Alternative 14
あの日から一週間と少しが経った。
あまり変化のない日常で、病室でいつものように僕は続きを書きながら、フェルは自身のベットで演劇を見ていた。
互いに互いの邪魔にならないようにと集中しており、恐らく既に互いが何をしているかなどと言うよりそこにいることを忘れているのではないかという集中力で其の世界にのめり込んでいた。
すると扉が強く開かれ一人が飛び出るように入ってくる。
「たっだいま〜愛しのお二人は元気にいい子にしていたかな?」
そうセルベラが大きな声で挨拶を告げるのだが、当然二人は全く気がついていなかった。
「はいは〜い。セルベラお姉さんが帰ってきたよ〜二人とも」
とセルベラは手を叩いて二人の気を引こうとしたのだが、二人の反応は無い。
「しくしく…お姉さん悲しい…二人に無視されるなんて…」
そう作り泣きをするのだが、やはり二人はセルベラの事に気が付いていない。
「…先生の言ってた通りだな〜これは。最初は無視されてるのかと思ってたけど、本当に気が付いてないんだ」
困った様に二人を眺め少し考える。
「大事な話があるし、しょうがないか」
と、セルベラが何がその場で何かをすると。
いきなり二人は体を大きくビクッつかせ、アルの持っていたペンが床に落ちて転がる。
少し間を置いて二人はゆっくりとセルベラの方を向く。
「何かに夢中になるのはいい事だけど、夢中になり過ぎて全く何も聞けなくなるのはダメだぞ二人とも」
そういつも通りの雰囲気でメッと人差し指を立てて言うのだが、先程感じたゾクリとまるで背筋が凍りつくそれは、きっと蛇に睨まれた蛙の言葉の様な事を感じていた。
「…お帰りなさいセルベラさん」
「はいはーい ただいまアルくん。…うう、もう一人の子はお姉さんに挨拶してくれないのかな…」
そうちらりとフェルを見るのだが、フェルはただ少し嫌な顔をしてセルベラを見る。前々から思っていたがフェルは少し苦手な人間に対して反応が正直だな。
「まあいっか。それで今回は二人に大事なお知らせがありま~す」
大事なお知らせ?なんだろうか。退院日とかそんなものだろうか。
するとセルベラが扉を開いて
「さあ入って」
そう言うと廊下から二人の人影が入って来る。
最近顔が見えてきたのだが、初対面だからか真っ黒な靄に顔が隠されている。久々だなこれを見るのは。どうやら顔を見える様になるには少し時間がかかる様だ。
その二人は自分達と同い年か一つか二つ年上くらいの少し自分たちより高い身長で、一人は堂々と立っているが、もう一人は少し恥ずかしがり屋なのか、半歩後ろに立って前に立つその子の裾を摘まんでおり、胸元にあるかけてある何かを大事そうに握りしめている。
「今日からしばらくの間、同室になることになったから」
同室者?何の予告もなしに当日いうなんて…。いや緊急的なものだったのだろうか…。でも、そんな雰囲気ではなさそうだしな。
「それじゃあ、私は仕事に戻るから。自己紹介溶とかして皆仲良くするんだよ~」
と、その場の状況を適当に終わらせて病室から出て行ってしまった。
まるで時が止まった様に病室には静寂が流れ、誰一人として動く事がない。
二人もただ入り口に立ってどうしようと戸惑っている。
どうにかしないとと思い、取り敢えず言われた通り自己紹介をしようと口を開く。
「えっと、取り敢えず初めまして。僕の名前はアルフレッド・カーマイン。アルって呼んでね。そして」
と、フェルの方を見る。
「私はフェル…」
それだけ…?いつも楽しく口数が多いいはずのフェルがただ名乗っただけ…。実は人見知りなのだろうか…。
入り口に立つ二人もそれを聞いて見合わせこちらを向き
「僕の名前はエドアルト。エドって呼んでくれ」
「僕はメレン…メレンレッチ」
と二人が名前を名乗ると、顔にかかっていた靄が徐々に晴れていく。…ん?名前を聞けば靄が晴れるものなのか?いやでもセルベラさんたちの場合は名前を聞いてもこうやって晴れることなんて無かったのに…。何でだろうか…。いやそれよりもこの二人の顔は…。
二人の顔を少しばかり変わっていた。
エドの顔は振り子の様なのだが、吊るされている物が真っ黒な靄に隠されている。メレンの顔は本なのだが、恥ずかしがり屋を現すように半開きで開き閉じを繰り返しており、時折その隙間から真っ黒な靄がチラチラと見える。恐らくエドと同じように靄に隠された何かが本の中にあるように思える。
二人の首元にはネックレスをつけているのか紐のようなものが見える。
俺は立ち上がり、二人の前まで歩み寄る。
「エドくんにメレンくん。これからよろしくね」
そう手を差し出すと二人は顔を見合わせ、エドがその差し出した手に答え。
「うん、よろしくアルくん…そしてフェルちゃん」
緊張から少し戸惑いなどを感じていた二人からはその緊張が緩み、笑みを浮かべているのが感じられた。
「…じゃあ、ベットとかの準備をしよっか。手伝うよ」
本来ならセルベラさんや職員たちが直ぐに使用できるように準備をしている筈であろう、隅に片付けられているベット等を見ながら言う。
「うん、ありがとう助かるよ」
恐らく二人も、それらのこともあってセルベラさんが出ていった後、どうすればいいのだろうと困っていただろうな。




