Alternative 21
真っ暗な意識の中、まるで呼吸が止まっているように息苦しく、まるで息を吹き返すようにハッと目を覚ます。
すると目に映ったのは、心配そうに覗き込むフェルの顔と、いつも見る天井が見えた。
呼吸が荒く、鼓動が早く聞えるのが自分でもよく分かる。
ここは…ベット…。
「大丈夫?アル」
そうかなり心配しているのか彼女の握る手が強くなる。
心配させまいと、取り敢えず起き上がり息を整える。
「大丈夫。ただちょっと怖い夢を見ただけだから何ともないよ」
そう答えるも、彼女の心配そうな表情が消えることは無い。
「本当に大丈夫だから。取り敢えず顔を洗ってスッキリさせてくるよ」
「分かった。でも、何か変だったら私にも先生達に直ぐに言ってね」
「うん、分かってるよ」
そう、彼女の握る手が弱まるのを感じてベットから出て洗面所へと向かい部屋の外へ出る。
顔を洗うも全くスッキリとしない。
あれは、夢?それとも現実なのだろうか。
まだはっきりとしていない光景を見てしまった為に混乱しているのだろう。
そう考えていると、ポケットに何かが入っている事に気が付き、それを取り出して見る。
手の中にあるそれは、二つのクローバーの欠片だった。
…やっぱり、あれは夢じゃなかったのか…。
明かりのついた受付の所を覗くと、数人の人影があった。
それは、フィカス先生と黒い靄に顔の隠れた二人の大人、そして一人の子供だった。
「あら…。先生子供が来てるけど」
靄に隠れた女性が僕に気が付き先生に尋ねる。
「おや、どうしたんだいアル君。こんな時間に。寝ていないといけないじゃないか」
怒られるかと思ったが、まるで全く気にしていないように先生が聞く。
「すみません、先生。眠れなくてトイレに行ってたんです。」
「そうか、ならすぐ病室に戻って眠りなさい。夜更かしし過ぎてはいけないからね」
「はい…。その前にコレ。廊下に落ちていたのに気が付いたんですけど」
落ちていたそれを前にだすと
「ああ、それか…」
「たぶん、エドかメレンが落としたと思うんですけど」
そう言った瞬間、他所を見ていた一人の子供がこちらを見た。
その子供はエドとメレンと同じくらいの背格好なのだが、大人の二人と同じように真っ黒な靄に顔が隠れている。この子も彼らと同じで今日退院だったのだろうか。
するとその子供は手に持っているクローバーを凝視して小さく「あっ」と反応した。
「どうしたのデニス」
そう不思議に思った母親がその子供の名前を言った瞬間。その子供の靄が晴れていった。
そして露わになったその顔を見て困惑してしまった。
え…?
その目に映ったその顔とは、"︎︎見覚えのある振り子と閉じ固く結ばれ吊るされている見覚えのある本"︎︎だった。
なんで…その顔は…え…?それに、先聞えた聞き覚えのある声は…ジッとこのクローバーを眺めているし、首にかけているあれは…。
その状況に理解出来ず困惑していると、急に真っ暗になって、いつの間にかベットで眠っていて、今こうして目覚めた訳なのだが…。あれは…。
その後も、気分がまだしっかと落ち着かないが、いつも通り検査を受けて学習の時間となった。
だが、全くそれに身が入らず集中できず、朝食も昼食も全く食欲がなく全く喉を通らない。
あの時見たように似た顔をした人物はここの職員にも確かにいる。
いるのだが、しっかりと違いが分かるように毛の長さや柄模様だったり、ズレに色と違いがある。
だけど、あの子供の振り子と本はロケットやボールは無かったものの全く同じモノだった。
たまたまなのか、それとも…。そう、創作の為につけた知識が様々な可能性を彷彿させるのだ。
それが、恐ろしく気持ち悪く、吐きそうになり、何度もトイレに駆け込み、ほぼ空っぽの胃からただ、液体が吐き出され続けた。
それを心配されフィカスの元へ診察させられるも異常などなく、退院を控えてるのもあり退院までの学習の時間を取りやめ、部屋でゆっくり休むよう言われた。
全てを吐き出したのか、もう吐き気は無いが、震えが止まらず、ベットの上で膝を抱え座り込む。
その震えは、それまでの行為による影響では無いのを自分の中でハッキリと分かる。
そう、この震えは恐怖だ。
考えつくありとあらゆる可能性が、自分のこれからにありとあらゆる最悪の可能性が襲い来るように、鮮明に映し出され脳を埋め尽くすのだ。
怖い…嫌だ、怖い、嫌だ、嫌だ…。
塞ぎ込み、ただ、脳に浮かぶそれを拒絶し続けていると、不意に強く握りしめたその手の上に暖かい何かが上に乗った。
「アル…大丈夫?」
心配そうにフェルが声をかける。
それに対し俯いたまま、ただ首を横に振った。
「そう…何があったか分からないけど、話せるなら教えて。貴方が何に怯えているのか」
「…」
その問いに僕は返事を返さない。それはきっと話しても意味が無いと思ったからだ。だってそれは夢かもしれないし、そもそも、想像のモノに過ぎないと、何処かで思っているからだ。だから、話しても…きっと彼女には…。そうただ、何も伝えず黙り込む。
すると彼女は手を離す。
僕のこの様子を見てしばらく距離を取るのだろうか…きっとそれがいい。彼女もこんな僕に構う必要なんてないのだから。
そう思っていると。
彼女は真横に腰掛け、膝に乗せている右手に手を絡ませて下に下ろし、頭を僕の肩に預けるようにもたれ掛かる。
「いいよ、私もこうして、好きにさせてもらうから。もちろん話したくなかったら話さなくていいよ。だけど、何か話したくなったら話してね。
私はただ貴方を待ってあげる。聞いてあげる。そして、一緒に居てあげるから。
だから抱え込まなくていいよ。我慢なんてしなくていいよ。思う存分さらけ出しちゃいなよ」
その彼女の暖かな言葉に、張っていた糸が緩んだのか、自然と涙が頬を垂れて落ちていく。
また一つ、また一つと零れ、まるで決壊したように涙が溢れ出ていく。
それをただ彼女は、「大丈夫…だいじょ〜ぶ」と何度も安心させるように呟いていた。
しばらくして泣きやみ、落ち着いたところで、彼女に話をした。
それはこの施設で目を覚ましてから記憶喪失だった事、自分とフェル以外の顔が見え無かったこと。次第に人の顔とは別の何かとして見えるようになった事。そして、夢だと思ったあの夜の事。そして、そこから思い浮かんだ全てを話した。
「ごめん、最後の方は変な事言った」
「ううん。変な事じゃないよ。言ったでしょ。話したくなったら話してって。だから、君の話したそれは決して変な事じゃないよ」
「うん…ありがと」
「だからね。心配しなくても大丈夫だよ。大丈夫」
そう彼女が安心させるような暖かな言葉をくれる。
すると、泣き疲れたのか、溜め込んでいたことを話せて満足したのか、急にウトウトと眠気が襲い来る。
「ずっと、ずっと。私は貴方の側に…居てあげるから」
そう、僕が一番欲しかったその言葉を彼女から聞くと、僕はゆっくりと彼女の体に身を預け、静かに眠りにつく。
「私達はこれからもずっと一緒にいるのだから。 だから、安心しておやすみ。 アル」




