりと覚えている本が幾つかあるが、自分の記憶が思い出されることはない。
そうしてたどり着いたのは部屋の最奥であり、それはこの施設ではあまり見かけない真っ黒な扉。
その部屋の中にあるのは本ではない。
数え切れないほど大量に敷き詰められたVHSにDVDとUSBメモリー。そしてそれを再生する為の幾つかの機材が並んでいる。
そのまま導きの通りに、取り出された記録を取り出し再生する。
映し出されたそれは、衝撃的なものだった。
自分がこれまで見てきたであろう、演劇やドラマ、アニメといった物語のようなものでは全くなかった。
それは、物語と違い複雑なものなど一切ない単純な映像。だが、ただそれに見入ってしまう。
なぜなら、その単純な映像が何を示し伝えようとしているのかハッキリと分かり、朧気な記憶が少しずつ思い出されていくのが分かる。
ただ導かれ一つ、また一つと映像を再生して流していく。そう次々と見続け、見終えた記録媒体が五十を超えた所で急にシャットダウンの通知が現れ三十秒後に自動的にパソコンの電源が切れた。
時計の針を眺めると、ちょうど就寝時間を迎えていた。
深く息を吐いて、座っていた椅子に深く持たれ、天井を眺める。
そうか、あのノートの見覚えは…あの乱線はそういう意味なのか…。
ポケットに入れていた三つ葉のクローバーの首飾りを握り締め額に当てる。
これは…。 僕は…。 私は…。
閉じている目から涙が溢れ、頬を伝い、一滴の雫が床へ零れ落ちた。




