Alternative 13
作家になると決めてから二週間が経ち、何とか一つ目の作品のそれなりにいい所まで書き上げることが出来たところで、フェルがその気を伺っていたようで一まとまりと同時に取られて、今真横で読んでいる。
少々他人に見られることに恥ずかしさもあったが、そんなことより続きを書いていこうと筆を進める。
その作品のタイトルはまだ決まっていないが、仮につけるとしたら日本語で『千月鏡』だろうか。
舞台は月の民が住まう月の中の世界。
なぜ、月の中の世界ということにしたかというと、本来月には人が住んでいる記録は無い。それは月面探索などの記録を見たら一目瞭然だ。
なら、表層世界と中層、下層世界などという風に区分分けされている、又は自分たちが見ている月とは幻想であり、隠されたどこかに本来の月があるというのなら、あり得ないことはないという自分なりに思った結果だ。
主人公となるのは辺境の小さな社に住まう、黒い包帯の様な目隠しを覆う巫女と言うより神官・聖女の様な女性だ。
彼女の仕事はその社の中にある千月鏡と呼ばれる鏡の管理をすること。
月にも地球の民と同じように階級が存在し、その一番上の存在の更に上に天月の民と呼ばれる者達がいる。
天月の民とは月の民が見ることの許されないさらに美しき月に住んでいるとされ、人が想像する桃源郷の仙人や神のような存在。
食事や睡眠など取らずとも生きることができ、傷も治りが早く、更には月の民の何十倍もの長い年月を生きることの出来る不老不死のような存在だ。
そんな天月の民がその美しき月を下に居る、月の民にも見せてやろうと千月鏡とそれを管理する者達を送り降ろした。
千月鏡とは、千月に一度その月を映し出す鏡である。
つまり八十三年と四ヶ月に一度だけ映し出されることとなる。
月の民も殆どの者が地上の人間と変わらない寿命であるため、一生に一度というのもあり、その時は必ずと言って全ての民がそれを見に来るのだ。
と言ってもその時以外に来るものなど全くおらず彼女は常に暇を持て余しながら千月鏡を磨いたりとする日々を送っていた。
そんなある日にとある来客が来て、その彼女との出会いを境に退屈のない少し変った日々が送られるといった感じの話だ。
話の続きを書きながら、もうそろそろ読み終わる頃かなとフェルの様子を見ると最後の紙を机に置き、フェルは全ての紙をまとめ杖にトントンと叩き整えて息を軽くふーっと吐く。
これから彼女の感想が来るのだと、一体何を言われるだろう、どう思ったのだろうと鼓動が高鳴る。
「正直に言うね。面白くないね」
と容赦のない言葉の右ストレートに撃たれると言うより貫いた。
「それに、少し単調だし、文章は所々箇条書きで会話も少し変かな。それから…」
そう次々と心にグサグサと突き刺さっていく。
自分でも書いていて、後からそういった事を思ってたけど、人にそうちゃんと指摘されると自分で思ってたよりキツイな…。
「まぁでも初めて書いた作品としてはいいと思うよ」
そう、アルのどんどん落ち込むその様子を面白げに影でこっそりと微笑んだ後に笑顔でそう告げる。
「ほんと…?同情ならやめてよ」
「ううん、同情じゃなくてこれはちゃんと本心だよ」
その彼女の言葉にも目にも嘘は伺えない。
「文章は所々おかしくは有るけれど、場面・情景の表現とかはとてもいいと思うよ。読んでいて社の丘から広がる金色の稲穂畑の景色がちゃんと浮かんだもの」
「そう?」
「ええ、世界観の設定もちゃんと書かれてて違和感はあまり感じられない、まるで本当にその場所を見たみたい…」
とフェルは景色や場面表現についてを細かく褒めてくれた。
実はと言うとフェルの言った通り僕はその世界を見たのだ。
それは妄想ではなく夢として。
物語を書き始め様としていた時、物語を書くというのは思ったより難しく全く何も思い浮かばなかった。
ジャンルだけでも今では多くあるのに、そこに時代が入り、それがただの現実なのか、ローファンタジー、ハイファンタジーなのかと正直頭がこんがらがった。
だけど書かなければ何も始まらないためとにかく思い浮かぶままに書いたが、それはとても酷く物語と言うより、混ぜに混ぜまくった設定もぐちゃぐちゃな日記のようなものとなっていた。
正直それを見て呆然としてしまい頭をスッキリさせようと、勉強ついでに本を借りて読んでいると時間が時間だった為寝落ちしてしまった。
それで夢見たのがその月の世界だった。
恐らく寝る前に読んだ竹取物語が影響したのだろうが、だけどそれならかぐや姫やおじいさんおばあさん達が暮らす日々などを夢見ると思うのだが、僕が見たのは竹取物語とは全く関係の無い辺境の金色の稲穂畑に囲まれた丘の上にあるあるそのお社。
そこから出てくる女性の日常を夢見たのだった。
そして目を覚まし、夢見たそれを書いていくと次々と続きが思い浮かびここまで書けたのだ。
ちょっとばかりズルをしいる気もするが、だいたい物語というのはそう頭に浮かび映ったものを書くのだから問題ないだろう。それにこうしてスポーツなどの基礎練を繰り返すように書いていかないと上達する訳が無いのだから。
「それで続きのいい所まではいつ頃で着るんですかアル先生♪」
ニヒッとおちょくりながらそう尋ねられる。
「まぁ次となるとまた一二週間後かな…ていうか先生って…まだ僕はそんな…」
「アルはもう先生だよ。だってこうして他の人には出来ない、貴方にしか書けない一つの物語を書いているのだから。だから胸を張りなよ」
そう強く真っ直ぐな瞳を言葉を当てられる。
「困ったな…そう、フェルに言われるとそう思っちゃうじゃないか」
「その通りなんだからいいんだよ。思っちゃっても」
そう二人は互いに顔を見合わせながら、幸せな時間を少しでも長くと笑い合う。
いいなこの時間はほんと…ずっと続けばほんとにいいのにな…。




