Alternative 17
その後何事もなく一日が終わり、繰り替えの休日を迎える。
と言っても特にこれと言った変化などなく僕は物語を書き進め、フェルはノートを広げドラマを見ていた。
その様子を遠目に戸惑いながら二人が眺めていた。
「な、なぁお前ら二人何してんだよ」
「何って…将来のための勉強?」
「将来の為のってどういう事?」
「どういうもこうも、こういう事」
そう言ってこれまで書いてきた紐で纏められた二つの紙の束を机の上に出す。『千月鏡』はまだ続きがかけそうになく、その間に別の作品を書いていた。
そのもう一つ作品は『静灰の魔女』である。
と言ってもどちらも途中であり、これも『千月鏡』と同じで先が書けないでいるので途中で止まっており、今は別の作品を書いている。
二人はそれを手に取りペラペラと流し見る。
「うわ何これ」
「まじか凄いな…これは何時から書き始めたんだ」
「だいたい一か月前くらいからかな」
「…一月でこんなにも書けるものなのか」
「もちろん書き始めはかなり遅かったけど書いてるうちにちょっとずつ書くのが早くなって来ただけだよ。慣れだよ」
「ってことは、アルの将来は作家?」
「まぁそんな感じかな」
「へ〜いい夢だな。読んでみてもいいか?」
「僕もいい?」
「もちろん」
『静灰の魔女』
それは剣と魔法、魔物に魔獣、ドラゴンといったファンタジーの世界。
魔法の盛んな国の学院にいる『騒拳』と呼ばれる主人公とその仲間はその世界に存在する空の果てまで伸びる塔のダンジョンの攻略を行っていた。そしてそのダンジョンのボスの様な巨大な魔物を討伐しその奥の部屋に訪れると様々な宝石など地面などに埋まっている。仲間たちがそれを見て歓喜している中、主人公は空気の抜ける気配を感じ辿り進むと、ひび割れた壁があった。
それを調べるべく拳で叩くと、その壁が簡単に崩れもう一つの少し開けた空間が現れた。
その中に入り見ると奥には岩壁なのだが、まるで動物が大樹にくり抜いて作った住処のような穴があり、まるでツルのような形をした岩がその穴を塞いでいる。
その中を恐る恐る覗くとそれは美しい真っ白で長い髪の少女が眠っていた。
閉じ込められているのかと思い、その岩のツルを払い除けると、その物音に少女は目を覚ました。
主人公を見るなり「近づかないで」と拒絶するように奥に丸まるのだが、こんな危険な場所に放っては置けないと彼女のその手を引っ張る。
すると、その少女はそれに「なんで…」と驚いた。ただ手を繋いだだけなのに何故そんなにも驚いているのだろう。そう思っていると、突如その背後にモンスターが生成され、主人公に襲い掛かる。
あまりに至近距離の生成に驚きながらも、直ぐに対応しようとしたが、そのモンスターは何かを吐き出そうとしていた。魔法の使えない主人公はそれを防ぐ術がなく、無理だと判断しその少女を守ろうと覆いかぶさろうとすると、その瞬間、そのモンスターが灰となって消えていった。
一体何が起こったのか、そう疑問に思っていると少女が口を開く。
少女が言うに彼女の手が触れたその全てのモノが灰となり消えていくと、周囲に落ちていた瓦礫に触れて見せてくれた。
なら何故彼女の手に触れた自分は無事だったのか尋ねると少女にもそれは初めての事だったから分からないと答える。
主人公はそれについて考えるに思い浮かぶのは呪いの存在しか無かった。
だからそれを解くべく学院に来ないか?と尋ねると勿論少女は拒絶する。
なぜなら彼女が触れるだけで生物を人を殺してしまうのだから。そんな事をしたくない彼女に沢山の人がいる所なんて行ける訳が無いのだ。
だが、その場に放って置けるわけのない主人公は、その呪いの事を事前に伝え、そうならないように支えると言う。
でも、と言うが彼も引かない。
少女は彼の目を言葉を信じ、分かったと根負けて呪いを解くべく学院に行くことを了承した。
それから二人は学院生活の日々を送りながら呪いの研究を行うと言った流れの話だ。
「これだけ書けたらなれるだろうな」
「そうだね。読んだけどしっかりと世界観が表現されてるし、少し退屈な点があるけど、展開が現実的に書かれててまぁ納得できるかな」
「だけどなんでここで終わらせてるんだ?」
「思った。ここから先すごく気になるんだけど」
「まぁ、簡潔に言うと書けないんだ」
「書けない?なんで」
「なんて言うか、ここから起こる物語が全く思い浮かばないというより、何か書きづらいんだよね。だから、もう少し上達してから書こうかなって思って」
「ふ〜ん、そういう考え方もあるか。まぁ先生がそういうならそういう事で続きができることを楽しみにしているよ」
「で、アルは作家だとしてフェルのあれは?」
「フェルは演劇の役者、演者になりたいんだよ。だから、ああしてドラマとか演劇を見て、表現方法をノートに書き示してるんだって。その時のフェルはかなり集中してるから多分横で話しかけても全く聞こえないと思うよ」
「だよな。というより近づくな、邪魔するなオーラが凄くてそうする気にもなれないよな」
うんうん、と三人全員が同意見というように頷き、それを互いに見合い笑い合う。
「話の流れで二人の将来の夢聞いてしまったし、俺たちの将来の夢も話しとくか」
「…少し恥ずかしいんだけど」
「恥ずかしがんなよ、夢なんだから大きくしとかないと。と言ってもただ教えるのはつまらないからな。せっかくだから問題にしようぜ」
「まぁ、それならいいけど」
「アル、俺たちの夢はなんだと思う?」
「ヒントはスポーツと化学。それである意味、世界クラスだよ」
とヒントにしては結構雑に思え、そんなの多すぎるだろうと思うが、アルは二人の顔を見て指を指す。
「エドは宇宙飛行士でメレンがサッカー選手?それかそれらに関係した仕事かな」
それを聞いて二人は止まる。
あれ間違っていたのだろうか。そう思っていると。
「おお、凄いな、なんで今のヒントで分かったんだ」
「それも僕達が互にしたい事を言い当てるなんて」
「ならあってるの?」
「ああ、俺は宇宙飛行士にこいつはプロのサッカー選手だよ」
「だけど何で分かったの?」
「それはえ~と…勘かな」
「何だよそれ」
「まぁ、少ないヒントでも当て勘がはまることもあるか」
すると何かに気が付いたようにアルは病室の扉を開き外をキョロキョロとする。
「どうしたんだ?」
「いや、なんか扉がノックされた音が聞こえた気がしたけど気のせいだったよ」
「ふーん。それよりもさエドはもうちょっと勉強したらどうなの?そんなんじゃ宇宙飛行なんて夢のまた夢だよ」
「あ?そんなんお前もだろ。サッカー選手になりたいなら俺よりも運動神経良くしろよな」
そう二人はその夢のことを言い合いをしながらも語りだす。
僕が二人の夢を言い立てたのは、実は勘ではない。そうではないかという可能性があったからそう答えられたのだ。それは夢の話をするまで二人の顔に残っていた黒い靄が急に晴れたのだ。そうして現れたのは、振り子に結ばれブンブンと宙に浮く星々の間を動き回る玩具のロケット。本が開かれ、その中で転がり回る歴代のワールドカップのサッカーボールたちが見えたのだ。
だから、そうではないかと答えたに過ぎないのだが、まさかその通りだとは…。
それにしても先確認してみたが、二人以外の職員達には今回のような変化なんて起きていない。一体これはどういう意味や関係があるのだろうか…。何故こんな変化が起きたのかさっぱり分からないが、そんな事はどうでもいいだろう。
なんたってその二人のやりたい夢が顔に出ていた、という事に過ぎないのだから。
だから今は二人の夢への話を楽しませて貰いながら。もし二人のその夢が叶うならば、いや、叶うと信じて二人の物語でも書いてみたいな。




