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【書籍化】影魔法使いは悪役かませ犬のままで終わらない  作者: くーねるでぶる(戒め)


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008 熱い愛

「エドワード、今日は魔法の授業に出たようだな」


 その日の夕食の席だった。


 豪華な食堂のお誕生日席に座った父上が、ナフキンで口を拭きながら訊いてきた。


 この場には、オレと父上、母上の他にも給仕のために使用人たちがいる。


 ……チャンスじゃないか?


 今、オレが心を入れ替えたと言えば、父上や母上だけではなく、使用人たちにも話が広がるかもしれない。


 このチャンスを逃してなるものか!


「はい、父上。私は心を入れ替えました。これからは魔法の授業だけではなく、すべての授業に出ます。それだけではありません。どうぞ、これまでの私ではなく、これからの私を見てください」


 オレの言葉を聞いて、父上は一つ大きく頷く。


 母上を見ると、感動したとばかりに両手で口を押え、目を潤ませていた。


 そんなにか?


「立派な覚悟だ! なあ、クラリッサ!」

「ええ! 本当に、立派になって!」

「えぇー……」


 オレが言えたことじゃないけど、二人はオレに甘すぎると思うのはオレだけか?


 だから、エドワードくんのような奴が育っちゃったんだよ。


「これは何か褒賞を与えなければな! エドワード、何が欲しい?」

「はい?」


 言葉だけで、まだ何も成していないのに褒賞あげようとしてるの?


 さすがに甘すぎるよ! どれだけ親バカなんだ!


 でも、不思議と父上と母上のことは嫌いになれないんだよなぁ。


 もしかしたら、エドワードくんの記憶がオレをそうしているのかもしれない。エドワードくんが自分の魂の魔法の使えなさに絶望し、使用人たちからバカにされるようになっても、二人は変わらずに接してくれた。優しく受け止めてくれた。


 だから、エドワードくんは使用人にはいたずらをするけど、両親が困るようないたずらはしなかった。


 エドワードくんに残っていた最後の良心なのかもしれない。


 だからかもしれないけど、エドワードくんの記憶を引き継いだオレは、二人のことが憎めないし、嫌いになれない。むしろ好きだった。


 でも、だからってここまで甘やかされるのは自分が堕落しそうで怖い。


 ここは自戒の意味も込めて断ろう。


「いいえ、父上。私は褒賞はいりません」

「なに⁉ なんでもあげるぞ? 本当だぞ?」


 父上……。頼むからそんな切なそうな顔をしないでくれ。なんだか悪いことをしている気分になる。


 本当は欲しいものなんていくらでもあるよ?


 だってここは『絶対防衛圏~カチドニアの魔女~』の世界なんだ。レア武器やレア装備とか侯爵の力で集められないかなと一瞬考えてしまった。


 でも、そういうのは自分の力で集めたい。父上の力を借りて集めるのはなんだか違うんだよね。


 ここは何か当たり障りないことでこの場を乗り切ろう。


 えぇーっと、何かあっただろうか?


「あ! でしたら、私に馬を教えてくれていた調教師ですが、彼を罰しないでください」

「なに?」

「それはどうしてですの?」


 父上と母上は不思議そうな顔でオレを見ていた。


「私の落馬ですが、私がちゃんと注意して彼の話を聞いていれば、防げたはずです。彼の責任ではありません。ですから、彼を罰しないでください」

「ふむ……」


 父上は少し考えるような仕草を見せたけど、最終的には頷いた。


「エドワードがそう望むのならそうしよう。しかし、本当にそれでいいのか? 欲しいものはないのか? 言うだけならタダだ。試しに言ってみないか?」


 父上……。どれだけオレに褒賞与えたいんだよ!


 でも、その問いに関する答えは、先ほど出たばかりだ。


「欲しいものは自分で手に入れます。そのための努力をしようと思うのです」


 そう。欲しいアイテムは山のようにあるし、命だって欲しい。


 ただでさえ不穏なキャラクターに転生してしまったからね。


 でも、オレはこの世界の未来を知らない。何がどうなるかわからない以上、自分自身を鍛えるしか道はないのだ。


「それは、立派な心がけだが……むむう……」

「あなた……」

「はぁ、わかっている。これも子どもの成長なのだろうな。ならば、我らは見守るより他なし。少し寂しいがな……」


 最終的に、少し寂しそうにしている両親は、オレの提案に頷いてくれた。


 両親的には、きっとオレをもっと猫かわいがりしたいのだろう。


 オレの中にだって甘やかされたい気持ちはある。


 前世では、オレは親に甘やかされた記憶がない。


 父親はたまに帰ってきては暴力を振るうだけの存在だったし、母親はオレをいないものとして扱っていた。


 そんな状態だから高校にも行けず、オレは中卒で働きだした。


 両親が度々「これまでの育児費」と称してオレから金を奪うのを何度も見てきた。


 十八歳になり成人すると、オレはこれまで隠していた金で、真っ先にボロアパートを借りたよ。


 親との縁を切り、職場を変えて、そこからやっと、暮らしが安定し始めた。


 そんなオレからすれば、父上と母上の愛は、触れれば火傷してしまいそうなほど温かい。


 これも、オレが父上と母上を嫌いになれない理由なんだろうなぁ。

お読みいただき、ありがとうございます!


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